西澤保彦「悪魔を憐れむ」4話「死は天秤にかけられて」のネタバレ解説

1994年、8月某日、午後7時。
タックとボアン先輩は、〈とがり〉という居酒屋に来ていました。

大学卒業と就職活動に本腰を入れていたボアン先輩が、伯母のコネで、
3話にも名前が登場した〈丘陽女子学園〉に国語教師として就職が決まり、
久しぶりに飲みにきていたのでした。

タックがトイレから出た途端、
おい、おまえ、ふざけんなよ、いい加減にしろ、
だいたい、おまえ、自分で勝手に転んでおいて……、
と30前後の男が電話で話していました。

タックに気づいた男の口調が一変し、丁寧な口調で、
来月には必ず何かすることを約束していました。

店の主人によると、その男は梅景(うめかげ)という名前で、
〈海聖学園〉の先生だったけど、この3月に辞めたのだそうです。

ちなみに、ウサコが平塚と結婚したことは、ボアン先輩はまだ知らなくて、
このときもタックは言いそびれてしまいました。

ボアン先輩が大学に入学したときの同期生、ノッシーこと熨斗谷(のしたに)が、
女子校の先生になった件について、ボアン先輩は話します。

ノッシーは女子生徒にもてていて、受験生限定で、個人的に問題集の答案の添削をしていました。
添削用に預かったノートのやりとりをしているうちに、交換日記みたいな様相を呈してきて、
他の生徒たちの耳にも入ってしまい、添削希望者が殺到し、限界が近づいたノッシーは、
十何人目のユミちゃん(仮名)の添削は引き受けられないと断り、
別の英語の先生に頼みました。

屈辱だと感じたユミちゃんは、ノッシーに迫り、ぐいぐい押しまくり、
そういう関係になって教師を辞めざるを得なくなりました。

ノッシーはユミちゃんの卒業を待って、結婚しようとしましたが、
ユミちゃんのほうはあっさりとノッシーから離れていったのだそうです。

ユミちゃんは熨斗谷さんのことが好きだったわけじゃありません、
そのときの生徒たちの時流に乗り遅れまいと、熨斗谷さんの添削を希望した、
それだけの話だったんです、とタックは言いました。

ノッシーから断られて頭にきたユミちゃんは、
自分は決して他の娘たちと比べて劣っているわけではない、と他の娘たちに証明するために、
ノッシーに迫ったのだとタックは推理しました。

その後、タカチの話になり、タックは、憶い出しました、と言い、
今年の1月2日に、タカチが泊まった〈ホテル・ニュー・アカツキ〉に行ったときの話をします。

タカチの乗るはずだったフライトが欠航になり、午後5時から午前0時過ぎまで、
タックはロビーで待つことになりました。

そのあいだに、タックは梅景を目撃していたのでした。

梅景は午後6時にエレベータで9階へ行き、午後9時に9階から降りてきてホテルから出ていって、
午前0時すぎに戻ってきましたが、なぜかエレベータで7階へ上がっていきました。

自販機コーナーがあるのは偶数階でした。

タカチが泊まる12階の客室フロアへ上がってみたら、
中年女性がバスルームで転んで、顔面を強打して、ホテル側に応急処置をしてもらいたがったのに、
病院に行かず、救急車も呼んでいませんでした。

翌日の3日、タカチとティーラウンジのモーニングに行ったタックは、
梅景がエレベータで5階から降りてくるのを見ていたのを思い出しました。

12階の女性に、ボアン先輩はマダム・トゥエルブという符丁を使い、色々と考えます。

梅景が7階から5階へ移動した時刻は、3日の午前3時だったと、ボアン先輩は思いました。

ひと晩かけて、3時間ごとに4ヵ所、別々のところを回っていたが、
本来の2番目のスケジュールとしては
12階のマダム・トゥエルブの部屋に行くことになっていたんじゃないか、
とボアン先輩は攻めの姿勢で考えました。

9階、7階、5階にも誰かが泊まっていたのだろうと考えます。

梅景の電話は、梅景がマダム・トゥエルブに強請られているようだったと考えます。

梅景は、「ある人物の殺害を計画しましたが、自分のアリバイを偽装する必要があり、
例えば、〈海聖学園〉のPTAの4人をホテルの部屋に呼び出しました。
3時間ごとに彼女たちに関係を迫るふりをしていたけど、
マダム・トゥエルブを放置した午後9時から午前0時までのあいだに、
ホテルを出た梅景は標的を殺害しにいったのです。

