川原礫「ソードアート・オンライン9 アリシゼーション・ビギニング」のネタバレ解説

ソードアート・オンライン (9) アリシゼーション・ビギニング (電撃文庫)


この9巻から、長い長い長いアリシゼーション編が始まります。

プロローグⅠ 人界歴372年7月

12歳のユージオと、同じく12歳で幼馴染にして大親友のキリトは、
≪巨人の大杉≫を意味する≪ギガスシダー≫に、
≪竜骨の斧≫を振っていました。

……いきなりキリトが12歳に若返っていて、
しかも「人界歴」とか「ギガスシダー」とか、
専門用語が登場しますが、その説明は中盤までありません。
あまり気にせずに読み進めればいいです。

ユージオというのは、表紙の右側にいる亜麻色の髪の少年です。

去年の春、ユージオはキリトと一緒に村長の家へと連れていかれ、
≪巨樹の刻み手≫という≪天職≫を与えられました。

ギガスシダーは、ユージオとキリトが暮らす≪ルーリッドの村≫が拓かれる
遥か以前からこの地に根を張っており、
最初の入植者の時代から村人は延々と樹に斧を入れ続けていました。

初代の刻み手から数えて、ユージオとキリトが7代目であり、
ここに至るまでにすでに300年以上の時が費やされていましたが、
樹の切り目は1メル(1メートル)にも満ちませんでした。

樹を切り倒すには、あと900年、18代くらいかかる計算です。

ギガスシダーは、その巨体とありあまる生命力ゆえに、
周囲のとてつもなく広い範囲から、陽神と地神の恵みを奪い去ってしまいます。

ルーリッドの村は、≪人界≫を分割統治する4大帝国の1つ
≪ノーランガルス北帝国≫の、更に北部辺境に位置します。

村は北、東、西の3方を急峻な山脈にかこまれていて、
畑や放牧地を広げんとするなら南の森を切り拓くしかありませんが、
その森のとば口にぎがしすだーが根を張っているため、
この厄介者をなんとかしなければ、これ以上村の発展は有り得ませんでした。

キリトは前に突き出した左手の人差し指と中指をぴんと伸ばし、
残りの指を握り、そのまま空中に、這いずる蛇のような形を描き、
印を切った指先で、ギガスシダーの幹を叩きました。

この世界に存在するものは、動く、動かざるに関わらず、
生命を司る創世の神ステイシアによって与えられた≪天命(てんめい)≫
が存在します。

その天命の残量を神聖文字で記したのが≪ステイシアの窓≫です。

ギガスシダーの≪窓≫を引き出して見ると、23万5542でした。
先々月は23万5590くらいだったので、たった50しか減っていませんでした。

そこへ、ユージオ、キリトの幼馴染の少女、アリス・ツーベルクがやってきました。

アリスは村長の娘で、金髪です。
アリスは、村の子供では一番と目される神聖術の才能を伸ばすため、
シスター・アザリヤから個人教授を受けています。

しかし、ルーリッドの村は常に貧しく、アリスも勉強できるのは午前中だけで、
午後は家畜の世話や家の掃除に忙しく立ち働かなくてはなりません。
その最初の仕事が、ユージオとキリトに朝食を届けること、でした。

アリスは塩漬け肉と豆の煮込みのパイ詰め、チーズと燻製肉を挟んだ薄切り黒パン、
数種類の干し果物、朝絞ったミルク、といった料理の≪窓≫を確かめました。

天命が尽きた料理はすなわち≪傷んだ料理≫で、
食べれば、腹痛その他の症状を引き起こします。

急いで食べたキリトは、なんで暑いと弁当がすぐ悪くなっちゃうんだろうなあ、
と言いました。

冬は寒いから食べ物が長持ちするので、寒くすれば、
この時期だって弁当は長い間持つはずだ、とキリトは主張しました。

キリトは、氷がいっぱいあれば、じゅうぶんに弁当を冷やせる、と言いました。
しかし、この世界には冷凍庫はありません。

キリトは、『ベルクーリと北の白い竜』の伝説を思い出します。
ルーリッドの村の初代衛士長を務めたベルクーリは、
ある夏の盛りの日、ルール川に氷の塊が浮き沈みしているのを見つけ、
川沿いを上流へと歩き続け、≪果ての山脈≫の巨大な洞窟に辿り着きます。
洞窟に踏み込んだベルクーリは、大小無数の財宝の上で体を丸めた白竜が、
眠っているらしいと気付き、1本の美しい長剣を手に取り、
逃げ出そうとしたその途端――というのが大まかな筋です。

村の掟で【大人の付き添いなく、子供だけで北の峠を越えて遊びに行ってはならない】
となっていますが、アリスは、これは仕事のうちと解釈するべきだわ、と言いました。

王都セントリアに巨塔を構える≪公理教会(こうりきょうかい)≫が定めた、
≪禁忌目録(きんきもくろく)≫にも、
『何人(なんびと)たりとも、人界を囲む果ての山脈を越えてはならない』
と書かれています。

しかしアリスは、山を越えるっていうのは、≪登って越える≫ってことだわ、
禁忌目録のどこを探しても、『果ての山脈で氷を探してはならない』
なんて書かれてないわ、と言いました。

