湊かなえ「夜行観覧車」のネタバレ解説

夜行観覧車 (双葉文庫)


第1章 遠藤家

第1章は、スーパーマーケットで働いている、
遠藤真弓(まゆみ)という30代後半の女性の視点で話が進みます。

真弓の一人娘の彩花(あやか)は中学生になってから癇癪を起こして暴れるようになり、
真弓は困っていました。

7月3日(水)の午後7時の人気クイズ番組に、
高木俊介というアイドルの男の子が登場し、それを見た真弓が、
すごいわね、俊介くん、頭も良かったなんて、
ダンスも歌も上手だし、基本的に頭のいい子は何でもできるのね、
と言うと、彩花は、どうせあたしは落ちました!
と叫び、2階の彩花の部屋で参考書やノートや教科書を投げました。

どうせあたしは落ちました、というのは、
彩花が私立S女子学院の中学受験に失敗したことがコンプレックスだから、言ったのでした。

以前、彩花に頼まれ、
真弓がネットオークションで1万円も出して購入した高木俊介のポスターを、
彩花は真っ二つに引き裂きました。

ドアフォンが鳴り、隣家の小島さと子というおばさんが、
もらいもののチョコレートをお裾分けに来ました。
小島さと子はいつも、金色のラメ付きポシェットを持っていて、
彩花は小島さと子のことを「ラメポ」と呼んでいました。

お裾分けというのは口実で、小島さと子は、彩花の癇癪と、
それを止めようとする真弓の叫び声が気になっていたようでした。

さと子が帰り、彩花も静かになった、午後10時10分に、
『やめて!』『助けて!』『誰か!』と叫び声が聞こえました。

真弓が彩花の部屋に行き、窓を開けると、
叫び声は向かいの高橋家から聞こえるようでした。
主婦の高橋淳子(じゅんこ)の叫び声と、その息子の慎司の雄叫びが聞こえました。

真弓は様子を見に行こうとも思いましたが、
お宅なんてしょっちゅうじゃないですか、
などと言われれば、逆にこちらが恥をかかされると思い、
真弓は様子を見に行きませんでした。

淳子の夫の弘幸(ひろゆき)は大学病院に勤務する医者で、
淳子と弘幸の娘の比奈子(ひなこ)は大学までエスカレーター式の
私立の女子高にかよっていて、高橋家は遠藤家よりも遥かに裕福な家庭でした。

回想です。
真弓の夢は一戸建ての家に住むことでした。
父親が転勤族だったので、アパートやマンションを転々とし、
一度も戸建に住んだことがなかったのです。

短大卒業後、中堅の住宅メーカーに就職した真弓は、
工務店で働く遠藤啓介と知り合い、結婚し、彩花が生まれました。

その後、市内で一番の高級住宅地、ひばりヶ丘に家を建てましたが、
彩花の癇癪のせいで心穏やかに過ごすことができませんでした。

回想終わりです。

午前0時前に、彩花に頼まれ、真弓はコンビニに買い物に出かけます。
玄関のドアを開けると、啓介が立っていました。

啓介と少し話をし、歩いて、午前0時20分に、
真弓は家から一番近いコンビニ「スマイルマート・ひばりヶ丘店」に行きました。

そこで高橋慎司がマンガ雑誌を立ち読みしていました。

慎司はスナック菓子やスポーツ飲料を持ってレジに行きましたが、
財布を忘れてしまったと言い、千円貸してもらえませんか? と真弓に頼みました。

真弓は財布を取り出して開けましたが、千円札が見当たらず、
1万円札を慎司に渡し、返してくれるのは明日でいいわ、と言いました。

真弓は以前から慎司に好感を持っていました。
笑った顔が少し、高木俊介に似ていたからです。
しかし、彩花は、俊介とタカボンが似てる? 老眼鏡買えば? と一蹴しました。

彩花は慎司のことを、高橋家のおぼっちゃま、
という意味で「タカボン」と呼んでいました。

坂の上から、救急車が降りてきて、パトカーが1台、真弓を追い越し、
坂道を上っていきました。

坂道を駆け上がると、パトカーが高橋家の前に停まっていました。

小島さと子と、彩花と啓介が高橋家を見ていました。
彩花は、向かいのおじさん、頭殴られて運ばれたみたいだよ、と真弓に言いました。

翌日の午前7時、遠藤家に警察がやってきて、
スマイルマートで慎司に1万円を渡したことを確認され、
その時の慎司の様子を詳しく訊かれました。

午前9時、真弓はパート先の、ひばりヶ丘から離れたスーパーに車で行きました。
午後5時に帰宅すると、家の前には報道車の長い列がありました。

テレビを見ると、高橋家で起こった家庭内殺人についてのニュースが流れていました。
淳子が夫の弘幸を殴って殺したのだそうです。

その翌日はパートが休みで、真弓は家にいました。
午前10時に小島さと子がやってきて、慎司が行方不明であることと、
警察は慎司を疑っているらしいことを真弓に言いました。

