川原礫「ソードアート・オンライン11 アリシゼーション・ターニング」のネタバレ解説

ソードアート・オンライン11 アリシゼーション・ターニング (電撃文庫)


10巻の続きです。

第5章 右眼の封印 人界歴380年5月

教官相手の検定試験でージオが5位、キリトが6位となり、
学院にたった12人の上級修練士となったユージオは、
ティーゼ・シュトリーネンという6等爵家出身の、
まだ16歳になったばかりの少女に≪傍付き≫として
身の回りの世話をしてもらっていました。

キリトのほうも、ロニエ・アラベルという同じく6等爵家出身、
16歳の少女が傍付きとなりました。

ティーゼは赤毛と赤い瞳で、表紙の真ん中にいる少女です。
その右隣にいるのが、ロニエです。

ユージオとキリトがティーゼとロニエを選んだわけではなく、
先に他の上級修練士が傍付きを指名してもらい、
余ったのがティーゼとロニエだったのでした。
ティーゼとロニエは、傍付き候補12人の中で彼女たちだけが6等爵家出身、
という理不尽な理由で余っていたのでした。

ある夜、ユージオが修練場に行くと、
先客であるライオス・アンティノスとウンベール・ジーゼックに、
嫌がらせっぽく話しかけられます。

ライオスは序列第1位の主席上級修剣士、
ウンベールは序列第2位の次席になっていて、
ますます偉そうに振る舞っていました。

傍付きになると上級修剣士の身の回りの世話をしないといけないので、
ライオスとウンベールはそれを嫌って、選考試合で手を抜き、
入学試験の成績を13位以下に調整していたのでした。

キリトによると、上級貴族出身の生徒たちの剣の威力の半分は、
子供のころから育て上げた巨大な自尊心です。
だからライオス達は、貴族どころか央都出身ですらないユージオやキリトを、
事あるごとに貶めようとしているのでした。

この世界では、剣に何を込めるのかが重要なんだ、
というキリトの教えを考えながら、ユージオは白金樫の木剣を振っていましたが、
ユージオはまだ、≪剣に込めるべき何か≫を見つけていませんでした。

ライオスやウンベールは、稽古をしているユージオのことを馬.鹿にします。

ウンベールはユージオに、ライオス殿の指導を受けていっては? と言い、
ユージオは、来月の検定試合の前に、自尊心が生み出す強さとは、
いかなるものなのか、知っておきたいと思い、それを承知しました。

ユージオの希望で、ウンベールと初撃決着の試合をします。

単純な力比べではユージオのほうが上でしたが、
ウンベールは凶相と言うべき異様な表情へと変化し、
「調子に……乗るなッ!」と怒声を迸り、≪アインクラッド流≫を卑劣と言い、
ユージオの右肩を砕こうとします。

ユージオは、上からの技を下から受けっぱなしじゃ、押し切られて当然、
という剣の囁きを聞いたように思い、技を切り替え、
アインクラッド流秘奥義≪バーチカル≫を発動させ、
ウンベールを3メル(3メートル)以上も吹き飛ばしました。

ユージオは、ウンベール相手に1本取れそうでしたが、その直前に、
ライオスが引き分けを宣言しました。

それから数日後、ユージオとキリトは、今後、
ライオスとウンベールがしてくるであろう嫌がらせの内容について、
考えを巡らせます。

その時キリトは、平常心は忘れないように、ステイ・クールでいこうぜ、
と言いました。
ユージオにはステイ・クールの意味が解らず、訊き返しますが、
アインクラッド流の極意その1だよ、落ち着いていこうぜ、っていうような意味かな、
別れの挨拶にも使うけど……とキリトはごまかしました。

それから数日後、ユージオはティーゼと歩きながら話をしていました。

ユージオは、ティーゼは央都出身だったよね、家は近いの? と訊きました。

ティーゼの父は6等爵士だが、下級貴族なので、
帝国行政府に近いお屋敷街の3区と4区には住めず、
学院のある5区からはちょっと遠い8区に実家がある、
という話をティーゼはします。

5等、6等爵士には色々と権利の制限があるのだそうです。
≪帝国基本法≫により裁決権を与えられているのは、4等爵士までで、
5等以下の爵士は逆に上級貴族の裁決の対象になっているのだそうです。

ティーゼの父親は、長子であるティーゼが家を継ぐ時には、
4等爵士に叙せられて欲しいと思い、この学院に入れたのでした。
もし学院代表剣士に選ばれて、帝国剣武大会でいいところまで行けば、
それも有り得ないことではありません。

池のほとりで、ユージオ、キリト、ティーゼ、ロニエの4人で、
ティーゼとロニエが作ってくれたお弁当を食べます。

ティーゼとロニエは改まった様子で、
指導生の変更申請に関して、学院管理部に口添えして頂きたい、
と言いました。

寮で同室のフレニーカという女子を傍付きとして指名したウンベールが、
院則の違反にはならずとも、女子生徒としては少々受忍しがたい命令を、
色々としているのだそうです。

ウンベールは数日前にユージオと立ち合いで引き分けた腹いせに、
フレニーカに懲罰権を行使したり、屈辱的な用を命じたりしていたのでした。

自分の傍付き錬士に過剰に厳しく当たっても、
禁忌目録や帝国基本法、修剣学院則に違反はしないのだろう、
しかし――それは≪していいこと≫なのか?
この世界には、書物に記された法律の他にも、
従わなければならない大切なものがあるはずではないのか……?
と、ユージオは考えました。

ティーゼの父はティーゼに、私たちが平民の人たちよりも大きな家に住み、
幾つかの特権を与えられているのを、当たり前と思ってはいけない、
貴族であるということは、そうでない人たちが楽しく、
平和に暮らせるよう力を尽くし、戦が起きた時は、
先に剣を取り、先に死ななければならないということなんだ、と教えていました。

ティーゼも、ユージオと同じようなことを考えていて、
両眼に大粒の涙を浮かべさせていました。

ロニエとティーゼを見送ってから、ユージオとキリトは、
ウンベールとライオスの部屋を訪れます。
室内調度はのきなみ最高級品に交換され、
ライオスとウンベールは学院の制服ではなく、
高級な南方産の絹の長衣を身に着けていました。

フレニーカの件で注意しようとしますが、
ライオスとウンベールはしらばっくれます。

フレニーカに、毎夕の湯浴みの折に体を揉み解してもらっていることや、
制服が濡れては困るだろうとフレニーカにも下.着姿にさせていることなどを、
ウンベールは喉を鳴らして笑いながら言いました。
現実世界なら確実にセク.ハラになる行為でしたが、
それは学院の規則には違反していませんでした。

ユージオは熱くなりましたが、キリトに止められ、
ユージオとキリトは、ウンベールの部屋を出ました。
ライオスは意図的にユージオを挑発し、
あそこでユージオがウンベールに言いすぎたら、
それを逸礼行為に認定して最大限の懲罰を科すつもりだったんだろう、
とキリトは言いました。

俺のいないところでまた連中に何か言われても、
さっきみたいに熱くならないように気をつけろよ、とキリトは言い、
解ってるよ、ステイ・クールだろ、とユージオは言いました。

翌日、ユージオはティーゼに、
フレニーカの件でウンベールに抗議したことを伝えました。

ティーゼはユージオの右腕に縋り付き、
ユージオ先輩に、お願いがあるんです、きっと学院代表になって、
剣武大会にも勝って、四帝国統一大会に出てくださいね、と言いました。

ユージオが統一大会で上位に入り、一代爵士として叙任されたら、
「私……私の…………」と、ティーゼはプロポーズのようなことを言い、
俯いて体を震わせました。

大会が終わったら、きっと君に会いに行くよ、とユージオは言い、
私も強くなります、ユージオ先輩のように……正しいこと、
言わなきゃいけないことをきちんと言えるくらい、強く、とティーゼは言いました。

その翌日の5月22日、大雨の日に、
キリトとユージオはティーゼとロニエを待っていました。

しかし、4時半になっても2人は掃除に来ませんでした。

キリトは嫌な感じがすると言い、
ティーゼとロニエを初等錬士寮まで迎えに行きました。

行き違いにならないよう、ユージオは部屋で待っていましたが、
そこへフレニーカ・シェスキ初等錬士がやってきました。

フレニーカは、ウンベールに抗議してくれたことについて、
ユージオにお礼を言います。

しかし、ウンベールは今日の夜間に、説明の難しいご奉仕をフレニーカに命じ、
フレニーカは、このような命令が続くくらいなら、いっそ学院を辞めようと思い、
ティーゼとロニエに打ち明けたのだそうです。
それを聞いたティーゼとロニエは、
直接ウンベールに抗議すると言って3時半に寮を出ましたが、
まだ戻ってこない、という話をフレニーカはしました。

ユージオは手入れしていた青薔薇の剣をそのまま持って、
ウンベールの部屋に行きました。

ウンベールとライオスは飲酒していましたが、
上級修剣士は寮内での飲酒も許可されていました。

ティーゼとロニエが訪ねてないか、と何度もユージオは訊き、
ウンベールは西側の寝室の扉を開けました。

ティーゼとロニエは、制服の上から、真っ赤な縄で縛り上げられ、
ベッドに横たわっていました。
濃密に漂う香のせいか、2人は意識が半ば混濁しているようでした。

ティーゼとロニエは、ライオスとウンベールに甚だしい非礼を働き、
帝国基本法の貴族裁決権を行使しているのだと、ライオス達は言いました。

裁決権は、上級貴族最大の特権で、行使の対象は5等及び6等爵士とその家族、
領地に暮らす平民だけですが、罰の内容は禁忌目録にないことなら、
自在に決められるのだそうです。

ライオスはティーゼの頬を撫で、ウンベールはロニエの足に手を這わせます。

ユージオは「やめろっ……!!」と叫んでベッドに駆け寄ろうとしますが、
動くな、平民!! これは、帝国基本法及び禁忌目録に則った、
正当、厳粛なる貴族の裁決である!
そして、裁決権の妨害もまた重大な違反行為だ!
そこから1歩でも動いたら、お前は法を破った罪人となるのだ!
とライオスが叫びます。

いきなりユージオの両足が、勝手に止まりました。

先輩、動かないで、私なら、大丈夫……これは、私が受けるべき、
罰なんです、とティーゼは震え声でしたが、毅然とそう言い切りました。

ユージオは法に疑問を抱き、右眼の奥に鋭い痛みが走りました。

なぜ法は≪禁じる≫だけなのか、何百頁にもわたって無数の禁止条項を列挙せずとも、
ただこう書けばいいではないか、誰もが誰もを尊重し、敬意を払い、
仁愛の心を持て、と、とユージオは考えます。

教会の権威を以てしても、全ての人間に善心のみを持たせることはできないのだ、
なぜなら人間とは、もともと、善と悪の両方を持つ存在だからだ、
とユージオは考えます。

ライオスとウンベールがついに決定的な行いに及ぼうとし、
いや……助けて、ユージオ先輩! とティーゼは悲鳴を上げます。

ユージオは右眼の激痛に耐えながら、青薔薇の剣を鞘から抜こうとします。

薄い赤に染め上げられた右眼の視界の中央で、
【SYSTEM ALERT:CODE871】と神聖文字が輪を作って並び、
右向きに回転していました。

ユージオはそれが、法への恭順を強制している≪封印≫だと直感しました。

ライオスとウンベールへの憎しみを力に変え、右腕を動かします。

ティーゼが叫び、ユージオも絶叫した、その刹那、
右眼で銀色の光が爆発し、ばしゃっ!
という感触とともに眼球そのものが内側から弾け飛びました。

視界が半分欠け落ちましたが、それすらも意識せず、
ユージオは猛然と青薔薇の剣を鞘走らせ、
ホリゾンタルでウンベールの左腕を半ばから斬り落としました。

ウンベールは絶叫し、ライオスに、天命を分けてくださいと頼みますが、
ライオスは、絹紐でも巻いて、血を止めておけ、と言っただけでした。

貴族裁決権の対象は、原則として下級貴族と私領民だけだが……
禁忌を犯した大罪人とあらばその限りではない!
とライオスは叫び、高く剣を振りかぶります。

ユージオは、禁忌目録に違反し、ウンベールを斬ったとい衝撃が大きすぎて、
身じろきすらできませんでした。

ライオスはユージオの首を落とそうとしましたが、
キリトが現れ、漆黒の刀身を持つ長剣でライオスの剣を止めました。

禁忌だの、貴族の権利だの、知ったことか、とキリトは言い、
セルルト流秘奥義、≪輪禍(リンカ)≫を繰り出しました。
ユージオを守るため、狭い室内で戦わないといけないので、
キリトはアインクラッド流ではなくセルルト流を使ったのでした。

ソルティリーナが、最後の最後でウォロ主席を破った大技、
単発秘奥義の2連撃を放ち、ライオスの剣を真っ二つにへし折り、
ライオスの両腕を、手首の少し上で斬り飛ばしました。

ライオスはウンベールに、お前の紐を解いて、私の傷口を縛れッ!!
と叫びましたが、これを解いたら、オレの天命が減る!!
とウンベールは拒否しました。

ティーゼとロニエを縛っていた絹紐は、
すでにウンベールの左腕の止血に使われています。

ライオスの両腕からの止血を止めるには、
その紐を両方とも使わなければなりませんが、
ウンベールの紐を解けばウンベールの天命がまた減り始めます。

正当な理由または同意なく他者の天命を減少させる――
それは明白な禁忌目録違反です。

ライオスは、≪自分の命≫と≪禁忌目録≫のどちらかを
選ばねばならない状況に立たされました。

キリトはロニエの上半身を縛める縄を解き、ライオスの止血をしようとしましたが、
その前にライオスの声が異様な響きを帯び、
「でででっ、でっ、でっ、ディッ、ディル、ディルディルディル、
ディルディルディルディルディ――――――――」
と叫び、ライオスはそのまま真後ろにごとりと倒れました。

ライオスの天命はまだ残っているはずなのに、ライオスは死んでしまいました。

ウンベールが悲鳴を上げて廊下に飛び出しました。

ティーゼはユージオの胸に飛び込み、謝りましたが、
ユージオも、ごめん、怖い思いをさせてしまって、と謝りました。

その時、寝室の天井に≪ステイシアの窓≫のようなものが浮かび、
生白い肌にはまる、硝子玉のような眼で、
何者かがユージオたちを見下ろしていました。

白い顔が口を開きます。
ユージオはティーゼの頭を強く抱きかかえ、キリトもロニエを包み込み、
白い顔が奇怪な声で神聖術の式句を唱えるのを、聞こえないようにしました。

その晩、ユージオとキリトは修剣学院管理棟の地下懲罰房で過ごし、
翌朝の午前9時にアズリカ寮監がやってきました。

アズリカは≪四大聖花≫から採れる貴重な神聖力の結晶を砕き、
それを触媒にユージオの右眼を神聖術で治療しました。

右側の視界が戻り、ユージオはアズリカにお礼を言いました。

アズリカは、禁忌目録、公理教会それ自体さえも、
神ならぬ人が作ったものだということを忘れないで、と言いました。

それは、創世神ステイシアがこの人界を生み出した、
というユージオの常識とは違うことでした。

アズリカは右眼だけをつぶり、鋭い痛みに耐えながら、
あなたたちはきっと近いうちに知るでしょう、この世界の真実を、
と言いました。

学院敷地に、飛竜と整合騎士がいて、
ユージオとキリトはそこに連れて行かれました。

その整合騎士は、セントリア市域統括、
公理教会整合騎士――アリス・シンセシス・サーティと名乗りました。

ユージオはその整合騎士アリスを、
幼馴染みのアリス・ツーベルクが成長した姿だと思い、
整合騎士アリスの右肩に触れようとしましたが、
整合騎士アリスは鞘ごと剣帯から外し、その先端でユージオの頬を打ちました。

それでもユージオは、その整合騎士アリスが幼馴染みのアリスだと思い、
カセドラルに入ってアリスを元のアリスに戻す方法を探すことにしました。

アリスは、8年前、幼いアリスを縛めたものと、まったく同じ拘束具で、
ユージオとキリトを捕縛しました。

その時、ティーゼとロニエが、よろめきながらも懸命の歩みで近づいてきました。
ティーゼはユージオの青薔薇の剣を、ロニエはキリトの黒い剣を持っていましたが、
剣の重さのせいでティーゼたちの掌はすり切れ、血が滲んでいました。

ティーゼは、ユージオたちに剣を返す許可をアリスに頼み、
アリスは2本の剣を同時に軽々と持ち上げ、飛竜の荷入れに収めました。

ティーゼは涙を流しながら何度も謝り、今度は、
私がユージオ先輩を助けます、私……頑張って、きっと整合騎士になって、
先輩を助けに行きますから……だから、待っててくださいね、と言いました。

ロニエはお弁当の包みをキリトに渡します。

背にアリスを乗せ、両脚にユージオとキリトをぶら下げた飛竜が飛翔し、
央都の真ん中にそびえる巨大な塔、公理教会セントラル・カセドラルを目指しました。


転章Ⅲ

2026年7月6日、結城明日奈は、桐ヶ谷和人が入っているSTLを目指して、
螺旋階段を上っていました。

螺旋階段の上からロボットが下りてきて、明日奈は驚きました。

比嘉が現れ、そのロボットを≪エレクトロアクティブ・マッスルド・
オペレーティブ・マシーン≫の1号、
略して1EMON(イチエモン)と呼びました。

比嘉は、神代凜子をプログラムのチューニングに付き合わせているのでした。

その後、明日奈は、STL4号機のジェルベッドに横たわる和人の体を、
ガラス越しに見詰めました。

お見舞い後、改めて比嘉と神代凜子と話をします。

イチエモンは、アンダーワールド育ちのフラクトライトを載せるために
菊岡が造らせたロボットなのだそうです。

イチエモンはデータ収集用の試作機で、
AI搭載試験用の2号機≪ニエモン≫はもっとスマートなのそうです。
人工フラクトライトのオートバランサーは人間と同じ性能があるから、
ほぼ完全な人型ボディを実現できるかもしれないのだそうです。