ユージオは嫌がりましたが、7の月3回目の休息日に、
ユージオ、キリト、アリスの3人で洞窟に氷を探しに行くことになりました。

その日の朝、3人は村はずれで待ち合わせし、村を出ました。

ユージオは≪刻み手≫の転職を与えられる前は、
衛士になりたいと思っていました。
それを知っているキリトは、仕事をやり遂げた場合、
次の天職は自分で選べるから、あの樹をあと2年で切り倒す、
という意味のことを言いました。

――とても半日歩いたくらいで≪果ての山脈≫には辿り着けないだろう
とユージオは思っていましたが、
4時間くらい歩いただけで、もう果ての山脈に辿り着いてしまいました。

≪北の峠≫も、気付かずに通り過ぎていました。

もしかしたら、村の大人たちすら、
果ての山脈がこんなにも近いということを誰ひとり知らないのではないだろうか?
何かが変だ、とユージオは感じました。

お弁当を食べ、洞窟の中に入ります。

ユージオは灯りを持ってきていないことに気づきましたが、
アリスは草穂の先端に左の掌を添え、神聖語による不思議な術式句を奏で、
複雑な員を切り、穂の先に青白い光を灯らせました。

100メルほど進むと、とても地下の洞窟とは思えない、
途方もなく巨大な空間が出現しました。

凍った湖があり、周囲の壁も、不思議な六角柱も、
何もかもが氷でできていました。

氷の湖の上を歩き、キリトは白竜の骨を見つけました。
竜の前足のものと思われる巨大な鉤爪を拾い上げ、
剣の傷があるのをユージオとアリスに見せました。

この竜を殺したのは――人間だ、とキリトは言いました。

ベルクーリが、寝てる白竜の懐から盗み出したという≪青薔薇の剣≫もありましたが、
重くて持ち上げることができませんでした。

氷だけ持って帰ることにして、藤かごに氷の欠片を詰めます。

広い氷の湖の一方に小さな出口があり、正反対の方向にも出口がありました。

どっちから入ってきたのか分からなくなってしまっていましたが、
出口からちょっと進んでみて、ユージオが踏み割った氷の張った水たまりがあれば、
当たりだということになりました。

一方の出口に入り、進むと、風の音が聞こえました。

しかし、洞窟の出口の向こうに存在するのは、
ユージオの知っている世界ではありませんでした。

空は一面真っ赤で、地上は黒い、闇の国、ダークテリトリーでした。

白い竜に乗る白銀の鎧の騎士と、黒い竜に乗る漆黒の鎧の騎士が戦っていました。
白い方が公理教会の≪整合騎士≫のようでした。

整合騎士は弓で黒騎士の胸の真ん中を射抜きました。

ユージオ達からほんの10メルほど離れた場所に、騎士が墜落し、
鎧の喉元から大量の鮮血が迸りました。

アリスは細い声を漏らし、吸い込まれるような足取りで、
よろめきながら洞窟の外に向かいます。
キリトが「だめだっ!!」と叫び、アリスは立ち止まろうとしましたが、
足がもつれ、洞窟の地面に倒れ込みました。

アリスの右手は、洞窟の青みがかった灰色の床と、
その先の消し炭色の地面の、異様にくっきりした境界を2セン(20センチ)
ほど越えて外に出ていました。
アリスの真っ白い掌が、ダークテリトリーの大地に触れていました。

ユージオとキリトはアリスの体をしっかりと摑み、
アリスを洞窟の中に引き戻しました。

洞窟の反対側に戻ろうとした時、洞窟の天井近くに、奇妙なものが出現しました。

直径50センほどの紫色の円の向こうに、
皮膚は生白く、頭には1本の毛も生えていない人の顔がありました。
謎の声が聞こえ、紫色の円はいきなり消滅しました。

ユージオ達は白竜の骨が眠る湖まで戻るとそのまま突っ切り、
長い洞窟を抜け、懸命に歩いてルーリッドの村に帰りました。

翌朝、ギガスシダーに斧を打ち込み続け、昼が近くなった頃、
ユージオとキリトは飛竜を目撃しました。

まさか、アリスを……とキリトはつぶやきました。

ルーリッドの村に戻ると、教会前の広場に飛竜と騎士がいました。

数十人の村人の中に、アリスを見つけ、
キリトは今のうちにアリスを広場から離れさせようとしました。

広場へ、アリスの父親にしてルーリッドの村長、
ガスフト・ツーベルクがやってきて、整合騎士に挨拶をします。

整合騎士は、ノーランガルス北域を統括する公理教会整合騎士、
デュソルバート・シンセシス・セブンと名乗り、
アリス・ツーベルクを、禁忌条項抵触の咎により捕縛、連行し、
審問ののち処刑する、と言いました。