彩花が癇癪を起こしていなければ……さと子はチョコレートを持って
高橋家を訪れたかもしれない、と真弓は考えました。


第2章 高橋家

第2章は、慎司の姉の高橋比奈子の視点で話が進みます。

7月3日(水)の夜、比奈子は、私立S女子学院の中等部に入学した頃からの友人、
鈴木歩美の家に泊めてもらっていました。

一週間前、慎司が比奈子に、模試の前日は友だちの家に行ってもらえないか、
と頼んだからでした。

深夜2時、比奈子と歩美がお喋りをしていると、警察から電話がありました。

父親の弘幸が病院に運ばれたと言われ、歩美の家に警察が迎えに来てくれました。

弘幸は死に、比奈子は母親の淳子にも会わせてもらえませんでした。
弟の慎司は行方不明で、関西に下宿している腹違いの兄、
良幸(よしゆき)にも電話がつながりませんでした。

翌日の午前10時、病院で夜を明かした比奈子は、淳子の妹の田中晶子(あきこ)と一緒に、
晶子がパートしている「フレッシュ斉藤」というスーパーマーケットに寄りました。

フレッシュ斉藤は、真弓が勤めているスーパーで、晶子は真弓の同僚なのですが、
晶子は、真弓が淳子の向かいの家に住んでいることを知りませんし、
真弓は、晶子が淳子の妹であることを知りません。

比奈子もこの日、真弓がレジに立っているのを見て、
初めて真弓がフレッシュ斉藤で働いていることを知りました。

晶子の家に着くと、姉さん、お義兄さんに暴力をふるわれていたとか……、
と晶子は言いましたが、パパはそんなことしない! と比奈子は否定しました。

また、晶子は、姉さんは慎ちゃんをかばっているんだわ、とも言いました。

加害者の妹である晶子にとっては、弘幸が悪者であってくれたり、
甥の慎司が犯人であってくれた方が、都合が良いのでした。

午後9時20分に、叔父が、あの子、いつまでうちにいるの?
お義兄さんの親戚の方でどうにかなんないの?
と言っているのを比奈子は立ち聞きしてしまいました。

比奈子は何度も歩美にメールで相談しますが、返信はありませんでした。

翌日の午後1時に、比奈子は晶子に車で私立S女子学院高等部まで送ってもらいました。

担任の大西祐美子は、比奈子のことを加害者の家族という目で見て、
今はまだ混乱していると思うし、ゆっくりと休むことが大切だと思うの、
と比奈子に言いました。

その後、比奈子がスマイルマートひばりヶ丘店に行くと、
遠藤彩花から話しかけられ、慎司がコンビニで真弓と会ったことを教えられました。

比奈子は彩花と話すために、カラオケボックスの一室に入りました。

彩花は事件当日の夜のことを話しながら、
比奈子に芝居がかった下品な仕草で嫌味を言いました。

しかし、比奈子の方も彩花のことを、癇癪持ちで頭が悪く、おまけに地味な中学生、
と見下していました。

彩花の話を聞いて、父親はいつ仕事から帰ってきたのだろう、と疑問が浮かびました。

報道陣が集まっているため、ひばりヶ丘の家に変えることはできませんが、
晶子の家にも帰りたくなくて、比奈子は高速バスで兄の家に行くことにしました。


小島さと子 Ⅰ

小島さと子は、海外に赴任した一人息子の妻の里奈に電話して、
里奈が嫌がるのを無視して、事件のことを一方的に話しました。

その時に、ちょくちょく里奈に対する姑的な当てこすりを挟みます。

新しい情報として、先週の朝、燃えるゴミの中に、
バスケットボールとシューズとユニフォームが入った袋があったから、
慎司に注意すると、あわててそのゴミ袋を持って帰っていった、
ということを話しました。

小島さと子は事件のことを、息子の「マーくん」にも報告しておいてちょうだい、
と里奈に頼みました。

でも、勘違いしないで、年寄り2人じゃ不安だから、
あなたたちに帰ってきてほしいって言ってるんじゃないのよ、
と小島さと子は言いましたが……、帰ってきてほしくて、言ってるのでしょうね。

面倒くさいおばさんです。


第3章 遠藤家

3章は、事件が起こった7月3日の昼間の出来事を、彩花と真弓の視点で描写しています。

午前8時、彩花は学校へ向かう坂道を下りながら、この坂道は偏差値を表している、
と考えていました。

ひばりヶ丘から坂道を15分歩いて上ったところに、
慎司の通う私立K中学校という男子校があります。
東大合格率が県内一の名門校、私立N高校への合格率は95パーセントを超えています。