マダム・トゥエルブは、4人のなかで、自分だけが梅景に約束を反故にされるなんて、
己れの価値の全面否定にも等しい恥辱を自ら曝すなんてことは、断じてできず、
女のプライドで、警察には嘘をついたのです。

癪な思いをしたマダム・トゥエルブは、警察への証言は変えないで、
梅景に一矢むくいられないものかと妙案を思いつき、
ホテルでの密会中、梅景死に殴られたと警察に被害届を出したのだ、
とボアン先輩は推理しました。

後日、帆家外交員の女性、井出窪(いでくぼ)絹子さん、44歳が殺害され、
梅景丈地(じょうじ)、31歳が逮捕されたと新聞に記事が出ました。


というあらすじなのですが、そんな馬.鹿な……と言いたくなる真相なのに、
ノッシーとユミちゃん、という受け入れやすい謎と解決を先に提示しておくことで、
本題の真相を読者に受け入れやすくさせるテクニックは、見事だと思いました。

ただ、本当に「このアリバイトリックは成功するのか疑問に思いました。

恋人関係にある人の証言はアリバイとして成立しない、
という文章をよくミステリーのなかで見かけます。

この話の場合も、女のプライドがどうとかには思い至らなくても、
警察はマダム・トゥエルブが恋人の梅影を庇って嘘をついている可能性を追うと思います。


この短編集に収録されている話は、これで終わりです。

安槻大学の4人が全員揃うエピソードはありませんでしたが、
1話はウサコ、2話はタック、3話はタカチ、4話はボアン先輩と、
それぞれが目立つエピソードがあり、心地よく読めました。

西澤保彦「悪魔を憐れむ」3話「意匠の切断」のネタバレ解説

1994年、1月5日、水曜日。
タックがバイトする〈アイ・エル〉に佐伯刑事がやってきて、
仕事で相談したいと言いました。

お正月休みのタカチも安槻に帰ってきていて、
3人でタカチの泊まっているホテルの部屋で話を聞くことになりました。

佐伯の行きつけの小料理屋で折詰を作ってもらい、
佐伯は一昨年の7月に起きた、猟奇事件について話をします。

被害者は、親戚にVIP級が何人もいる蜂須賀(はちすか)美鈴です。
蜂須賀美鈴は〈丘陽女子学園〉に通っていた高校2年生でした。

地元の暴走族のアタマだった桑満到(くわみつ・いたる)と、
その同級生で幼馴染みの羽染要一(はしば・よういち)という若い男2人を、
蜂須賀美鈴は常習的に自室に連れ込んでいたのだそうです。

一昨年の7月2日、木曜日の午前3時、船引町の上山百合という、
72歳の独り暮らしの女性が、
自宅の前の歩道で、切断された桑満到の首と手首を発見して通報しました。

上山由利は近所に棲み着いている野良猫たちに、
餌付けをして回るために午前3時に起きて、近所を散歩する習慣だったのだそうです。

その2時間半後、同じ日の午前5時半に、城所町で、
独り暮らしの女性、戸沼加奈恵、65歳が、蜂須賀美鈴の首と手首を発見しました。

戸沼加奈恵はいつもその時間帯に城所公園内で鳩に餌をやりながら、
ひと休みするのが常だったのだそうです。

被害者たちの遺体の残りのパーツを発見したのは、
蜂須賀美鈴のクラス担任教諭の47歳の女性でした。
蜂須賀美鈴が連絡もなく登校してこなかったので、
昼休みを利用して彼女の自宅へ押しかけ、羽染要一の遺体を発見し、
隣りの部屋へ助けを求めて警察へ通報したのだそうです。

警官たちが1Kの部屋のベッドの上に、首と手首を切り落とされていた、
蜂須賀美鈴と桑満到を発見したのだそうです。

凶器の包丁は羽染要一の胸に刺さったままで、
ベッドの傍らに、蜂須賀美鈴と桑満到を刺殺した包丁と、
首と手首を切断するために使ったノコギリが残されていました。

同じ一昨年の、4月13日の月曜日の早朝、船引町のゴミ集積所で、
透明のポリ袋に包まれた若い女性のバラバラ死体が発見されるという、
同じ人物による犯行ではないかと疑われている猟奇事件が起こっていました。

被害者の海野早紀は32歳の郵便局員で、友人たちとかなりアルコールを飲んだ後、
路面電車に乗り、酔っぱらっていたせいか自宅のだいぶ手前、船引商店街で電車を降り、
地べたに座り込んで眠っているところが午後10時頃に目撃されていました。