どのような罪を犯したというのでしょう、とガスフトが訊ねると、
禁忌目録第1章3節11項、ダークテリトリーへの侵入だと騎士は答えました。

騎士は村人に命令し、アリスを騎士のところへ連れてこさせ、
ガスフトに輪のついた鎖を渡し、咎人を縛(いまし)めよ、と命令しました。

キリトは騎士に弁明しますが、騎士はアリスを連行しようとします。

キリトはユージオに、俺がこの斧で整合騎士に打ちかかるから、
その隙にアリスを連れて逃げるんだ、と言いました。

しかし、ユージオはアリスを助けたいと思いながらも、
動くことができませんでした。
ずきん、と右眼の奥に鋭い痛みが走ります。

キリトは斧を構えて突進しようとしますが、
騎士がキリトを一瞥したその刹那、竜骨の斧が高々と弾き飛ばされました。

ユージオ! 頼む、行ってくれ!!
とキリトは言いますが、ユージオはわずかにも動くことができませんでした。


プロローグⅡ 西暦2026年6月

大きく場面が変わり、エギルの喫茶店兼バー≪ダイシー・カフェ≫で、
シノンこと朝田詩乃はアイスコーヒーを飲んでいました。

遅れてキリトこと桐ヶ谷和人も入店します。

半年前、2025年の末に発生した≪死銃≫事件の、
3人の実行犯のひとりである新川恭二の話をします。

恭二は審判中は頑なに沈黙を貫きましたが、
ガンゲイル・オンラインの料金未払いアカウントデータ保持期限の
180日が過ぎたある日から、
カウンセラーの問いかけに応じるようになったのだそうです。

もう少ししたら、また面会に行ってみるつもり、
今度は、会ってくれそうな気がするんだ、と詩乃は言いました。

先週、第4回バレット・オブ・バレッツの個人戦で、
シノンが準優勝したことについて、和人はおめでとうと言いました。

1位だった≪サトライザー≫という名前のプレイヤーは、
優勝するのはこれで2度目でした。

サトライザーはアメリカのプレイヤーで、
武装がナイフとハンドガンだけだったのに第1回大会を圧勝しました。

第2回からはサーバーがアメリカと日本に分かれたから、
アメリカからは接続できなくなったはずなのですが、
今回は参加していたのでした。

今回、サトライザーは開始時に何の武器も持っていなくて、
持っていたのは武器の代わりに≪軍隊格闘術(アーミー・コンバティブ)≫スキル
だけでした。
最初のターゲットを不意打ちからの格闘だけで倒すと、
そいつの武器を奪って次の獲物を襲い……の繰り返しで、優勝したでした。

呼吸を停止させられたシノンのHPゲージが消滅する寸前、
サトライザーは『Your soul will be so sweet(君の魂はきっと甘いだろう)』
と囁きました。

シノンは、8巻2話「キャリバー」で、
≪エクスキャリバー≫をキリトが手に入れる手助けをした貸しを口にし、
年末の第5回BoBに向けて、キリトを予約しておこうとしました。

そこへ、アスナこと結城明日奈が来店し、
詩乃のことをシノのんというニックネームで呼びました。

詩乃はテーブルの上に置きっぱなしになっていた和人の携帯端末を覗き、
青いブリップが、喫茶店の位置にぴたりと重なったまま静止しているのを見て、
あなたたち、お互いのGPS座標をモニタリングしてるの? と訊きました。

しかし、そんな生易しいものではなく、
明日奈は和人の脈拍と体温まで、自分の携帯端末でモニタリングしていました。

和人の胸の中央に超小型センサーがインプラントされていて、
ハートレートと体温をモニタして、
無線で和人の携帯端末にデータを送っています。

和人が今のバイトを始めるときに、先方からインプラントを勧められ、
その話を明日奈にしたら、ネットを介して明日奈の端末にも、
ほぼリアルタイムで情報を渡すことになったのでした。

和人の今回のバイトもテストプレイヤーなのですが、
テストしてるのはゲームアプリじゃなくて、
新型フルダイブ・システムのBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)
そのものなのだうです。

RATH(ラース)という名前の会社のBMIです。

明日奈は、ラースは『鏡の国のアリス』に出てくる空想上の生き物の名前で、
豚という説と亀という説があるのだと解説しました。

中の世界はどんな感じなの? と詩乃が訪ねると、
知らないんだ、俺、と和人は答えました。

機密保持のため、そのマシンが作るVRワールド内部の記憶は、
現実世界には持ち出せないのだそうです。

驚いた詩乃に、和人はまず、≪ソウル・トランスレーション≫の
テクノロジーについて説明します。

脳細胞には≪マイクロチューブ≫という、細胞の構造を支える骨格があり、
そのチューブは中空の管です。
管の中には≪エバネッセント・フォトン≫という光子が封じ込められていて、
その光子の揺らぎこそが人間の心だ、という理論があるのだそうです。

その光の集合体を、ラースでは独自に、揺れ動く光、
≪Fluctuating Light(フラクトライト)≫と名付けました。

ソウル・トランスレーターは、フラクトライトを双方向に翻訳し、
人間の魂そのものにアクセスできる機械なのだそうです。

キリトにダイブ中の記憶がないのは、
その部分への経路を遮断しているからなのだそうです。

そのバイトの話を持ってきたのは、クリスハイトこと菊岡でした。

アミュスフィアが、ユーザーの脳にポリゴンデータを見せるように、
STL(ソウル・トランスレーター)は、
人の意識に短期的な記憶を書き込みます。
STLが作る仮想世界で見るもの、訊いて、触れるものは、
ユーザーの意識レベルに於いては本物なのです。

キリトもごく初期のテストダイブ中の記憶ならありますが、
キリトは最初、そこが仮想世界だと解りませんでした。
和人は昨日まで金土日と3日連続、夢の中でバイトしていました。
栄養と水分は点滴でした。

それだけあったら色んなことができそうだね、
ケーキ食べる直前で目が醒めずに済むし、という詩乃の言葉で、
和人は仮想世界で食べたものの味を思い出しそうになりましたが、
思い出せませんでした。