ひばりヶ丘を下る坂道と最初に交わる幹線道路を曲がって10分歩くと、
真弓が彩花を通わせたかった私立S女子学院があります。

別世界の制服とすれ違いながら坂道を下り続け、
完全な平地になったところに市立A中学校があります。
ひばりヶ丘から徒歩30分です。

坂を上るにつれて高くなるのは学校の偏差値だけではなく、地価もでした。

教室に入るなり、バスケ部の同級生、志保が彩花に話しかけてきました。

志保は、1年生の後半からはバスケ部のレギュラーとして活躍していた、
「K中5番」こと高橋慎司の追っかけまがいの行動をとっていました。
理由は、慎司がアイドルの高木俊介にちょっと似ているからです。

実は、彩花も慎司のことを、ひばりヶ丘に越してきた当日から、
かっこいいな、と思い続けていました。

また、真弓に、高木俊介が高橋慎司に似ていると言われ、
彩花も高木俊介のファンになっていました。

先週の試合に慎司が出ていなかったので、ケガでもしたのかと思い、
志保は慎司のお見舞いに行った、という話をします。

ひばりヶ丘で一番小さな家が目印、とK中学に通う小学生の頃の同級生に教えてもらって、
志保はその家に行きました。
志保は真弓と会い、そこが彩花の家であることを知り、
真弓や家の小ささのことを馬.鹿にしました。

彩花は、三半規管がどうにかなってしまったのではないかと思うほど、
地面が傾斜しているように感じ、保健室に行きました。
しかし、「坂道病」の彩花に、養護教諭は冷たい態度をとりました。

保健室のベッドに寝ながら、坂道なんかもうまっぴらだ、
引っ越しなんてしたくなかった、受験なんてしたくなかった、全部母親のせいだ、
と彩花は考えていました。

小学生の頃、彩花も早く一軒家に住みたいわよね、
と真弓に言われるたびに彩花は頷いていましたが、
彩花が思い描いていたのは住み慣れた場所に建つ新しい家でした。
近くの公立中学校に入り、おさななじみたちと一緒に登下校したかった、
と彩花は考えていました。

ひばりヶ丘の土地を40坪買い、そこに家が建つと、
ひばりヶ丘ってS女子学院まで徒歩で通えるのよ、お受験しましょうよ、
と真弓は言いました。
浮かれた真弓は、彩花がS女子学院を受験することを、誰かれ構わず自慢しました。

ところが彩花は受験に失敗しました。
新居へは卒業式後に引っ越す予定でしたが、結果が出た途端、引っ越し、
4月、市立A中学へ入学しました。
知り合いは誰もいませんでした。
友だちはいちおうできましたが、坂道を一緒に登下校する子は誰もいませんでした。

午後2時、いつまでたっても体調が回復せず、彩花は早退することにしました。
そのとき志保が、お迎えが来てくれるんじゃないの?
ひばりヶ丘のお嬢様だんも、一番ピーな家だけどね、と言い、
教室の一角でドッと笑い声が起こりました。

教室の景色が反転するかのように床が傾斜していき、
転ばないように両手でつかんだ椅子を持ち上げて、志保に投げつけましたが、
ひょいと身をかわされ、笑い声がさらに高まりました。

帰りたくない、と思いながら下校していると、慎司とすれ違いました。
すれ違いざまに彩花と目が合いましたが、
慎司は見知らぬ誰かとすれ違ったかのように通りすぎていきます。

