貴志祐介「雀蜂」のネタバレ解説

雀蜂 (角川ホラー文庫)


最初に言っておくと、この「雀蜂」は、
貴志祐介さんの作品にしてはちょっとクオリティが低いですね。

いえ、普通の中堅どころの作家さんなら充分に許されるレベルなんですけど、
貴志さんは普段から水準の高い作品ばかり発表しているので、
ハードルが上がっちゃってるんですよね。

それはともかく、いつものようにあらすじです。

簡単に説明すると、逃げ場のない吹雪の山荘の中で、
大量のスズメバチから逃げまどう、というストーリーです。

主人公の「俺」は、分身(ダブル)に関する夢を見ます。

目が醒めると、「俺」は自分の名前が安斎智哉であり、
ダークなミステリーやサスペンスを得意とする作家であることを思い出しました。

八ヶ岳南麓にあるログハウスのような山荘に、
安斎は、絵本作家である妻の夢子(ゆめこ)と一緒に滞在していました。
11月の下旬の標高1000メートルの山であり、外は吹雪でした。

ベッドの隣で寝ているはずの夢子の姿はありませんでした。

安斎は眠る前に、夢子が地下室にあるワインセラーへ行ったことを思い出しながら、
煙草を吸い始めます。

と、そのとき安斎は、レースのカーテンと窓の間に、
スズメバチがいるのを発見しました。

安斎は以前にもスズメバチに刺されたことがあり、
もう一度刺されたらアナフィラキシー・ショックにより、
命にかかわる危険性があることを回想します。

安斎は咄嗟にカーテンの端を掴んで窓へ押し当て、
煙草の火を当ててスズメバチを殺しました。

さらに、寝室の中を別のスズメバチが2匹も飛び回っているのを見た安斎は、
その部屋から脱出します。

別の部屋へ移動しようと廊下を進んでいると、
またしてもスズメバチが出現します。
バスローブを脱いでスズメバチごと床に叩きつけ、スズメバチを潰します。

安斎は書斎へ行き、外部へSOSを求めようとするのですが、
携帯電話は見つからず、パソコンも電源ケーブルがなくなっていました。

安斎は書斎にあった『スズメバチ・ハンドブック』を読み、
付け焼刃ですがスズメバチに関する知識を収集します。
エビペンという、アナフィラキシー・ショックに対する応急処置の注射器が
あったことを思い出し、機会があったらそれを捜すことにしました。

書斎を出て留守番電話のところまで行きますが、やはり使えなくされていました。
が、一部の機能は生きており、
武松という編集者が後2時間くらいしたらやってくる、
というメッセージを聞くことはできました。

テレビを点けて、スズメバチの注意をそちらに引き付けておき、
洗面所兼脱衣所へ行きます。
スプレーでそこにいたスズメバチをやっつけ、浴室へ入りました。

スズメバチを引き付けているワインの匂いを消すために、
安斎はお風呂に入ることにしました。
そこで改めて安斎は、
今回のスズメバチ作戦を仕組んだ犯人は夢子だろうと疑いを持ちました。

ここから回想シーンがあります。
以前、パーティーで安斎に話しかけてきた三澤雅弘という夢子の同級生の男が、
スズメバチなどの生き物に詳しかったので、
そいつが夢子の協力者なのではないかと推測します。

回想が終わり、安斎はスズメバチが次々と換気口から侵入してくるのに気付きます。
この山荘には各部屋の天井に換気口があり、
そこを通じてスズメバチが出入りしていたのでした。

熱湯を出し、それでスズメバチと応戦し、
シェービングフォームで換気口にバリケードを築きました。

熱湯のせいで火傷してしまったので、換気口のない物置へ移動し、
手当をすることにします。
ゴミ袋を被ってスズメバチの針から身を守り、
残り少ない殺虫剤やバリサン(バルサンではなくバリサンw)を持って屋内に戻ります。

キッチンでバリサンを使い、空気を入れ替えた後、
スズメバチ用のトラップを作ることにします。
やり方は簡単で、アルコールとジュースなどをミックスした液体を瓶に入れておくと、
甘い匂いに誘い込まれたスズメバチが出られなくなり溺れ死ぬという仕掛けです。