その後、明日奈はラースの男性スタッフとすれ違いました。
伸ばした髪を後ろで束ね、無精ひげを浮かせた男を見て、
もしここがアインクラッドなら、
細剣の柄に指先を触れさせていたであろう感覚を感じましたが、
神代凜子に呼ばれ、歩行を再開してあれこれ考えているうちに、
感覚は薄れ、消えてしまいました。

第6章 囚人と騎士 人界歴380年5月

地下牢獄に叩きこまれた翌日の午前3時ごろ、
寝ていたキリトは目を覚まし、この牢屋から脱出する方法を、
ユージオと考えることにします。

≪ステイシアの窓≫で、壁に繋がれている腕の鎖のプロパティを確認すると、
固有のオブジェクトIDと、23500/23500という耐久度、
【クラス38オブジェクト】なる文字列が表示されました。

鎖は、キリトのものとユージオのものの、2本あってので、
それをX字に交差させ、引っ張り合います。
鎖の天命はゼロになり、壁から離れることができました。

牢屋と通路を隔てる鉄格子のオブジェクトのクラスは20、
天命値も1マン近くありましたが、
右手に残っていた鎖を振り抜いて当て、鉄格子を壊しました。

通路に出ると、獄吏のイビキが聞こえました。

囚人などめったに来ない地下牢の番を、
この獄吏は何十年も続けてきたに違いない、とキリトは考え、
右手首に嵌っている鉄輪の鍵を外すために獄吏と戦う気にはなれず、
そのまま螺旋階段を上って地下牢獄から脱出しました。

そこは、植物園であると同時に迷路になっていました。

また、その植物は、≪四大聖花≫の上に位置する、
もっとも貴重な≪神々の花≫である、≪薔薇≫でした。

≪薔薇≫が放出する空間神聖力を利用し、
青薔薇の剣と黒い剣がある場所を探すと、カセドラルの3階にあるようでした。

カセドラルに侵入する方法を考えていると、
波打つペール・パープルの髪の男の整合騎士に話しかけられました。

その整合騎士、エルドリエ・シンセシス・サーティワンは、
アリスの命令で、キリトたちの脱走に備えていたのだそうです。

キリトとユージオはエルドリエと戦うことにします。

しかし、エルドリエは神器≪霜鱗鞭(そうりんべん)≫の使い手で、
武器の本質にまで術式で組み入って、神の奇跡を攻撃力に顕す超高等神聖術、
≪武装完全支配術≫を使い、キリトとユージオを圧倒します。

キリトは≪熱素≫の攻撃型神聖術を使いますが、
エルドリエは≪凍素≫の神聖術で、キリトの攻撃を打ち消しました。

ユージオは霜鱗鞭で襲われ、噴水へと落下しました。

キリトはワイングラスの欠片を投げたり、
視線をエルドリエから外してユージオのほうへ動かしてフェイントをかけたりして、
エルドリエに鎖を振り下ろしました。
しかし、エルドリエはその鎖を左腕で受け止めます。

エルドリエは左手で鎖を掴み、
キリトは左手でエルドリエの鞭を掴み、綱引き状態になります。

キリトは右手の鎖を思い切り引っ張り、その隙に、ユージオが噴水から上がり、
エルドリエを背後から鎖で襲おうとします。

しかし、エルドリエが≪記憶解放≫の奥義、
「リリース・リコレクション」というコマンドを唱えると、
霜鱗鞭は生命を得たかのように激しく身震いし、猛烈な勢いで伸び、
先端が蛇のようになり、ユージオの鎖に噛みつき、
ユージオを近くの石畳に叩きつけました。

しかしユージオは、やっぱりさすがだ、整合騎士殿、と言いました。

この人はね、キリト――今年の、ノーランガルス北帝国第一代表剣士、
そして、四帝国統一大会の優勝者、エルドリエ・ウールスブルーグだよ!
とユージオは言いました。

ユージオは、本校舎の掲示板を毎週チェックして、その名前を知っていたのでした。

ユージオの言葉を聞いたエルドリエは、「…………なん、だと」と衝撃を受けました。

わ、私は……最高司祭アドミニストレータ様の招きを受け……整合騎士として、
天界よりこの地に…………とエルドリエは言いました。

エルドリエの額から、小さな三角柱が浮き上がってきて、
エルドリエの両手から、鞭と剣が石畳へと滑り落ちました。

三角柱は額から5センチも突き出して光っていましたが、再び額に沈み始めました。

キリトはユージオに、エルドリエについて、他に知っていることはないかと叫びます。

エルドリエは帝国騎士団将軍エシュドル・ウールスブルーグの息子で、
母親の名前はアルメラだと、ユージオは言いました。

母親の名前を聞いたエルドリエは、両眼から大粒の涙を流し、
三角柱が強く光りました。

しかし、そこへ別の整合騎士がやってきて、キリトの右足を矢で貫きました。

キリトは矢を抜き、飛竜に乗ったその整合騎士から逃げます。

分岐点に差し掛かるたび、前髪のあたりに引っ張られる感覚が生まれ、
それに従って右に曲がり左に曲がりしながら全力疾走を続けます。

ついに通路は行き止まりになってしまいましたが、
「おい、こっちじゃ!」と声が聞こえ、前方すぐ右側の策に、
いつのまにか小さな扉が出現していました。

そこから顔を覗かせて手招きしているのは、
10歳そこそことしか思えない女の子でした。

キリトは迷いましたが、前髪が思い切り前に引っ張られ、
ユージオと無我夢中で扉の中の暗闇へと飛び込みました。

女の子は、キリトとユージオを奥に進ませ、神聖術で通路ごと扉を廃棄しました。

さらに通路を進むと、超巨大図書室がありました。

女の子は、わしの名は≪カーディナル≫、かつては世界の調整者であり、
今はこの大図書室のただひとりの司書じゃ、と名乗りました。

カーディナルはスタッフ(杖)を振り、食事を出しました。
噴水に落ちて全身びしょ濡れになっていたユージオを、
カーディナルは風呂場へ案内しました。

カーディナルと2人きりになったキリトは、
あんたは、アンダーワールドの住人じゃないんだな、
この世界の外側……システムの管理者に近しい存在だ、
アンダーワールドを作った者たちの名はラース、そうだな?
と言い、カーディナルはそれを認めました。

カーディナルに勧められ、キリトが食事をとると、
料理にパラメータ操作がしてあって、傷が治りました。

お主、考えたことはあるか? この平和な人工世界に、
なぜフューダリズム(封建制)が存在するのか、とカーディナルは言いました。

この世界を生み出した外側の人間たちは、ただ入れ物を用意しただけで、
現在の社会構造を作り出したのは、
あくまで住人たるアンダーワールド人なのだそうです。

現実世界と連絡を取れる手段を持っているのは最高司祭だけで、
今は現実世界で何月何日なのかも、カーディナルにはわかりませんでした。

今より遡ること450年前、4人の外界人がこの土地に降り立ち、
2軒の農家で8人ずつの≪子供≫を育てた、という話をカーディナルはします。

しかし、その≪原初の4人≫のなかに、知性には秀でていても、
善ならざる者が1人だけ存在して、
その者がアンダーワールド人を≪汚染≫しました。

その者が子に、所有欲や支配欲といった、利己的な欲望をも伝えてしまい、
その子供が、今の人界を支配する貴族や皇族、
公理教会の上級司祭たちの祖先となったのだそうです。

この世界では、親から子が生まれる時、外形だけではなく性向も遺伝するので、
ごく一部のものだけが特権階級化していきました。

人界の絶対支配者……公理教会最高司祭にして、
今ではシステム管理者ですらある、1人の女、≪アドミニストレータ≫は、
カーディナルの双子の姉でもある、という話をカーディナルはします。

公理教会という絶対統治期期間が作られたのは、およそ350年前のことです。

人界人の人口は1000人近くになっていました。

中央を支配する2つの領主家のあいだで、初めて政略結婚のようなことが行われ、
1人の女の赤子が生まれました。
その天使のような可愛らしい容姿と、
全フラクトライトの中でも最大級の利己心を併せ持った赤子の名は、
クィネラと言いました。

(クィネラ……非常に発音しにくい名前ですね。
クィディッチより言いにくいです。)

10歳になったクィネラは、あらゆる分野に天稟(てんぴん)を示し、
クィネラを町に働きに出すのが惜しくなったクィネラの父親は、
クィネラに≪神聖術の修練≫という、かつて存在したことのない天職を与えます。

クィネラは神聖術……つまりシステム・コマンドの解析を始め、
≪炎熱の矢(サーマル・アロー)≫の術を独力で編み出しました。

この世界はもともと、権限レベルを上昇させようと思えば、
外敵を倒すか地道にコマンドを使用し続けるしかありません。

11歳のクィネラは、家の近くの森の中で、
無害なキントビギツネを相手に≪炎熱の矢≫を試し撃ちした時に、
自力でその仕組みを発見しました。

≪経験値の上昇≫は、人間を含むあらゆる動的ユニットを破壊すれば発生します。

クィネラは≪狩り≫を連日繰り返し、
当時の民にとっては奇跡にも等しい数々の術を操れるようになります。

13歳になったクィネラは、まさに神々しい美貌を得ていて、
神の名を騙ることによって、底無しの支配欲を完璧に満足させようとしました。

クィネラの血縁でなかった領主たちは、
最初のうちはクィネラの存在を快く思いませんでしたが、
全ての領主に、神の名において貴族、つまり爵士の地位を与え、
クィネラに対立するよりは従っていたほうが得だと判断しました。

これが、アンダーワールドに封建制が存在する理由です。

カーディナルの長年の思索によっても、なぜこの世界の住民が、
上位の権威から与えられた規則を破れないのか、その理由は解りませんでした。

上位規則に逆らえないのは、クィネラも同じです。
禁忌目録を作ったのはクィネラ自身なので、
クィネラは禁忌目録には拘束されませんが、
親に教えられたことを破ることはできません。

禁忌目録で殺人を禁じているのは、人間を殺せば、
殺したものの権限レベルが上昇してしまうからでした。

また、キリトとユージオを容赦なく殺そうとしたゴブリンたちも、
単なるプログラム・コードではなく、
フラクトライト原型に、殺せ、奪え、
欲望に従えという命令が与えられた≪人≫でした。

クィネラは50歳になり、60歳になり、世界で最も高い場所にある寝室の、
豪奢なベッドから出ることも叶わなくなりましたが、
しかしそれでも、クィネラは諦めようとせず、あらゆる音の組み合わせを試し、
禁断のコマンドを呼び覚まそうと足掻き続けました。

いよいよ命旦夕(たんせき)に迫った夜、クィネラは、ついに開いてしまいました。
存在するあらゆるシステム・コマンドの一覧が記してある窓を。

内部から緊急にワールドバランスを操作する必要が生じた時のために、
カーディナル・システムの全権を奪い、
真の神のなるためのコマンドも記されていました。

というあらすじなのですが、いよいよ世界の秘密が明らかになろうとしていますね。

いいところですが、11巻はここで終わり、12巻に続きます。

川原礫「ソードアート・オンライン10 アリシゼーション・ランニング」のネタバレ解説

ソードアート・オンライン〈10〉アリシゼーション・ランニング (電撃文庫)


9巻の続きです。

第2章 アリシゼーション計画 西暦2026年7月

アスナは午前4時に、ALOの中でリーファ、シノンと会い、
会議をしていました。

2日前、6月29日に桐ヶ谷和人が≪ジョニー・ブラック≫
こと金本敦に襲撃され、和人は5分強心停止しましたが、
救命措置の結果、心拍が戻り、自発呼吸も再開して、
奇跡的に和人は死地を脱しました。

その夜はICU前のベンチで明かしましたが、
翌6月30日の朝、明日奈と直葉は明日奈の家に、
和人の母親(正確には叔母)の翠は川越の自宅に一度戻りました。

午後1時ごろ、翠から電話で、和人の意識は戻らないけれど、
精密検査と高度治療のために、自宅のある川越からほど近い
防衛医大病院に転院することになった、と告げられました。

しかし、っ防衛医大病院を訪れると、明日奈も直葉も和人への面会どころか
遠隔映像を見ることさえ拒否されました。

世田谷の病院から和人が救急車で運び出されたのは確実で、
防衛医大病院には和人の入院記録が存在していますが、
ユイが監視カメラに侵入して映像を調べた結果、
和人は防衛医大病院には到着していないことが判明しました。

明日奈と直葉は、シノンこと詩乃にだけそのことを教え、
リズベットやシリカには伏せていました。

アスナは、キリトを拉致した敵の動機を考えます。

シノンは、この敵はキリトという人間に属する何かが必要だった、
と考え、キリトの≪属性≫についてアスナとリーファに訊ねました。

アスナとリーファは、反射スピード、システムへの適応力、
状況判断力、サバイバビリティ、など、VRMMOの話をしました。

シノンは、脳じゃなく、魂そのものにアクセスできるマシンは……
と言いました。

アスナはようやく、敵がソウル・トランスレーターを開発した企業
≪ラース≫かもしれないと思い当たりました。

アスナは、ネット経由でアスナの携帯端末にリアルタイムで情報を送っている、
キリトの心拍モニターのパケットをユイに追跡してもらいます。

世田谷総合病院を出た後、港区白金台を経由し、
21時50分の江東区新木場4丁目を最後に、
和人からの信号は約30時間に渡って途絶していました。

その地番に存在する施設は、東京ヘリポートでした。

また、ラースについてユイに調べてもらいましたが、
該当するものは見つからず、≪ソウル・トランスレーション≫
について言及した資料も、特許を含め一切発見できませんでした。

アスナは、キリトがエギルの店を出る時に、
単語の頭文字を並べると、ALICEと言っていたのを思い出しました。

ユイはそれを≪Artificial Labile Intelligence≫、
≪高適応性人工知能≫と推測しました。

AI(Artificial Interlligence)は人工知能という意味です。

ユイは、人工知能には≪トップダウン型人工知能≫と
≪ボトムアップ型人工知能≫があるのだと説明します。

トップダウン型は、ユイを含め、現在人工知能と呼ばれているものの
ほぼ全てがこのトップダウン型で、
質疑応答プログラムに徐々に知識と経験を積ませ、
学習によって最終的に本物の知性に近づけようというものです。

ユイに言わせれば、トップダウン型人工知能というものは、
現状では真に知能と呼ばれるレベルには達していないのだそうです。

もうひとつのボトムアップ型人工知能は、
脳細胞が1000億個連結された生命器官の構造そのものを、
人工の電気的装置によって再現し、そこに知性を発生させよう、
という考え方です。
ボトムアップ型が実現すれば、そこに宿る知性は、
人間と真に同じレベルにまで達しうる存在となるのだそうです。

ラースが国に繋がっている研究機関なんだとしても、
絶対に予算は隠しきれない、とシノンは言いました。

ユイは各省庁概算要求データにアクセスし、
国土交通省の海洋資源探査艇開発プロジェクト、
という研究を見つけました。
油田やレアメタル鉱床を探すための潜水艇に搭載するAIを
開発するための予算ですが、
優先度に対して金額が大きいので検索フィルターに残ったのだそうです。

プロジェクトが置かれているのは≪オーシャン・タートル≫で、
4本の足と四角い頭、ピラミッドの甲羅模様があり、
カメのように見えました。
でも、頭の一部が平らに突き出していて、ブタのようにも見えました。

亀でもあり……豚でもある……≪ラース≫!
と、アスナ、シノン、リーファは叫びました。

場面が変わり、カリフォルニア工科大学で働いている、
神代凛子(こうじろ・りんこ)博士の視点になります。
神代凜子は、茅場晶彦がSAOに長期ダイブ中、茅場の介護をしていた人物です。

凜子は東京・新木場からヘリコプターに乗り、
伊豆諸島の遥か沖合いに浮かぶ、
オーシャン・タートルのヘリポートに着陸しました。

出迎えた中西一等海尉に、凜子は金髪の助手のマユミ・レイノルズを紹介し、
第一制御室に案内されました。

その部屋の窓には、キリトがいるアンダー・ワールドの映像が映っていました。

総務庁に出向中の自衛官、
菊岡誠二郎二等陸佐が浴衣と下駄履きという出で立ちで現れ、
中西は去りました。

菊岡の他に、比嘉(ひが)タケルという童顔の男もいました。
比嘉は凜子の大学の後輩で、
茅場晶彦と須郷伸之と同じ研究室にいたこともありました。

菊岡は凜子のことを、
このプロジェクトにどうしても必要だと考えていた3人の人間の、
最後の1人だと言いました。

3人のうち1人は比嘉で、最後の1人は「今は紹介できないんだ」と
菊岡は言いました。

しかし、凜子の≪助手≫であるマユミ・レイノルズが、
代わりにわたしが名前を言ってあげるわ、
と言い、金髪のウィッグとサングラスを外しました。

その正体は、明日奈でした。

大学で凜子の助手を務めるマユミ・レイノルズの学籍データベースの写真を、
明日奈の変装した顔に差し替えし、潜入していたのでした。
本物のマユミ・レイノルズは今ごろサンディエゴで肌を焼いているのだそうです。

回想です。

4日前の7月1日、神代凜子のアドレスに明日奈から、
事情の説明と、どうか、力を貸してください、と書かれたメールが届きました。
凜子のアドレスは、和人のPC内のアドレス帳から見つけたのだそうです。
凜子は日本出国前に1度だけ和人と会ったことがありました。