次に和人は、STLのFLA(フラクトライト・アクセラレーション)機能を使えば、
数分間のうちに何時間分もの夢を見るように、
STLの中で時間を加速させることができる、という話をします。

FLA機能は最大で3倍ちょいだと和人は聞いていました。

和人が行った六本木のビルにはSTLの実験機が1台しかないことや、
実験用仮想世界のコードネームがアンダーワールドであることなどを話しました。

それを聞いた明日奈は、それも、アリスなのかもしれないね、と言いました。
『不思議の国のアリス』の最初の私家版は、『地下の国のアリス』という名前で、
原題は『アリスズ・アドベンチャー・アンダーグラウンド』だったのだそうです。

アリス、と聞いて和人はまた何か思い出せそうな気がしました。
金曜日、STLでダイブする直前に、
スタッフがA、L、I……アーティ……レイビル……インテリジェン……
と話していたのを聞いたような気がしましたが、思い出せませんでした。

明日奈達はダイシー・カフェを出て、詩乃と別れます。


転章Ⅰ

明日奈は世田谷の家の近くまで、和人に送ってもらうことになりました。

住宅街を歩きながら、和人は明日奈に、アメリカに行くという話をしました。

サンタクララの大学で研究している≪ブレイン・インプラント・チップ≫が
やっぱり次世代フルダイブ技術の正常進化形だと思うんだ、
どうしても、見たいんだ、次の世界が生まれるところを、と和人は言いました。

そして和人は明日奈に、一緒に来てほしいと言い、
明日奈は、もちろん、行くよ、一緒に、と言い、キスをしました。

来年の夏にはアスナと一緒にアメリカに行くことや、
一度はアスナのご両親に挨拶することなどを話し合います。

そんなやり取りをしているうちに、
明日奈の自宅からほど近い小さな公園の前まで辿り着いてしまいました。
和人が送ってくれる時は、ここでお別れするのが恒例です。

背後から足音が響いてきて、駅はどっちの方ですか?
と黒っぽい服装をした小柄な男に話しかけられました。

明日奈は道案内をしようとしますが、和人は明日奈を後方へ押しやり、
お前……ダイシー・カフェのそばにいたな、誰だ、と言いました。

その正体は、≪ラフィン・コフィン≫というPKギルドに属し、
≪赤眼のザザ≫とコンビを組んで、10人を超えるプレイヤーに手をかけた、
≪ジョニー・ブラック≫でした。

ジョニー・ブラックこと金本(かねもと)は≪死銃事件≫の首謀者の1人でもあり、
現在も逃亡中だったのでした。

金本は≪デス・ガン≫をシャツの中から摑み出しました。

和人は畳んだ傘の先端を、左手で金本に向け、
明日奈を逃がし、誰か人を呼んでくるんだ! と言いました。

しかし、明日奈が助けを呼びに走ると、短く、鋭い圧搾音が耳に届きました。

振り向くと、和人の握った傘の石突が、金本の右太腿に根元まで突き刺さり、
金本の握った注射器は、和人の左肩に押し当てられていました。

2人は同時にぐらりと状態を傾けると、そのまま路上へと倒れました。

明日奈は端末で救急センターのオペレータに現在地と状況を伝えます。

和人は、「アスナ、ごめん」と短く囁きました。

救急車が到着し、和人が搬入されます。
明日奈も付き添って乗り込み、サクシニルコリン……っていう薬を注射されたんです、
左肩です、と救急隊員に伝えました。

「心停止!」と救急隊員が叫び、
明日奈の握った携帯端末モニタに表示されているピンク色のハートは、
鼓動を止めました。


第1章 アンダーワールド 人界歴378年3月

キリトは森の中に開けた小さな円形の草地で目を覚ましました。

明日奈を家まで送る途中、アメリカの大学へ行きたいと考えていることを打ち明け、
明日奈も一緒に行ってほしいと頼みごとをしたところで、記憶は途切れていました。

金本に襲われたことは覚えていませんでした。

着ているファンタジー風の服を見て、仮想世界にいるのだと判断し、
ログアウトしようとしますが、ログアウトできませんでした。

そこが既存のフルダイブマシンを遥かに超える、
超現実とでもいうべきクオリティのVRワールドだったことから、
STLの中、アンダーワールドにいるのだとキリトは判断しました。

オペレータの比嘉(ひが)に、ダイブをいったん中止してくれ!
問題が発生してるみたいだ! と言いますが、何の変化も訪れませんでした。

人の手による規則的な音が聞こえ、
川の上流に向かって歩きながら、キリトは不思議な光景を見た気がしました。

横一列に並んで歩く、黒い髪の男の子と、亜麻色の髪の男の子と、
金髪の女の子の記憶を見ました。

規則的な音に向かって歩き、
キリトはギガスシダーに斧を振るっていたユージオと出会いました。

ただし、ユージオは冒頭のプロローグでは11歳でしたが、
今のキリトの前にいるユージオは17、8歳くらいでした。

ユージオに、君は誰? どこから来たの? と日本語で話しかけられ、
自分がどこから来たかよく判らない、判るのは、名前だけで……とキリトは答えました。

ユージオはキリトのことを≪ベクタの迷子≫だと言いました。

闇の神ベクタが、悪戯で人間をさらって、
生まれの記憶を引っこ抜いてすごく遠い土地に放り出すのだそうです。

ログアウトしたいんだ、とキリトは言いましたが、
ユージオは完全にここの住人であって、≪仮想世界≫という概念は持っていなくて、
ログアウトという言葉の意味が解りませんでした。