彩花は、ちょっと、待ちなさいよ! と呼び止め、
先週の試合、どうして来なかったの? と訊きましたが、
関係ないじゃん、と慎司は露骨にムッとした顔で言いました。

バカな追っかけに迷惑をかけられたと彩花が文句を言うと、
そっちがあとから家建てたんじゃん、迷惑なら、引っ越せば? と慎司は言いました。

一方、真弓は同じ日の昼食の時に、パート事務員の美和子から、
美和子の娘がS女子学院に通っているが授業料が高いと愚痴をこぼされていました。

彩花がS女子学院を受験したときのことを、真弓も回想しますが、
彩花の回想とは違っていて、
真弓よりも彩花の方が受験に乗り気だったような描写がされています。

彩花の回想と真弓の回想、どちらが本当なのかは分かりませんが、
おそらく、お互いに自分にとって都合の良いことだけ思い出しているのでしょう。

仕事の後、ひばりヶ丘への坂道を車で上っていくときが、
真弓にとって一番幸せな時間でした。

坂道が大嫌いな彩花と、坂道が大好きな真弓、という対比になっています。


第4章 高橋家

第4章は、再び時間が事件後に戻り、7月4日から5日にかけての出来事を書いています。

比奈子の腹違いの兄、良幸は、医大生です。

腹違いと言っても、良幸が2歳のときに実の母親が交通事故で亡くなり、
その後に父親の弘幸が淳子と再婚し、比奈子と慎司が生まれただけですが。

良幸には野上明里(のがみ・あかり)という彼女がいますが、
明里は早くも良幸を恋人ではなく結婚相手として見ているようでした。

7月4日(木)に、良幸はマンションに戻りましたが、
大学の研究室に泊まり込んでいて、
携帯電話の電源を切っていたせいで、事件のことはまだ知りませんでした
(……それなら、比奈子が、繋がらない良幸の携帯電話ではなく、
大学に問い合わせていれば、良幸と連絡がついたような気がしますけどね)。

女房気取りの明里は、良幸が風呂に入っていた20分くらいの間に、
勝手に良幸の携帯電話を見て、
比奈子からの事件について相談する内容のメールを勝手に読んでいました。

明里は面倒くさい性格の女で、良幸が事件について調べたり、
比奈子と連絡を取ろうとしたりするのを妨害します。

明里は良幸の携帯電話を隠し、ベッドで眠りました。

翌朝、午前7時に良幸が目を覚ますと、明里の姿はなく、
お母さんとは血が繋がっていないんだよね、と書かれたメモ用紙が1枚ありました。

メモ用紙を丸めてゴミ箱に放り投げ、パソコンで事件について調べると、
高橋家を誹謗中傷する内容がブログ等に書かれていました。

一方、7月5日(金)の午後9時、比奈子は高速バスセンターの待合室にいました。
兄の良幸からの返信を待つ間に、出発時刻までついに1時間をきってしまいました。

比奈子は待合室から出て、道路を挟んだコンビニエンスストアに行こうとして、
慎司を見つけました。

慎司は逃げますが、比奈子は慎司を捕まえ、コンビニでカップラーメンを買い、
バスセンターの裏手にある防波堤に、海に背を向け、並んで座って食べました。

海から見る夜景もきれいだね、山からと海から、慎司はどっちが好き?
と比奈子が訊くと、両方、いっぺんに見たい、と慎司は言いました。

ここの空き地に日本一大きい観覧車ができる、という話を慎司はしました。

パパを殺したのは、誰? と比奈子が訊くと、
多分……母さん、でも、そうなったのは、僕のせい、だと思う、
と慎司は言いました。

その後、2人で良幸のところに行こうとすると、
ロータリーに停まったバスから良幸が降りてきました。


小島さと子 Ⅱ

小島さと子は、息子の「マーくん」から電話がかかってきて喜びますが、
日本に帰国したら、くつろぎたいからと妻の里奈の実家に行くことにした、
と言われました。

もしかして、事件が起きたから?
と小島さと子は言いましたが、おそらく、マーくんは事件とは関係なく、
子離れできない母親の小島さと子が鬱陶しくて、
実家に帰りたくなかったのだろうと、しまうましたは思います。


第5章 遠藤家

7月5日(金)、真弓は慎司に1万円も貸したことに責任を感じ、
行方不明の慎司を探しましたが、見つかりませんでした。

一方、カラオケボックスで比奈子に嫌味を言った彩花は、
軽い足どりで坂道を上がっていました。

高橋家の高い塀に、「死.ね!」「人殺し!」「恥さらし!」「出て行け!」
「一家心中しろ!」などと中傷ビラが何十枚も貼られていました。

ビラを1枚ずつ読んでいくうちに、彩花の気持ちは高ぶり、
高橋家など全員出て行けばいいのだ、と思いました。

彩花は石井を拾い上げ、2階の奥の慎司の部屋を見上げます。
その部屋の窓ガラスは既に割れていましたが、
すでに割れている窓でも構わない、慎司の部屋に石を投げてやるのだ、
慎司に向かって石を投げてやるのだ、と彩花は重い、腕を振り上げました。

しかし、それを目撃した真弓がクラクションを勢いよく鳴らし、
彩花は石を投げませんでした。

部屋の中で癇癪を起こす彩花は、泣き出しそうな、つらくてたまらなさそうな、
そんな顔だったからこそ「仕方ない」と思えるところもありましたが、
石を振りかざしていた彩花からはそんな表情が見て取れませんでした。

真弓は、嫌がらせをされた高橋家を見て、家が、かわいそうだ、と思いました。

一方、工務店に勤める啓介は鈴木歩美の家に行き、
歩美の弟の弘樹の部屋の壁紙を貼り換えていました。

弘樹が歩美に、姉ちゃん、ちゃんとメール送ったのか?
と啓介の前で言いました。
あんたが送ればいいじゃん、もしかして弘樹、比奈子のことが好きなんじゃないの?
と歩美が言い返します。