回想終わりです。

菊岡は和人を拉致したのは、和人を助けたかったからだと言いました。

和人の脳は、低酸素状態による損傷を受け、
脳の、重要なネットワークを構成していた神経細胞の一部が破壊されてしまい、
現代医学では治療不可能でした。

だが、世界中でもこのラースにだけ、和人を治療可能な技術、
STL(ソウル・トランスレーター)があります。
死んだ脳細胞は治療できませんが、
STLで直接フラクトライトを賦活すればネットワークの再生を
促進することはできます。

治療が終わり、和人の意識が戻ったら、
家族や明日奈にすべて説明したうえで東京に送り届けるつもりだったのだそうです。

凜子は、そもそもなぜSTLの開発に桐ヶ谷君が必要だったの?
と訊ねました。

過去に凜子が提供したデータをもとに、
比嘉が解像力を高めて作り出したSTLは、
ついに人間の魂≪フラクトライト≫という量子場を捉えることに成功した、
という話を菊岡はします。

魂をコピーし、1辺5センチのプラセオジミウム結晶構造体、
≪光量子ゲート結晶体≫、通称≪ライトキューブ≫に保存できます。

つまり、菊岡達はすでに、人の魂の複製には成功していました。

菊岡は、比嘉のフラクトライトをサンプリングしたものを、
凜子と明日奈に見せます。

そのサンプリングは、最初は本物の比嘉と同じように受け答えしていましたが、
自分がコピーであると説明され、それを理解すると、
『ディル、ディッディッディル、
ディルディルディルディルディ―――――――――』
と叫び、精神が崩壊してしまいました。

比嘉は140近いIQを持つ天才ですが、その比嘉のコピーにして、
己がコピーであるという認識に耐えることができませんでした。
菊岡を含め、10人以上の人間のフラクトライトを複製しましたが、
結果は一緒でした
ロードしてから平均3分で思考ロジックが暴走し、崩壊してしまいます。

菊岡は、生まれたばかりの赤ちゃんの魂をコピーし、
無垢なフラクトライトを手に入れました。

フラクトライトというのは、生まれたばっかりの時は、
遺伝子ほどには個人による差がなく、
12人の新生児のサンプルから0・02パーセントの差異を削除し、
得られたそれらを、≪精神原形≫、
≪ソウル・アーキタイプ≫と呼ぶことにしました。

その≪ソウル・アーキタイプ≫を育てるのに、
現実世界の精巧なシミュレーションを作り上げることは、
いくらSTLでも不可能です。

限定的な地勢で、習俗なんかも好き勝手に設定できて、
厄介なトラブルは≪魔法≫の一言で片づけられる世界、
≪ザ・シード≫を使ったVRMMOで育てることにしました。

STLのメインフレーム内に仮想世界を作るだけなら3Dデータは要らないけど、
それだとつまらないので、ザ・シードの付属エディタでSTL用の
ニーモニック・ビジュアルに変換したのだそうです。

つまり、その世界は二重構造になっていて、
下位サーバーでは汎用データ形式のVRワールドが動いていて、
上位のSTLメインフレームでは専用形式のVRワールドが動いていて、
その2つがリアルタイム変換されている、ということです。

下位サーバーのほうは、稼働速度を1倍まで引き下げれば、
STLを使わなくても従来のアミュスフィアでダイブできるのだそうです。

一番最初に作った村では、
4人の男女スタッフがSTL内部で18年間にわたって
農家の主とその妻を演じ、AIの赤ん坊16人を18歳程度まで成長させました。

ソウル・トランスレーターには主観的時間を加速させる機能があるので、
内部の18年間は1週間程度でした。

STLの時間加速倍率は数千倍以上で動かすことができるのです。

理論的には、思考クロックをどれだけ加速しても脳組織が損傷することは
有り得ないと比嘉達は考えていましたが、生体組織としての脳とは別に、
魂自体にも寿命があるんじゃないか、という意見があり、
今のところは最大でも1500倍ほどに制限しているのだそうです。

≪魂の寿命≫は150年ほどと見積もっていて、
30年程度ならSTL内部で消費しても問題ないと考えているのだそうです。

最初の16人の赤ん坊が成長すると、8組の夫婦とし、
それぞれの家と農地を持たせて独立させました。

親をつとめた4人のスタッフは、その後流行り病によって相次いで
≪死去≫し、STLから出て、18年間の記憶はブロックされました。

人間のスタッフがログアウトした以上、FLAの倍率を気にする必要もなくなり、
内部世界の時間流を一気に現実の5000倍まで引き上げ、
現実世界での3週間、内部世界での300年に及ぶシミュレーションをし、
人口は8万人になりました。

しかし、人工フラクトライトたちにも、
人間と同じような欲望はあるはずなのに、一切の争いがおきませんでした。

彼らには、生来的な性質として、法を、規則を破ることはできない、
という問題がありました。

凜子には、それのどこが問題なのかわかりませんでしたが、
それでは、菊岡さんたちには困るんですよ、
この巨大な計画の最終的な目標は、
戦争で敵の兵士を殺せるAIを作ることなんだから、と明日奈は言い当てました。

菊岡は最初から、無人兵器を自律的に動かすAIを開発しようとしていました。

殺人は原則として悪、だが戦時下においては敵兵を殺すのもやむなし、
という矛盾する思考を、
現状の人工フラクトライトたちは受け入れることができません。

菊岡達は、アンダーワールドの住民たちの遵法精神を試すべく、
孤立した山村の畑の作物と家畜の7割を死滅させました。
村の全員が冬を越すのは到底不可能な状況で、
一部の住民を切り捨て、食料の分配を偏らせなければなりませんでした。
でも、禁忌目録の殺人禁止条項に背くことができず、
春が来る前に、全員が餓死しました。

現状の人工フラクトライトをロボットとして兵器に搭載しようとすれば、
≪人間は殺すべきもの≫という第一原則を与えなければなりませんが、
それがどんな状況を生むか、菊岡にも想像できました。

菊岡達は米軍から身を隠すために海のど真ん中を漂っていました。
現在の日本には、自前の防衛技術基盤があまりにも不足し過ぎていて、
アメリカに頼ったままで本当にいいのかと、一部の自衛官と、
中小の防衛関連メーカーの一部は危機感を抱いていて、
ラースを設立したのでした。
何か1つでいい、日本独自のテクノロジーを生み出したい、と。

しかし、菊岡達はその理念をキリトにはいっさい話していないと、
明日奈は見抜きました。
菊岡達には、人工知能たちの権利、という視点が欠け落ちているからです。

しかし菊岡は、解らないな、人工フラクトライトに生身の肉体はない、
それが仮の命でなくてなんだと言うんだい? と言いました。

アインクラッドの56層のボスモンスター攻略のときに、
NPC……つまりAIの村人を囮にする作戦をギルドが主張しましたが、
キリトは、絶対にだめだ、NPCだって生きてる、と言った、
という話を明日奈はしました。

しかし、菊岡にとっては、10万の人工フラクトライトの命は
1人の自衛官のそれよりも軽く、答えのない議論でした。

なぜ、アンダーワールドの住民たちは禁忌目録に背けないのか、
それはライトキューブに保存されたフラクトライトの持つ構造的な問題なのか、
あるいは育成家庭に下人があったのか、菊岡たちは議論を重ね、
ひとつの実験を試みました。

8人のスタッフ、つまり本物の人間の記憶を全てブロックし、
幼い子供に戻して、アンダーワールドの中で成長させました。

結果は、10歳になり実験が終了するまで、
禁忌目録を破ったものは1人もいませんでした。
むしろ人工フラクトライトの子供たちよりも非活動的で、
外に出ることを嫌い、周囲と馴染めない傾向を示しました。

仮想世界では重力感覚が現実世界と異なるため、
違和感があるせいだと菊岡たちは考えました。

年単位で仮想世界での動作に慣れている被験者が必要だということになり、
キリトが選ばれたのでした。

≪3日間の連続ダイブ≫というのは嘘で、
本当は10年、キリトはアンダーワールドで生活していたのでした。

キリトは幼児期から他の被験者には見られなかった旺盛な好奇心と活動性を示し、
何度も禁忌目録違反の寸前まで行ってはお仕置きを受けていました。
内部時間で7年ほど経過した頃、
キリトといつも一緒に行動してた人工フラクトライトの少年と少女の違反指数が、
突出して増大しはじめました。
キリトは周囲の人工フラクトライトの行動に強い影響を及ぼしていたのです。

キリトと最も近しい存在だった少女、アリスが、
実験が終了する直前、ついに禁忌目録に背きました。
アリスの視界内の移動禁止アドレスで他の人工フラクトライトが
ひとつ死亡していて、それを助けようとしたのでした。

しかし、アンダーワールド内は対現実比1000倍という凄まじいスピードで
時間が経過しているので、それをリアルタイムに監視するのは不可能です。

菊岡や比嘉たちは、
アリスが禁忌目録に違反したのを発見した時点でサーバーを停止し、
アリスのフラクトライトを保存するライトキューブを
物理イジェクトしようとしましたが、
その時にはすでに内部時間で約2日が経過していて、
公理教会はそのあいだにアリスを央都に連行して、
フラクトライトにある種の修正を施してしまいました。

比嘉は観察対象にそこまでの権限を付与していませんでしたが、
連中はシステムの抜け道を見つけていたのでした。

菊岡や比嘉は、禁忌目録に違反した少女の名前がアリスだと知ったとき、
恐るべき偶然に驚愕しました。

それは、すべての計画の礎となったひとつの概念に与えられた名称でもあったからです。

人工高適応型知的自律存在、アーティフィシャル・レイビル・インテリジェント・
サーバネーテッド・イグジスタンス。
頭文字を取って≪A.L.I.C.E≫です。

菊岡の目的は、人工フラクトライトを≪アリス化≫させることでした。

ようこそ、我らが≪プロジェクト・アリシゼーション≫へ、と菊岡は言いました。

その後、凜子と明日奈は、安岐という女性にオーシャン・タートルを案内してもらい、
ソウル・トランスレーターの4号機と5号機を見せてもらいます。

試作1号機は六本木の分室にあり、2号機・3号機はロウワー・シャフトにあり、
4号機・5号機はアッパー・シャフトにありました。

ピラミッド内部のメイン・シャフトは上下分割された構造になっていて、
その上側をアッパー・シャフト、下側をロウワー・シャフトと呼んでいました。

和人は4号機の下部に接続されたジェルベッドに横たわっていました。

案内をしている安岐は、5巻6巻などで、
千代田区の病院に勤める看護師として登場していたキャラクターです。
看護師なのは本当ですが、卒業した学校が≪自衛隊東京病院高等看護学院≫で、
安岐は看護師であると同時に自衛官でもありました。

その後、凜子と明日奈は一等船室に泊めてもらうことになりました。

午後8時、凜子は明日奈の部屋を訪れ、
話しておかなくちゃならないことがあると言いました。

凜子は、胸骨の少し左を斜めに走る切開痕を明日奈に見せます。
遠隔起爆型マイクロ爆弾が埋め込まれていた場所ですね、
それで先生……凜子さんは、2年間も団長……茅場晶彦に脅迫されていた、
と明日奈は言いました。

世間ではそういうことになっていて、だから凜子は不起訴処分になり、
名前も公表されずアメリカに脱出できました。

でも、本当は違うの、と凜子は言いました。
警察病院で摘出された爆弾は本物で、起爆も可能でしたが、
カモフラージュで、凜子が罪に問われないように、
茅場晶彦が埋め込んだものだったのだそうです。

回想です。

凜子と茅場は、凜子が大学に入った年から付き合い始め、
修士課程が終わるまで6年のあいだ恋人同士でした。

日本で有数の工業系大学に、ストレートで進学したその時点で、
茅場はすでにアーガス第三開発部の長たる立場で、
年収は億を超えていました。

しかし、当初凜子はそんなことを知らず、
1歳年上の茅場に対し、養分の不足した豆もやし、
という第一印象を抱き、「たまにはお日様を見ないと出るアイデアも出ね!」
と叱り、ぼろぼろの軽自動車で湘南まで引っぱり出しました。

その数年後、凜子はニュースでSAO事件を知りました。
茅場は行方不明になっていましたが、凜子は昔、
茅場の車のカーナビの履歴に、長野の山奥の座標が残っていたのを思い出し、
警察の監視を撒いて、1人で長野に行きました。

凜子は茅場を殺すつもりで、サバイバルナイフを持っていましたが、
茅場は「困った人だなあ」とだけ言って、
またナーヴギアをかぶってアインクラッドに戻っていきました。

茅場は髭ぼうぼうで汚れ放題で、腕に点滴の痕がいくつもありました。

回想終わりです。

その話を聞いた明日奈は、
わたしも、キリト君も、凜子さんを恨んだことは1度もありません、
と言いました。

明日奈は、あの世界でキリトと暮らした短い日々を、
人生最良のひとときと思っていました。

団長に罪があるように、わたしにも、キリト君にも、
そして凜子さん、あなたにも罪はある……、
わたしたちは、自分の罪と向き合い続けていかなければならないんです、
と明日奈は言いました。

その夜、凜子は学生時代の茅場の夢を見ました。
本当に、困った人だな、こんなところまで来るなんて、
という声が聞こえ、凜子が薄く眼を開けると、暗闇のなか、
ベッドの傍らに長身の人影が立っているのが見えた気がしました。

ドアの開閉音が聞こえ、凜子は飛び起き、通路に出ましたが、
通路は無人でした。


第3章 ザッカリア剣術大会 人界歴 378年8月

キリトとユージオを、誰かが観察し、不思議な子たち、と考えていました。
その≪観察者≫は体がとても小さく、
キリトとユージオの世話を焼くのが好きなおばさんっぽい性格のキャラです。

3章はこの≪観察者≫の視点で進みます。

≪観察者≫は、天命を永久凍結され、
二百数十年≪マスター≫の使い魔として生きてきました。

163日前、≪マスター≫に命令され、
そのキャラはキリトとユージオの直接観察を命じられ、
央都セントリアからやってきました。

剣術大会の前夜、納屋で眠るキリトの腹が剥き出しになっているのを見て、
キリトが風邪を引かないように、
≪観察者≫は神聖術でワラをキリトの腹にかけてあげ、
定位置のキリトの前髪の中に戻り、隠れました。

明くる8月最後の日の朝、キリトとユージオは馬の世話の仕事をしました。
ルーリッドの村を出て、人口1958人のザッカリアの街に着いてから半年間、
キリトとユージオは農場で5ヶ月間働いて、お金を稼いでいました。

農場主の女主人と、その娘たち、双子のテリンとテルルに応援され、
キリトとユージオは≪ノーランガルス北域剣術大会≫の会場に向かいます。

剣術大会は毎年、8の月28日に開催され、
50人以上の参加者が集まります。
原則的にはその全員が故郷で≪衛士≫の天職に就く者たちです。

ザッカリア衛兵隊への入隊が許されるのは、
大会の東西ブロックを勝ち抜いた2名だけです。

会場に着く前に、キリトは暴れ馬に襲われそうになりましたが、
馬の首に密着し、ユージオ、後ろだ! と言いました。
ユージオが馬の尻尾の付け根から害虫≪オオヌマアブ≫を引き剥がすと、
馬はおとなしくなりました。

オオヌマアブは7キロル離れた濁り沼にしか出現しない虫類オブジェクトで、
キリトは妙だと言いました。

腹ごしらえをし、出場者登録窓口でルーリッド村長直筆の証書を見せ、
名前を書き、剣技の流派には≪アインクラッド流≫と書きました。

受付の衛兵から番号札をもらい、大会の説明を聞きます。

11時30分に会場の控え室に入り、
クジによって東組、西組に分けられ、試合用の剣を貸与され、
12時に予選が始まります。
型の演武で、ひと組が8人まで絞られ、
2時からの本番でトーナメントを行い、
東西ブロックで2人の優勝者にザッカリア衛兵の天職が与えられます。

キリトとユージオが同じ組になったらどうするのか、
というのを2人は何も考えていませんでした。

仕方ないか、でも、ほんとにこれっきりですからね、坊やたち、
と≪観察者≫は考えました。

キリトは控え室で54人の猛者たちが座る椅子の間を歩き、
2列目の長椅子の、いちばん奥に座ってる若い奴、
あいつと試合することになったら気をつけろよ、
何かしてくるかもしれない、とユージオに囁きました。

キリトがクジを引くときに、≪観察者≫は箱の穴へ飛び込み、
キリトが青――西ブロックの球を引いたのを見ました。

次のユージオがクジを引くときには、
≪観察者≫は赤の球を握らせ、引かせました。

また、キリトが気をつけろと言っていた、イゴームという名前の衛兵見習いには、
キリトと同じ青の球を引かせました。

正午になり、型の演武が始まります。

型の演武に自信がないキリトは、本来10秒かける1番の型を2秒で演じ、
そのまま速度を緩めることなく、10番の型まで演じました。
速く動けば、指先とかつま先の微妙なズレくらいなら、
審査員にも見えないと思ったのだそうです。

キリトもユージオも予選を突破し、本選が始まります。

禁忌目録によって、
≪別項に挙げる理由なく他者の天命を故意に減少させてはならない≫
と定められているため、地方レベルの剣術大会では、寸止めが厳守されます。

キリトは初戦でイゴームと戦うことになります。
イゴームは奇襲による寸止め決着を狙いましたが、キリトはその剣を受け止め、
あんた、ネジレヅタの匂いがするぞ、と言いました。

ネジレヅタは乾かしてから燃やして、
その煙でオオヌマアブのような害虫を麻痺させることができます。

キリトは控え室で参加者の間を歩き回り、
ネジレヅタの匂いがする人を探していたのでした。

キリトは切り結ばれたままの剣を強く一押しし、
相手の体勢を崩そうとしましたが、キリトの剣が刃毀れしました。

キリトの剣は他の参加者と同じくクラス10オブジェクトでしたが、
イゴームは剣の貸出係だった衛兵をだき込み、
業物のクラス15オブジェクトの剣を借りていたのでした。

