綾辻行人「Another アナザー エピソードS」のネタバレ解説

Another エピソード S (単行本)


シリーズ第2弾、「アナザー エピソードS」のネタバレ解説です。

1作目の「Another」のネタバレ満載なので、未読の方はご注意ください。

正直に言うと、この話はアニメ化・漫画化もされた1作目に比べると、
かなり見劣りしています。
が、メインヒロインである見崎鳴の出番はかなり多いので、
鳴のファンならキャラ萌え小説としては楽しめるのではないかと思います。

さて、あの「現象」が終わった1998年9月の下旬。
榊原恒一は鳴から、鳴が8月のクラス合宿の前に1週間ほど夜見山を離れていたときの
話を聞かせてもらうことになりました。

今回メインとなるのは、その1週間のエピソードです。

鳴の「父親」の知り合いの比良塚(ひらつか)一家が、
緋波町にある鳴の家の別荘からそう遠くない場所に住んでいます。
比良塚月穂(つきほ)には想(そう)という、鳴より3歳年下の息子がいます。
想は実の父親とは死別しており、月穂の再婚相手の男との間にできた子供、
つまり想にとっては異父妹、美礼(みれい)がいます。

……少しややこしいですね。

一昨年、1996年の夏休みに、鳴は賢木昇也(さかき・てるや)と出会いました。
賢木は比良塚月穂の弟にあたる人物です。

そして賢木は中学生のとき、夜見北の3年3組であり、
「八七年の惨事」の年の生徒でした。
賢木にとって中学3年生の5月に、修学旅行へ向かうバスが事故に遭い、
大勢の生徒が亡くなりました。
その際、賢木は左脚を怪我してしまいました。

さらに、6月の半ばには母親の日奈子も心不全で突然死してしまいます。

賢木は「災厄」から逃れるため、
緋波町の水無月湖のほとりにある屋敷に引っ越してきて、
それ以来ときどき旅に出たりはしたもののずっとこの屋敷に住んでいました。

鳴はそのときの話を、今年(1998年)の夏休みに賢木に聞こうと思っていたのですが、
今年の5月の初めに、既に賢木は亡くなってしまっていました。

そして鳴は今年の夏休みに賢木の「幽霊」と出会うのですが、
彼はまだ見つかっていない自分の死体を探していたのでした。

という導入部分があり、賢木の視点から見た話が始まります。
賢木は裕福な家庭に生まれ、20歳になる直前に父親が亡くなり、
近い親類が姉の月穂だけになったのをいいことに、大人になっても働かず、
毎日を静かに過ごしていました。

月穂の息子、つまり賢木にとっての甥である小学生の想は賢木のことを慕っており、
それなりに友好的な関係を築いていました。

ところが、5月3日、26歳の誕生日の午後8時半過ぎに、
賢木は吹き抜けのある自宅の玄関ホールで、転落死してしまいます。
そのとき家の中には、月穂や想もいました。

それから2週間後の5月17日、賢木は幽霊として「目覚め」ました。

幽霊として活動できる時間は限られているらしく、すぐに時間が飛んでしまいます。

5月27日には、月穂や想や美礼が住んでいる比良塚家の食卓に、賢木は「出」ました。
月穂は賢木が死んだことを知っているはずなのに、
なぜか賢木は旅行に出かけたみたいだと、美礼に嘘を吐いていました。

5月27日の朝刊の新聞には、夜見山北中学で桜木ゆかりが階段から転落し、
亡くなったという記事が載っていました。

それからも、賢木は自宅以外の場所に「出る」ようになったのですが、
やはり賢木は世間的には死んでいると認められていないらしく、
旅行に出かけたまま帰らないとみなされているようでした。

6月に入ってすぐには、月穂と、その夫の修司会話を聞くことができました。
その会話によると、やはり月穂が賢木の死を隠蔽したようでした。

それ以来、賢木は自分の遺体を捜すようになりました。

7月29日、水曜日。
賢木が水無月湖のほとりの屋敷に出たとき、鳴がやってきました。

そして鳴は、賢木に話しかけます。
賢木は鳴が自分を見えるということに驚きましたが、
自分は幽霊であり、死体が見つかっていないことを説明します。

自分の姿が見えるのは、
おそらく鳴の「人形の目」の力なのだろうと賢木は考えました。

その日以来、賢木は鳴と毎日のように会うようになりました。
8月1日には、賢木と鳴は、
昔鳴が描いた屋敷のスケッチと、現在の屋敷の様子を見比べてみました。
すると、建物の外に1メートルくらいの高さの天使の像を発見しました。
賢木が生きていたときにはなかったものです。

次に、ガレージの中を調べたのですが、棚が倒れてきて、
鳴が危うく下敷きになるところでした。
ここが夜見山の中だったら死んでいたかもしれませんでした。

――5月3日に賢木が死んだとき、
賢木は鏡の中の自分が何かを呟いていたのを目撃していました。
その言葉が何だったのかは思い出せないのですが、
「つきほ」に近い言葉だったのではないかと考えていました。
そのことについて賢木は鳴と話し合います。