が、瓶が倒れてしまい、せっかくのトラップは無駄になってしまいました。

地下室へ行ってボイラーのスイッチを切れば、
スズメバチが活発な運動ができなくなるくらいまで温度を下げられるのではないか、
と安斎は考えました。

さっそく地下室へ行きましたが、階段には滑りやすくするための罠が仕掛けてありました。
間一髪で転倒は避けられましたが、地下室はオオスズメバチの巣窟でした。
オオスズメバチは、これまでに安斎を襲っていたキイロスズメバチとは
比べ物にならないくらい凶暴なスズメバチです。

スプレーに火をつけて火炎放射器にするという胡散臭い技を使い、
さらに消火器を振りまいて地下室から脱出します。

何とかガレージまで逃げ延びましたが、ガレージの中は極寒の世界で長居はできません。

しかし、アナフィラキシー・ショックに対して有効なエビペンを発見しました。

ところでこのとき、安斎が
「一匹残らず、駆逐してやる」
と呟くのですが、これはもしかして、「進撃の巨人」の主人公、エレン・イェーガーの
「駆逐してやる…この世から…一匹…残らず!!」
というセリフのパロディなのでしょうか?

貴志さんはあまりパロディとかはやらないタイプの作家さんなので、
偶然だろうと思うのですが、
でもちょうど執筆時期に進撃の巨人のアニメがかなりブレイクしていたと思うので……
うーん、どうなんでしょうね。

それはさておき、安斎はスキーウェアやヘルメットなどで防護し、屋内に戻り、
スズメバチに効果があるセルロイドを燃やした煙を出します。

まずは天井裏にあると思われるキイロスズメバチの巣を駆除することにしました。
コールタールを塗ったテディベアを載せたロボット掃除機を囮にし、
バドミントンのラケットでキイロスズメバチを倒していきます。

が、結局キイロスズメバチには勝てず、心がくじけそうになったところへ、
オオスズメバチが現れました。

オオスズメバチはキイロスズメバチの天敵なので、
巣の場所を知られてしまったキイロスズメバチはこれで全滅することになるでしょう。

安斎はガレージに戻ると火を起こして暖をとっていると、
ようやく編集者の武松がやってきました。
ところが、武松は地下室へ行ってしまい、
トラップに引っかかってオオスズメバチの餌食になってしまいました。
武松の乗って来たバイクもキーが抜かれており、乗ることは不可能でした。

スズメバチを寄せ付けないためにキッチンの窓を開けて凍えながら、
どうして夢子は、
安斎が酔い潰れているときにスズメバチを入れたコップを
安斎の皮膚に押し当てるという方法をとらなかったのだろうか考えます。
そうすれば、もっと簡単にスズメバチに刺させることができたのに、と。

そこで安斎は、以前ある企画で、
夢子が書いた童話シリーズの続きを書いたのですが、
その内容が原作レ○プでは済まされないような酷い内容だったことを思い出し、
それを理由に安斎を殺そうとしているのではないかと考えました。

そして、「手を汚す」ことは平気でも「記憶を汚す」のは嫌だったため、
こんな回りくどい方法をとったのだろうと考えます。

それからしばらくして、夢子と三沢らしき男女がやってきました。
2人はスズメバチに備えて防備しています。

2人は地下室へ行き、武松の死体を安斎だと思い込んで中に入っていきます。
すぐに安斎ではないとバレてしまいますが、安斎は「即座に地下室のドアを閉め、
2人を閉じ込めました。

安斎は勝利を確信しながら広間でウイスキーを飲んでいたのですが、
ソファーにいたスズメバチの死体の針にうっかり触れてしまいます。
呼吸困難に陥りながらもエビペンを刺したのですが、
以前として息苦しさが続き、
安斎はワイン・オープナーで自分の咽喉に穴を開け気道を確保しました。