イゴームはザッカライト流秘奥義≪蒼風斬(ソウフウザン)≫を使おうとしましたが、
キリトはアインクラッド流二連撃業≪スネークバイト≫を使い、
イゴームの剣を撃ち砕いて勝利しました。

キリトとユージオは衛兵隊への入隊許可を得て、
翌年の春、帝立修剣学院に入学しました。


第4章 帝立修剣学院 人界歴380年3月

3章のザッカリア剣術大会から、いきなり時間が1年半も飛びます。

ルーリッドでギガスシダーを倒し、村を出たのが2年前、
その半年後にザッカリア衛兵隊に入り、さらに半年後に央都に上って、
1年が経過しました。

キリトがアンダーワールドに来てから、もう2年も経ったことになりますが、
現実比1000倍に加速していたとすると、
現実世界では1日も経っていないはずでした。

キリトは帝立修剣学院初等錬士になり、
上級生のソルティリーナ・セルルトという女性の先輩、
通称リーナ先輩の≪傍付き≫になっていました。

ソルティリーナは、ノーランガルス帝国貴族の嫡子にして帝立上級剣士次席で、
表紙の右側にいるキャラです。

修剣学院は2年制の剣術の学校で、1年生は初等錬士、2年生は高等錬士です。
ソルティリーナは2年生の中で2番目に強い、ということです。

キリトはセルルト流の極意、≪活水(カッスイ)≫なる技を、
1年かけて教えてもらっていましたが、いまだ自分のものにはできていませんでした。

セルルト流は剣の他に鞭(むち)なども使う流派です。

≪ステイシアの窓≫を開いても、そこには天命(ヒットポイント)の現在値/最大値と、
≪OC(オブジェクトコントロール)権限≫
≪SC(システムコントロール権限≫のレベルが表記されているだけです。

そのうち、OC権限が武器防具の操作に、SC権限が神聖術の操作に関わりますが、
力の強さはその他にも年齢、体格、健康状態、
長期間の経験や修練など幾つものパラメータが影響します。

キリトとユージオは、来月には高等錬士の新旧試験を受け、
そこで上位の成績を収めた12人が上級修剣士に任ぜられます。

アリスと再会するというユージオ、
この世界の≪管理者≫と対面するというキリトの目標からすれば、
まず上級修剣士になる必要があります。
最終的には主席・次席になり、卒業後に開催される皇帝御前試合、
≪ノーランガルス北域剣武大会≫に出場し、優勝し、
4帝国統一大会を勝ち抜き、≪整合騎士≫の資格を得ないといけません。

1学年ぴったり120人なので、
キリトとユージオ以外の118人を凌駕する必要がありますが、
こんなに強いリーナ先輩ですら≪1番≫ではないと思い、キリトは不安に思っていました。

ソルティリーナは修練場で稽古をしながら、
最後だから言うが……お前の≪アインクラッド流≫には、
私にも見せていない先があるだろう、と言いました。

アンダーワールドには、基本的に実践は存在しませんが、それは、
ワンダーワールドの剣士たちが技に於いて劣るということではありません。

≪型≫の修練を無限回繰り返し、磨き上げた一撃の威力は、
生半可な実践経験など軽く両断してしまいます。

この世界では、魂――フラクトライトから発せられるイメージの強さが、
時として物事の結果を左右します。

修剣学院の生徒の大部分は天職≪貴族≫の家に生まれ、
ほんの3、4歳の頃から剣技の英才教育を受けてきたエリートです。

しかし、各流派の秘奥義(SAOのソードスキル)は、
基本の単発技しか知らない、あるいは使えないようで、
キリトの知る2連撃、3連撃といった上位のソードスキルは、
エリート剣士たちの一撃必殺の剛剣に対抗できる数少ない武器です。

セルルト家は、遠い祖先が皇帝の不興を買ったがゆえに、
正統剣術たる≪ハイ・ノルキア流≫の伝承を禁じられた家系なのだ、
とソルティリーナは言います。

ソルティリーナは流派唯一の伝承者であることを誇りに思っていましたが、
ソルティリーナの父は、ソルティリーナが主席で卒業し、
御前試合でも優勝して、セルルト家の名誉を回復することを期待していました。

しかし、皇帝からハイ・ノルキア流伝承の赦しを得られたとして、
その時、セルルト流を捨てるのなら、
ソルティリーナがセルルト流に抱いてきた誇りとはいったい何だったのか、
とソルティリーナは悩んでいました。

ソルティリーナはそんな迷いを抱え続けていたせいか、主席上級剣士の、
二等爵家の跡取りのウォロ・リーバンテインという男に、
2年間勝つことができませんでした。
ウォロの≪天山裂破(テンザンレッパ)≫、
SAOの両手剣垂直斬り≪アバランジュ≫の構えと相対すると、
ソルティリーナは竦んでしまいました。

ちなみに、第3席のゴルゴロッソ・バルトーという巨漢の傍付きを務めるのが
ユージオです。

2日後の≪卒業試合≫で最終的な序列が決定され、
翌日にはソルティリーナたち高等錬士は学院を卒業していきます。

キリト、私は、お前の秘めたるその強さを見てみたい、
この学院を卒業する前に、お前という剣士の全てをな、
とソルティリーナは言いました。

試合や稽古に使われるクラス15の木剣では3連撃以上の技は発動できないので、
ユージオにクラス45の神器≪青薔薇の剣≫を貸してもらうことにします。

1日待ってもらうことにしますが、明日は安息日でした。

しかしキリトは、修剣士が卒業する前日に、
傍付き剣士が贈り物をする慣習があるので、贈り物は剣技にすると言いました。

ソルティリーナは、キリトを傍付きに指名するにあたって、
≪貴族の子女が傍付き錬士を選ぶ時は、同じ貴族の、
しかし等級が自分より低い家出身の者を指名するべし≫
という慣習を破っていた、という話をしました。

この世界の住人は規則を破ることはできませんが、
これは明文化された規則ではなく慣習なので、
ソルティリーナにも破ることができました。

ノーランガルス北帝国には≪一等爵士(しゃくし)≫から≪六棟爵士≫が存在し、
その上に皇帝家あります。

キリトやユージオは平民です。

この学校の生徒はほとんどが貴族や豪商の子供で、庶民出身は2割しかいません。
また、募集枠からして別で、キリトとユージオは、
半年の苦労の末に受験に必要なザッカリア衛兵隊長の推薦状をゲットしましたが、
貴族なら無条件で受験できました。

人界最大の都市≪央都セントリア≫は、直径10キロル(キロメートル)の
真円を描く城壁に囲まれています。
アインクラッドの第1層と形も面積もまったく同じですが、
人口は2万を超えています。

また、円形の市街を、堅固な壁がX字に4等分し、
≪北セントリア≫≪東セントリア≫≪南セントリア≫≪西セントリア≫に分かれ、
広大な人界を東西南北に分割支配する4つの帝国それぞれの都でもあります。

央都のど真ん中には、純白の巨塔、公理教会セントラル・カセドラルがあり、
公理教会には≪司祭≫や≪元老≫などの文官のほかに、
≪整合騎士≫なる武官がいます。

キリトは、ユージオなどこの世界で出会った人々を、
単なるAIだとは思っていなくて、
ただ魂の容れ物が異なるだけの、まったく同じ人間だと思っていました。

ソルティリーナとの最後の稽古を終え、キリトは寮に戻ります。

厳しい寮監のアズリカ女史にお説教され、
庶民出身専用の10人部屋の206号室に戻り、
遅刻したことをユージオに謝ります。

ユージオは今年でもう19歳になり、
体つきも逞しくなり、3センチほど背が伸びていました。

食道へ行くと、三等爵家の長子のライオス・アンティノスという男と、
その手下的存在の四等爵家の出のウンベール・ジーゼックという男から、
嫌味を言われます。

一等爵家の子供は家庭教師をつけられるので、この学院にはいなくて、
二等爵家出身の子供もウォロをはじめとする数人しかいないので、
三等というのはかなり上位です。

ライオスとウンベールは凄く傲慢で嫌味な性格で、
スネ夫やマルフォイの嫌なところだけを凝縮したようなキャラです。

キリトとユージオは食事後、中庭にある≪畑≫に行きます。

正方形の庭は4つの花壇に区切られ、神聖術の授業で使う触媒の素材となる、
4種の草花、≪四大聖花≫が育てられていました。
開花の時期が3ヶ月ずつずれているため、1年を通して実を収穫できます。

干した実を指先で叩くと、周囲に神聖力を放出するので、
それをリソースに生徒が術式の練習をします。

キリトはプランターで、≪ウェスダラス西帝国≫の固有種である、
ゼフィリアという花を育てていました。
香辛料商人から買った種を植えましたが、今まで3回とも、
花を咲かせることはできず、今回が今年最後のチャンスでした。

ゼフィリアはノーランガルスの土では芽吹かないと言われていますが、
それはこの世界の人間たちがそう信じているからだ、とキリトは考えました。
もしキリトが≪住民の常識≫を超える強度のイメージを数十粒の種に集中させ、
ゼフィリアのバッファデータを上書きできれば、
花を咲かせることができるのではないか、と考え、実験しているのでした。

その後、ユージオに青薔薇の剣を貸してほしいと頼みますが、
明日の安息日は3の月7日で、あれが出来上がる日だとユージオに指摘されました。

翌日、サードレという細工師のところへ行き、
ギガスシダーの枝を削って作った剣を渡されます。
サードレはガリッタ老人の知り合いで、キリトの剣を作ってくれたのでした。

キリトがこの「化け物」の剣を振れるなら、研ぎ代はタダにしてくれると言われ、
キリトは、深い黒に染まった、わずかに透明感のある剣を振りました。

銘はキリトが考えることになり、お礼を言って店を出ようとすると、
売り物のバックラーが中心から真っ二つに断ち割られ、
右半分を床に落下させました。
キリトが試しに剣を振った際の衝撃で壊れてしまったのでした。

バックラーを弁償し、寮に戻り、寮監のアズリカ女史に頼み、
クラス46の剣の持ち込み許可をもらいます。

その時、アズリカ女史は、あなたには……その剣の記憶が……と何か言いかけましたが、
そこで言葉は途切れました。

キリトは東の森の中で、剣を試し振りして連撃の練習をしました。

4連撃技までは発動できましたが、5連撃以上の大技は使えず、
キリトは草地に倒れ込みました。

斬撃によって吹き飛ばされ、土と草の混合物が大量に空中を舞い、
その向こうにひっそりと立っていた
ウォロ・リーバンテインの純白の制服を汚してしまいました。

キリトは懲罰として、大修練場で、
立ち合い1本、試合形式の修練を命じられました。

その噂を聞いたユージオがソルティリーナ・セルルトに報告し、
ソルティリーナが駆けつけ、ウォロに抗議しました。

ウォロは寸止めの立ち合いはしない主義で、試合は一本先取となります。

大修練場には50を超える生徒が集まりました。

昨日、キリトの全てをソルティリーナに見せると約束していましたが、
ソルティリーナは、ここで見せてくれ、キリト、お前の持てる力と技の全てを解き放ち、
ウォロ・リーバンテインに勝て、と激励しました。

試合が始まり、ウォロの≪天山裂破≫を、4連撃≪バーチカル・スクエア≫で迎撃します。

鍔迫り合いになりましたが、キリトはあらん限りの筋力と意志力を振り絞り、
ラスト4連撃を放ちますが、バーチカル・スクエアは突進技ではなかったため、
ウォロには届きませんでした。

そこまで!! とアズリカ女史が審判のような指示をし、引き分けになりました。
ウォロは、あの方の裁定ならば、従わぬわけにはいくまい、
あの方は、7年前の4帝国統一大会に於ける、ノーランガルス北帝国第一代表剣士だからだ、
とキリトに小声で言いました。

ウォロが懲罰の終了を宣言すると、ソルティリーナがキリトの両肩を叩き、
お前の戦いぶりに、私はとても大切なものを学んだ、
私がセルルト流の後継者であることを、いま心の底から誇りに……嬉しく思っている、
……お前の指導者となれたこともな、と言いました。

ソルティリーナの部屋で、ユージオとゴルゴロッソも交え、
≪引き分けおめでとう会≫があり、その後、キリトは中庭に行きました。

そこで、ライオスとウンベールに嫌味を言われ、これを進呈しようと言われ、
ゼフィリアの花の蕾を胸ポケットに挿されました。

ライオスとウンベールがいなくなった後、プランターを確認すると、
キリトが育てていたゼフィリアの苗は、
その全てが、茎の半ばから無残に引きちぎられていました。

プランターに満たされた黒い土は、央都の外、
誰の所有地でもない原野から運んできたものだったため、キリトの所有権が発生せず、
他人の所有物を故意に損壊するという禁忌目録違反にはならなかったのでした。

キリトは、両眼から涙を溢れさせ、……ごめんよ……と掠れ声で言いました。

イメージ力の実験や、一度でいいから本物のゼフィリアを見てみたい、
と言ったソルティリーナの望みを叶えてあげるため、という理由以外に、
異国の地で懸命に咲こうとしている花たちに、キリトは自分自身を重ねていました。

しかし、――信じなさい、異国の土でここまで育った花たちの力を、
そして、その花をここまで育てた、あなた自身の力を、
と女性の不思議な声が聞こえました。

あらゆる術式は、≪シンイ≫……イメージ力を導き、整えるための道具に過ぎないわ、
と言われ、キリトは4種類の聖花の神聖力をゼフィリアの根に流しました。
ゼフィリアの茎は、再び伸び始め、ありがとう、とキリトは言い、
俺の領土だぞ、と宣言するために校章のピンをプランターに立てました。

寮舎に戻る途中、キリトは飛竜を目撃しました。

3月の末、ソルティリーナは最後の対戦となる卒業トーナメント決勝戦で、
ウォロを破り、第一位の成績で卒業しました。
別れの時、キリトが満開のゼフィリアの鉢植えを差し出すと、
ソルティリーナは初めて満面の笑みと、涙を見せてくれました。


転章Ⅱ

上級修剣士になったキリトとユージオは、
ティーゼとロニエという下級生の女子を傍付きにしていました。
転章Ⅱでは、そのシーンが短く書かれています。

というあらすじなのですが、10巻はこれで終わりです。

9巻に引き続き、10巻も専門用語が多数出てきて、書くのが大変でした……。

でも、異世界で学校に通うというのは、
ソードアート・オンラインシリーズでは初めてのことなので、新鮮で面白かったです。

この話は、11巻に続きます。

川原礫「ソードアート・オンライン9 アリシゼーション・ビギニング」のネタバレ解説

ソードアート・オンライン (9) アリシゼーション・ビギニング (電撃文庫)


この9巻から、長い長い長いアリシゼーション編が始まります。

プロローグⅠ 人界歴372年7月

12歳のユージオと、同じく12歳で幼馴染にして大親友のキリトは、
≪巨人の大杉≫を意味する≪ギガスシダー≫に、
≪竜骨の斧≫を振っていました。

……いきなりキリトが12歳に若返っていて、
しかも「人界歴」とか「ギガスシダー」とか、
専門用語が登場しますが、その説明は中盤までありません。
あまり気にせずに読み進めればいいです。

ユージオというのは、表紙の右側にいる亜麻色の髪の少年です。

去年の春、ユージオはキリトと一緒に村長の家へと連れていかれ、
≪巨樹の刻み手≫という≪天職≫を与えられました。

ギガスシダーは、ユージオとキリトが暮らす≪ルーリッドの村≫が拓かれる
遥か以前からこの地に根を張っており、
最初の入植者の時代から村人は延々と樹に斧を入れ続けていました。

初代の刻み手から数えて、ユージオとキリトが7代目であり、
ここに至るまでにすでに300年以上の時が費やされていましたが、
樹の切り目は1メル(1メートル)にも満ちませんでした。

樹を切り倒すには、あと900年、18代くらいかかる計算です。

ギガスシダーは、その巨体とありあまる生命力ゆえに、
周囲のとてつもなく広い範囲から、陽神と地神の恵みを奪い去ってしまいます。

ルーリッドの村は、≪人界≫を分割統治する4大帝国の1つ
≪ノーランガルス北帝国≫の、更に北部辺境に位置します。

村は北、東、西の3方を急峻な山脈にかこまれていて、
畑や放牧地を広げんとするなら南の森を切り拓くしかありませんが、
その森のとば口にぎがしすだーが根を張っているため、
この厄介者をなんとかしなければ、これ以上村の発展は有り得ませんでした。

キリトは前に突き出した左手の人差し指と中指をぴんと伸ばし、
残りの指を握り、そのまま空中に、這いずる蛇のような形を描き、
印を切った指先で、ギガスシダーの幹を叩きました。

この世界に存在するものは、動く、動かざるに関わらず、
生命を司る創世の神ステイシアによって与えられた≪天命(てんめい)≫
が存在します。

その天命の残量を神聖文字で記したのが≪ステイシアの窓≫です。

ギガスシダーの≪窓≫を引き出して見ると、23万5542でした。
先々月は23万5590くらいだったので、たった50しか減っていませんでした。

そこへ、ユージオ、キリトの幼馴染の少女、アリス・ツーベルクがやってきました。

アリスは村長の娘で、金髪です。
アリスは、村の子供では一番と目される神聖術の才能を伸ばすため、
シスター・アザリヤから個人教授を受けています。

しかし、ルーリッドの村は常に貧しく、アリスも勉強できるのは午前中だけで、
午後は家畜の世話や家の掃除に忙しく立ち働かなくてはなりません。
その最初の仕事が、ユージオとキリトに朝食を届けること、でした。