ユージオは、今は昼休みですが、仕事が終わるまで待ってくれれば、
一緒に教会まで行ってシスター・アザリヤにキリトを泊めてくれるよう頼んであげられる、
と言い、キリトは待つことにしました。

ユージオに昼食の丸パンを分けてもらうことになります。

ユージオは≪ステイシアの窓≫こと≪ステータス・ウインドウ≫を表示させ、
≪天命≫を確認した後、丸パンを1つキリトに渡しました。

丸パンを食べたキリトに、おいしくないでしょ、これ、とユージオは言いました。

出がけに村のパン屋で買ってくるんだけど、
朝が早いから前の日の残り物しか売ってくれないんだ、
昼に、ここから村まで戻るような時間もないしね……とユージオは言いました。

ずーっと昔は、幼馴染の女の子が昼にお弁当を持ってきてくれたが、
安息日に、2人で来たの洞窟を探検しに出かけて、帰り道を間違えて、
果ての山脈を向こう側に抜けてしまい、彼女はつまづいて、
外の地面に掌を突いてしまって、村に整合騎士がやってきて、
彼女を鎖で縛り上げて央都に連れて行ってしまった、という話をユージオはしました。

その少女の名前がアリスだと知り、
キリトは魂を揺さぶらんばかりの懐かしさを感じました。

探しに行ってみたらどうなんだ? とキリトは言いましたが、
ユージオが暮らすルーリッドの村は、ノーランガルス北帝国のさらに北の端にあり、
南の端にある央都までは、早馬を使っても一週間かかるとユージオは説明します。
天職を放り出して旅に出ることなどできず、
ユージオにはアリスを探しに行くことはできませんでした。

ルーリッドの300年の歴史の中で、整合騎士が来たのは6年前の1回きりだ、
ってガリッタ爺さんが言ってた、というユージオの言葉を聞き、
キリトは驚愕しました。

そういう≪状況設定≫ではなく、実際にシミュレートしているなら、
FLA機能は数百倍、
ことによると1000倍にも達する加速を実現していなければなりません。

ユージオはギガスシダーに斧を振るのを再開しますが、
キリトは自分もやってみたくなり、
ユージオに斧を借りて振りました。

しかし、斧は刻み目の中心から5センチも離れた場所に命中しました。

ユージオの説明を見て、キリトは、この世界では恐らく、
厳密な物理法則や筋肉の収縮がシミュレートされているわけではない
と気付きました。

STLが作り出すリアルな夢なのだから、1番大切なのはイメージ力です。

ユージオの指導を受けながら斧を振りつづけ、何十回目だか忘れた頃、
ようやく斧が高く澄んだ金属音とともに切り込みの真ん中に命中しました。

それから50回ずつ交替しながら斧を振り、今日の分が終了しました。

午前と併せて1日2000回ギガスシダーを叩くのが、
ユージオの天職でした。

ユージオは貴重な≪竜骨の斧≫を無造作に物置小屋に入れ、戸を閉めました。
鍵もかけませんでしたが、きっと≪禁忌目録≫には、
盗みを働くべからずというような一節があるのだとキリトは思いました。

村に衛士がいるのは、
≪果ての山脈≫の向こう側にある闇の国の軍勢から村を守るためでした。

公理教会の言い伝えによれば、1000年に1度、
ソルス(太陽)の光が弱まった時、暗黒騎士に率いられたヤインの軍勢が、
山脈を越えて一斉に攻めてくるのだそうです。

ルーリッドの村に行き、キリトは教会に泊めてもらいます。

教会に住み込みで神聖術の勉強をしている、12歳ほどの少女、セルカに、
キリトは世話を焼いてもらいます。
セルカは、アリスの5歳年下の妹でした。

村人と交流したキリトは、村人全員が、
ユージオとまったく同じレベルのリアルな感情、自然な会話、
精妙な身体動作を表現していて、皆が皆、本物の人間としか思えない、
と判断しました。
しかし、彼らは人間ではなく、AI(人工知能)でもない、
とキリトは考えました。

翌朝5時半に、キリトはセルカに起こされました。

厳かな礼拝と朝食が終わると、キリトは中央広場でユージオを待ちました。
ユージオが現れた直後、背後の教会の鐘楼が、旋律を高らかに響かせました。

1時間ごとになる鐘が、毎回違う旋律なのにキリトは気付きました。
ユージオによると、ずっとずっと昔、
央都の真ん中には≪時刻みの神器≫、要するに普通の時計があったのですが、
人びとがそればっかり見上げて仕事をおろそかにしたから、
神様が起こって雷を落として壊してしまったのだそうです。

教会の鐘は、この村にたった1つある神器で、毎日決まった時刻に、
1秒もずれることなくひとりでに讃美歌を奏でるのだそうです。

その日の昼休みに、キリトとユージオはセルカの話をしました。

アリスは村始まって以来の天才と言われていましたが、
シスター・アザリヤは、アリスが整合騎士に連れて行かれてから気落ちして、
もう弟子は取らないと言いました。
しかし、ガスフト村長が説得して、
一昨年ようやく新しい見習としてセルカが教会に入ったのだそうです。