ゴミ集積所でバラバラ死体を発見したのは、飛田光正、60歳で、
古本のゴミを拾いに来る常習犯で住民とトラブルになっていたそうですが、
この一件の後、ショックでゴミ集積所には近寄れなくなったのだそうです。

犯人は介抱するふりをして、海野早紀を自宅へ連れ込み、
途中で正気に戻った彼女に騒がれて、慌ててつい首を絞めてしまった、
とタックは推理しました。

7月の事件のほうは、蜂須賀美鈴と桑満到に向けられた明確な動機があり、
羽染要一は巻き添えを喰らってしまっただけだとタックは推理ししたが、
4月の事件では、バラバラ死体をポリ袋に分けて詰めて遺棄したのに、
7月のときは、なにも被せたりせずに、剥き出しで放置した、なぜかしらね?
とタカチが疑問を投げかけました。

タカチは、7月のほうの事件の発見者の上山由利と戸沼加奈恵が、
ふたりとも日常的に野生の動物の餌付けをしていた、という点に注目しました。

蜂須賀美鈴が住んでいた〈ハイツ船引〉というワンルームマンションは4階建てで、
蜂須賀美鈴の部屋は204号室だったことをタカチは確認した後、
女性教諭の中谷邦子が203号室にだけ助けを求め、
205号室のほうに助けを求めなかった理由を、佐伯に訊ねました。

205号室の住人は作長京太、24歳の大学院生で、
蜂須賀美鈴たちが殺害されたと推定される時間帯、
作長京太は友人たちと一緒に居酒屋で飲んでいたが、
居合わせたサラリーマンと些細なことで口論になり、殴り合いの喧嘩になり、
警察の世話にまでなっていました。

事件当時、中谷邦子がどこに住んでいたかと、
飛田光正とトラブルになった住民について、佐伯に調べてもらいます。

その時点で、タックもタカチがどういう仮説をたてているのか、見当がついていました。

女性刑事の七瀬がタカチの部屋にやってきて、口を滑らせてしまいました。
佐伯は、海野早紀が佐伯の高校時代の柔道部の顧問だった恩師の娘だったことを打ち明けました。

飛田光正とトラブルになった住民は「作長京太で、
中谷邦子が住んでいた家は城所公演に敷地同士が隣接していたことや、
中谷邦子は離婚を経験していて、前の夫に引き取られた息子がいることを、七瀬は報告しました。

作長京太が中谷邦子の実の息子なのだとしたら、もうほぼ決まりです、とタカチは言いました。

一昨年の4月に起こった事件の犯人は作長京太で、同じ市内に住む実の母親、
中谷邦子に助けを求め、遺体の始末を手伝ってもらった、とタカチは推理しました。

母親に問い詰められ、作長京太は、
隣りの部屋に住んでいる女子高生と若い男たちの声と音がずっと壁越しに聴こえてきて、
悩まされていたことを母親にすべて打ち明けます。

中谷邦子は蜂須賀美鈴たちのことを、深く怨みました。

また、作長京太が憎々しく思っていた飛田光正が、
バラバラ死体を発見したショックでゴミ集積所に姿を現さなくなり、中谷邦子は閃きました。

野性の動物に餌付けをしていた上山由利と戸沼加奈恵に、切断した首と手首を発見させ、
怖じけづいた彼女たちが、もう2度と近寄ってこないにして、
息子の作長京太にはアリバイを作らせたのでした。


というあらすじなのですが、凄い推理でしたね。

この発想はなかったです。

面白かったですが、4月の事件のほうは自己中心的すぎる動機で、胸が悪くなりそうでした。
海野早紀さんが可哀相です。

ところで、今回はバラバラ死体がテーマの話でしたが、
シリーズ第1作「解体諸因」もバラバラ死体がテーマの連作短編集でしたね。

この題材を選んだのも、原点回帰なのかもしれません。

西澤保彦「悪魔を憐れむ」2話「悪魔を憐れむ」のネタバレ解説

1993年9月。タカチは大手広告代理店に就職し、東京で1人暮らしをしていて、
ボアン先輩は卒業論文や教育実習で忙しく、
ウサコは平塚総一郎と婚約し、忙しく駆けずり回っていて、
フリーターになったタックは寂しさを募らせていました。

新しいお店を開拓することにして、見つけたのが、〈篠(しの)〉という、
篠塚佳男(よしお)と、その内縁の妻の花江が切り盛りする、
全然繁盛していない小さな店でした。