アリスは塩漬け肉と豆の煮込みのパイ詰め、チーズと燻製肉を挟んだ薄切り黒パン、
数種類の干し果物、朝絞ったミルク、といった料理の≪窓≫を確かめました。

天命が尽きた料理はすなわち≪傷んだ料理≫で、
食べれば、腹痛その他の症状を引き起こします。

急いで食べたキリトは、なんで暑いと弁当がすぐ悪くなっちゃうんだろうなあ、
と言いました。

冬は寒いから食べ物が長持ちするので、寒くすれば、
この時期だって弁当は長い間持つはずだ、とキリトは主張しました。

キリトは、氷がいっぱいあれば、じゅうぶんに弁当を冷やせる、と言いました。
しかし、この世界には冷凍庫はありません。

キリトは、『ベルクーリと北の白い竜』の伝説を思い出します。
ルーリッドの村の初代衛士長を務めたベルクーリは、
ある夏の盛りの日、ルール川に氷の塊が浮き沈みしているのを見つけ、
川沿いを上流へと歩き続け、≪果ての山脈≫の巨大な洞窟に辿り着きます。
洞窟に踏み込んだベルクーリは、大小無数の財宝の上で体を丸めた白竜が、
眠っているらしいと気付き、1本の美しい長剣を手に取り、
逃げ出そうとしたその途端――というのが大まかな筋です。

村の掟で【大人の付き添いなく、子供だけで北の峠を越えて遊びに行ってはならない】
となっていますが、アリスは、これは仕事のうちと解釈するべきだわ、と言いました。

王都セントリアに巨塔を構える≪公理教会(こうりきょうかい)≫が定めた、
≪禁忌目録(きんきもくろく)≫にも、
『何人(なんびと)たりとも、人界を囲む果ての山脈を越えてはならない』
と書かれています。

しかしアリスは、山を越えるっていうのは、≪登って越える≫ってことだわ、
禁忌目録のどこを探しても、『果ての山脈で氷を探してはならない』
なんて書かれてないわ、と言いました。

ユージオは嫌がりましたが、7の月3回目の休息日に、
ユージオ、キリト、アリスの3人で洞窟に氷を探しに行くことになりました。

その日の朝、3人は村はずれで待ち合わせし、村を出ました。

ユージオは≪刻み手≫の転職を与えられる前は、
衛士になりたいと思っていました。
それを知っているキリトは、仕事をやり遂げた場合、
次の天職は自分で選べるから、あの樹をあと2年で切り倒す、
という意味のことを言いました。

――とても半日歩いたくらいで≪果ての山脈≫には辿り着けないだろう
とユージオは思っていましたが、
4時間くらい歩いただけで、もう果ての山脈に辿り着いてしまいました。

≪北の峠≫も、気付かずに通り過ぎていました。

もしかしたら、村の大人たちすら、
果ての山脈がこんなにも近いということを誰ひとり知らないのではないだろうか?
何かが変だ、とユージオは感じました。

お弁当を食べ、洞窟の中に入ります。

ユージオは灯りを持ってきていないことに気づきましたが、
アリスは草穂の先端に左の掌を添え、神聖語による不思議な術式句を奏で、
複雑な員を切り、穂の先に青白い光を灯らせました。

100メルほど進むと、とても地下の洞窟とは思えない、
途方もなく巨大な空間が出現しました。

凍った湖があり、周囲の壁も、不思議な六角柱も、
何もかもが氷でできていました。

氷の湖の上を歩き、キリトは白竜の骨を見つけました。
竜の前足のものと思われる巨大な鉤爪を拾い上げ、
剣の傷があるのをユージオとアリスに見せました。

この竜を殺したのは――人間だ、とキリトは言いました。

ベルクーリが、寝てる白竜の懐から盗み出したという≪青薔薇の剣≫もありましたが、
重くて持ち上げることができませんでした。

氷だけ持って帰ることにして、藤かごに氷の欠片を詰めます。

広い氷の湖の一方に小さな出口があり、正反対の方向にも出口がありました。

どっちから入ってきたのか分からなくなってしまっていましたが、
出口からちょっと進んでみて、ユージオが踏み割った氷の張った水たまりがあれば、
当たりだということになりました。

一方の出口に入り、進むと、風の音が聞こえました。

しかし、洞窟の出口の向こうに存在するのは、
ユージオの知っている世界ではありませんでした。

空は一面真っ赤で、地上は黒い、闇の国、ダークテリトリーでした。

白い竜に乗る白銀の鎧の騎士と、黒い竜に乗る漆黒の鎧の騎士が戦っていました。
白い方が公理教会の≪整合騎士≫のようでした。

整合騎士は弓で黒騎士の胸の真ん中を射抜きました。

ユージオ達からほんの10メルほど離れた場所に、騎士が墜落し、
鎧の喉元から大量の鮮血が迸りました。

アリスは細い声を漏らし、吸い込まれるような足取りで、
よろめきながら洞窟の外に向かいます。
キリトが「だめだっ!!」と叫び、アリスは立ち止まろうとしましたが、
足がもつれ、洞窟の地面に倒れ込みました。

アリスの右手は、洞窟の青みがかった灰色の床と、
その先の消し炭色の地面の、異様にくっきりした境界を2セン(20センチ)
ほど越えて外に出ていました。
アリスの真っ白い掌が、ダークテリトリーの大地に触れていました。

ユージオとキリトはアリスの体をしっかりと摑み、
アリスを洞窟の中に引き戻しました。

洞窟の反対側に戻ろうとした時、洞窟の天井近くに、奇妙なものが出現しました。

直径50センほどの紫色の円の向こうに、
皮膚は生白く、頭には1本の毛も生えていない人の顔がありました。
謎の声が聞こえ、紫色の円はいきなり消滅しました。

ユージオ達は白竜の骨が眠る湖まで戻るとそのまま突っ切り、
長い洞窟を抜け、懸命に歩いてルーリッドの村に帰りました。

翌朝、ギガスシダーに斧を打ち込み続け、昼が近くなった頃、
ユージオとキリトは飛竜を目撃しました。

まさか、アリスを……とキリトはつぶやきました。

ルーリッドの村に戻ると、教会前の広場に飛竜と騎士がいました。

数十人の村人の中に、アリスを見つけ、
キリトは今のうちにアリスを広場から離れさせようとしました。

広場へ、アリスの父親にしてルーリッドの村長、
ガスフト・ツーベルクがやってきて、整合騎士に挨拶をします。

整合騎士は、ノーランガルス北域を統括する公理教会整合騎士、
デュソルバート・シンセシス・セブンと名乗り、
アリス・ツーベルクを、禁忌条項抵触の咎により捕縛、連行し、
審問ののち処刑する、と言いました。

どのような罪を犯したというのでしょう、とガスフトが訊ねると、
禁忌目録第1章3節11項、ダークテリトリーへの侵入だと騎士は答えました。

騎士は村人に命令し、アリスを騎士のところへ連れてこさせ、
ガスフトに輪のついた鎖を渡し、咎人を縛(いまし)めよ、と命令しました。

キリトは騎士に弁明しますが、騎士はアリスを連行しようとします。

キリトはユージオに、俺がこの斧で整合騎士に打ちかかるから、
その隙にアリスを連れて逃げるんだ、と言いました。

しかし、ユージオはアリスを助けたいと思いながらも、
動くことができませんでした。
ずきん、と右眼の奥に鋭い痛みが走ります。

キリトは斧を構えて突進しようとしますが、
騎士がキリトを一瞥したその刹那、竜骨の斧が高々と弾き飛ばされました。

ユージオ! 頼む、行ってくれ!!
とキリトは言いますが、ユージオはわずかにも動くことができませんでした。


プロローグⅡ 西暦2026年6月

大きく場面が変わり、エギルの喫茶店兼バー≪ダイシー・カフェ≫で、
シノンこと朝田詩乃はアイスコーヒーを飲んでいました。

遅れてキリトこと桐ヶ谷和人も入店します。

半年前、2025年の末に発生した≪死銃≫事件の、
3人の実行犯のひとりである新川恭二の話をします。

恭二は審判中は頑なに沈黙を貫きましたが、
ガンゲイル・オンラインの料金未払いアカウントデータ保持期限の
180日が過ぎたある日から、
カウンセラーの問いかけに応じるようになったのだそうです。

もう少ししたら、また面会に行ってみるつもり、
今度は、会ってくれそうな気がするんだ、と詩乃は言いました。

先週、第4回バレット・オブ・バレッツの個人戦で、
シノンが準優勝したことについて、和人はおめでとうと言いました。

1位だった≪サトライザー≫という名前のプレイヤーは、
優勝するのはこれで2度目でした。

サトライザーはアメリカのプレイヤーで、
武装がナイフとハンドガンだけだったのに第1回大会を圧勝しました。

第2回からはサーバーがアメリカと日本に分かれたから、
アメリカからは接続できなくなったはずなのですが、
今回は参加していたのでした。

今回、サトライザーは開始時に何の武器も持っていなくて、
持っていたのは武器の代わりに≪軍隊格闘術(アーミー・コンバティブ)≫スキル
だけでした。
最初のターゲットを不意打ちからの格闘だけで倒すと、
そいつの武器を奪って次の獲物を襲い……の繰り返しで、優勝したでした。

呼吸を停止させられたシノンのHPゲージが消滅する寸前、
サトライザーは『Your soul will be so sweet(君の魂はきっと甘いだろう)』
と囁きました。

シノンは、8巻2話「キャリバー」で、
≪エクスキャリバー≫をキリトが手に入れる手助けをした貸しを口にし、
年末の第5回BoBに向けて、キリトを予約しておこうとしました。

そこへ、アスナこと結城明日奈が来店し、
詩乃のことをシノのんというニックネームで呼びました。

詩乃はテーブルの上に置きっぱなしになっていた和人の携帯端末を覗き、
青いブリップが、喫茶店の位置にぴたりと重なったまま静止しているのを見て、
あなたたち、お互いのGPS座標をモニタリングしてるの? と訊きました。

しかし、そんな生易しいものではなく、
明日奈は和人の脈拍と体温まで、自分の携帯端末でモニタリングしていました。

和人の胸の中央に超小型センサーがインプラントされていて、
ハートレートと体温をモニタして、
無線で和人の携帯端末にデータを送っています。

和人が今のバイトを始めるときに、先方からインプラントを勧められ、
その話を明日奈にしたら、ネットを介して明日奈の端末にも、
ほぼリアルタイムで情報を渡すことになったのでした。

和人の今回のバイトもテストプレイヤーなのですが、
テストしてるのはゲームアプリじゃなくて、
新型フルダイブ・システムのBMI(ブレイン・マシン・インターフェイス)
そのものなのだうです。

RATH(ラース)という名前の会社のBMIです。

明日奈は、ラースは『鏡の国のアリス』に出てくる空想上の生き物の名前で、
豚という説と亀という説があるのだと解説しました。

中の世界はどんな感じなの? と詩乃が訪ねると、
知らないんだ、俺、と和人は答えました。

機密保持のため、そのマシンが作るVRワールド内部の記憶は、
現実世界には持ち出せないのだそうです。

驚いた詩乃に、和人はまず、≪ソウル・トランスレーション≫の
テクノロジーについて説明します。

脳細胞には≪マイクロチューブ≫という、細胞の構造を支える骨格があり、
そのチューブは中空の管です。
管の中には≪エバネッセント・フォトン≫という光子が封じ込められていて、
その光子の揺らぎこそが人間の心だ、という理論があるのだそうです。

その光の集合体を、ラースでは独自に、揺れ動く光、
≪Fluctuating Light(フラクトライト)≫と名付けました。

ソウル・トランスレーターは、フラクトライトを双方向に翻訳し、
人間の魂そのものにアクセスできる機械なのだそうです。

キリトにダイブ中の記憶がないのは、
その部分への経路を遮断しているからなのだそうです。

そのバイトの話を持ってきたのは、クリスハイトこと菊岡でした。

アミュスフィアが、ユーザーの脳にポリゴンデータを見せるように、
STL(ソウル・トランスレーター)は、
人の意識に短期的な記憶を書き込みます。
STLが作る仮想世界で見るもの、訊いて、触れるものは、
ユーザーの意識レベルに於いては本物なのです。

キリトもごく初期のテストダイブ中の記憶ならありますが、
キリトは最初、そこが仮想世界だと解りませんでした。
和人は昨日まで金土日と3日連続、夢の中でバイトしていました。
栄養と水分は点滴でした。

それだけあったら色んなことができそうだね、
ケーキ食べる直前で目が醒めずに済むし、という詩乃の言葉で、
和人は仮想世界で食べたものの味を思い出しそうになりましたが、
思い出せませんでした。

次に和人は、STLのFLA(フラクトライト・アクセラレーション)機能を使えば、
数分間のうちに何時間分もの夢を見るように、
STLの中で時間を加速させることができる、という話をします。

FLA機能は最大で3倍ちょいだと和人は聞いていました。

和人が行った六本木のビルにはSTLの実験機が1台しかないことや、
実験用仮想世界のコードネームがアンダーワールドであることなどを話しました。

それを聞いた明日奈は、それも、アリスなのかもしれないね、と言いました。
『不思議の国のアリス』の最初の私家版は、『地下の国のアリス』という名前で、
原題は『アリスズ・アドベンチャー・アンダーグラウンド』だったのだそうです。

アリス、と聞いて和人はまた何か思い出せそうな気がしました。
金曜日、STLでダイブする直前に、
スタッフがA、L、I……アーティ……レイビル……インテリジェン……
と話していたのを聞いたような気がしましたが、思い出せませんでした。

明日奈達はダイシー・カフェを出て、詩乃と別れます。


転章Ⅰ

明日奈は世田谷の家の近くまで、和人に送ってもらうことになりました。

住宅街を歩きながら、和人は明日奈に、アメリカに行くという話をしました。

サンタクララの大学で研究している≪ブレイン・インプラント・チップ≫が
やっぱり次世代フルダイブ技術の正常進化形だと思うんだ、
どうしても、見たいんだ、次の世界が生まれるところを、と和人は言いました。

そして和人は明日奈に、一緒に来てほしいと言い、
明日奈は、もちろん、行くよ、一緒に、と言い、キスをしました。

来年の夏にはアスナと一緒にアメリカに行くことや、
一度はアスナのご両親に挨拶することなどを話し合います。

そんなやり取りをしているうちに、
明日奈の自宅からほど近い小さな公園の前まで辿り着いてしまいました。
和人が送ってくれる時は、ここでお別れするのが恒例です。

背後から足音が響いてきて、駅はどっちの方ですか?
と黒っぽい服装をした小柄な男に話しかけられました。

明日奈は道案内をしようとしますが、和人は明日奈を後方へ押しやり、
お前……ダイシー・カフェのそばにいたな、誰だ、と言いました。

その正体は、≪ラフィン・コフィン≫というPKギルドに属し、
≪赤眼のザザ≫とコンビを組んで、10人を超えるプレイヤーに手をかけた、
≪ジョニー・ブラック≫でした。

ジョニー・ブラックこと金本(かねもと)は≪死銃事件≫の首謀者の1人でもあり、
現在も逃亡中だったのでした。

金本は≪デス・ガン≫をシャツの中から摑み出しました。

和人は畳んだ傘の先端を、左手で金本に向け、
明日奈を逃がし、誰か人を呼んでくるんだ! と言いました。

しかし、明日奈が助けを呼びに走ると、短く、鋭い圧搾音が耳に届きました。

振り向くと、和人の握った傘の石突が、金本の右太腿に根元まで突き刺さり、
金本の握った注射器は、和人の左肩に押し当てられていました。

2人は同時にぐらりと状態を傾けると、そのまま路上へと倒れました。

明日奈は端末で救急センターのオペレータに現在地と状況を伝えます。

和人は、「アスナ、ごめん」と短く囁きました。

救急車が到着し、和人が搬入されます。
明日奈も付き添って乗り込み、サクシニルコリン……っていう薬を注射されたんです、
左肩です、と救急隊員に伝えました。

「心停止!」と救急隊員が叫び、
明日奈の握った携帯端末モニタに表示されているピンク色のハートは、
鼓動を止めました。


第1章 アンダーワールド 人界歴378年3月

キリトは森の中に開けた小さな円形の草地で目を覚ましました。

明日奈を家まで送る途中、アメリカの大学へ行きたいと考えていることを打ち明け、
明日奈も一緒に行ってほしいと頼みごとをしたところで、記憶は途切れていました。

金本に襲われたことは覚えていませんでした。

着ているファンタジー風の服を見て、仮想世界にいるのだと判断し、
ログアウトしようとしますが、ログアウトできませんでした。

そこが既存のフルダイブマシンを遥かに超える、
超現実とでもいうべきクオリティのVRワールドだったことから、
STLの中、アンダーワールドにいるのだとキリトは判断しました。

オペレータの比嘉(ひが)に、ダイブをいったん中止してくれ!
問題が発生してるみたいだ! と言いますが、何の変化も訪れませんでした。

人の手による規則的な音が聞こえ、
川の上流に向かって歩きながら、キリトは不思議な光景を見た気がしました。

横一列に並んで歩く、黒い髪の男の子と、亜麻色の髪の男の子と、
金髪の女の子の記憶を見ました。

規則的な音に向かって歩き、
キリトはギガスシダーに斧を振るっていたユージオと出会いました。

ただし、ユージオは冒頭のプロローグでは11歳でしたが、
今のキリトの前にいるユージオは17、8歳くらいでした。

ユージオに、君は誰? どこから来たの? と日本語で話しかけられ、
自分がどこから来たかよく判らない、判るのは、名前だけで……とキリトは答えました。

ユージオはキリトのことを≪ベクタの迷子≫だと言いました。

闇の神ベクタが、悪戯で人間をさらって、
生まれの記憶を引っこ抜いてすごく遠い土地に放り出すのだそうです。

ログアウトしたいんだ、とキリトは言いましたが、
ユージオは完全にここの住人であって、≪仮想世界≫という概念は持っていなくて、
ログアウトという言葉の意味が解りませんでした。