屋敷の二階には鍵のかかった部屋がいくつかあり、その部屋を調べてみると、
「災厄」について書かれた新聞などを集めた部屋がありました。

鳴は帰っていき、翌8月2日。

再び屋敷に「出た」賢木は、自分が死んだときの状況を思い出します。
賢木は前々から死にたがっており、26歳の誕生日に、
天井の梁からロープを吊るして首吊り自殺をしようとしていました。
しかし、そこを月穂と想に見つかってしまいます。

月穂は想をその場から遠ざけ、必死に賢木の自殺を思い留まらせようとします。
が、月穂の手を振り払った賢木はその勢いで吹き抜けの上の手すりを乗り越えてしまい、
転落死してしまったのでした。

そして、8月2日の午後6時過ぎになっても、鳴は現れませんでした。
しかし、賢木は鳴の描いていたスケッチと、現在の屋敷の外側を比較してみて、
地下室の明り採りの窓の数が減っていることに気付きました。

屋敷の地下に封印された部屋がることに気付いた賢木は、そこへ行き、
とうとう腐った遺体を発見しました。

賢木が何度も『助けて』と言っていると、鳴がツルハシで地下室の壁をぶち破り、
助けに来てくれました。

……賢木は幽霊のはずなのに、鳴が助けに来た?
と疑問に思った人もいるのではないでしょうか。

実は、賢木は賢木晃也ではなく、比良塚想だったのです。
これまでずっと話を合わせていた鳴は、そのことを『賢木』改め『想』に説明します。

このあらすじではずっと『賢木』と書いていましたが、
幽霊の賢木が登場する場面は、小説本編では『僕』と書かれていました。

ただ、あらすじで『僕』と書いてしまうと本当は賢木ではないことが
バレバレになってしまうので、仕方なく『賢木』と書いていましたが。

さて、まだ11歳か12歳の想少年は、3ヶ月前に賢木の死を目撃したのをきっかけに、
自分は賢木の幽霊だと思い込むようになってしまったのでした。

月穂の夫が選挙を控えていることから、賢木の死を公にするのはまずいと判断し、
月穂たちは賢木の死を隠蔽することにしました。
想には忘れなさいと言い聞かせていたのですが、想は納得できず、
幽霊を作り上げてしまったのです。

賢木の死体を再発見した場所は元々はストーブ室だった場所で、
想は石炭を落とすための穴から落ちたため、自力では脱出が困難になってしまっており、
鳴に助け出されなかったらヤバいことになっていたかもしれませんでした。

榊原にその話を語った鳴は、賢木の部屋にあった写真を榊原に見せます。
おそらくその写真にはかつて『死者』が写っており、
その『死者』こそが賢木の初恋の相手だったのでしょう。

賢木が死の間際に呟いたのは、その年の『死者』である四宮沙津季(しのみや・さつき)の
『さつき』の『つき』の部分だったのだろう、と鳴は推測しました。

その後、鳴は想から届いたという手紙を榊原に見せるのですが、
そこの住所には『赤沢』という名前が記載されていました。

想は赤沢という家でお世話になっているのですが、
それが、あの赤沢泉美の家なのかどうかはまだ不明です。

でも、アニメや漫画の『Another』では出番も台詞も多く大活躍だった赤沢泉美ですが、
原作では空気だったので、小説しか読んでいない人にはさほど意外性はありませんね……。


というあらすじなのですが……。

このラストの「引き」は、
Anotherシリーズしか読んでない人ならワクワクする展開なのかもしれませんが、
しまうましたのように綾辻作品を全部読んでいる人なら、
「どうせまた風呂敷を広げるだけ広げておいて、畳めないんだろうなあ」
とか、
「館シリーズの二の舞にならなきゃいいけどなあ」
と心配してしまいます……。

森絵都「異国のおじさんを伴う」第10話「異国のおじさんを伴う」のネタバレ解説

作家の「私」はある日、民芸品展でオーストリアの「ひげ人形」を買いました。
そして、そのひげ人形をモチーフにした「ビアード・マン」という本を書き、
それがアニメ映画化までされるヒット作となりました。

すると、オーストリアの「ひげ人形愛好会」なる団体から、
「私」をひげ人形愛好会の集いに招待したいというメールが来ました。

担当編集者には反対されたのに、「私」は1人でオーストリアに行き、
ひげ人形愛好会の集いの会場を探しました。

すると、思っていたよりも小規模な集いで、
大きな会場の別の集まりに迷い込んでしまい、
その度に心がくじけそうになりました。

しかし、それでも何とかひげ人形愛好会の集いの会場に辿り着きました。

10人弱の老婆たちが一斉に、「私」の作品を褒めちぎります。
どうやらオーストリアでもひげ人形はあまりメジャーな存在ではなく、
知名度は低いようでした。

その後、老婆たちの手作りのひげ人形のコンテストが始まり、
全長2メートルはある特大のひげ人形が優勝しました。
そして、その特大ひげ人形は「私」にプレゼントされることになりました。

ホテルへ戻ってから、もらえるはずだった航空券代と宿泊費を
もらわずじまいで終わったことに気付きます。

特大ひげ人形が入るスーツケースを探しましたが、
そんなものは売っていないと言われます。

空港へ向かう途中、
特大ひげ人形を抱えた日本人の「私」は悪目立ちしていました。
空港でも、ひげ人形を荷物として預けることはできず、
ミュンヘン行の飛行機では隣の座席に座らせることになりました。