タックは足繁く通っていましたが、11月になって初めて他のお客を見ました。
女の子ばかりで、ハンサムな篠塚に会うのが目的で通っているようでした。

12月のある夜、安槻大学の英文科の小岩井先生の妻が亡くなり、
篠塚はそのお通夜に行きました。

タックも小岩井に英会話を習ったことがありました。

12月21日の午前11時前後に、小岩井が一般教育棟で自殺するかもしれない、
ということを篠塚は話します。

篠塚は昔、小岩井の孫の里見涼という男の子の家庭教師をしていたことがありました。

当初は、涼が中学1年から6年の予定でしたが、
涼が高校に合格したのを見届けてから、篠塚は家庭教師をやめました。

3年後、1982年、12月21日に、涼は安槻大学の一般教育棟の5階、
LL教室のなかで首吊り自殺をしました。

遺書には、涼を束縛していた小岩井に対する恨み言が書かれていましたが、
小岩井は、おまえの教育が悪かったからだと、娘の静子の夫を責め立てます。

静子の夫が逃げ出し、その3年後、1985年に今度は静子が亡くなりました。
交通事故ということに、なっていますが、涼の後追い自殺の可能性がありました。

小岩井の妻、須磨子はそう確信していて、癌で亡くなる、いまわの際に、
あたしは死んでも、あなたのことを赦しません、と言ったのだそうです。

来年の夏頃までに解体されるのだとしたら、12月21日という因縁の日付は、
もう今年の分しか残っていない、と篠塚は言います。

午前11前後に小岩井が旧一般教育棟のLL教室で自殺するかもしれないが、
篠塚は外せない用事があるからと、タックが旧一般教育棟に見張りに行くことになりました。

12月21日の午前10時半にタックが一般教育棟に行くと、
エレベータの昇降ボタンの付近には、おびただしい数のポスターやチラシが貼られていました。

エレベータ・ホールで、
経済学部3回生の胡麻本澄紀(こまもと・すみき)という後輩に肩を叩かれます。
演劇部の部長で、先月、タックに公演チケットを押しつけた男です。

胡麻本はクリスマスイヴに幼稚園でボランティアをすることになっていて、
その稽古に来ていました。
クリスマスにサンタクロースがやってきたと思ったら、実は泥棒で、撃退する、
というホーム・アローンのような筋書きの劇をするのだそうです。

エレベータの近くに貼られている、先月公演した劇のポスターについて話をした後、
胡麻本はエレベータで3階に行きました。

胡麻本が昇降ボタンを押したとき、エレベータが5階から降りてきたため、
小岩井が先に来て5階に上がっているんじゃないかと思い、
タックは階段で5階に上がりましたが、LL教室には鍵がかかっていました。

午後11時に、演劇部の古仁(こに)美咲、出水(いでみず)亜由美、
包枝倫絵(かねえだ・のりえ)の3人が一般教育棟にやってくるのが見えました。

古仁美咲達3人がエレベータで3階に上がり、けたたましい歓声が聞こえました。

午前11時20分を回り、もう今日は、何も起こらないだろう、
とタックは思って一般教育棟から出ました。

大学の正門のほうへ行こうとして、大きなメガネにポニーテールの女性がいて、
タックの姿を認めると足早に去ってゆきました。

タックの背後で、80がらみの男性、小岩井が落ちてきて、死んでいました。

パトカーや救急隊員、女性刑事、七瀬がやってきました。

5階で小岩井のバッグが発見され、そのなかに遺書とLL教室の鍵が入っていたことを、
七瀬はタックに教えてくれました。

LL教室の鍵は小岩井が退官前に個人的に作った複製でしたが、
昨年、LL教室と準備室の出入り口の鍵が新しいものに取り替えられていたのだそうです。

その話をタックが篠塚に話すと、
小岩井先生は投身自殺なんか、していないんじゃないか、と篠塚は言い、
演劇部の連中を疑いました。

タックはまだキャンパスに残っていた胡麻本に声をかけ、〈篠〉で篠塚と引き合わせました。

胡麻本は、なにか変わったことには気がつかなかった、という意味の証言をしました。

タックがエレベータ・ホールからいちばん遠い部屋を調べているときに、
小岩井はエレベータで4階まで上がってきて、トイレかどこかへ隠れて、
タックが1階へ降りてゆくのを待ち、改めて階段で5階へ向かった、
という仮説を胡麻本は言いました。