ユージオは、今は昼休みですが、仕事が終わるまで待ってくれれば、
一緒に教会まで行ってシスター・アザリヤにキリトを泊めてくれるよう頼んであげられる、
と言い、キリトは待つことにしました。

ユージオに昼食の丸パンを分けてもらうことになります。

ユージオは≪ステイシアの窓≫こと≪ステータス・ウインドウ≫を表示させ、
≪天命≫を確認した後、丸パンを1つキリトに渡しました。

丸パンを食べたキリトに、おいしくないでしょ、これ、とユージオは言いました。

出がけに村のパン屋で買ってくるんだけど、
朝が早いから前の日の残り物しか売ってくれないんだ、
昼に、ここから村まで戻るような時間もないしね……とユージオは言いました。

ずーっと昔は、幼馴染の女の子が昼にお弁当を持ってきてくれたが、
安息日に、2人で来たの洞窟を探検しに出かけて、帰り道を間違えて、
果ての山脈を向こう側に抜けてしまい、彼女はつまづいて、
外の地面に掌を突いてしまって、村に整合騎士がやってきて、
彼女を鎖で縛り上げて央都に連れて行ってしまった、という話をユージオはしました。

その少女の名前がアリスだと知り、
キリトは魂を揺さぶらんばかりの懐かしさを感じました。

探しに行ってみたらどうなんだ? とキリトは言いましたが、
ユージオが暮らすルーリッドの村は、ノーランガルス北帝国のさらに北の端にあり、
南の端にある央都までは、早馬を使っても一週間かかるとユージオは説明します。
天職を放り出して旅に出ることなどできず、
ユージオにはアリスを探しに行くことはできませんでした。

ルーリッドの300年の歴史の中で、整合騎士が来たのは6年前の1回きりだ、
ってガリッタ爺さんが言ってた、というユージオの言葉を聞き、
キリトは驚愕しました。

そういう≪状況設定≫ではなく、実際にシミュレートしているなら、
FLA機能は数百倍、
ことによると1000倍にも達する加速を実現していなければなりません。

ユージオはギガスシダーに斧を振るのを再開しますが、
キリトは自分もやってみたくなり、
ユージオに斧を借りて振りました。

しかし、斧は刻み目の中心から5センチも離れた場所に命中しました。

ユージオの説明を見て、キリトは、この世界では恐らく、
厳密な物理法則や筋肉の収縮がシミュレートされているわけではない
と気付きました。

STLが作り出すリアルな夢なのだから、1番大切なのはイメージ力です。

ユージオの指導を受けながら斧を振りつづけ、何十回目だか忘れた頃、
ようやく斧が高く澄んだ金属音とともに切り込みの真ん中に命中しました。

それから50回ずつ交替しながら斧を振り、今日の分が終了しました。

午前と併せて1日2000回ギガスシダーを叩くのが、
ユージオの天職でした。

ユージオは貴重な≪竜骨の斧≫を無造作に物置小屋に入れ、戸を閉めました。
鍵もかけませんでしたが、きっと≪禁忌目録≫には、
盗みを働くべからずというような一節があるのだとキリトは思いました。

村に衛士がいるのは、
≪果ての山脈≫の向こう側にある闇の国の軍勢から村を守るためでした。

公理教会の言い伝えによれば、1000年に1度、
ソルス(太陽)の光が弱まった時、暗黒騎士に率いられたヤインの軍勢が、
山脈を越えて一斉に攻めてくるのだそうです。

ルーリッドの村に行き、キリトは教会に泊めてもらいます。

教会に住み込みで神聖術の勉強をしている、12歳ほどの少女、セルカに、
キリトは世話を焼いてもらいます。
セルカは、アリスの5歳年下の妹でした。

村人と交流したキリトは、村人全員が、
ユージオとまったく同じレベルのリアルな感情、自然な会話、
精妙な身体動作を表現していて、皆が皆、本物の人間としか思えない、
と判断しました。
しかし、彼らは人間ではなく、AI(人工知能)でもない、
とキリトは考えました。

翌朝5時半に、キリトはセルカに起こされました。

厳かな礼拝と朝食が終わると、キリトは中央広場でユージオを待ちました。
ユージオが現れた直後、背後の教会の鐘楼が、旋律を高らかに響かせました。

1時間ごとになる鐘が、毎回違う旋律なのにキリトは気付きました。
ユージオによると、ずっとずっと昔、
央都の真ん中には≪時刻みの神器≫、要するに普通の時計があったのですが、
人びとがそればっかり見上げて仕事をおろそかにしたから、
神様が起こって雷を落として壊してしまったのだそうです。

教会の鐘は、この村にたった1つある神器で、毎日決まった時刻に、
1秒もずれることなくひとりでに讃美歌を奏でるのだそうです。

その日の昼休みに、キリトとユージオはセルカの話をしました。

アリスは村始まって以来の天才と言われていましたが、
シスター・アザリヤは、アリスが整合騎士に連れて行かれてから気落ちして、
もう弟子は取らないと言いました。
しかし、ガスフト村長が説得して、
一昨年ようやく新しい見習としてセルカが教会に入ったのだそうです。

セルカは、アリスと違って教会に住み込みをし、1日中勉強をした上で、
3年前の流行り病で両親を失った子供達6人の世話もしていました。

また、天命の話もします。
あらゆる人や物の天命は、人の手で増やすことはできません。
たとえば人の天命は、赤ん坊から子供、大人へと育つに従って増えて、
だいたい25歳くらいで最大になります。
そのあとはゆっくり減って行って、70から80歳くらいでなくなって、
ステイシアの御許に召されるのだそうです。

病気や怪我で減った天命は、神聖術や薬で治療しますが、
回復しても決して大本の量以上には増えないのだそうです。

RPGで言うところの、最大HPと現在のHPのようなものですね。

しかし、公理教会のすごく偉い司祭だけが、人の天命に直接はたらきかけ、
天命そのものを増やすことができるのだそうです。

午後の仕事を始めようとしたユージオを見て、キリトは、
竜骨の斧よりももっと強い斧はないのかと訊ねました。

ユージオは、斧はないが、剣ならあると言い、
物置小屋から≪青薔薇の剣≫を持ってきました。

プロローグで前半だけ語られた『ベルクーリと北の白い竜』の後半を、
ユージオが説明します。

ベルクーリは寝ている白竜から白い剣を拾い上げて逃げようとしますが、
その途端に足許から青い薔薇が生えてきて、
ベルクーリをぐるぐる巻きにしてしまいます。
たまらず倒れたその音で、白竜が目を醒まします。
いろいろあってベルクーリはどうにか許してもらって、
剣を置いて命からがら村に逃げ帰ってきました。

というのが、おとぎ話の内容です。

6年前、ユージオとアリスは果ての山脈まで白竜を探しにいきましたが、
竜はいなくて、代わりに、刀傷がついた骨の山があるだけでした。

骨の下には、金貨や宝物や≪青薔薇の剣≫もありました。

おととしの夏、ユージオはもう一度北の洞窟まで行って、
安息日ごとに剣をほんの何キロルかずつ運んでは、森の中に隠して、
3ヶ月かけて物置小屋まで持ち帰ったのでした。

キリトはユージオに、今のギガスシダーの天命を調べてもらいます。
23万2315でした。

キリトは、持っているだけで両腕が抜けそうになる青薔薇の剣を下段に構え、
SAOのソードスキル≪ホリゾンタル≫を放とうとしました。

が、踏ん張りきれずに両脚が膝からふらつき、
剣は目標を遥か離れた樹皮に激突しました。
青薔薇の剣は竜骨の斧よりも攻撃力が上なので、
2センチも切り込みましたが、切り込んだ場所が悪く、
天命は1しか減っていませんでした。

キリトはユージオに剣を振らせようとしましたが、
やはり重すぎて青薔薇の剣でギガスシダーを切るのは難しそうでした。

ステータスが足りないから剣を扱えないのだとキリトは思い、
指先で例のマークを描き、右の手の甲を叩き、ウインドウを出しました。

最上段にはユニットID、その下には天命の【3280/3289】、
その下には【Object control Authority:38
System Control Authority:1】とありました。

オブジェクト・コントロール権限というのが、
アイテムの使用に関連するパラメータのようでした。

青薔薇の剣の情報を引き出すと、耐久値197700、
【Class 45 Object】とありました。

キリトのオブジェクト・コントロール権限を、
38から45以上に上昇させることができれば、青薔薇の剣を扱えそうでした。
しかし、モンスターがいないこの世界では、レベルを上げる方法が不明でした。

仕事を終え、ルーリッドの村の教会に戻り、風呂に入っていると、
セルカがやってきて、出るときにちゃんと浴槽の栓を抜いて、
ランプを消してね、と言いました。

キリトはセルカを呼び止め、ちょっと訊きたいことがあるんだけど、
今夜時間あるかな? と訊きました。

風呂から出た後、セルカがキリトの部屋にやってきます。

キリトは、ユージオに聞いたと言い、アリスのことを訊ねます。

ユージオ、忘れたわけじゃなかったんだ……アリス姉様のこと……、
とセルカは小声で言いました。
ユージオはすごくアリスのことを気にかけているとキリトが言うと、
じゃあ……ユージオが笑わなくなったのは、
やっぱりアリス姉様のせいなのね、と言いました。

誰からも愛され、次代のシスターとしてシスターとして期待されていたというアリスが
捕縛される理由を作り、また助けることもできなかったという罪の意識から、
ユージオは村人の前では笑わなくなっていたのでした。
だとすれば、ユージオの魂は単なるプログラムでは有り得ない、
彼は、俺と同じ本物の意識、魂……フラクトライトを持っているのだ、
とキリトは考えました。

セルカは……ユージオのことが好きなんだ? とキリトが言うと、
セルカは動揺し、そんなんじゃないわよ!
と首筋まで赤くしてそっぽを向きましたが、
ユージオはあたしのこと避けてるわ、あたしを見ると、
姉様を思い出すから、と言いました。

セルカは自分の部屋に戻る前に、整合騎士がアリスを連れていった理由を、
キリトに訊ねました。
セルカは、父親達やユージオから、その理由を知らされていませんでした。
キリトは躊躇を感じながらも、答えました。

翌朝5時半に、シスター・アザリヤから、セルカの姿が見えないと言われました。

今日は安息日でしたが、セルカは教会に来てからの2年間、
1度も生家に帰っていませんでしたし、シスター・アザリヤに何も言わず、
行くなどとは考えられませんでした。

キリトは8時にユージオと会い、セルカがいなくなったことを話しているうちに、
ゆうべセルカに、アリスが闇の国の土に触れた話をしたせいで、
セルカが果ての山脈に行ったのだと気付きました。

ユージオは、セルカを早く追いかけて連れ戻さないと、と言い、
キリトとユージオは果ての山脈に向かいました。

洞窟に辿り着くと、ユージオは草穂を掲げて、
「システム・コール! リット・スモール・ロット!」
と言いました。

≪システムコール≫とは、あまりにも味気ないですが、
ユージオはその意味を知らず、神様に呼びかけて、
奇跡を授けて下さるようにお願いする、式句なのだと説明しました。

ユージオは一昨年、≪青薔薇の剣≫を取りに行こうと決意した時に、
この神聖術を2ヶ月くらいかけて習得したのだうです。

洞窟の奥に進むと、焦げ臭い匂いがして、セルカの悲鳴が聞こえました。

直径50メートルほどの真円のドームに着くと、
池の周りに2つの篝り火(かがりび)があり、
30匹以上のゴブリンがいました。

ゴブリンたちもプログラムではなく、本物の魂を持っているのを、
キリトははっきりと認識しました。

ユージオやセルカたち住人はおそらく、生身の人の脳ではなく、
何らかの人造メディアに保存された、≪人工フラクトライト≫だと、
キリトは推測していました。

STLによって生まれたばかりの新生児のフラクトライトの、
≪魂の原形≫を無数にコピーし、
この世界で赤ん坊として1から成長させていたのでした。

ユージオたちはキリトとは物理的な存在次元が異なるだけで、
魂の質的にはまったく同じ≪人間≫です。

ならば、このゴブリンたちは何者なのか? とキリトは考えました。

ゴブリンたちは、キリトとユージオのことを「白イウムの餓鬼が2匹」と呼びました。
イウムというのは、闇の国の言葉で、ヒトを意味しています。

隊長ゴブリンは、男のイウムなんぞ連れて帰っても、
幾らでも売れやしねえ、面倒だ、ここで殺してしまえ、
と子分たちに命令しました。

セルカが、体を荒縄で縛られ、荷車に横たわっているのを見つけ、
キリトはユージオに、セルカを助けるぞ、動けるな、と言いました。

キリトが3つ数えたら、前の4匹を体当たりで突破し、
キリトは左、ユージオは右のかがり火を池に倒し、
火が消えたら、床から剣を拾って、後ろを守ってくれ、
とユージオと打ち合わせしました。

3つ数え、予定通りに火を消すと、
ユージオが左手に握る草穂の光を見て、ゴブリンたちは眼を覆いました。
キリトは知りませんでしたが、ゴブリンたちはその光が苦手だったのです。

キリトとユージオは剣を拾い、キリトはゴブリンの隊長、
≪蜥蜴殺しのウガチ≫と戦います。

なぜかこの世界ではSAOの≪ソードスキル≫を使うことができ、
キリトはそれで隊長を斬りつけました。

しかし、これはプレイヤーとモンスターとの戦闘などではなく、
武器を握った者同士の戦いだったことにキリトは気付かず、
反撃され、左肩を怪我をしてしまいました。
VRMMOでは有り得なかった、凄まじい痛みに襲われます。

痛みのせいで動けずにいると、
隊長に殺されそうになったキリトを助けようと、ユージオが戦おうとします。
しかし、隊長はつま先でユージオの軸足を払い、
上腹部を横一直線に斬り裂きました。
恐ろしいほど大量に血が溢れます。

ユージオ……もういい……とキリトは言いますが、ユージオは、
子供の頃……約束したろ……僕と、キリトと――アリスは、
生まれた日も、死ぬ日も一緒……今度こそ……守るんだ……僕が……と言いました。

キリトは、失われた記憶を断片的に取り戻し、再び剣を握って、
俺は……剣士キリトだ!! と叫び、
ソードスキルの片手剣突進技、≪ソニックリープ≫で隊長の首を取りました。

お前らの親玉の首は取った! まだ戦う気がある奴はかかってこい、
そうでない奴は今すぐ闇の国に帰れ! とキリトが隊長の首を掲げて言うと、
別のゴブリンが進み出て、そういうことなら、
手前ェを殺ればこのアブリ様が次の頭に……と言いかけましたが、
キリトは途中でそいつの右脇から左肩までを先と同じ技で両断しました。

他のゴブリン達が逃げていくと、キリトはユージオの天命を確認します。
【244/3425】となっていて、
現在地がおよそ2秒毎に1というペースで減少していました。

キリトはセルカを起こし、セルカの神聖術で助けてくれと頼みます。
セルカは、あたしは……姉様にはなれない……、
今のあたしに治せるのは、ほんのかすり傷で……と言います。

ユージオは、君を助けにきたんだ、セルカ!
アリスじゃない、君を助けるために、命を投げ出したんだ!
とキリトはセルカを説得し、セルカは、
失敗したら3人とも命を落とす、危険な高位神聖術を試そうとします。

セルカはキリトの左手を自分の右手で強く握り、
ユージオの右手を左手でしっかりと握り、
システム・コールから始まる呪文を唱えました。

それはキリトの天命をユージオに移す術でしたが、
キリトの天命を全て費やしても、
ユージオを助けることはできそうにありませんでした。

しかし、キリトは両肩に、誰かの手を感じました。
『キリト、ユージオ……待ってるわ、いつまでも……
セントラル・カセドラルのてっぺんで、あなたたたちをずっと待ってる……』
と懐かしい声が聞こえ、キリトの内部を圧倒的なエネルギーが満たし、
そのエネルギーのおかげでユージオは助かりました。

キリト達はゴブリンの隊長の首をルーリッドの村に持って帰り、
闇の国からの偵察隊であるゴブリンの集団が北の洞窟に野営していたことを
村長たちに伝えました。

教会の部屋でセルカに左肩の傷の手当てをしてもらい、
翌日の仕事はユージオともども免除され、眠り、
さらに翌朝には肩の痛みも全身の疲労感もすっきり抜けていました。

ギガスシダーに斧を刻む仕事を再開しますが、
ユージオは斧が軽く感じるようになったと言いました。
セルカも、先週までは失敗率の高かった神聖術が上手くいくようになっていました。

あの洞窟で、ゴブリンの大集団を撃退した――
言い換えれば高難易度のクエストをクリアしたことによって、
通常のVRMMOで言う≪レベルアップ≫的現象が発生したのでした。

キリトは重かった青薔薇の剣を持てるようになり、
≪ホリゾンタル≫をギガスシダーに当てます。
刃の幅の半分以上も、金属のように黒光りする木目に埋まっていました。

キリトがそれを≪アインクラッド流≫だとユージオに言うと、
ユージオは、≪アインクラッド流剣術≫を教えてほしいと言いました。

しかし、≪複数の天職を同時に兼務すること≫は、
最高支配者である公理教会が発布した≪禁忌目録≫、
その下部で具体的な統治を行うノーランガルス帝国の≪帝国基本法≫
で禁じられていました。