セルカは、アリスと違って教会に住み込みをし、1日中勉強をした上で、
3年前の流行り病で両親を失った子供達6人の世話もしていました。

また、天命の話もします。
あらゆる人や物の天命は、人の手で増やすことはできません。
たとえば人の天命は、赤ん坊から子供、大人へと育つに従って増えて、
だいたい25歳くらいで最大になります。
そのあとはゆっくり減って行って、70から80歳くらいでなくなって、
ステイシアの御許に召されるのだそうです。

病気や怪我で減った天命は、神聖術や薬で治療しますが、
回復しても決して大本の量以上には増えないのだそうです。

RPGで言うところの、最大HPと現在のHPのようなものですね。

しかし、公理教会のすごく偉い司祭だけが、人の天命に直接はたらきかけ、
天命そのものを増やすことができるのだそうです。

午後の仕事を始めようとしたユージオを見て、キリトは、
竜骨の斧よりももっと強い斧はないのかと訊ねました。

ユージオは、斧はないが、剣ならあると言い、
物置小屋から≪青薔薇の剣≫を持ってきました。

プロローグで前半だけ語られた『ベルクーリと北の白い竜』の後半を、
ユージオが説明します。

ベルクーリは寝ている白竜から白い剣を拾い上げて逃げようとしますが、
その途端に足許から青い薔薇が生えてきて、
ベルクーリをぐるぐる巻きにしてしまいます。
たまらず倒れたその音で、白竜が目を醒まします。
いろいろあってベルクーリはどうにか許してもらって、
剣を置いて命からがら村に逃げ帰ってきました。

というのが、おとぎ話の内容です。

6年前、ユージオとアリスは果ての山脈まで白竜を探しにいきましたが、
竜はいなくて、代わりに、刀傷がついた骨の山があるだけでした。

骨の下には、金貨や宝物や≪青薔薇の剣≫もありました。

おととしの夏、ユージオはもう一度北の洞窟まで行って、
安息日ごとに剣をほんの何キロルかずつ運んでは、森の中に隠して、
3ヶ月かけて物置小屋まで持ち帰ったのでした。

キリトはユージオに、今のギガスシダーの天命を調べてもらいます。
23万2315でした。

キリトは、持っているだけで両腕が抜けそうになる青薔薇の剣を下段に構え、
SAOのソードスキル≪ホリゾンタル≫を放とうとしました。

が、踏ん張りきれずに両脚が膝からふらつき、
剣は目標を遥か離れた樹皮に激突しました。
青薔薇の剣は竜骨の斧よりも攻撃力が上なので、
2センチも切り込みましたが、切り込んだ場所が悪く、
天命は1しか減っていませんでした。

キリトはユージオに剣を振らせようとしましたが、
やはり重すぎて青薔薇の剣でギガスシダーを切るのは難しそうでした。

ステータスが足りないから剣を扱えないのだとキリトは思い、
指先で例のマークを描き、右の手の甲を叩き、ウインドウを出しました。

最上段にはユニットID、その下には天命の【3280/3289】、
その下には【Object control Authority:38
System Control Authority:1】とありました。

オブジェクト・コントロール権限というのが、
アイテムの使用に関連するパラメータのようでした。

青薔薇の剣の情報を引き出すと、耐久値197700、
【Class 45 Object】とありました。

キリトのオブジェクト・コントロール権限を、
38から45以上に上昇させることができれば、青薔薇の剣を扱えそうでした。
しかし、モンスターがいないこの世界では、レベルを上げる方法が不明でした。

仕事を終え、ルーリッドの村の教会に戻り、風呂に入っていると、
セルカがやってきて、出るときにちゃんと浴槽の栓を抜いて、
ランプを消してね、と言いました。

キリトはセルカを呼び止め、ちょっと訊きたいことがあるんだけど、
今夜時間あるかな? と訊きました。

風呂から出た後、セルカがキリトの部屋にやってきます。

キリトは、ユージオに聞いたと言い、アリスのことを訊ねます。

ユージオ、忘れたわけじゃなかったんだ……アリス姉様のこと……、
とセルカは小声で言いました。
ユージオはすごくアリスのことを気にかけているとキリトが言うと、
じゃあ……ユージオが笑わなくなったのは、
やっぱりアリス姉様のせいなのね、と言いました。

誰からも愛され、次代のシスターとしてシスターとして期待されていたというアリスが
捕縛される理由を作り、また助けることもできなかったという罪の意識から、
ユージオは村人の前では笑わなくなっていたのでした。
だとすれば、ユージオの魂は単なるプログラムでは有り得ない、
彼は、俺と同じ本物の意識、魂……フラクトライトを持っているのだ、
とキリトは考えました。

セルカは……ユージオのことが好きなんだ? とキリトが言うと、
セルカは動揺し、そんなんじゃないわよ!
と首筋まで赤くしてそっぽを向きましたが、
ユージオはあたしのこと避けてるわ、あたしを見ると、
姉様を思い出すから、と言いました。

セルカは自分の部屋に戻る前に、整合騎士がアリスを連れていった理由を、
キリトに訊ねました。
セルカは、父親達やユージオから、その理由を知らされていませんでした。
キリトは躊躇を感じながらも、答えました。

翌朝5時半に、シスター・アザリヤから、セルカの姿が見えないと言われました。

今日は安息日でしたが、セルカは教会に来てからの2年間、
1度も生家に帰っていませんでしたし、シスター・アザリヤに何も言わず、
行くなどとは考えられませんでした。

キリトは8時にユージオと会い、セルカがいなくなったことを話しているうちに、
ゆうべセルカに、アリスが闇の国の土に触れた話をしたせいで、
セルカが果ての山脈に行ったのだと気付きました。