誰かが小岩井に、タックが自殺を阻止しようとしていることを話していたのではないか、
ということを胡麻本は言います。

タックは、大きなメガネにポニーテールの女性が、篠塚の内縁の妻の花江だと憶い出しました。

12月25日に七瀬に電話すると、現場へ駆けつけた警官は、
エレベータは5階から降りてきた、と証言していたことを教えてくれました。

花江は篠塚に腹いせをするために、例えば、
小岩井の周辺を嗅ぎ回るかのような不審な行動をとる若者がいる、
と言ったのではないか、ということを七瀬は言いました。

その後、胡麻本がタックのアルバイトしている〈アイ・エル〉にやってきて、
訊いてみましょうよ、花江さん本人に、と言いました。

タックと胡麻本がお洒落なカフェで、花江と待ち合わせます。

篠塚は、〈篠〉に通っている女子大生の親が資産家だと知り、
お店の資金繰りに必死だ、ということや、
篠塚は前の奥さんとのあいだに男の子がいたけど、
中学生になったばかりだったその息子はマンションの屋上から飛び降り自殺した、
という話を花江はしました。

花江が去ると、おれ、判っちゃったかもしれないです、と胡麻本は言いました。

タックと〈篠〉に行った胡麻本は、小岩井先生の自殺そのものが、
篠塚さんが仕向けたことだった、と言いました。

小岩井の奥さんがいまわの際に、あたしは死んでも、あなたのことを赦しません、
と言い残しても、独善的な性格の小岩井は、
いったいなんのことで自分が責められているのやら、さっぱり理解できなかったはず、
ということを胡麻本は言います。

篠塚が小岩井を絶望の淵へと導いた黒幕だと、胡麻本が名指しすると、
篠塚は「小岩井を手玉にとったことを認めました。

篠塚は通夜の席で小岩井に土下座し、ぼくが途中で家庭教師を辞めず、
ずっと涼くんに付いていれば、あんなばかな真似は絶対にさせなかったのに、
静子さんだって離婚することもなく、非業の死を遂げることもなかった、
奥さまも死に際に変な誤解を抱くこともなかったでしょうに、と謝り、
小岩井が自分を責め始めるように暗示をかけ、
一般教育棟が取り壊されることを付け加えたのでした。

が、篠塚は胡麻本の公演のポスター、『故障』を見て、
エレベータが故障しているとかんちがいし、
階段を上がり始めましたが、3階まで上がったところで男女共用トイレへ入りました。

そこで、小岩井と遭遇した演劇部の3人娘は、小岩井を胡麻本と取り違え、
ピコピコハンマーや張り扇で襲いかかりました。

小岩井はショックで昏倒し、ひとちがいに気づいた3人は胡麻本に泣きつき、
小岩井を飛び降り自殺に見せかけて殺した、というふうに、
篠塚は胡麻本を糾弾しました。


翌日の早朝、「花江が一般教育棟の5階から転落死したという知らせを受け、
タックはそこに行き、七瀬から、花江の遺書を渡されます。

匠くんが見張っていることを小岩井先生に教えたのは、あたしです、
と遺書には書かれていましたが、花江の母親が、タック宛に本物の遺書を持ってきました。

胡麻本の偽装工作に協力するふりをした、という告白でした。
胡麻本は花江に、目撃者を仕込んでおくから、
一般教育棟の5階の廊下から飛び降りるふりをしてくれ、
異変に気づいた自分が助けにゆくという設定で、偽の遺書に信憑性を増させる、
と花江に説明していました。