そしてミュンヘンの空港に着くと、「預けていたスーツケースは流れてきませんでした。

スーツケースを探してもらう手続きをしている間に、
『私』は何だかどうでもよくなり、
特大ひげ人形と新たな旅に出かけるのでした。


というあらすじなんですけど、何が何だかよく分からない話ですね。
でも、遠い外国でスーツケースを失い、
特大ひげ人形を抱えて歩いている「私」の姿を想像すると、
可哀想なんだけど笑えてしまいます。

これは何も考えずに読むと、日常を忘れることができる話だったと思います。

森絵都「異国のおじさんを伴う」第9話「母の北上」のネタバレ解説

主人公の「僕」は結婚していたこともあり、
2年前に父親が亡くなってからというもの、
あまり実家に寄りつかない生活を送っていました。
そしてたまに実家に帰省すると、
母親の生活拠点が北へ北へと移動していることに気付きます。

陽当たりも居心地も良いリビング・ダイニングが母の定位置だったのに、
父が死んでからはその北にある洋間を定位置にし、
とうとう今年の正月には家の北端にある、
かつては物置代わりだった狭い和室まで移動していました。

「僕」がリビングへ移動しようとすると、母に止められ、
入れてくれません。

しばらく外出していた「僕」は、ある仮説を思いつき、再び実家に戻りました。

その仮説というのは、「リビングやダイニングには
父親との思い出の品が溢れ返っており、
それを見るのが辛いから逃げているのではないか、というものでした。
解決策として、新しい趣味を見つけて新しい思い出を作ってみろ、
という意味のことを『僕』は言ったのですが、それは的外れな物でした。

『僕』が母親に連れて家電ショップへ行くと、
母親はそこで蛍光灯や電球をいくつも買いました。

そうです。
実は、実家の天井が高いせいで電球が切れても交換できず、
それで母親はまだ電球が点く部屋へ移動していたのでした。
普段使わない部屋ほど、電球が切れるのは遅くなりますからね。

それを息子の『僕』に秘密にしていたのは、自立できていないみたいで、
言えなかったのだそうです。

ちなみに、母親には友達以上恋人未満のケンさんという人がいて、
『僕』は惚気話を聞かされることになったのでした。


というあらすじなのですが、これはジャンル分けするとすれば、
ミステリーの「日常の謎」というジャンルになりますね。
推理作家のノンシリーズ短編集の中に紛れ込んでいても違和感がないくらいです。

森絵都「異国のおじさんを伴う」第8話「桂川里香子、危機一髪」のネタバレ解説

この話は桂川里香子という女性の物語です。

「私」は上司の代わりに東京から京都まで、
桂川里香子という女と新幹線に同乗することになりました。

この桂川里香子はとにかく趣味に生きている女で、
様々な肩書を持つ人物です。
そんな桂川里香子には新幹線に思い出があり、
そのため東京から出発する新幹線に乗った際にはお酒を飲まないと
やっていられないのだそうです。

「私」が興味本位でその理由を尋ねると、里香子は教えてくれました。

名古屋の地方豪族の家系に生まれた里香子は自由な恋愛と趣味に生きていたのですが、
30歳を過ぎた頃に、5歳年下のエジプト人の美青年、アリと出会い、恋に落ちました。

里香子はアリと結婚したいと考えますが、
何しろ旧家なので外国人との結婚をすんなりと許してもらえるとは思えません。

そこで、騙し打ちのような形でアリを実家に連れて行こうと、
里香子はアリと冬の新幹線に乗ることにしました。

ところが、「ホームで指定席の乗り場に並んでいる人たちを見て、
アリは彼らを馬鹿にします。
里香子がとりなしてもアリは彼らのことを馬鹿にし続け、
新幹線が到着したからと乗り込もうとした里香子のことも引き止めます。

アリは意地になっちゃったんでしょうね。
おそらく、これから大金持ちの里香子の実家に行くにあたり、
主導権を握ろうと亭主関白を気取ってみたんでしょうが、
その行為に里香子はブチ切れ、新幹線の発車直前に乗り込もうとしたアリを蹴飛ばし、
ホームに置き去りにしたのでした。


というあらすじなのですが、この話はとにかく、
桂川里香子という女を描写することにだけ命を懸けている感じですね。
実際、最初に登場する「私」は、
ただ里香子から新幹線にまつわるエピソードを引き出すための猿回しに過ぎません。

しかし、それでもちゃんと起承転結と痛快なオチがついているのは流石だなあと思います。

西尾維新「サイコロジカル(上) 兎吊木垓輔の戯言殺し」のネタバレ解説

サイコロジカル 上 (講談社文庫 に 32-4 西尾維新文庫)


戯言遣いシリーズ第4巻です。

今回は玖渚友がメインの話です。
1巻のクビキリサイクルではメインキャラだった玖渚ですが、
クビシメロマンチストクビツリハイスクールでは空気と化していました。
そんな彼女にようやくスポットが当たります。

元々、機械工学において非凡な才能の持ち主で、
なおかつ日本有数の大金持ち、玖渚機関の直系だった玖渚は、
よくも悪くも無菌の温室育ちだったのですが、
13歳のいーちゃんと出会い、いーちゃんに惚れてしまいます。