歩美の着ている制服は、真弓が「彩花にあの制服を着せてあげたいの」と言っていた、
S女子学院の制服でした。

その頃、午後6時、石を投げることができなかった腹いせに、
彩花は携帯サイトの掲示板に慎司の悪口を書き込んでいました。

回想です。
事件のあった7月3日、慎司に冷たい態度をとられた彩花は、
クイズ番組に出ていた高木俊介の頭の良さを真弓が誉めるのを聞いて、
どうせ、あたしは落ちました! と叫びました。

その瞬間、平らなはずのテーブルが彩花の目の前で傾き、
茶碗や皿やグラスが彩花をめがけて転がってきて、
彩花はそれを両手ではらい飛ばしました。

部屋に駆け上がると、部屋が傾き、机が傾き、何もかもが彩花をめがけて転がってきて、
彩花を2度と襲ってこないよう、床に思い切りたたきつけました。
バカにするな! 志保も、クラスのみんなも、慎司も、母親も、俊介まで――、
こんなポスター、もういらない! と思い、彩花はポスターを破ったのでした。

回想終わりです。

午後7時に、夕食を作り、真弓は彩花を呼びました。

彩花に、3日連続で早退したことを聞きますが、彩花は逆ギレします。

このあいだ、同じクラブの志保ちゃんが、うちに来たわよ、と真弓が言うと、
なんで、志保が来た日に言わないの! あんたのそういうところが、ムカつくんだよ!
と志保は叫びました。

真弓が慎司に1万円貸していることを話すと、
あんたって、やっぱ、サイテー、やっぱ、頭のネジ、1本ゆるんでるんじゃない?
と真弓を見下す表情で言いました。

よそのお宅に石を投げる方が、もっと最低じゃない、と真弓は言いますが、
あたしじゃない、と彩花は否定しました。

あんたはあのビラもあたしのせいだって思ってんの?
と彩花に反論され、1人じゃ無理かもしれない、でも、彩花、
いくら犯罪が起こった家でも、大勢でやったことだとしても、
よそのお宅に危害を加えると、今度は、あなたが犯罪者になるかもしれないのよ、
真弓は注意します。

あたしじゃないって言ってんだろ! と彩花は叫び、
手に触れるものを片っ端から、床の上に叩き付けていきました。

その頃、帰宅しようとしていた啓介は、
小島さと子が高橋家に石を投げているのを目撃しました。

小島さと子は、これは、古くからいる住人の抗議の叫びなのよ、と言いました。

ですが、こういうやり方は……と啓介が言いかけると、
あたしじゃない! という彩花の叫び声が聞こえました。

どうして、行かないの? と小島さと子に言われますが、
啓介の足は動きませんでした。

よそのお宅のことだから、隠れて診たのだと思っていたけど、あなた、
自分の家のことでも同じ態度を取るのね、知ってるのよ、
高橋さんのお宅で事件があったときも、あなた、
そこの駐車場に停めてある車の陰にずっと隠れていたじゃない、
と小島さと子は啓介を非難しました。

遠藤家の窓ガラスが割れる音と、
やめて! という真弓の獣じみた声を聞き、啓介は坂道の下に向かって駆け出し、
その場から逃げ出しました。

第6章 高橋家

第4章で再会した良幸、比奈子、慎司の3人は、
ファミリーレストランに入り、事件について話し合います。

慎司は最初、父の弘幸に言葉の暴力でなじられ、
母の淳子がそれを庇ってくれていた、という話をしましたが、
比奈子はそれが嘘だとすぐに見抜きました。

実際には逆で、小学校4年生のときに、
慎司は慎司のやりたいことすればいいんだぞ、
と弘幸に言われましたが、淳子は、
慎ちゃんは、パパと同じお医者さんになりたいのよね、
と言いました。

その後、淳子は慎司に、良幸と同じK中学を受験させました。
テストの結果を気にするのはいつも淳子の方で、
弘幸がフォローしてくれても、
「パパはああ言ってくれたけど」と純子は部屋まで小言を言いにきました。

それに耐えきれず、慎司は夜中にこっそりと家出し、
バスセンターの裏手の空き地に行きました。
ここに数年後、観覧車ができるらしい、どんな景色が見えるのか、
と慎司は考えました。

そこで暗闇に同化しているあいだは、何もがんばらなくていいのだと、
心を落ち着かせることができました。

暗闇に同化するために家を出て、坂道を下っていく頻度は、
学年があがっていくにつれ多くなっていきました。
周囲がペースを上げ、慎司がついていけなくなったからでした。

