湊かなえ「母性」のネタバレ解説

母性 (新潮文庫)


この「母性」は全7章で構成されています。
最後の終章を除き、1章から6章までは、
「母性について」「母の手記」「娘の回想」という3つのパートがあります。

「母性について」は、
17歳の女子高生が4階にある自宅から転落したという、
事故あるいは自殺についての新聞記事について、
女子高生の母親の「愛能う限り、大切に育ててきた娘」というコメントに
違和感を覚えた教師の物語です。

「母の手記」は、娘を愛することができない母親が、
どこかの教会の神父に向けて書いた手記という形式で書かれています。
この「母親」が本編の主人公です。
「母親」の名前は終盤まで登場しないのですが、
やはり名前がないとあらすじを書きにくいので、
このあらすじではルミ子と呼ばせてもらいます。

「娘の回想」は、母親に愛されずに育った娘が、自分の半生を回想する、
というストーリーです。
「娘」もルミ子と同じく終盤まで名前が登場しないのですが、
やはり清佳(さやか)と呼ばせてもらいます。

さて。
絵画教室に通っていたルミ子は、そこで田所哲史と知り合います。
田所が描いた絵をルミ子の母親が気に入ったため、
ルミ子は母親に絵をプレゼントするために田所と付き合い始めます。

ルミ子は同じ絵画教室に通っていた佐々木仁美から、
田所の両親に関する嫌な話を聞かされますが、
母親が田所を気に入っていたから、という理由で田所と結婚してしまいます。

高台にある一軒家で新婚生活が始まり、半年後に妊娠しました。
その娘に義母が一方的に「清佳」と名付けてしまいます。

当初は親にとって理想的な子どもだと思われた清佳でしたが、
大人や親の顔色を窺う子どもに成長してしまいます。

そして、清佳が半年後に小学校入学を控えた10月24日、
台風のせいで高台の家が半壊し、
ルミ子の母親と娘が洋箪笥のの下敷きになってしまいます。
どちらか1人しか助けることができず、ルミ子は人を呼んで来ようとしますが、
そこへ追い打ちをかけるように火事が起きます。

そして――ルミ子は娘ではなく、自分の母親を助けようとします。
正直、これについてはルミ子を責める気にはなれません。

やっぱり、「母親」ならば自分の子どもを最優先してほしいとは思うけど、
それは他人だから言えることだと、しまうましたも思うからです。

母親と娘だから問題の本質が見えなくなりますが、
例えば2人の兄弟(どちらも自分の実子)が離れた場所で溺れているとき、
どちらを助けるのが正しいのか、と言われたら、誰でも答えに窮するでしょう。
そのときになってみないと分からないし、
答えを出せずに時間切れで両方とも死なせるよりは、たとえ間違っていても、
どちらか1人だけでも助けた方がいいのではないでしょうか。

そして――ルミ子の母親は、
自分ではなく孫娘の清佳を助けるようにと言い、死にました。

高台の家は全焼し、ルミ子、清佳、田所の3人は、
田所の実家に住むことになりました。

しかし、田所の母親、つまりルミ子にとっての姑が非常に嫌な性格をしており、
ルミ子は嫁いびりをされます。
清佳はそんなルミ子を庇うのですが、ルミ子に逆恨みされてしまいます。

そんな中、律子という田所の妹、つまりルミ子にとっての小姑が駆け落ちします。
その見張りをしていたのは清佳だったため、ルミ子は清佳を恨みます。

その後、ルミ子は、眠っている娘に手を払われたことにショックを受けますが、
お前にそんなショックを受ける資格があるのかと小一時間問い詰めたいです。

ルミ子が母親を失った台風の夜から六年が過ぎ、2人目を妊娠します。

しかしその頃、2人目の小姑である憲子が、
頻繁に自分の息子の英紀を実家に連れてきて、ルミ子に世話をさせていました。
この英紀というのが手のつけようがない乱暴者で、
ルミ子は実子である清佳よりも英紀の世話をすることを強要されます。

そして、ある日、ルミ子は英紀に突き飛ばされ流産してしまいます。
が、それすらもルミ子は娘である清佳が英紀に妙なことを吹き込んだせいだと、
清佳のせいにしてしまいます。

流産のショックで精神的に弱っていたルミ子は、
近所に住む中峰敏子と、その姉の彰子に騙され、詐欺の被害者になってしまいます。

この辺の手口は、占い師なども使っているホット・リーディングという手法ですね。
事前に調べておいたことを、名前や顔を見ただけで当てたように思い込ませ、
相手を信用させるという手法です。

ルミ子は敏子から高額で買った薬(実際にはただの大豆の粉)を、
ニキビの薬だと偽って清佳に飲ませます。
清佳がそれを姑(清佳にとっての祖母)に話したのを、
ルミ子は告げ口されたと思い込み、姑でも敏子でもなく、清佳を恨みます。

高校生になった清佳は、恋人の亨(とおる)の家へ行く途中、
ルミ子の母親が住んでいた家を訪れます。

そこで「父親である田所の愛人の仁美から、
祖母が自分を助けるために舌を噛んで自殺したことを教えられます。

家に帰った清佳は、そのことで母親を問い詰めますが、
ルミ子に首を絞められ、とうとう清佳は首を吊って自殺を図ります。
が、それを父方の祖母(ルミ子の姑)が発見し助けました。

