石持浅海「三階に止まる」第4話「院長室 EDS 緊急推理解決院」のネタバレ解説

この「院長室」という作品は、警察が不得意とする不可能犯罪を探偵が解決する、
「EDS 緊急推理解決院」というアンソロジーの1編として書かれたものです。
当たり前ですが「三階に止まる」には他の作家さんの話は収録されていないので、
アンソロジーを読んだ方が楽しめるかと思います。

ただし、「院長室」だけでもちゃんと1つの話として成立しているので、
そこはご安心ください。

EDS緊急推理解決院 (カッパノベルス)


2003年12月17日に丸の内警察署と新宿警察署で爆弾テロがあり、
警察としての機能が麻痺している、というエピソードがあります。

そこからガラリと場面が変わり、2004年12月24日。
今回の主人公である、緊急推理解決院、EDS院長の文福周五郎は、
院長室で南井七瀬という27歳の女性と再会していました。
七瀬は、1年前に亡くなった「毒物推理科」の探偵師の娘です。

文福は七瀬から緑茶をもらいますが、異様な苦みが口の中に広がりました。
毒だと思って吐き出しますが、七瀬はただの苦味剤だから安心しろと言います。

しかし、毒だろうと無毒だろうと、
七瀬がいきなり敵対行為をしてきたことに変わりはありません。

七瀬はさらに、リアルタイムで院内を隠し撮りし続けている映像を見せました。
「さゆり」という院内で人気の小さな女の子の帽子にカメラを仕込み、
さらに、さゆりが背負っているリュックサックの中にイペリットという
強力な毒薬を仕込んだことを仄めかします。

イペリットは皮膚に触れただけでそこが爛(ただ)れるため、
ガスマスクだけでは防ぐこともできないという恐ろしい毒ガスです。

七瀬が握っているシャーペンで、
そのリュックサック内の毒薬を噴射することができるのだそうです。
と思いきや、七瀬はそのシャーペンを文福に手渡しました。
シャーペンはいくつも持っているのでした。

七瀬からの要求は、1年前に父親が亡くなったときの情報を教えることでした。
そして文福は、1年前――2003年12月24日に、
南井探偵師と助師のマルズキ・マクムーンが殺し合ったのだと前置きし、
次のように説明します。

その日、全身に大火傷を負った東南アジア系の外国人が
緊急推理解決院EDSに運ばれてきました。
タンジュンと名乗るその外国人が「マル……」と呟いたことから、
マルズキが呼ばれましたが、マルズキは自分の知り合いではないと言いました。

インドネシアから来た敬虔なイスラム教徒のマルズキ・マクムーンは、
優秀な助師で、もうすぐ探偵師に昇進する話もありました。

EDSは全部で10の推理科があり、
それぞれに専任の探偵師がいるという病院のようなシステムなのですが、
マルズキは外国人推理科、スポーツ推理科、民俗学推理科などに声をかけますが、
どこの科の探偵師も自分の科の担当ではないと断ります。

そこへ、毒物推理科の南井が通りがかりました。
南井はマルズキたちの話を聞いていましたが、タンジュンの容態が怪しくなり、
治療室長が救命活動をしましたがタンジュンは死亡してしまいました。
EDSのすぐ近くの新宿中央公園から運び込まれてから、2時間半後のことでした。

その後、遺体は警察に引き取られました。
南井は解決室長の小菅にポルトガル語で話した後、
マルズキを毒物推理科の解決室へ連れて行きました。

その中で2人とも死亡しました。
南井は首が異様な方向に曲がっており、マルズキは腹から血を流していました。

その事件を烏賊川市から非常勤で来ていた鵜飼探偵師が推理しました。
ちなみに、この鵜飼は東川篤哉さんの烏賊川市シリーズに登場する探偵です。
面白い性格の持ち主なのですが、この話の中ではシリアスな役回りになっています。
ぶっちゃけ、鵜飼である必然性はないんですけど、まあ、ゲスト出演なので……。

南井とマルズキはお互いに殺し合った様子でしたが、
南井の方が即死だったのに対しマルズキの方は死亡するまでに1分弱の余裕があり、
また南井がハサミを使ったことから、南井の方が先に襲い掛かったのだろう、
と文福は報告を受けました。

そして文福はEDSのために(しまうましたには保身にしか見えないんですけど)
事件を闇に葬りました。

が、その話を聞いていた七瀬は、文福の判断を否定しました。
事件に関わった人達が少しずつ何かを隠していた、と七瀬は考えました。

まず、タンジュンは火傷ではなく「イペリットのような毒ガスに触れたため、
全身が爛れてしまったのでした。
タンジュンは日本で毒ガスを使ったテロを実行しようとしていた
テロリストだったのですが、何らかの理由で自爆してしまったのでした。

テロを決行しようとしていた理由は、2003年に起こったイラク戦争でした。
日本はアメリカを支持している国だからという理由で標的に選ばれたのです。
キリスト教国家のアメリカにとって重要な日であるクリスマス・イブに、
テロに対する警戒の薄い日本でテロを起こすことがテロリストたちの目的でした。

しかし、タンジュンがテロリストであることが、
テロ決行前に探偵や警察に知られれば、テロは失敗に終わるでしょう。

そこでマルズキは、タンジュンがテロリストであることを悟られないように
時間稼ぎをしていたのでした。
しかし南井はそれを見抜き、ポルトガル語で小菅に伝えてテロを未然に防いだ後、
マルズキに殺されてしまったのでした。
しかし、マルズキがテロの協力者である可能性を考えていたため、
南井は隠し持っていたハサミで反撃することができたのです。

タンジュンが呟いた『マル……』という言葉と、
1週間前に丸の内署と新宿署が通信機能を破壊されていたことを考えると、
テロの標的となった場所は丸の内でした。
しかも、そこにはEDSの院長である文福もいました。

テロは未然に防がれましたが、治安当局は日本中がパニックになることを恐れ、
事件を隠蔽しました。
こういう考え方って、いかにも国民を馬鹿にしていて嫌いなんですけどね……。

文福には誤った解釈が伝えられ、文福はそれを信じてしまったのでした。
そんな文福に反感を抱いていた七瀬は、
父親の名誉を守るために今回の事件を起こしたのですが、
さゆりのリュックサックにイペリットを仕込んだというのは嘘でした。

が、文福に渡したシャープペンシルにイペリットが仕込まれているかもしれないと
仄めかしたところで、物語は終わります。


というあらすじで、事件のスケールも大きく満足感はあるのですが、
気になったことがありました。
マルズキの時間稼ぎの方法についてです。
南井の前にマルズキに声をかけられた外国人推理科、スポーツ推理科、民俗学推理科の
探偵師たちは、みんな自分の科の受け持ちではないと言うばかりで、
どうして適切な科を教えなかったのでしょうか?

火傷ではなく毒ガスであることは分からなくても、
タンジュンに命の危険が迫っていることは分かったでしょうし、
マルズキの代わりに適切な科を紹介することくらいはできたと思うのですが……。
もし紹介するべき科が分からなかったのなら、
その探偵師たちも無能に見えてしまいます。
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