慎司は能力の限界だと思っていましたが、
淳子はそれをバスケ部のせいにしました。

試合当日、淳子はバスケットボールとシューズとユニフォームを
ゴミステーションに捨てました。
慎司はそれを、小島さと子に教えられ、回収しました。

中間テストで30位以内に入れなかったら、部活動をやめるっていう約束、
ママとしたわよね、と淳子はしれっとした顔で言いました。

まさか、今から部活動に行くんじゃないでしょうね、
今日は塾の模試があるはずでしょ、と淳子は言いました。
その日は県大会予選の前哨戦でしたが、
慎司は試合を休み、模試を受けました。
しかし、そんな状態で受けた模試の結果がよいはずはありませんでした。

今度の学校の模試で、校内で30番までに入ったら、
県大会予選に入ってもいいわ、と淳子は言い、
慎司は比奈子にも、友だちの家に泊まってほしいと頼みました。

良幸はファミリーレストランで、
どうするのが俺たちにとって一番いいのか、これから考えよう、
きょうだい3人、家庭内殺人が起きた家の子としてだ、と言いました。

母さんの刑がどうすれば軽くなるか考えよう、
刑務所に入るのと、執行猶予がつくのと、無罪になるのとでは大違いだ、
と良幸は言い、父親の弘幸を悪者にすることを提案しました。

慎司は学校の模試の前日、頭が痛くなってきて、
学校を早退したのに、途中で彩花に呼び止められて、
いいがかりをつけられた、という話をしました。

家に帰って、晩ご飯も早めに済ませて、机の前に座ってがんばってやってたのに、
向かいの遠藤家でいつものバトルが始まって、
彩花のキンキン声で頭が痛くなって、もう限界だった、
という話を慎司はしました。

試合はもう無理だって思ったら、悔しくて、
慎司は部屋の中でボールを壁に何度も打ち付けました。

すぐに淳子が部屋に上がってきて、やめなさい、と言いましたが、
慎司はやめませんでした。
淳子にボールを横取りされ、返せと言っても返さないから、
代わりに色んなものを投げました。
淳子が、やめて! とか、許して! とか叫び出して、
ザマアミロと慎司は思い、一緒になって大声を出しました。

何を騒いでいるんだ、みっともない!
と弘幸が言って、部屋に入ってきました。

弘幸は慎司に片付けろと言い、淳子と下の部屋に行きました。

その後、淳子が部屋に来て、ごめんね、と謝り、
試合に出てもいいし、勉強はもういいから、気分転換に散歩でもしてきたら?
と慎司に言いました。

コンビニでジュースでも買いなさいと
淳子は慎司のハーフパンツのポケットに千円札を入れたはずでしたが、
レジで千円札がないことに気が付いたのでした。

良幸は、淳子が慎司に散歩に行けと言ったとき、
もう、弘幸は死んでいたのだと考えました。
わざと慎司のポケットにお金を入れなかったのは、
慎司がコンビニにいたことを店員に印象づけるためでした。

また、淳子が弘幸を殴った凶器は、良幸のトロフィーだと比奈子は言いました。

慎司は、あの晩、散歩に出たとき、
遠藤家のカーポートに遠藤啓介がいたということを思い出しました。

啓介が弘幸と淳子の会話を聞いているかもしれないと思い、
良幸、比奈子、慎司は家に帰ることにしました。


小島さと子 Ⅲ

小島さと子が「マーくん」に電話し、
お隣で大変なことになっているから、勇気を出して止めに行く、と言いました。

小島さと子の夫は仕事で不在です。

これはね、マーくんのためなの、
あなたが安心してひばりヶ丘に帰ってこられるように、ママがんばるの、
と小島さと子は言いました。


第7章 ひばりヶ丘

彩花は観葉植物の鉢植えを両手で持ち上げ、床に思い切り叩き付けました。

真弓は、この家を建てる前に、
床の色を彩花と相談して決めていたときのことを思い出しました。
そのとき、彩花は、あたしが床にキズなんてつけるはずないじゃん、
と言っていました。

約束、したでしょ、床を、傷つけないで、と真弓は言いますが、
知るか! そんなこと、家、家、家、家、あんたの頭のなかはいつもそれだけ、
バカじゃないの? と彩花は言い、別の鉢植えを投げ、窓を割りました。

真弓には彩花が獣のように見え、許さない! と叫び、
彩花に正面からつかみかかり、渾身の力を込めて、彩花を床に押し倒し、
その上に馬乗りになりました。

あんたなんか、いなくなればいい!
と真弓は叫び、鉢植えに入っていた土のかたまりを口に押し込み、
両手で彩花の口を塞ぎました。

一方、小島さと子はドアフォンを鳴らし続けましたが、応答はありませんでした。

真弓の獣じみた声を聞き、小島さと子は庭に入り、
灯りがともった部屋の窓ガラスが割れているところから、中を覗きました。

真弓が彩花の首を絞めている――ように見え、小島さと子は大声で呼びかけますが、
何度呼びかけても真弓の反応はありませんでした。

小島さと子はポシェットのファスナーを開け、
3年前に息子が里帰りした際プレゼントしてくれた防犯ブザーを取り出し、
金属の輪に指をかけ、思い切り引き抜きました。

高い音が響き、真弓は正気に戻り、小島さと子の声が聞こえました。

彩花が口の中から茶色いどろどろしたものを吐き出しているのを見て、
彩花、大丈夫? と真弓が言い、背中をさすってやろうと足を踏み出すと、
彩花が両手で顔を覆いました。