ちなみに、普段ワインとか飲まないのでワイン・オープナーについて調べてみると、
こんな感じ↓のものでした。

Le Creuset(ル・クルーゼ) ワインオープナー / テーブルモデル TM100


こんなものを自分の咽喉に刺すとか、想像したくないです。

意識が朦朧としていると、やがて複数の人たちの声が聞こえてきます。

すると、夢子の声が聞こえ、自分はスズメバチに対してアレルギーがあり、
刺されたら死ぬだろうという話を刑事にしていました。
さらに、先ほど地下室へ行った男女は、三沢と、
夢子の担当編集者の杉山という女性でした。
2人は死んでおらず、刑事たちに救出されました。

夢子は安斎智哉から生命保険金目当てに命を狙われており、
それでこのようにスズメバチに刺されて死んだという状況を作り上げようと
していたのだろう、と夢子は言います。
アナフィラキシー・ショックを持っているのも、
安斎ではなく夢子の方なのだと言います。

かつて安斎がエッセイにアナフィラキシー・ショックで死にかけたという
話を書いたのも、夢子の話を自分に置き換えたものだったのです。

そして、刑事は、安斎智哉が夢子を殺害しようとしたのだとすると、
ここにいる男――つまり『安斎』は誰なのかと尋ねます。

すると夢子は、『安斎』は安斉実という、
安斎智哉のストーカーである異常者だと言いました。

分かりにくいですが、今までずっとこのあらすじの中で安斎と書いていた男は、
本当は安斎智哉ではなく、安斎智哉だと思い込んでいるだけの別人だったわけです。

小説の中では『俺』という一人称で書かれているのですが、
あらすじでずっと『俺』を使い続けると叙述トリックが使われていることが
バレバレになってしまうので、仕方なく『安斎』と書きましたが。

『安斎』こと『安斉実』は、作家志望だった70歳近い老人です。
本物の安斎のことを分身(ダブル)と呼んでおり、
そのことに関する伏線は張られていました。

安斉実は安斎智哉の書いた小説を読むうちに、
これは自分が書いたものだと思うようになり、
とうとう自分が本物の安斎智哉なのだと思い込むようになってしまったのです。

今回、スズメバチに刺されてアナフィラキシー・ショックが出たように感じたのも、
妄想でした。

そして、妄想はとどまることを知らず、安斉実はとうとう八ヶ岳の山荘まで来て、
本物の安斎智哉を果物ナイフで殺してしまいました。
それはちょうど、安斎智哉が夢子を殺害するためにスズメバチの仕掛けをして、
山荘から出てきた直後のことでした。

安斉実が、ワイン・オープナーで咽喉に穴を開けたことが死因となり、
死んでしまったところで物語は終わります。


というあらすじなのですが、「こういう実は主人公が狂っていた系の話は、
何でもありになってしまうのでどうしても評価が低くなってしまいますね。
極端な話、全部妄想で事件は何も起こってませんでした、
というのもありなんですから。

また、結局、本物の安斎智哉が夢子をスズメバチの毒で殺すのに、
どうしてこんな遠回りな方法を選んだのかも謎のままです。
作中で安斉実も考えたように、コップにスズメバチを入れて、
夢子の肌に押し当てた方がはるかに楽だったでしょう。

夢子に対して並々ならぬ感情を抱いていたとかならまだ説明もつくのですが、
殺害の動機も保険金目当てという俗物的なものなので、
ここまで手間をかける意味が分からないです。
天井裏と地下室にスズメバチの巣を設置するのにどれくらいの
労力とお金が必要なのかを考えると……。

スズメバチへの恐怖を味あわせてやりたかったという理由だとしても、
山荘全体にスズメバチが出入りするようにセッティングしなくても、
どこかの部屋にスズメバチを数匹入れ、
ドアに鍵をかけて窓を塞ぐだけでも充分じゃないかと思うんですよね。

吹雪の山荘の中でスズメバチから逃げまどう恐怖、
というシチュエーション自体は面白いんですけど、
そのあり得ないシチュエーションを構築するだけの舞台設定が整っていない、
という印象を受けました。
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同感です。
ダークゾーンでも感じましたが、新境地開拓へのもがきを感じました。
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