いーちゃんも半年ほどは玖渚と友好的な関係を築くことができていたのですが、
(玖渚機関の策略により?)いーちゃんの妹の飛行機事故をきっかけにして、
その関係は破綻してしまいます。

そしていーちゃんは玖渚を「壊して」しまい、
単身で渡米しERプログラムという研究機関に入りました。

が、そこで想影真心(おもかげまごころ)という少女と何かがあり、
ERプログラムを中退して5年ぶりに日本に戻ってきて、
京都の大学に入り直したのでした。

第1巻のクビキリサイクルはその後の時系列の話となります。

一方、いーちゃんが渡米している間、玖渚は「チーム」というハッカー集団を作り、
インターネットの世界で暗躍というか破壊活動を繰り返していました。
「チーム」は全員に中二病っぽい二つ名がある9人で構成されていたのですが、
そのリーダーが玖渚だったわけです。
また、「チーム」の呼び方はメンバーによって異なっており、
「チーム」のことを「チーム」と呼んでいたのは玖渚だけでした。

……何を言っているのかよく分からないと思いますが、
最終巻まで読んでもこの辺の詳細は詳しくは語られていません。
シリーズを通して読むといくつかの断片が挿入されているので、
あとは脳内補完するしかありません。

「チーム」には兎吊木垓輔(うつりぎ・がいすけ)というメンバーがいました。

兎吊木垓輔には「害悪細菌(グリーングリーングリーン)」という二つ名があり、
その「細菌」からとって、玖渚は兎吊木のことを「さっちゃん」と呼んでいました。
ちなみに、兎吊木は「チーム」のことを「一群(クラスタ)」と呼んでいます。

ここまでが前提です。
最近になって玖渚は、
兎吊木が「堕落三昧(マッドデモン)」こと斜道卿一郎(しゃどうきょういちろう)という、
マッドサイエンティストの老人の研究機関に軟禁されているのではないかという情報を掴みました。

そこで、玖渚は兎吊木を助け出すために、いーちゃんと、
いーちゃんの隣人の浅野みいこの友人の鈴無音々(すずなし・ねおん)の3人で、
愛知県にある斜道の研究機関に乗り込むことになりました。

ちなみに、鈴無は身長189センチの、一見外国人のような風貌の25歳の女性で、
比叡山延暦寺でアルバイトをしているという濃いキャラです。

鈴無は物語が始まった時点で既にいーちゃんや玖渚と旧知の仲であり、
今回もあの頼れる仲間が一緒だぜ!
という雰囲気を出しているのですが、このサイコロジカルが初出のキャラです。
読者的には、お前誰やねん、という感じです。

いーちゃんと玖渚と鈴無を乗せた車は、人気のない山奥の道路を延々と走ります。
すると、2人の警備員に車を止められ、入所者名簿に名前を書かされました。

いーちゃんはその警備員から、一昨日侵入者騒ぎがあったという話を聞きます。
侵入者は零崎愛識(ぜろさき・いとしき)と名乗ったのだそうです。

それからさらにしばらく走り、ようやくサイコロのような建物がいくつも並んだ、
研究施設に到着しました。

16歳の大垣志人(おおがき・しと)という、生意気そうな喋り方をする少年が現れ、
まずは斜道のところまで案内してくれることになりました。

志人は、窓がないサイコロのような形の建物の1つの玄関へ行き、
カードキーをカードリーダに通し、数字キーに十数桁の番号を打ち込み、
さらに「大垣志人だ。IDはikwe9f2ma444」と言うと、
音声と網膜が認証されてようやく自動ドアが開きました。

厳重なセキュリティで、建物から出る時にもこの面倒な作業が必要なため、
いーちゃんや鈴無は付添いなしに建物に出入りするのは非常に困難です。

そして、ようやくいーちゃんたちは斜道と会うことができました。
斜道の傍には、斜道の秘書である宇瀬美幸(うぜ・みさち)という女性もいます。

実は斜道の研究施設のパトロンは玖渚機関だったのです。
既に絶縁されているとはいえ、玖渚も一応は玖渚機関の直系ですから、
玖渚はそれを理由に圧力をかけて、こうやって堂々と斜道と会うことができました。
しかし、もちろん、斜道にしてみれば面白いはずがありません。

いーちゃんは席を外すようにと斜道に言われ、
いーちゃんは部屋の外で待ちぼうけを食わされることになりました。

するとそこへ、肥満体の男性研究員、根尾古新(ねお・ふるあら)と、
異様なほど髪が長くて濃い髭を生やしている男性研究員、
神足雛善(こうたり・ひなよし)が現れ、いーちゃんに話しかけてきました。

神足は兎吊木のことを「変態だ」と断言しました。
何でも、兎吊木は第七棟から一歩も出てこないのだそうです。

しばらくして玖渚と鈴無と志人がやってきました。

次は兎吊木のいる第七棟へ案内してもらいます。
兎吊木はエレベーターを自力で解体してしまっていたので、
歩いて4階まで上がります。

オレンジ色のサングラスをかけた長身の男、兎吊木と再会した玖渚は、
「私」という一人称を使って兎吊木と会話をしました。
玖渚はこれまでずっと「僕様ちゃん」というあり得ない一人称を使っていたのですが、
ここにきて「私」です。
おいおい、普通の喋り方もできるのかよ、という感じです。