しかし、胡麻本は最初から花江を殺すつもりで、花江もそう思い、
本物の遺書を母親に託していたのでした。

最終的に花江を死に追いやるために、胡麻本を、あそこまで追い詰めたのかということを、
タックが篠塚に指摘すると、花江は重たい女だった、と篠塚は言いました。

学生時代、机上の空論だと言われて小岩井に論破されていたことで、
篠塚は小岩井を憎んでいました。

涼の家庭教師をしていた篠塚は、涼は小岩井に魂を殺された人形であり、
小岩井に対する復讐の方法は自殺しかない、と暗示をかけていました。

志望高校に合格した涼に、篠塚が小岩井のせいで家庭教師を辞めることを告げ、
涼は絶望し、3年後に自殺しました。

それとほぼ同時期に、涼の息子の幸典も飛び降り自殺をしました。

篠塚は、自分を支配していた父親を憎みに憎んでいましたが、
父親因なった途端、今度は自分の息子を支配し、憎まれていたのでした。


というあらすじなのですが、今回はシリーズ第4作、「仔羊たちの聖夜」と、
物語の構図が似ていましたね。

あとがきによると、この短編集のテーマは「原点回帰」らしいので、
わざとなのだと思います。

タイトルの「悪魔」は篠塚のことでしょうが、小岩井も胡麻本も「悪魔」的で、
この短編は、悪魔VS.悪魔、の構図になっていますね。

タックがろくに推理をせず探偵役を放棄し、悪魔同士が推理し合い、
自滅し合っているような話だと思いました。

誰が探偵役になるか判らない、というのもこのシリーズの醍醐味ですが、
まさかの展開で驚きました。

西澤保彦「悪魔を憐れむ」1話「無間呪縛」のネタバレ解説

悪魔を憐れむ (幻冬舎単行本)


タックこと匠千暁(たくみ・ちあき)シリーズ第10弾です。

1993年、8月17日、火曜日、
ボアン先輩こと辺見裕輔は、女性刑事の七瀬からの電話を取りました。

七瀬の後輩の刑事、平塚総一郎の個人的な相談に乗ってほしいと頼まれましたが、
七瀬が来ないため、ボアン先輩は、大学を卒業してフリーターになったタックに丸投げします。

ちなみに、平塚総一郎はシリーズ1作目の「解体諸因」でタックと知り合っていて、
タックが事件を解決してたため、今回も平塚はタックに事件の解決をお願いします。

心霊現象がらみの事件と聞き、怪談やオカルトが苦手なタックは、
ボアン先輩に一緒に行くよう頼みますが、
留年や休学を重ねていたボアン先輩は、もう後がないと言って、断ります。

他に頼めそうな知り合いを考えていたタックは、
ファミレスのウインドウ越しに、ウサコこと羽追由起子(はさこ・ゆきこ)を見つけ、
声をかけました。

〈安槻大学〉の心理学専攻を卒業し、修士課程にいるウサコは、
2人の中学生を相手に、就眠儀式についてリサーチしていました。

タックはウサコを、平塚総一郎とその家族に、タックの妹と紹介して、
平塚家の旧館に泊まることになりました。

平塚総一郎には、徳善(なるよし)という兄がいて、
徳善には徳弥という妻がいます。

平塚総一郎の母、巳羽子(にわこ)は五十代前半の美女で、車椅子に乗っていて、
普段は徳弥に介助されています。

巳羽子を見たウサコは、タックの恋人のタカチこと高瀬千穂に似ているということを言いました。

23年前、京子という女の子が亡くなった部屋に案内してもらいます。

冷蔵庫の中身は食べたり、飲んだりしていいと言われます。

タック、ウサコ、平塚総一郎だけがダイニングキッチンと応接室に残り、
平塚総一郎は23年前の事件について話します。

1970年の夏休み、8月16日の朝、万博に行くため、
平塚総一郎と徳善、平塚の両親は大阪に行きました。

上泉(かみいずみ)多恵というお手伝いさんには、京子という一人娘がいました。
多恵は母親のソノも呼び、1週間、平塚家の留守番をすることになりました。

巳羽子は京子に、応接室のテレビを好きなだけ観てもいいということを言いました。
普段は巳羽子がソファに座って観ていたテレビです。

夜の8時に、住み込み用小部屋で多恵、京子、ソノは寝ました。
翌朝、ソノは午前5時頃、起床して、京子の姿が見当たらないため、京子を探しました。

応接室のソファにタオルケットがかかっていて、置き時計が載っていました。
置き時計の下には、京子の頭があり、京子は死んでいました。

京子の遺体を見た多恵は泣き叫び、病院へ運ばれましたが、逃走し、投水自殺してしまいました。

外部からの侵入の痕跡は、いっさいなかったため、警察は、気が狂った多恵が京子を殺した、
と結論づけました。

しかし、平塚総一郎の父、迦一郎はそうは考えず、巳羽子が犯人だと考え、
問題の置き時計を処分しませんでした。
迦一郎は1972年に巳羽子と言い争いになり、巳羽子を階段の上から突き落とし、
車椅子生活にさせてしまいました。