≪人工フラクトライト≫は、意識に書き込まれた上位規則には絶対に逆らえない、
という特性を有しているため、ユージオは魂の中で葛藤していましたが、
でも、僕は……強く、なりたいんだ、と言い、剣を教えてもらうことになりました。

巨大な樹を練習台として使い、≪アインクラッド流剣術≫の修業を始めてから、
わずかに5日後に鋼鉄の巨樹ギガスシダーを倒すことができました。

予定より900年ほど早くお役目を果たしてしまった≪巨樹の刻み手≫
ユージオを歓迎して、村を挙げての祭りを催しました。

天職を果たしたユージオには村長から、自ら次の天職を選ぶ権利が与えられました。

ユージオは、僕は――剣士になります、ザッカリアの街で衛兵隊に入り、
腕を磨いて、いつか央都に上ります、と宣言しました。

ガスフト村長はそれを認めましたが、
前の衛士長と、その息子で今の衛士長のジンクが意義を唱え、
ユージオがジンクと戦ってジンクより強いことを証明しなければ、
ザッカリアの衛兵隊に入れないことになってしまいました。

試合は、剣は使うけど寸止めです。
しかし、青薔薇の剣は泊まらないで当たっちゃうと、
それだけで相手を殺しかねないので、
キリトはユージオに、ジンク本人じゃなくてあいつの剣を狙え、と助言しました。

ユージオは試合で、キリトが教えていない斜め斬り、≪スラント≫で、
ジンクの剣を上から叩き、粉砕して勝利しました。

その後、セルカはキリトに、姉様の真似して、
闇の国の土に触れるためにあの洞窟に行ったわけじゃない、
これ以上は進めないってところまで行って、
そこで、アリス姉様の代わりにはなれないんだってことをちゃんと確かめたかった、
と言いました。

キリトは、君はアリスの身代わりなんかじゃない、
セルカには、セルカだけの才能があるはずだ、
ゆっくりそれを育てていけばいいんだ、と言いました。

キリトは、この桐ヶ谷和人という名の自我は、
生体脳に宿るフラクトライト、つまり≪本物の俺≫なのか、
それとも、STLによって本物の俺から読み出され、
メディアに保存された≪複製≫なのか、という疑問を感じていました。

人工フラクトライトは魂に書き込まれたルールを破れないので、
キリトは、今までの人生で堅守してきたキリト自身のルール、
つまりモラルを自分の意思で破れるかどうかを確かめようと思い、
セルカの額にキスをしました。

キリトは、それを≪剣士の誓い≫的なものだと言い、
ユージオと一緒にアリスを助け出して、
この村にアリスを連れて帰ってくることを約束しました。

翌朝、ユージオにとって先代の≪刻み手≫である、ガリッタ老人が訪ねてきて、
ギガスシダーの全ての枝のなかで、最もソルスの恵みを吸い込んだ1本の枝を、
1メートルと20センチほど下の部分で、青薔薇の剣で断ち切れと言いました。

言われた通りにすると、その枝を布で包み、
央都セントリアに到着したら、この枝を、
北七区に構えているサードレという名の細工師に預けるがいい、
とガリッタは言いました。
青薔薇の剣に勝るとも劣らぬ強力な剣に仕立ててくれるのだそうです。

そしてキリトとユージオは、未知なる世界へ向けて旅立ちました。
キリトは、こちら側から外界に連絡するためのコンソールがあるであろう場所、
公理教会セントラル・カセドラルを目指します。

というあらすじなのですが、この巻は初出の専門用語が非常に多く、
あらすじを書くのが本当に大変でした……。

でも、新たなる冒険が始まり、とてもワクワクする話でしたね。

この話は10巻に続きます。

川原礫「ソードアート・オンライン4 フェアリィ・ダンス」のネタバレ解説

ソードアート・オンライン (4) フェアリィ・ダンス (電撃文庫)


3巻の続きです。

昨日の夕方にスイルベーンを出発し、
シルフ領主サクヤの一行に感謝されつつ別れたのが午前1時過ぎ。

その時点で連続ダイブも8時間に達していたので、
今日の冒険はここらで切り上げて最寄りの宿屋でログアウトしよう
ということになり、キリトとリーファとユイは森の中の小村に降下しました。

しかし、村と見えたのは、地面に埋まっていた恐ろしく巨大なミミズ型モンスターが、
口の周りの突起を変化させて作った寄せ餌でした。

キリト達は強力な吸引力によって丸呑みされ、
広大無辺の地下世界、最難度フィールドたる≪ヨツンヘイム≫に落ちてしまいました。

地下では飛ぶことができません。
また、リーファの話では、東西南北に1つずつある階段には、
そこを守護する邪神がいて、最低でも24人パーティーじゃないと、
邪神を倒すことはできないそうです。

しかし、キリトとリーファだけで地上への階段に到達できるか、
試してみることになりました。

その時、邪神の咆哮や足音が聞こえました。

ユイによると、キリト達に接近中の邪神級モンスター2匹は、
互いを攻撃しているのだそうです。

様子を見に行くと、4本腕で縦に3つの頭を持つ巨人というフォルムの邪神が、
象の頭がくっついた水母(クラゲ)のような、やや小型の邪神を、
一方的に攻撃していました。

象水母の方を助けてとリーファに言われ、
キリトはユイに、近くに水面はあるかと訊きました。

北に200メートル移動した場所に氷結した湖があるとユイに言われ、
キリトは投擲用のピックで三面巨人の頭を攻撃し、タゲをとりました。

キリト達は巨人に追いかけられながら氷結した湖まで走ります。

巨人は氷を踏み抜いて湖に落ちましたが、巨人は泳げるらしく、
キリト達に近づいてきました。

しかし、象水母も追いかけてきて、20本近い肢で巨人に巻きつきました。

象水母は本来水棲タイプの邪神だったので、
有利な水フィールドで巨人を倒すことができました。

象水母は鼻でキリトとリーファを掲げ、丸い背中の上に放り投げました。

象水母は歩き、
ヨツンヘイムの天蓋から逆円錐形の巨大な構造物、
氷柱(ツララ)型のダンジョンが垂れ下がっている場所に近づきました。

キリトは象水母にトンキーという名前をつけました。
名前の由来は、「かわいそうなぞう」という絵本に出てきた、
餓死してしまった象です。

トンキーは凍りついた川に沿ってひたすら北上し、
巨大な穴が空いた場所で停止しました。

そこへ、邪神狩りを目的とした連結パーティーのウンディーネ、
24人がやってきました。

ウンディーネ達はトンキーを攻撃しました。

キリトとリーファは我慢ができなくなり、玉砕覚悟でトンキーを助けるため、
ウンディーネ達に立ち向かいました。

キリト達は2人倒しましたが、人数差が大きいため、
50秒ほどで負けそうになりました。

しかし、その間にトンキーは殻を脱皮し、
4対8枚の翼を持つフォルムに変身しました。

変身したトンキーは強く、雷撃を降り注いでウンディーネ達を撃退しました。

キリトとリーファは再びトンキーの背中に乗せられ、
地上に向かって飛び上がります。

その時、巨大な氷柱型のダンジョンの先端に、
≪聖剣エクスキャリバー≫が封じられているのを発見しました。
ユージーン将軍の≪魔剣グラム≫を超える、たった1つの武器です。

リーファは、また来よ、仲間いっぱい連れて、と言いました。

この伏線は、8巻2話の「キャリバー」で回収されます。

トンキーは、キリト達を階段つきの根っこまで案内してくれ、
地上に脱出することができました。

階段を上ると、そこはアルヴヘイムの中心、
世界最大の都市≪アルン≫の街中でした。

今日の午前4時から午後3時まで週に一度の定期メンテナンスが行われるので、
キリト達は宿屋に泊まってログアウトしました。

場面が変わり、アスナの視点になります。

前巻のラストで黄金の鳥籠から外に出たアスナは、
オフィスの書庫のような通路を進み、案内図を見つけ、
≪実験体格納室≫と書かれている場所があるのを見ました。

アスナはエレベーターに乗って降り、
途方もなく広大な空間に、300もの柱型オブジェクトがあるのを見ました。

柱の中には人間の脳髄が浮かんでいました。

ここが実験体格納室で、須郷伸之はかつてのSAOプレイヤーをここに幽閉し、
ナーヴギアによって思考、感情、
記憶までも操作するという悪魔の研究をしていたのでした。

そこへ、巨大ナメクジのような形をした須郷の部下2人がやってきました。

アスナはナメクジに見つからないようにコンソールの前まで移動し、
スリットにカードキーをスライドさせました。
【Transport(転送)】というボタンを見つけ、指先でタッチしました。

アスナは、
【Exenute log-off sequense?(ログオフを実行しますか?)】
という一文の近くのOKボタンに触れようとしましたが、
巨大ナメクジに捕まって、高く吊り上げられてしまいました。

アスナは須郷の友達だと嘘をついてピンチを乗り切ろうとしましたが、
ナメクジ達は、須郷が世界樹の上に囲っている人物がアスナだと気付き、
須郷に確認しました。

須郷の命令で、アスナは再び鳥籠に戻されますが、
アスナは素早く右足を伸ばして、
コンソールのスリットに差し込まれたままのカードキーを指先で挟んで抜き取りました。

再び場面が変わり、
現実世界の桐ヶ谷和人(キリト)と直葉(リーファ)の視点になります。

和人は直葉に頼まれ、明日奈のいる病院に案内し、
ナーヴギアを被ったまま寝ているアスナを見せてあげました。

明日奈の寝顔に見入る和人の眼を見て、
直葉は自分の心が真に求めていたものを知り、
同時にそれが決して手の届かない所にあることを悟りました。

午後3時になり、
アルヴヘイム・オンラインにログインして≪アルン≫で目覚めたリーファは、
キリトの前で泣いてしまい、あたし、失恋しちゃった、と打ち明けました。

キリトに慰められながら、リーファは、
兄が好きなことと、この気持ちを口に出してはいけないということを考えていました。

宿屋の外に出て世界樹に近づくと、ユイが上空を見て、
ママがいます、と言いました。

それを聞いたキリトは、いきなり、背の翅を大きく広げ、
世界樹の上に向かって飛翔しました。

しかし、すぐに障壁、見えない壁に激突してしまいました。

ユイは警告モードでアスナに呼びかけます。

鳥籠に閉じ込められていたアスナはその声を聞き、
自分の存在を知らせる手段を探しました。

この鳥籠にあるオブジェクトは全て位置情報をロックされており、
何一つとして格子から外に出すことができないのは確認済みでしたが、
銀色のカード・キーを格子の外に落とすことができました。

キリトはカード・キーを受け止めました。
ユイが、それはシステム管理用のアクセス・コードだと言いました。
対応するコンソールがあればGM権限が行使できるのだそうです。

キリトはリーファに今までのお礼を言い、世界樹の根元からゲートに入りました。

ドームの天蓋の頂点にある円形の扉を目指しますが、
扉を護る守護騎士(ガーディアン)が現れます。
1対1なら勝つこともできましたが、守護騎士は何十匹も何百匹も現れ、
キリトは負けそうになりました。

しかし、リーファが飛び込んできて、キリトを両手で包み込み、
ドームの外に脱出しました。

リーファは、もうやめて、と言いますが、
キリトは、会わなきゃいけないんだ、もう一度、アスナに、と言いました。

その言葉を聞いたリーファは、初めてキリトが兄の桐ヶ谷和人だと気づきました。

リーファが、お兄ちゃん……なの?
と聞き、キリトもリーファが妹の直葉だと気づきます。

リーファはログアウトし、自室のベッドで泣きました。

追ってログアウトした和人に、直葉は告白し、
本当の兄妹ではないと知っていることを告げました。

和人は直葉に謝り、直葉を傷つけていたことを察しましたが、
アルンの北側のテラスで待ってる、とドア越しに言いました。

直葉は、数日前の夜、アスナのことを思って泣いていた和人に、
がんばれ、と言ったことを思い出し、再びログインしました。

しかし、キリトと会うのをためらっていると、そこへレコンが現れ、
リーファに告白しました。
リーファは怒りましたが、アンタのそういう所、嫌いじゃないよ、と言い、
自分も意を決してキリトの待つテラスに行きました。

試合、しよ、とリーファはキリトに言い、飛びながらバトルをします。

リーファは途中で剣から手を離しましたが、
キリトも同じタイミングで剣を手放していました。

キリトもリーファと同じように、謝る代わりに、剣を受けようと思っていたのでした。

キリトとリーファは仲直りし、レコンに協力してもらい、
再び世界樹攻略に挑むことにしました。

キリトはドームに入り、天蓋の扉に向かって飛翔します。
レコンはヒール(回復)役でしたが、途中で守護騎士からタゲをとり、
自爆魔法を使って多くの守護騎士を道連れにしました。

自爆魔法は、死ぬと同時に通常の数倍のデスペナルティを課せられる禁呪でした。

ドームの天蓋は、びっしりと守護騎士に埋められていて、リーファは諦めそうになりました。

しかし、そこへ50以上のプレイヤーと10くらいの飛竜がドームに入ってきて、
加勢してくれました。
それはシルフ領主・サクヤとケットシー領主アリシャ・ルーの合同部隊でした。

呪文を放ちながら、全員で突撃します。

キリトが防衛線を突破すると、他のプレイヤーは後退しました。

キリトはゲートに到着しましたが、扉は開きませんでした。
ユイは、この扉は、システム管理者権限でロックされていて、
プレイヤーには絶対に開けられないと言いました。

しかし、アスナが落としてくれたカードを使い、トビラを開けることができました。

通路を進み、エレベーターに乗りますが、
そこにはリーファが夢見ていた空中都市などありませんでした。

キリトとユイは鳥籠に到着し、アスナと再会します。

現実世界へ帰ろうとしましたが、いきなり空気が異常に重くなり、
体を動かそうとすると、ねっとりとした粘液の中にいるかのような、
凄まじい抵抗を感じ、倒れました。

妖精王、オベイロン陛下こと須郷伸之が現れます。

キリトはログアウトしようとしますが、できませんでした。

須郷がアスナを苦しめるのを見て、立ち上がろうとしますが、
須郷は管理者権限でキリトに苦痛を与えます。

キリトは絶望しますが、「立って剣を取れ、
という茅場晶彦(ヒースクリフ)の声が聞こえ、体を起こします。

キリトは須郷の拳を掴み、脳の奥で響いた、
『システムログイン。ID〈ヒースクリフ〉。パスワード……』
という言葉をそのまま繰り返しました。

スーパーバイザ権限を変更し、ID〈オベイロン〉をレベル1にします。

SAO開発者である茅場晶彦のIDは、須郷よりも高位のものだったので、
須郷の権限を変更することができたのでした。

キリトは≪エクスキャリバー≫を召喚し、須郷の右手を断ち割ります。

キリトは全力で剣を撃ち込み、刀身が須郷の右眼から後頭部へ抜け、
深々と貫きました。

須郷は叫びながらフェードアウトし、姿が消え去りました。

アスナは現実世界の病室で待ってると言い、ログアウトしました。

キリトが、そこにいるんだろう、ヒースクリフ、と言うと、
ヒースクリフの声が聞こえました。

それは茅場晶彦という意識のエコー、残像のようなものでした。
システムに分散保存されたこのプログラムが結合・覚醒したのは、
つい先ほど、キリトの声が聞こえた時でした。

ヒースクリフは代償として、≪世界の種子≫という卵型の結晶をキリトに渡しました。


キリトはログアウトし、待っていた直葉にお礼を言いました。

もう夜9時少し前で、面会時間はとうの昔に終了していましたし、
雪が降っていましたが、和人は明日奈の病院に向かって自転車を疾走させます。

しかし、病院のパーキングで「大ぶりのサバイバルナイフを持った須郷に襲われました。
須郷はアメリカに行く前に、キリトを殺すと言い、ナイフを振り下ろします。

キリトは反撃し、ナイフを奪いましたが、俺はもう、剣士ではない、と思い、
須郷のネクタイで両手を後ろに回して縛り上げました。

ナースステーションで須郷のことを話し、明日奈の病室に向かいます。

そして、やっと結城明日奈と桐ヶ谷和人は現実世界で会うことができました。

場面が変わり、キリトとアスナは≪学校≫でお弁当を食べていました。

この特殊な≪学校≫に通う生徒は全て、
中学、高校時代に事件に巻き込まれた旧SAOプレイヤーです。

キリトとアスナは、自由選択科目はすべて共通にしましたが、
アスナの方が1学年上なのでカリキュラムに差があり、
会えるのは週に3日でした。

2巻1話に登場したシリカこと綾野珪子(あやのけいこ)と、
2巻2話に登場したリズベットこと里香は、≪一ヶ月休戦協定≫を結び、
1ヶ月だけキリトとアスナをらぶらぶさせてあげようとしえちました。

須郷とその部下は逮捕されていました。
須郷に監禁されていた300人の未帰還者に、人体実験中の記憶はなく、
全員が十分な加療ののちに社会復帰ができそうでした。


SAO事件とALOで起こった事件のせいで、
全てのVRMMOゲームが運営中止に追い込まれそうになりましたが、
その状況を、茅場晶彦がキリトに託した≪世界の種子≫が
根こそぎひっくり返してしまいました。

茅場は2024年11月のSAO世界の崩壊と同時にやはり死亡していました。

茅場が長時間ログインしていた間の介助をしていたのは、
茅場と同じ研究をしていた大学院生の女性、神代凜子(こうじろ・りんこ)でした。

キリトは保釈された神代凜子にメールし、喫茶店で茅場の話を聞きました。

茅場はフルダイブシステムを改造したマシンで己の大脳に超高出力のスキャンを行い、
脳を焼き切って死んだのだそうです。

スキャンが成功する確率は1000分の1もありませんでしたが、
茅場の意図したとおりの結果となれば、彼は己の記憶と思考、
つまり大脳内部の電気反応を全てデジタルコードに置き換え、
ネットワーク内に存在しているはずでした。