しばらく玖渚と兎吊木が2人きりで会話をしましたが、
兎吊木は自分の意志でここにいるのだと主張したのだそうです。
その後、いーちゃんは兎吊木に呼び出されて、2人きりで会話をすることになりました。

すると兎吊木は玖渚のことについて長々と話します。
玖渚の異常性、そしていーちゃんの異常性について。
そして最後に兎吊木は、
「きみは玖渚友のことが本当は嫌いなんじゃないのかな?」
と、尋ねました。
それからさらに畳み掛けるように、色んな比喩を使って、
同じ意味のことをいーちゃんに問いかけるのですが、いーちゃんは答えられませんでした。

兎吊木の部屋を出た後、斜道と再び話をします。

昔、斜道が30年かけた研究を、当時12歳の玖渚が、
「こいつは実にすごい研究だね。こんなの、真面目にやらなきゃ三時間はかかっちゃうよ」
と言ったのだそうです。
そしてさらに追い打ちをかけるように、玖渚の兄の玖渚直が自分の家柄をひけらかし、
斜道の研究を馬鹿にしました。

しかしそんな過去があっても、斜道はパトロンである玖渚機関に頼るしかなく、
鬱屈とした思いを抱えていたのでした。

玖渚はどうしても兎吊木をここから連れ出すという意味のことを言い、
斜道は絶対に兎吊木を渡さないという意味のことを言い、
交渉は翌日に持ち越されることになりました。

別行動をしていた鈴無が、
三好心視(みよし・ここみ)という女性研究員と意気投合していたようだ、
ということを斜道の秘書の宇瀬美幸に教えてもらい、その場所へ行きます。

すると、関西弁の三好心視を中心にして、鈴無、根尾、神足たちが
いーちゃんのERプログラム時代の話題で盛り上がっていました。
三好心視はかつて、ERプログラムでいーちゃんの担任をしていた人物だったのです。
いーちゃんの先生だけあって、かなり癖の強い性格です。

その夜。宿泊施設に案内してもらったいーちゃんと玖渚と鈴無は作戦会議を開きます。
鈴無は、兎吊木本人が自分の意志でここにいる以上、
余計な口出しをするべきじゃないと言います。
が、兎吊木は何かを隠している――斜道は兎吊木を脅迫し、
兎吊木本体を試験体とした特異性人間構造研究(ウルトラヒューマノイドドグマ)を
しているのではないか、と玖渚は推測しました。

要するに、非常に大雑把な言い方をすると、
斜道の研究内容というのは、天才である兎吊木の脳みそを調べて、
それをコピーして量産できないか、という研究みたいですね。

その後、眠れなかったいーちゃんは1人で夜の散歩に出かけます。
するとそこで、リードをつけていない巨大な黒い犬に地面に押し倒され、顔を舐められました。

春日井春日(かすがい・かすが)という女性研究員が実験動物として飼っている犬でした。
春日井はいーちゃんの頬を舐め、一緒に研究棟の寝室へ行こうといーちゃんを誘惑しますが、
いーちゃんは断ります。

その後、いーちゃんは、零崎愛識と名乗ってこの研究施設に入り込んだ、
石丸小唄(いしまる・こうた)という泥棒と出会います。
石丸は長身で眼鏡をかけて三つ編みで、「十全ですわ」というのが口癖の泥棒です。

はい、これで登場人物は全員揃いました。

兎吊木を助けに来たのがいーちゃん、玖渚友、鈴無音々の3人。

研究施設のメンバーが、斜道卿一郎、大垣志人、宇瀬美幸、神足雛善、
根尾古新、三好心視、春日井春日、兎吊木垓輔の8人。

そして、零崎愛識と名乗って施設に侵入したのが石丸小唄。

この話の主要キャラは合計12人です。

ここで少し話が飛んで、翌朝。
いーちゃんはこの研究施設に来る前に
哀川潤から胸部のホルスターに収納できるナイフをもらっていましたが、
何となくホルスターの位置を左胸に来るように変えました。

いーちゃんが玖渚を起こし、鈴無の部屋へ行くと、そこには鈴無以外に、
根尾と神足がいました。

しかし神足は、前日に兎吊木から「神足さんの長髪は眼が悪くなってしまうからな。
きみの方から注意してやってくれ」という伝言を頼まれていたいーちゃんが、
「髪、切った方がいいですよ」と注意したところ、
本当に切ってしまっていました。
それも、普通の髪型ではなく、長髪をばっさりと切りスキンヘッドにして
髭を剃りサングラスをかけているというイメチェンっぷりです。

ところで、根尾と神足が鈴無の部屋に来ていた理由というのは、
兎吊木が殺されたことを知らせるためでした。

実際に第7号棟へ行って死体を確認したところ、
両眼にはハサミの刃が刺さり身体じゅうを切り刻まれ両腕は持ち去られている
という凄惨な死体がありました。
壁には『You just watch,『DEAD BLUE』!!』という血文字があります。