「母性について」で新聞記事が気になった教師は、
同僚の国語教師がその子を知っていると知り、
たこ焼き屋「りっちゃん」に誘います。
その「りっちゃん」で働いているのが、例の駆け落ちした律子です。
また、バイトの男の子のヒデというのが、例の英紀のようです。

そして終章で、教師=清佳だと明らかになります。
現在、義母は完全な寝たきりになり、認知症の症状も進行していました。
清佳の自殺未遂以来15年姿を消していた父親の田所は、
3年前に帰ってきたのだそうです。
実はあの台風の日、田所は妻子の救出よりも自分の絵を避難させることを
優先しており、その間にルミ子の母親は舌を噛み切ってしまっていたのでした。

清佳にしてみれば、自分や母親よりも絵を優先し、
自分が自殺未遂までしたのに愛人と逃げ出した最低の父親なのですが、
清佳は父親を赦しました。


……というあらすじなのですが、とにかく、主人公のルミ子にムカつきます。

ルミ子は分かりやすい言葉で言えば、重度のマザコンです。
自分自身や、自分の夫や娘よりも、母親の方が好きというくらいのマザコンです。

それと、ルミ子はことあるごとに悲劇のヒロインぶっているのですが、
悲劇の半分くらいはルミ子の自業自得です。
残りの半分は、田所哲史や、姑や律子や憲子や英紀など義実家というところでしょうか。
にもかかわらず、ルミ子は殆どの悲劇の責任を娘の清佳のせいにしてしまいます。

ルミ子の視点で描かれた「母の手記」だけを読んでいてもそのことが一目瞭然なのに、
その直後に、追い打ちをかけるように「娘の回想」で清佳の視点から見た真実……
つまり、手記には描かれなかった地味な虐待シーンがあるため、
ますますルミ子のことが嫌いになります。

露骨な嫁いびりをする姑や、
嫁いびりを見て見ぬふりをし愛人を作っている田所などの方が、
ルミ子よりも最低なのですが、それでもルミ子の方がムカつくと感じるのはなぜか。

それは、ルミ子が現状を改善する努力をしていないせいだと思うんですよね。
ルミ子は終始、自分は可哀相な悲劇のヒロインだと泣いているだけなんです。

あんな嫌な義実家で同居なんて、どう考えても清佳の成長にとってはマイナスでしょう。
それくらいなら、離婚して清佳を引き取って育てた方がいいです。
例えば、ルミ子の母親が1人暮らしをしていた家は仁美に貸していたわけですが、
仁美を追い出し、そこでルミ子と清佳の2人で暮らせばいいんです。

持ち家があるのなら、自分と娘の生活費くらい、何とか稼げるでしょう。

それなのに、ルミ子は決してそうしようとはしない。思いつきもしない。
それはなぜか?

本編にははっきりとは書かれていないんですが、その理由は、
ルミ子がシングルマザーやその子どもを見下しているからだと思います。
例えば清佳は、シングルマザーの子どもと「仲良くしてあげて」おり、
そのことをルミ子に褒められて喜ぶというエピソードがあります。

作者の湊かなえさんは、しっかりと伏線を張るタイプの作家なので、
このエピソードが離婚しない理由の伏線なのだろうと思います。

母子家庭に偏見を持ってはいけないと娘を躾けながら、
実は誰よりもルミ子本人が偏見を持っている。
自分は他人からそんなふうに見られたくないと考えている。
だから、離婚の離の字も思いつかないのではないでしょうか。

他にもルミ子がムカつく理由があるとすれば、
娘が自殺未遂までしたというのに全然反省していないことが、
手記に書かれているという点ですね。

まあ、その手記を書いた後、夫に逃げられ、
何年も認知症の姑の介護をやらされたことについては同情しますが、
それだって介護をする義務なんてないでしょう。
実子である夫が逃げ出したんだから、
自分だって逃げ出せばよかったんです。

終章では、まるで連続ドラマの最終回のように、
急にみんな物分かりがよくなってハッピーエンドっぽい雰囲気に
なっていますが、何というか……嘘くさいです。

これだけ嫌な性格のキャラが揃っているのに、
お互いに許し合ってハッピーエンドになるわけないだろ、
と思ってしまうのは、しまうましたの心が狭いせいなのでしょうか……?
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No title

はじめまして。

先日、この本を読み終わりました。
なかなかわかりにくい構成だと思いました。
そこでご質問です。

最後の娘と、冒頭の「自宅4階から転落した死した高校生」との
関係はどうなのでしょうか?

なんだか頭が混乱しています。教えてください。

No title

ネタバレになってしまいますが・・・






結論から言うと、冒頭で報道されている県営住宅から「転落死」
をした女子高生と母(ルミ子)の娘である、「清佳」とは、まったくの
別人です。

(これが同一人物であるかのように錯誤させるのが、この小説の
肝であり、著者の一流の手腕なのですね)

清佳は「首吊り」自殺を図ったものの、一命を取りとめています。
そして高校教師となり、亨と結婚し、亨との間の子どもを身ごもって
います。

最終章でいきなりハッピーエンドとなるのが、かえって気味悪く、
最終章は、命の灯が消えようとする中で清佳が観ている幻想の
ようにも思えました。

そうなの?

ハッピーエンドじゃないです。
冒頭の記事の母親は後の清佳だと思います。
私の解釈ですが。

No title

上のコメントへ

>冒頭の記事の母親は後の清佳だと思います。
>私の解釈ですが。

清佳=教師がその記事を読んでいる描写があるので、その解釈だと時系列がおかしくなってしまいます
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