ユージオは、セルカを早く追いかけて連れ戻さないと、と言い、
キリトとユージオは果ての山脈に向かいました。

洞窟に辿り着くと、ユージオは草穂を掲げて、
「システム・コール! リット・スモール・ロット!」
と言いました。

≪システムコール≫とは、あまりにも味気ないですが、
ユージオはその意味を知らず、神様に呼びかけて、
奇跡を授けて下さるようにお願いする、式句なのだと説明しました。

ユージオは一昨年、≪青薔薇の剣≫を取りに行こうと決意した時に、
この神聖術を2ヶ月くらいかけて習得したのだうです。

洞窟の奥に進むと、焦げ臭い匂いがして、セルカの悲鳴が聞こえました。

直径50メートルほどの真円のドームに着くと、
池の周りに2つの篝り火(かがりび)があり、
30匹以上のゴブリンがいました。

ゴブリンたちもプログラムではなく、本物の魂を持っているのを、
キリトははっきりと認識しました。

ユージオやセルカたち住人はおそらく、生身の人の脳ではなく、
何らかの人造メディアに保存された、≪人工フラクトライト≫だと、
キリトは推測していました。

STLによって生まれたばかりの新生児のフラクトライトの、
≪魂の原形≫を無数にコピーし、
この世界で赤ん坊として1から成長させていたのでした。

ユージオたちはキリトとは物理的な存在次元が異なるだけで、
魂の質的にはまったく同じ≪人間≫です。

ならば、このゴブリンたちは何者なのか? とキリトは考えました。

ゴブリンたちは、キリトとユージオのことを「白イウムの餓鬼が2匹」と呼びました。
イウムというのは、闇の国の言葉で、ヒトを意味しています。

隊長ゴブリンは、男のイウムなんぞ連れて帰っても、
幾らでも売れやしねえ、面倒だ、ここで殺してしまえ、
と子分たちに命令しました。

セルカが、体を荒縄で縛られ、荷車に横たわっているのを見つけ、
キリトはユージオに、セルカを助けるぞ、動けるな、と言いました。

キリトが3つ数えたら、前の4匹を体当たりで突破し、
キリトは左、ユージオは右のかがり火を池に倒し、
火が消えたら、床から剣を拾って、後ろを守ってくれ、
とユージオと打ち合わせしました。

3つ数え、予定通りに火を消すと、
ユージオが左手に握る草穂の光を見て、ゴブリンたちは眼を覆いました。
キリトは知りませんでしたが、ゴブリンたちはその光が苦手だったのです。

キリトとユージオは剣を拾い、キリトはゴブリンの隊長、
≪蜥蜴殺しのウガチ≫と戦います。

なぜかこの世界ではSAOの≪ソードスキル≫を使うことができ、
キリトはそれで隊長を斬りつけました。

しかし、これはプレイヤーとモンスターとの戦闘などではなく、
武器を握った者同士の戦いだったことにキリトは気付かず、
反撃され、左肩を怪我をしてしまいました。
VRMMOでは有り得なかった、凄まじい痛みに襲われます。

痛みのせいで動けずにいると、
隊長に殺されそうになったキリトを助けようと、ユージオが戦おうとします。
しかし、隊長はつま先でユージオの軸足を払い、
上腹部を横一直線に斬り裂きました。
恐ろしいほど大量に血が溢れます。

ユージオ……もういい……とキリトは言いますが、ユージオは、
子供の頃……約束したろ……僕と、キリトと――アリスは、
生まれた日も、死ぬ日も一緒……今度こそ……守るんだ……僕が……と言いました。

キリトは、失われた記憶を断片的に取り戻し、再び剣を握って、
俺は……剣士キリトだ!! と叫び、
ソードスキルの片手剣突進技、≪ソニックリープ≫で隊長の首を取りました。

お前らの親玉の首は取った! まだ戦う気がある奴はかかってこい、
そうでない奴は今すぐ闇の国に帰れ! とキリトが隊長の首を掲げて言うと、
別のゴブリンが進み出て、そういうことなら、
手前ェを殺ればこのアブリ様が次の頭に……と言いかけましたが、
キリトは途中でそいつの右脇から左肩までを先と同じ技で両断しました。

他のゴブリン達が逃げていくと、キリトはユージオの天命を確認します。
【244/3425】となっていて、
現在地がおよそ2秒毎に1というペースで減少していました。

キリトはセルカを起こし、セルカの神聖術で助けてくれと頼みます。
セルカは、あたしは……姉様にはなれない……、
今のあたしに治せるのは、ほんのかすり傷で……と言います。

ユージオは、君を助けにきたんだ、セルカ!
アリスじゃない、君を助けるために、命を投げ出したんだ!
とキリトはセルカを説得し、セルカは、
失敗したら3人とも命を落とす、危険な高位神聖術を試そうとします。

セルカはキリトの左手を自分の右手で強く握り、
ユージオの右手を左手でしっかりと握り、
システム・コールから始まる呪文を唱えました。

それはキリトの天命をユージオに移す術でしたが、
キリトの天命を全て費やしても、
ユージオを助けることはできそうにありませんでした。

しかし、キリトは両肩に、誰かの手を感じました。
『キリト、ユージオ……待ってるわ、いつまでも……
セントラル・カセドラルのてっぺんで、あなたたたちをずっと待ってる……』
と懐かしい声が聞こえ、キリトの内部を圧倒的なエネルギーが満たし、
そのエネルギーのおかげでユージオは助かりました。