死線の蒼(デッドブルー)というのが玖渚の二つ名なので、
この血文字は『余計なことをするな、玖渚友』という意味です。

そしてこの話は「サイコロジカル(下) 曳かれ者の小唄」に続きます。

蘇部健一「赤い糸」第3話「出逢わなかったふたり」のネタバレ解説

今回は、もしも運命の2人が出会わなかったらどうなるか、
というテーマの話です。
出版社に勤める女性編集者の小梅(こうめ)は、
まだ他の出版社が目をつけていない才能の持ち主を探すために、
同人誌に掲載された小説を読み漁っていました。

そして、ついにW大学の同人誌に載っていた、
池田良雄という作者の「キューピッドの失敗」という作品に目をつけました。
ところが、池田良雄は既にW大学をやめてしまっており、
連絡先を知るのも困難な状態でした。

そこへ、小梅の母親が病気になり、
しばらく看病のために実家に帰らなければならなくなりました。
さらにショックなことに、
小梅は上司の命令で編集部から営業へ転属させられることになりました。

翌朝、高熱を出した小梅は会社を休むことにし、病院へ行きました。
内科へ行くには、床の赤いラインを辿って行けばいいと言われ、その通りにします。

今回の「赤い糸」は、この床の赤いラインです。
この本は「赤い糸」がテーマの連作短編集ですが、
やっぱり3作目ともなると大分苦しくなってきていますねw

その頃、池田良雄も病院に来ていて、反対側から赤いラインを辿っていました。
そのまま小梅が歩いていれば池田良雄とぶつかるはずだったのですが、
小梅が迷子犬の写真に目を止めて立ち止まってしまったせいで、
結局2人は出会わないまま終わってしまいます。

何じゃそりゃ、という感じの話ですけど、
一応、最終話ではこの話の伏線が回収されます。

蘇部健一「赤い糸」第2話「運命の人、綾瀬幸太郎」のネタバレ解説

11歳の果穂には、会社の社長をしている父親、静男がいます。
静男は「顧問占い師」である椿鞠絵という女性に、
会社の経営について占ってもらい、アドバイスをもらっていました。

それを聞いた果穂は、椿鞠絵に、
自分の運命の相手について占ってもらうことにしました。

占いに必要な果穂の情報については、
静男が事前に椿鞠絵に渡しておいてくれました。
本当は静男と2人で行く予定だったのですが、
静男に急に仕事が入ったということで、
果穂は1人で吉祥寺にある椿鞠絵の邸宅へ行きました。

すると椿鞠絵は、2通の封筒を果穂に渡します。
1通は家に帰ってからすぐに開け、
もう1通は20歳の誕生日に開けるようにと言われました。

また、帰り際に、家族旅行の行き先を変えた方がいいと言われます。

家に帰って、最初に渡された方の封筒を開けると、
そこには「綾瀬孝太郎」と書かれていました。

家族旅行の行き先の途中の高速道路で大きな事故があったことを知った果穂は、
椿鞠絵のことをすっかり信じてしまい、
言われたとおりにもう1通の封筒は20歳の誕生日になるまで開けないことにしました。

そして――9年後。
20歳になった果穂が封筒を開けると、
美術館か図書館のような建物の絵が描かれていました。

その数日後、母親に頼まれたケーキを買いに行く途中で、果穂はその建物を見つけます。
そこは美術館で、「フィギュア・ジオラマ展」を開催していました。

美術館の中を見て回ると、「『運命』綾瀬孝太郎」というタイトルの作品がありました。
パンダのTシャツを着た青年が、森の中で赤い糸を辿っているという構図でした。

果穂が美沙子という親友に相談すると、
美沙子はそのジオラマの作者である綾瀬孝太郎についてネットで調べてくれました。
綾瀬孝太郎は毎週土曜日の午後、秋葉原で開かれている模型教室に通っているのだそうです。

果穂には野島という彼氏がいたのですが、
綾瀬幸太郎と会うのに彼氏持ちの状態でいるわけにはいかないと、
野島に別れを告げてしまいます。

そして、問題の模型教室へ向かう途中、
果穂は「椿鞠絵が詐欺の容疑で逮捕されたことを知りました。

ショックを受けた果穂は、模型教室には行かずに家に帰りました。

静男によると、椿鞠絵は本物の能力を持った占い師だったのですが、
70歳になった数年前を境に能力を失ってしまったのだそうです。
椿鞠絵は顧客にそのことをちゃんと説明し、静男は既に手を引いていました。
しかし中には、それでも椿鞠絵の占いにすがりたがる者がいて、
その人達が損をした結果、今回詐欺の容疑で逮捕されてしまったのだそうです。

その話を聞いた果穂は、思い切って、綾瀬孝太郎とは誰なのかと尋ねました。
静男と果穂の母親がグルになって綾瀬孝太郎と会わせようとしたのだろうと問い詰めます。

すると静男は、綾瀬孝太郎というのは果穂と1日違いで生まれた男の子のだと説明しました。
果穂の一家と、綾瀬孝太郎の一家は、かつては家族ぐるみの付き合いをしていました。
しかし静男と同じく椿鞠絵の顧客だった綾瀬孝太郎はの父親は、
京都へ行けば成功するという占いの結果を受けて京都へ行き、
家族ぐるみの付き合いは終わりました。