真弓が平静を装って小島さと子と話しているうちに、
彩花が玄関のドアを開け、小島さと子が家に入ってきて、防犯ブザーを止めました。

彩花は洗面所でうがいをし、怖い、と考えていました。

その頃、午後9時30分、啓介は工務店の仮眠室で弁当を広げていました。

午後10時20分、真弓は小島さと子を帰そうとしますが、
小島さと子は帰りませんでした。

彩花がリビングに戻ってきて、真弓のことを人殺しと呼びました。

ケンカの原因は何だったのと小島さと子に訊かれ、
今日は、彩花が高橋家の家の2階の窓ガラスを割ろうとしているのを見た、
ということを真弓は話しましたが、彩花は相変わらず否定しました。

お向かいのガラスを割ったのはわたしよ、と小島さと子は言いました。

一緒に暮らさない方がいいのかもしれない、
彩花はこの家が嫌いなんでしょう? ひばりヶ丘が嫌いなんでしょう?
それなら、パパと別のところに住みなさいよ、と真弓は言いました。

やっぱり、家の方が大事なんだ、と彩花は言い、
小島さと子に助けを求めますが、小島さと子はため息をつくと、
あなたのママは疲れているのよ、これだけわが子に、あんたあんた、
って連呼されてたら、親をやめたくもなるわ、と真弓を庇いました。

向かいの家のガラス割った人がえらそうなこと言わないでよ、
と彩花は言いますが、
わたしはね、このひばりヶ丘で生きてきた人間としての信念を持って、
石を投げたの、ビラを貼る音頭をとったのもわたしよ、
と小島さと子は言いました。

少し時間が遡り、午後11時に、啓介は鈴木歩美の家のドアフォンを押しました。

出てきた弘樹に、高橋家の窓ガラスが割られていたり、
中傷するビラが貼られていたりして、大変な状態になっているから、
ビラをこっそり片付けたいけど、啓介がやったことがわかると、
近所の人たちとのあいだで角が立から、
比奈子と仲が良さそうな弘樹や歩美が片付けたことにしてもらえないかと相談にきた、
ということを啓介は話しました。

啓介は、逃げ出した、という事実を今夜中ならどうにか修正できるのではないか、
家から去った理由が欲しいと思い、
高橋家を夜明けまでに元の状態に戻すために、
職場でゴミ袋とヘラとシール剥がしの溶液を取りに戻った、
ということにしようとしたのでした。

弘樹は、乗り気ではない比奈子を連れてきて、
啓介とひばりヶ丘に行きました。

ゴミ袋を片手に、3人はビラを剥がす作業を始めました。

そこを、遠藤家から出てきた小島さと子に見つかり、咎められますが、
啓介は、わたしは、こういうのが正しいやり方だとは思いません、と反論しました。

それを聞き、真弓は、わたしもやるわ、と言い、ビラを剥がし始めました。

小島さと子は、歩美に食いつき、
わたしにはひばりヶ丘を作り上げてきた住人として、
この家に抗議する権利があるのよ、と言いましたが、
歩美は、ない! と声をあげました。

ひばりヶ丘の評判を貶められたわ、高慢だの、思い上がってるだの、
世間を見下したバチがあたっただのって、
掲示板でひばりヶ丘全体が攻撃されているのよ、と小島さと子は言いましたが、
それは、おばさんたちが日頃からそういう態度をとってるからよ、
わたしは比奈子の友だちとして、これを剥がす権利があるの、と歩美は反論しました。

そこへ、良幸と比奈子と慎司が帰ってきて、ビラを剥がしてくれたお礼を言いました。

歩美は、比奈子にメールを返信しなかったことを謝ります。
クラスのみんなが好き勝手なことを言ってて、掲示板にはひどいことを書いていたから、
そんな子たちをみんな敵にまわすことなんだって、怖くて……、
ホントに、ごめん、と歩美は謝りました。