京子の父親は迦一郎で、本妻である巳羽子が、
夫の愛人の多恵とのあいだにできた娘を殺したのだと考えていたのでした。

1979年に新館を建てる際にも、迦一郎は旧館のダイニングキッチンと応接室は残しました。

親戚は反対しましたが、誰かに旧館の応接室とダイニングキッチンに泊まってもらうと、
置き時計がソファに飛んでいく怪奇現象が起こったのだそうです。

1983年、平塚総一郎が高校3年生のときに、迦一郎はに亡くなりましたが、
今度は巳羽子が旧館の取り壊しに反対しました。

1965年か66年に、多恵が睡眠薬を飲むことに巳羽子が反対したことや、
1969年以降に巳羽子のタオルケットがなくなったということも、
平塚総一郎は話しました。

そんな殺伐とした話をしながらも、ウサコと平塚は、何やらいい雰囲気になります。

平塚総一郎がいなくなった後、タックは冷蔵庫と壁の隙間にあったタイマーを発見します。

午前3時に心霊現象を起こすためのタイマーで、冷蔵庫を開閉すると作動するようになっていました。

午前3時になるまでの暇つぶしに、タックはタカチから来た手紙をウサコに読ませます。

上京して働いているタカチと同期入社の、鮎ヶ瀬はるかの兄の、洋司(ようじ)が、
昨年亡くなったということが、手紙に書かれていました。

洋司は飛鳴(ひめ)ツバキという、鮎ヶ瀬はるかの同級生と付き合っていたのだそうです。

ツバキがアメリカに留学して遠距離恋愛になり、
さらにツバキがアメリカで女優デビューしてスターになりましたが、
洋司とツバキは頻繁に手紙のやり取りをしていたのだそうです。

しかしツバキの遺品からは、洋司が贈ったはずの手紙がただの1通も見つからなかったり、
ツバキが交通事故で死んでから半年後に何かをドラム缶で燃やしていた洋司が焼死したり、
洋司が生前、数百万円の借金をしていたことが発覚したりしたのだそうです。

タックとウサコは、同じ推理に達しました。
それは、「洋司が渡米して、ツバキになりすまして書いた手紙を、自分宛に送っていて、
ツバキの死後に証拠となるパスポートを燃やしているときに焼死してしまった、
という推理でした。

洋司が騙そうとしていたのは他の誰でもない、自分自身だった、とタックは言いました。

タカチも同じ推理に達しているはずですが、洋司の妹のはるかにどう話すか迷っていて、
タックに手紙で相談したのでした。
タカチはすべてをありのままに鮎ヶ瀬さんに話しても、問題ない、とウサコは言いました。

鮎ヶ瀬はるかも、なにかおかしいと感じ取っていて、詳細をタカチに相談したのは、
耳に痛い真実であろうと、他人に、ずばっと指摘してもらいたかったからでした。


タカチの手紙に関する話はこれで終わりです。

3時になると、置き時計が「回転扉で壁の向こう側へ引き込まれ、
コンベアみたいな装置で天井裏へ運ばれ、天王板が開いて、置き時計がソファに落下しました。

新館で異変に気づいた、平塚総一郎、巳羽子、徳善、徳弥がやってくると、
タックは仕掛けを4人に説明しましたが、1970年にはこの仕掛けは存在していなくて、
仕掛けが作られたのは1979年に迦一郎が作ったのだということを言いました。

迦一郎は、京子の死は巳羽子の仕業だと確信していましたが、その方法が分からず、
仕掛けを作ることで自分自身の精神のバランスを保ち、
巳羽子に対する憎悪と殺意を超克しようとしたのでした。

迦一郎の死後、旧館(母屋)の取り壊しに反対していたのは、
息子の総一郎が警察官になるのを待っていたからでした。

また、巳羽子は、すでに歩けるようになっていましたが、
迦一郎が生きているあいだは、激しすぎる憎しみを中和するために、車椅子生活をしていて、
迦一郎が亡くなった後は、徳弥の献身的な解除を受け入れ、甘えるためでした。

睡眠薬を巳羽子に禁止された多恵は、巳羽子を空想の中で殺すという就眠儀式をしていて、
巳羽子のタオルケットを巳羽子に見立てて刃物で切り裂いてしまったのでした。

京子が夜中にこっそり布団から抜け出して、応接室のテレビを観にゆき、
タオルケットにくるまるかもしれない、
多恵は、危うく我が娘を殺しかけたショックで目が覚めるかもしれない、
と巳羽子は思ったのでした。

タックは巳羽子と2人きりになると、
徳弥は子どものときから巳羽子に会いに来ていて、巳羽子に特別な思いを抱いている、
多恵さんもきっと、そうだった、と言ったのでした。


というあらすじなのですが、最初の方のウサコの就眠儀式の話とか、
タカチの手紙に登場した洋司の話とか、
一見関係なさそうに見えた伏線が、最後に見事に回収されるのが心地よかったです。