キリト達はゴブリンの隊長の首をルーリッドの村に持って帰り、
闇の国からの偵察隊であるゴブリンの集団が北の洞窟に野営していたことを
村長たちに伝えました。

教会の部屋でセルカに左肩の傷の手当てをしてもらい、
翌日の仕事はユージオともども免除され、眠り、
さらに翌朝には肩の痛みも全身の疲労感もすっきり抜けていました。

ギガスシダーに斧を刻む仕事を再開しますが、
ユージオは斧が軽く感じるようになったと言いました。
セルカも、先週までは失敗率の高かった神聖術が上手くいくようになっていました。

あの洞窟で、ゴブリンの大集団を撃退した――
言い換えれば高難易度のクエストをクリアしたことによって、
通常のVRMMOで言う≪レベルアップ≫的現象が発生したのでした。

キリトは重かった青薔薇の剣を持てるようになり、
≪ホリゾンタル≫をギガスシダーに当てます。
刃の幅の半分以上も、金属のように黒光りする木目に埋まっていました。

キリトがそれを≪アインクラッド流≫だとユージオに言うと、
ユージオは、≪アインクラッド流剣術≫を教えてほしいと言いました。

しかし、≪複数の天職を同時に兼務すること≫は、
最高支配者である公理教会が発布した≪禁忌目録≫、
その下部で具体的な統治を行うノーランガルス帝国の≪帝国基本法≫
で禁じられていました。

≪人工フラクトライト≫は、意識に書き込まれた上位規則には絶対に逆らえない、
という特性を有しているため、ユージオは魂の中で葛藤していましたが、
でも、僕は……強く、なりたいんだ、と言い、剣を教えてもらうことになりました。

巨大な樹を練習台として使い、≪アインクラッド流剣術≫の修業を始めてから、
わずかに5日後に鋼鉄の巨樹ギガスシダーを倒すことができました。

予定より900年ほど早くお役目を果たしてしまった≪巨樹の刻み手≫
ユージオを歓迎して、村を挙げての祭りを催しました。

天職を果たしたユージオには村長から、自ら次の天職を選ぶ権利が与えられました。

ユージオは、僕は――剣士になります、ザッカリアの街で衛兵隊に入り、
腕を磨いて、いつか央都に上ります、と宣言しました。

ガスフト村長はそれを認めましたが、
前の衛士長と、その息子で今の衛士長のジンクが意義を唱え、
ユージオがジンクと戦ってジンクより強いことを証明しなければ、
ザッカリアの衛兵隊に入れないことになってしまいました。

試合は、剣は使うけど寸止めです。
しかし、青薔薇の剣は泊まらないで当たっちゃうと、
それだけで相手を殺しかねないので、
キリトはユージオに、ジンク本人じゃなくてあいつの剣を狙え、と助言しました。

ユージオは試合で、キリトが教えていない斜め斬り、≪スラント≫で、
ジンクの剣を上から叩き、粉砕して勝利しました。

その後、セルカはキリトに、姉様の真似して、
闇の国の土に触れるためにあの洞窟に行ったわけじゃない、
これ以上は進めないってところまで行って、
そこで、アリス姉様の代わりにはなれないんだってことをちゃんと確かめたかった、
と言いました。

キリトは、君はアリスの身代わりなんかじゃない、
セルカには、セルカだけの才能があるはずだ、
ゆっくりそれを育てていけばいいんだ、と言いました。

キリトは、この桐ヶ谷和人という名の自我は、
生体脳に宿るフラクトライト、つまり≪本物の俺≫なのか、
それとも、STLによって本物の俺から読み出され、
メディアに保存された≪複製≫なのか、という疑問を感じていました。

人工フラクトライトは魂に書き込まれたルールを破れないので、
キリトは、今までの人生で堅守してきたキリト自身のルール、
つまりモラルを自分の意思で破れるかどうかを確かめようと思い、
セルカの額にキスをしました。

キリトは、それを≪剣士の誓い≫的なものだと言い、
ユージオと一緒にアリスを助け出して、
この村にアリスを連れて帰ってくることを約束しました。

翌朝、ユージオにとって先代の≪刻み手≫である、ガリッタ老人が訪ねてきて、
ギガスシダーの全ての枝のなかで、最もソルスの恵みを吸い込んだ1本の枝を、
1メートルと20センチほど下の部分で、青薔薇の剣で断ち切れと言いました。

言われた通りにすると、その枝を布で包み、
央都セントリアに到着したら、この枝を、
北七区に構えているサードレという名の細工師に預けるがいい、
とガリッタは言いました。
青薔薇の剣に勝るとも劣らぬ強力な剣に仕立ててくれるのだそうです。

そしてキリトとユージオは、未知なる世界へ向けて旅立ちました。
キリトは、こちら側から外界に連絡するためのコンソールがあるであろう場所、
公理教会セントラル・カセドラルを目指します。

というあらすじなのですが、この巻は初出の専門用語が非常に多く、
あらすじを書くのが本当に大変でした……。

でも、新たなる冒険が始まり、とてもワクワクする話でしたね。

この話は10巻に続きます。 見やすい記事一覧はこちらです。
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