比奈子は、謝らないで、ものすごく嬉しいから、と言い、
比奈子と歩美は泣きました。

啓介はタクシーを呼び、比奈子と弘樹を家に帰しました。


第8章 観覧車

良幸は、事件が起きた日の晩、両親の会話を聞いていたら教えていただけませんか、
と啓介に頼みました。

小島さと子が、そんな大事なことを、道ばたで話すつもり?
と言い、小島さと子の家に招きました。

遠藤家から彩花も出てきて、ついてきました。

良幸は、事件の夜に聞いた会話を再現し、ようやく真相が明らかになります。

淳子は、「騒ぎをおこしたことを弘幸に謝りましたが、
医学部にいくなら、絶対にN高校に受からなきゃ、良幸くんもそうしたじゃない、
と言いました。

しかし弘幸は、俺は子どもたちに医者になれなんて、一度も言ったことはない、
慎司はスポーツもよくできるし、きれいな顔をしているんだ、
アイドル歌手にでもなればいいんじゃないのか? と言いました。

良幸くんが医学部に受かったときは喜んでたじゃない、さすがだって、
慎ちゃんだって、これからいくらでもがんばれるわ、と淳子は言いましたが、
あんなにおかしくなってしまうまで、勉強する必要はない、
慎司はもういい、と弘幸は言いました。


啓介が再現した会話を聞いた彩花は「坂道病」の話をし、母親もまた、
坂道を転がり落ちないように必死で踏ん張り続けていたのかもしれない、
背中を押したのは、あたしだ、と少し反省しました。

良幸は小島さと子に向き直り、
ひばりヶ丘の方々にご迷惑をかけていることは申し訳なく思っています、
と謝り、比奈子と慎司がそれぞれ独立できるまで、
ここにいさせてください、とお願いしました。

小島さと子も反省したのか、あなたたちの気持ちはわかったわ、
ひばりヶ丘のことはわたしにまかせて、婦人会のみなさんを説得してあげるから、
と言いました。

慎司に1万円を返してもらい、真弓と彩花と啓介は家に帰りました。

ところで、あたしとオヤジはいつ出て行かなきゃなんないの?
と彩花は言いましたが、啓介は、無理だろ、
今の生活でいぱいいっぱいなのに、別々に暮らす金なんてあるはずないじゃないか、
ひばりヶ丘がイヤでも、この家が気に入らなくても、
3人でいることに腹が立っても、ここに帰ってくるしかないんだ、と言いました。

夜が明ければ、またいつもと同じ生活が始まる、
彩花はまた癇癪を起こすだろうし、啓介も、また事なかれ主義に戻るだろう、
それでも、今日を乗り越えることができたのだから、明日も、
この先もきっとなんとかなるに違いない、と真弓は思いました。

一方、高橋家に戻った良幸と比奈子と慎司は、
啓介から聞いた事件の夜の淳子と弘幸の会話を分析し、
淳子は弘幸の前の奥さんと張り合い続けていたのだと結論を出しました。

直接張り合うことはできないので、子どもで張り合っていたのでした。
弘幸のためにどっちが、優れた子、弘幸を喜ばせてあげられる子を産んだか、と。

しかし淳子は、
前妻の子どもと張り合うように育ててきた慎司が期待されていないことを知り、
敗北感を憶え、衝動的に弘幸を殴ってしまったのでした。

しかし、淳子が裁判でこんな動機を証言したら、
良幸や慎司までマスコミにさらされそうなので、
良幸たちは死んだ弘幸を悪者にすることにしました。

週刊誌には、弘幸が慎司の勉強部屋を『手術室』と呼んでいたとか、
慎司に医学の道を歩ませることに、異常なほど執着していたとか、
勉強の妨げになるからと、部活動をやめるよう強要していた、
ということが書かれました。

慎司が頭痛に耐え切れなくなり、大声を出すと、
弘幸はゴルフクラブを取るために、階下に下り、
淳子はそれを阻止しようと、とっさに棚の上にあったトロフィーを手に取り、
背後から殴りつけた、ということが週刊誌に書かれました。



小島さと子 Ⅳ

小島さと子にマーくんから電話がかかってきます。

小島さと子は、帰ってこない『マーくん』のかわりに、
マーくんによく似た慎司を可愛がることにしたらしく、
高橋家の保護者代わりを自称しました。
さ来年、海の近くに観覧車ができるんですって、
それが完成した頃に帰ってくるのも、いいかもしれないわね、
マーくんと一緒に、乗ってみたいわ、と小島さと子は言いました。

というあらすじなのですが、面白かったです。

特に、第7章がよかったですね。

小島さと子や遠藤啓介は決して善人ではないのですが、
善人ではないことを理由に、真弓と彩花のケンカを仲裁したり、
高橋家のビラを剥がしたりと、善いことをしたのが面白かったです。

あと、家庭内殺人が起きた場合、加害者よりも被害者の方が悪い、
という論調で報道されることが多いのに対して、
この小説は1つの答えを出したのではないか、と思いました。 見やすい記事一覧はこちらです。
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