シリーズ第1作、解体諸因に登場した時点で、ウサコと平塚総一郎は結婚していましたが、
今回やっと2人が出会うことができましたね。

あと、洋司の手紙に関係したエピソードは、シリーズ第2作「彼女が死んだ夜」の、
あるエピソードのセルフ・オマージュっぽいですね。

いつの間にか西暦が明確になっていたり、
大学卒業後のエピソードだということもあったりして、
止まっていた時間が動き出したような気分になりました。

(悪魔を憐れむ 1話 2話 3話 4話

西澤保彦「ぬいぐるみ警部の帰還」第5話「誘拐の裏手」のネタバレ解説

佐野谷元博(さのや・もとひろ)が午前2時にタクシーで帰宅したところ、
妻の麻弥の携帯電話から着信がありました。

するとボイスチェンジャーか何かで声を変えている電話の相手は、
郵便受けに入っているDVDを見ろと佐野谷に指示しました。

DVDを見てみると、
麻弥が何者かにナイフで刺されそうになっている映像が映っていました。

電話の相手は佐野谷の家にある金目のものを持ち、
携帯を通話状態にしたままタクシーを呼べと命令します。
佐野谷は言われるがままにタクシーを呼び、あるマンションへ行きました。

そこで脅迫者に指示された通りに、丸山応挙の掛け軸を郵便受けのところに置きました。

次に、別の町のマンションへ行き、脅迫者に言われたとおりに、
金貨のコレクションを置きました。

最後に、最初のマンションの近くにある別のマンションの駐車場へ行けと脅迫者は指示します。

そこで佐野谷は、DVDに映っていた犯人の体型が、
母の琴子の介護をしてもらっているホームヘルパーの、
丘岬富美子(おかざき・ふみこ)にそっくりだったことを思い出し、
富美子が犯人ではないかと疑い始めました。

最後のマンションの駐車場へ着くと、ロープがぶら下がっていました。
犯人はロープに現金ンお入った紙袋を結び付けろと指示します。
が、
「なんつってな、ははは。ばーか」
という相手は言い、屋上から麻弥が落下して来て、彼女は亡くなりました。

その後、佐野谷はそのマンションに住んでいた富美子の部屋に行き、
そこにいた富美子を妻の鮮血が染み込んだロープで絞殺してしまいました。

そしてタクシー運転手の通報により、音無警部たちが出動しました。

富美子の部屋には、同じ銘柄のウイスキーが7本と、
その前に置かれた6体のレッサーパンダのぬいぐるみとライオンのぬいぐるみがありました。

そのうち、ライオンのぬいぐるみの前に置かれていたウイスキーには、
青酸カリが入っていました。

それを知った音無警部は、
富美子はウイスキーを使ったロシアンルーレットをしていたのでないか、
と推理しました。

麻弥は義母の介護疲れや夫の無理解に苦しみ、
富美子は一家離散で家族を失い、死にたがっていました。

富美子は7本のウイスキーのうち1本にだけ青酸カリを入れておき、
1日に1本ずつ飲んでいきました。
青酸カリが入っていないウイスキーを飲んだ場合は、
その前にレッサーパンダのぬいぐるみを置いて目印にします。

そしてそのロシアンルーレットを潜り抜けて生き残った富美子は、
共犯者の麻弥と一緒に狂言誘拐をすることにしました。

その最後の仕上げとして、電話をしていた富美子は、
屋上で麻弥に顔を出させ電話の相手が麻弥だったと思い込ませた上で、
佐野谷がどういう行動に出るかという賭けをしました。

その結果、佐野谷は怒りに任せてロープを引っ張り、妻を転落死させてしまいました。
富美子の殺害にロープを使ったのも、
妻を殺した凶器を現場に遺したくなかったからなのでした。


というあらすじなのですが……、「正直、あまり出来がいい話ではありませんね。

最後の、実は麻弥を殺したのは佐野谷で、
富美子の殺害にロープを使ったのは現場にロープを残したくなかったから、
という理由は面白いですけど、
富美子と麻弥がそんなことをした理由がよく分かりません。

麻弥も富美子も2人とも自殺志願者で~とか、
ウイスキーでロシアンルーレットをしていた、
とか言われても、いまいちピンときません。
だからと言ってこんな面倒くさいことをやるか? と思ってしまって……。

一番の目的は佐野谷を陥れることだったんでしょうけど、
もうちょっと何とかならなかったのかなあ、と思ってしまいます。
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