しかし果穂と幸太郎の両親は2人を結婚させたがっており、
椿鞠絵にそのように占ってもらっていたのです。
20歳になってから開ける方の封筒は、少し前に中身をすり替えていたのでした。
そして美術館でジオラマ展を開き、母親の誘導で果穂にそこへ行かせたのでした。

しかし、孝太郎の父親は、能力を失った椿鞠絵とまだ付き合いを続けており、
そのせいで幸太郎の父親の会社は倒産してしまったのだそうです。
『いずれ、この埋め合わせはさせてもらうつもりだ。
おまえに最高の花婿を見つけてやるという形でな』
と静男は言いましたが、
『おとうさんなんて、大っきらいッ!』
と果穂は静男にバッグを投げつけました。

……そりゃあショックですよね。
というか、最っっ低の父親ですね。
しまうましたは、読んでいて静男に殺意が湧きました。
この本のジャンルがミステリーだったら、
これを理由に果穂が静男を殺していてもおかしくないと思います。

しかし、諦めきれなかった果穂は、それでも次の土曜日に模型教室へ行きました。

すると、そこにいたのは、体重120キロくらいの、
パンダのTシャツを着た太った男でした。
それを見た果穂は、『ごめんなさい、まちがえました』とつぶやき、逃げ出したのでした。


というあらすじなのですが……1話に続いて、2話も酷い(褒めています)オチですね。
それでも。
それでも、最終話までは読んでほしいです。

蘇部健一「赤い糸」第1話「赤い糸を辿って」のネタバレ解説

赤い糸 (徳間文庫)


中学2年生の女子の主人公は、修学旅行の宿泊先のホテルで寝ていたところ、
左手の小指が引っ張られたような気がして目を醒ましました。

すると、左手の小指に赤い糸が結び付けられており、
その糸は部屋の外へ続いていました。
主人公は隣の布団で寝ていた親友の樹里を起こし、相談します。

すると、樹里は赤い糸は男子の誰かと繋がっているのではないかと考え、
赤い糸を辿ってみることにしました。

赤い糸は屋上へ続いており、隣の建物の屋上のドアに続いていました。
樹里は安全を期して連絡通路を通って隣の屋上へ行き、
主人公は屋上の手摺りに乗り、1メートルほど離れた屋上へ移りました。

赤い糸は「楓の間」に続いていました。
「楓の間」は、修学旅行に来ている男子校の中学生たちが泊まっている部屋です。
赤い糸は、可愛い顔をした男の子の「腹巻きに繋がっていました。
赤い腹巻きの糸がほつれていて、それが主人公の左手の小指と繋がっていたのです。

すると目を醒ましたその男の子は泣き出してしまいました。
その腹巻きは、亡くなった男の子の母親が最後に編んでくれた形見だったのです。

それを知らず、土門という男子生徒が腹巻きの糸を解いた主人公と結び付けていたのでした。

居たたまれなくなった主人公は、自分が悪いわけでもないのに『ごめんなさい……』と呟き、
逃げ出したのでした。


というあらすじなのですが、「いい意味で酷いオチの話ですね。
オチの直前までは素敵な恋愛が始まりそうな雰囲気だったのに、
最後の最後にこれですからね。

蘇部健一さんはこういう作風の作家さんなのですが、それを知らず、
タイトルと表紙に騙されて恋愛小説だと思って購入してしまった人は
困惑したのではないでしょうか。

しばらくこんな話が続きますけど、
最終話まで読めば『素敵な恋愛小説を読めた!』という
読後感になるのではないかと思うので、最終話まで頑張って読んでみてください。


(赤い糸 1話 2話 3話 4話 5話

時雨沢恵一「キノの旅」17巻「あとがき」のネタバレ解説

さて、今回のあとがきは、本編の第1話が始まる前にあります。
その理由は、新聞に掲載された話が含まれている、
ということを説明するためです。

ちなみに新聞連載されたのは、
1話「旅人たちの話
2話「自然破壊の国
3話「時計の国
4話「左利きの国
5話「割れた国
6話「貧乏旅行の国
9話「料理の国
10話「広告の国
11話「鉄道の国
12話「旅の終わり
です。
こうやって並べてみると、新聞連載を意識したのか、
比較的万人向けの話が多く、メインキャラをキノとエルメスに絞っていますね。

また、
「カバーの裏に別の“あとがき”とかはありませんよ?
ないですから!」
と、「押すなよ、絶対に押すなよ!」という振りがあったので捲ってみると……

「キノの旅」のタイトルが
自分以外の旅人が犠牲になった事件からモトラドで逃げ出して、森の中の一軒家、
“師匠”という正体不明の老婆に助けられて何年かしばらく二人で暮らし、
最後にはモトラドのエルメスでこの世界を巡る旅に出た『大人の国』の若者キノの生涯と
不思議で驚きに満ちた旅についての記述

に変更されたカバー表紙があります。
何というネタバレ……。

これは数年前からラノベ界で流行っている長文タイトルに挑戦するタイトルですね。

ちなみに、そんな時雨沢さんの新作のタイトルは、
「男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。―Time to Play―」
です。

これまた長いですね。早く略称を定着させてほしいです。
というか、長文タイトルっていつも思うんですけど、
どうせ略称でしか呼ばれなくなるんだから最初から略称をタイトルにすればいいのに

……この新作「生首play」あるいは「男優絞め」は、
2013年現在、「ニコニコ連載小説」で連載中です。

その連載小説へのリンクはこちらです(近い将来リンク切れになる可能性があります。悪しからず)。

時雨沢恵一「キノの旅」17巻プロローグ&エピローグ「渡す国」のネタバレ解説

シズと陸とティーは、フォトとソウが住んでいる国にやってきました。

15巻4話「フォトの日々」のネタバレ解説で、
ちらりと「シズたち一行がこの国を訪れたら~」と書いたのですが、
それが実現しましたね。
まあ、誰でも予想できることなので、自慢にはなりませんが。

入国したばかりのシズたちは、フォトとソウに出会い、
移民に関しての情報を聞いた後、写真を撮ってもらいます。

シズたちはこの国を気に入り、移民したいと考えたのですが、
今年から法律が変わり、半年間のテスト期間が設けられることになり、
期日までに仕事と住処を見つけてしっかりと働き、
違法行為を働かなければテストに合格できるのだそうです。

法律が変わったのはおそらく、それまで簡単に移民できたため、
質の悪い移民が問題を起こしてしまったからなのでしょうね。

図書館でしっかりと情報収集をした後、
理想が高すぎるシズも満足し、移民の申請をします。
首都から半日ほど離れた場所にある、人手不足で悩んでいる村で、
農業の仕事をして暮らすことにしました。

村では歓迎され、家を借りることもできました。
過酷な農作業ですが、シズは満足そうでした。

村に住み始めてから7日目、シズはティーに、
バギーを売却しようかと相談します。
するとティーは「だめ! ぜったいにだめ!」と強い拒絶をしました。

そして恐ろしいほど順調に毎日が過ぎていたのですが、
村に来て20日目に、とうとう事件が起こります。

この村に産業廃棄物の処分場を作ろうとしている業者がいたのですが、
その業者は何百キロも離れた場所にある役場に処分場の申請をしたのです。
処分場に異議がある場合は申し出ないといけないのですが、
そんな遠く離れた場所にある役場に掲示されていても気付くはずがありません。

明らかに意義がありそうな話なんだから、電話くらいしろよ、
と思いますが、それをしないからこそのお役所仕事なんでしょうね。

しかし、異議提出1日前、つまり今日になってから、
日付を勘違いした村役場から連絡があり、初めて発覚したのです。
明日の朝八時、役場の始業前までに異議を提出しなければ、
この平和な村に処理場ができてしまいます。

村人たちが所有している普通のトラックでは最高時速でも間に合わないので、
シズがバギーを飛ばしてその村役場まで行くことにしました。
この国がとてつもなく広い、というのを上手く利用したストーリーですね。

シズはティーと陸と書類を車に載せ、夜10時に村を出発しました。
間の悪いことに雨が降り始めますが、しばらくは順調に進んでいました。

ところが、道を塞ぐように大きなトラックが2台も停められていて、
しかも燃え落ちていました。
これは産業廃棄物の業者がシズを足止めするためにやったことでした。

村役場へ向かう唯一のルートを塞がれた、と諦めかけたシズでしたが、
ティーは未舗装の林道を抜けるルートがあると教えてくれました。

ティーはこの国に着いてからずっと地図を眺めて過ごしており、
暗記していたのでした。
『船の国』でも立体に入り組んだ国の中を迷わず歩いていた、
ティーの驚異的な記憶力の成せる技でした。

ティーのナビのおかげで、3時間ほどかけて林道を抜けることができました。

しかし、かなりのタイムロスだったため、シズはスピードを出していたのですが、
取り締まりをしていたパトカーに見つかってしまいます。

もう残り時間が少ない上に、
移民が認められる条件には犯罪を犯さないこと、というものがあります。

……そしてシズは、パトカーを振り切って村役場へ向かうことにしました。
麦畑の中を突っ切り、4台のパトカーを引き連れながら、
シズは村役場に到着しました。

そして――シズたちの国外追放処分が決まり、
この国に着いてからちょうど30日後に、シズ達はこの国を出ることになりました。

すると出国間際に、フォトがやってきて、
入国時に撮ってくれた写真をシズに渡しました。
フォトがシズの出国を知ったのは、
おそらくバギーでパトカーとカーチェイスをしたというニュースが
ラジオで流れていたからでしょう。

そして走り去るバギーをフォトが撮影したところで、今回の話は終わります。


タイトルの「渡す国」は、異議申し立ての書類を渡す国、と、写真を渡す国、
という2つの意味があるのではないかと思います。

というあらすじなのですが、「今回もシズの移民は失敗してしまいましたね。
処分場の悪徳業者が何のお咎めも受けないのに、
シズが国外追放されてしまうという不条理なエピソードでした。

この国でも無理だとなると、もうシズは一生定住できない気がしてきました……。

作者死亡により未完、とかにならない限りは、
時雨沢さんはちゃんとこのシリーズを完結させてくれると信じていますが、
いったいシズたちに関してはどんなオチを用意しているんでしょうね。

ちょっと考えてみたのですが、
①1巻4話「コロシアム」の国に戻り、あの国を一から建て直す。
②シズとティーと陸と、その他移民希望者で、全く新しい国を作る。
あたりが有望かなあ、と思いました。
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