茅場晶彦の思考模倣プログラムから託された≪世界の種子≫は、
茅場の開発した、フルダイブ・システムによる全感覚VR環境を動かすための、
その名も≪ザ・シード≫と冠せられた一連のプログラム・パッケージでした。

SAOサーバーを自立制御していた≪カーディナル≫システムを整理し、
小規模なサーバでも稼働できるようダウンサイジングし、
ゲームコンポーネントの開発支援環境もパッケージングしていました。

何を言ってるのかよく分からないと思いますが、要するに、
VRワールドを創りたいと望むものは、サーバを用意し、
≪ザ・シード≫をダウンロードして3Dオブジェクトを設計、
もしくは既存のものを配置すれば、それで世界がひとつ誕生することになる、
ということです。

ライセンス料がかからず、完全権利フリーの≪ザ・シード≫を、
キリトは「エギルに依頼して全世界のあちこちのサーバにアップロードしました。

さらに、ALOもプレイヤーでもあったいくつかのベンチャー企業の関係者が、
共同開発で新たな会社を立ち上げ、レクトからALOの全データを無料に近い低額で譲り受け、
継続することができました。

エギルの店≪ダイシー・カフェ≫を貸し切りにして、
アインクラッド攻略記念パーティーがあり、その後はALO内で二次会がありました。

光の妖精アルフや世界樹の上の空中都市は存在しませんでしたが、
新生ALOではあらゆる妖精の民に永遠に飛べる翅が与えられ、
リーファにはそれで十分でした。

キリトはリーファに、空に浮遊する城、アインクラッドを見せました。

今度こそ、1層から100層まで完璧にクリアして、あの城を征服する、
手伝ってくれよな、とキリトは言いました。

キリトとリーファは、クライン、エギル、リズベット、シリカ、サーシャ、
サクヤとアリシャ・ルー、レコン、ユージーン、アスナやユイと、
アインクラッドを目指して飛びました。


というあらすじなのですが、とても面白かったです。

ただ、茅場以外のSAOを開発したメンバーから見れば、
自分達が苦労して開発した環境を、勝手に無料配布されるなんて、
たまったもんじゃないよなー、と思いましたが。

フェアリィ・ダンス編はこれにて完結です。

次の5巻からは、ファントム・バレット編が始まります。

川原礫「ソードアート・オンライン3 フェアリィ・ダンス」のネタバレ解説

ソードアート・オンライン〈3〉フェアリィ・ダンス (電撃文庫)


今回はキリトこと桐ヶ谷和人(きりがや・かずと)の妹である、
桐ヶ谷直葉(すぐは)に焦点が当たります。

まだ和人がSAOに囚われていた頃、
兄として育てられてきた和人が正確には従兄である、
と両親から教えられました。

桐ヶ谷峰嵩・翠夫妻の実子である直葉に対して、
和人は翠の姉、つまり直葉の伯母にあたる人の子供なのです。
伯母夫妻は和人がまだ1歳にもならないうちに事故で他界し、
大怪我を負いつつも命を取り留めた和人を緑が引き取りました。

直葉が高校に上がったらすべてを教える予定だったらしいのですが、
SAO事件では発生直後の1ヶ月間に2000人の死者が出たので、
全てが終わってしまった後に、
せめて直葉が≪知らなかったこと≫を後悔しないように、
両親は考えたのでした。

2024年11月7日に、和人はSAOから生還しました。

それから2ヶ月後、
和人はSAOのソードスキルを現実でも使えないかと思い、
小さい頃から剣道を続け、剣道の大会で上位に入り、
推薦入試で高校に進学することが決まっていた15歳の直葉と、
家の中にある道場で対戦します。
ちなみに、和人も小学校に上がってすぐに、
祖父に剣道場に通わされましたが、2年で辞めてしまいました。

システムアシストなしではソードスキルは再現できず、
和人は直葉に負けてしまいました。

和人はシャワーを浴び、着替えて、
アスナこと結城明日奈が入院している高度医療機関に行きました。

和人は現実世界に帰還した後、
≪総務省SAO事件対策本部≫の人間である、
黒縁眼鏡をかけた菊岡に、明日奈の居場所を訊きました。

しかし菊岡は、明日奈を含めて300人ほどのプレイヤーは、
まだ覚醒していない、と和人に告げました。

それから2ヶ月が過ぎた現在でも、
明日奈は目を覚ましていませんでした。

明日奈の入院している病室に行き、正午になると、
明日奈の父親であり、総合電子機器メーカー≪レクト≫のCEOである、
結城彰三(しょうぞう)がやってきました。

結城彰三から、レクトの研究所で主任をしている
須郷伸之(すごうのぶゆき)という、
眼鏡をかけた30歳くらいの男を紹介されました。

彰三が病室を出て行った後、須郷は、自分が明日奈と結婚する、
という話をしました。
書類上は須郷が結城家の養子に入ることになるのだそうです。
明日奈は昔から須郷のことを嫌っていましたが、
明日奈の両親はそのことを知らないのだそうです。

SAOを開発した≪アーガス≫は事件の補償で莫大な負債を抱えて、
会社は消滅しました。
サーバーの維持を委託されたのが、
須郷の部署であるレクトのフルダイブ技術開発部門であり、
明日奈の命は今や須郷が維持していると言っていい状態なのだそうです。

今後ここには一切来ないで欲しいな、式は来月この病院で行う、
と言い、須郷は病室を出て行きました。

家に帰った和人は、直葉に弱音を吐き、直葉は和人を励ましました。

直葉はそのまま和人のベッドで眠ってしまい、
目を覚ますと顔を真っ赤にして部屋から出て行きました。

SAOでは雑貨屋店主斧使いだったエギルから、メールが届きました。
そのメールに添付されていた写真には、
アスナにそっくりな長い栗色の髪の少女が映っていました。

和人は、現実世界でエギルが経営する、
台東区御徒町の裏通りにある喫茶店兼バー、
≪Dicey Cafe(ダイシー・カフェ)≫に行きました。

エギルこと本名アンドリュー・ギルバート・ミルズは、
人種的には生粋のアフリカン・アメリカンですが、
親の代からの江戸っ子でもあります。
SAOに囚われていたときには、
店は美人の奥さんがのれんを守り抜いたのだそうです。

和人が写真のことを問い質すと、
エギルは手のひらサイズのゲームのパッケージを和人に渡しました。

和人たちがSAOに囚われている間に発売された、
ナーヴギアの後継機である、
≪AmuSphere(アミュスフィア)≫というハードの、
≪ALfheim Online(アルヴヘイム・オンライン)≫というソフトでした。

アミュスフィアは、第二のSAO事件を起こさないよう、
ナーヴギアよりも出力が弱くなっており、
ナーヴギアと違ってプレイヤーの脳を焼き切ることはできない機種です。

プレイヤーが妖精になって空を飛べるVRMMOであり、
スキル制、プレイヤースキル重視、PK推奨が特徴なのだそうです。
いわゆるレベルはなく、魔法ありのSAOというところなのだそうです。

アルヴヘイム・オンライン(以下ALO)のプレイヤーの当面の目標は、
世界樹の上のほうにある白の種族に先駆けて到着することです。
滞空時間というのがあり、無限には飛べないのですが、
体格順に5人のプレイヤーが肩車して、
他段ロケット方式で木の枝を目指し、その証拠として何枚も撮った写真に、
鳥籠に囚われたアスナに似た少女が映っていたのでした。

ALOの運営は、レクトの子会社でした。

ALOのパッケージをエギルに貰い、自宅の部屋に戻った和人は、
ナーヴギアにALOのスロットを挿入して、ベッドに横たわって被り、
「リンク・スタート!」と言いました。

キリトと名前を入力し、男性のキャラクターを選びます。
妖精をモチーフにし、それぞれに多少の得手不得手がある9種族、
サラマンダー、シルフ、ノーム、ケットシー、レプラコーン、
ウンディーネ、スプリガン、インプ、プーカなどの中から、
黒を基調とした初期装備が気に入ったので、
キリトはスプリガンを選択しました。

最初はそれぞれの種族のホームタウンから
ゲームがスタートするはずだったのですが、
いきなり全ての映像がフリーズし、ポリゴンが欠け、世界が溶け崩れて、
キリトは広い暗闇の中を果てしなく落ち、
深い森の中に出現してしまいました。

ウインドウを調べると、≪二刀流≫を始め幾つか欠損していましたが、
SAOのスキルである≪片手剣≫、≪体術≫、≪武器防御≫、
≪釣り≫などが、SAOをクリアしたステータスで表示されていました。

アイテム欄は激しく文字化けしていましたが、
≪MHCP001≫というアイテムを選択し、ボタンを押しました。

すると、2巻3話の「朝露の少女」に登場したユイが出現しました。
≪MHCP001≫は、
あの時にオブジェクト化したユイのプログラム本体だったのでした。

感動の再会の後、ユイに簡単に状況を説明すると、
ユイは、この世界はSAOサーバーのコピーであり、
基幹プログラム群やグラフィック形式は完全に同一だと言いました。

セーブデータのフォーマットが同じなので、
2つのゲームに共通するスキルの熟練度を上書きしたのでしょう、
とユイは言いました。
アイテムは破損しているので、エラー検出プログラムに引っかからないよう、
アイテムは全て破棄しました。

ALOにもプレイヤーサポート用の擬似人格プログラム、
≪ナビゲーション・ピクシー≫が用意されており、
ユイはそこに分類されているのだそうです。

ユイはピクシーとしての姿である、10センチほどの妖精の姿になりました。
前のような管理者権限はなく、
リファレンスと広域マップデータへのアクセスくらいしかできないのだそうです。

キリトは補助コントローラでの飛行方法をユイに教えてもらい、
簡単な飛び方を覚えます。
他のプレイヤーが近づいてきていて、3人が1人を追っているようだとユイが言い、
キリトはその場所に先導してもらいました。

場面が変わり、リーファというシルフの少女が、
レコンという少年と一緒に、
サラマンダーの敵の部隊から逃げているシーンになります。

しかし、敵の部隊に見つかり、リーファとレコンは闘うことにしました。
ところが、メイジ(魔法使い)の炎の魔法で、レコンは死んでしまいました。
SAOとは違うので、すぐにホームタウンで蘇生しますが、
リーファも死んでしまったら、貴重なアイテムを敵に奪われ、
死亡罰則(デスペナルティ)がついてしまいます。

ピンチでしたが、そこへ突然キリトが墜落してきました。

初期装備そのままのキリトを見て、リーファは逃げるように言いましたが、
キリトは逆にサラマンダーの3人のうち2人を倒してしまいました。

リーダーである最後の1人は、キリトには勝てないと認め、
自分の領地に帰っていきました。

キリトはリーファに、この世界のことを教えて欲しい、と頼みます。
シルフの領地のホームタウンであるスイルベーンに向かう前に、
補助コントローラなしで飛べる随意飛行をレクチャーしてもらいます。

キリトとリーファはどんどん加速しましたが、スイルベーンに着いてから、
キリトはランディングという着陸の仕方が分からないことに気づき、
風の塔の外壁に突っ込んでしまいました。

スイルベーンは、別名≪翡翠の都≫と呼ばれ、とても綺麗な街です。
リーファはレコンと再会しますが、キリトはレコンから、
スプリガンのスパイではないかと疑われてしまいました。

レコンから、リーファとパーティを組んでいたシグルドが待っている
と言われましたが、リーファは今日の狩りの稼ぎを全てレコンに預け、
キリトに一杯おごるのを優先しました。

酒場兼宿屋で、リーファは世界樹についてキリトに説明します。

このゲームで初期選択できる9種族の妖精には対空制限時間があり、
せいぜい10分しか連続して飛べませんが、
世界樹の上にある空中都市に最初に到達して、
≪妖精王オベイロン≫に謁見した種族は全員、
対空制限のない≪アルフ≫という高位種族に
生まれ変わることができるのだそうです。

世界樹の内側、根元のところにある大きなドームの頂上に入り口があり、
そこから内部を登るのですが、
そのドームを守っているNPCのガーディアン軍団が凄い強さで、
今まで色んな種族が何度も挑んでいますがあっけなく全滅していました。

それでもキリトが世界樹に行きたいと言うと、
リーファが案内してくれることになりました。
明日の午後3時に待ち合わせの約束をし、リーファはログアウトしました。
キリトも宿屋で寝落ちしてログアウトします。

現実に戻ったリーファ、桐ヶ谷直葉は、
キリトのことが気になっているのを自覚し、
胸の奥で無言の喚き声を上げました。

アニメでは、声が同じなのでバレバレでしたが、
原作小説では直葉とリーファが同一人物であることは、
この時点まで伏せられていました。

ちなみに、直葉(リーファ)は、
キリトの正体が和人であることに気づいていませんし、
和人の方もリーファの正体が直葉だとは気づいていません。

ここで回想です。
SAO事件から1年が経とうとした頃、
和人が愛した仮想世界を自分の目で見たい、と直葉は思い、
クラスで一番のゲームマニアと称されていた長田慎一に、
VRMMOのことを教えてほしいと頼みました。

勉強と剣道部の練習に割く時間を減らすわけにはいかないと直葉が言うと、
長田はALOを推薦し、直葉と一緒に始めました。
長田のキャラクターが、レコンです。

その頃、アスナは端から端まで20歩程度の円形の鳥籠に
閉じ込められていました。
SAOをクリアした後、アスナがこの場所で覚醒してから、
60日が経過しようといました。

ALOの世界では1日が16時間に設定されているため、
体内時計に従って起きても朝と夜が一致しませんでしたが、
アスナは目覚めるたびに、今日は何日め、と自分に言い聞かせていました。

妖精王オベイロンの恰好をした須郷伸之が現れ、
アスナのことをティターニアと呼びました。
須郷はアスナをこの場所に幽閉し、自分の伴侶になることを望んでいました。

須郷はフルダイブ機能を使い、人間の思考、感情、記憶までも制御する、
という研究をしており、そのための被験者として、
SAO事件の被害者300人をこの世界に拉致していました。

須郷は結城家の人間になりレクトの後継者となった後、
アメリカの某企業にレクトごと研究成果を売りつける、と言いました。
その話の途中、須郷は部下に呼ばれて鳥籠から出て行きました。

一方、学校に行った直葉は、レコンこと長田に話しかけられます。
シグルドたちが、今日の午後から海底洞窟に狩りに行こうって言ってた、
ということを長田が伝えると、直葉はしばらく参加できないと答えました。

直葉が家に帰り、ALOにログインすると、キリトは先に来ていました。

キリトはSAOで稼いだお金を大量に持っていたので、
そのお金でリーファが装備を見つくろってあげました。
キリトは巨大で重い剣を購入します。

塔の上から飛ぼうとして、エレベーターに乗ろうとすると、
そこでシグルドとその取り巻きに行く手を塞がれました。

シグルドはシルフ最強の剣士の座をいつもリーファと争う男で、
政治的にも実力者です。
現在のシルフ領主はサクヤという女性ですが、
シグルドはそのサクヤの側近としても名を馳せています。

リーファがシグルドのパーティを抜ける気だと知ったシグルドは、
自分勝手なことを言いましたが、仲間はアイテムじゃないぜ、
とキリトはシグルドに言いました。

キリト君は、あたしの新しいパートナーよ、
とリーファが言うと、シグルドは、領地を捨てる気なのか、と言いました。

解き放たれたいという欲求が急速に浮かび上がってきたリーファは、
ここを出ると言いました。
シグルドが捨て台詞を吐いて去っていくと、
リーファとキリトは塔の展望台に上がりました。

そこでレコンに声をかけられ、ちょっと気になることがあり、
少し調べたいから、レコンはしばらくシグルドのパーティに残る、
と言いました。

その頃、アスナは須郷ことオベイロンから、
桐ヶ谷和人と明日奈の病室で会った、と言われました。
キリトが生きている、と知ったアスナは、心の中でそのことを噛み締めました。

この世界の鏡は光学現象ではないので、アスナが泣くふりをしながら、
至近距離から鏡に眼を凝らすと、オベイロンが部屋を出るときに、
暗証番号を入力するのを見ることができ、その番号を暗記しました。

その頃、キリトはバーサクっぷりを見せて、
モンスターを次々と撃破していました。
午後7時になり、ここで一度、交替でログアウト休憩することになりました。

先に覚醒した直葉は、食事をとり、シャワーを浴びてALOに戻りました。
キリトもログアウトしましたが、すぐに戻ってきました。

キリトは誰かに見られたような気がした、と言いました。
トレーサーという追跡魔法がついている可能性もありましたが、
このフィールドではトレーサーを見つけることができないので、
解除は不可能でした。

≪ルグルー回廊≫という洞窟に入り、
洞窟が得意分野のスプリガンの灯りの魔法のスペルワードを唱え、
奥に進みます。

地底湖が近づいた頃、【やっぱり思った通りだった! 気をつけて、s】
というレコンからのメッセージが届きました。
また、ユイが、12人のプレイヤーが近づいている、と警告しました。

リーファは隠れる魔法を使いましたが、
サラマンダーの高位魔法のトレーシング・サーチャーを潰すと、
逃げることにしました。

しかし、土魔法の障壁が現れ、行く手を塞がれてしまいます。
サラマンダーの部隊に追いつかれたキリトは、
リーファにサポートに回ってもらい、敵と戦います。
しかし、向こうの部隊には後方にヒーラーがいるため、
このままだと勝ち目はありませんでした。

それでもキリトは諦めず攻撃し続け、ユイの提案で、
残りのマナ(MP)を全部使って、
プレイヤーの見た目をモンスターに変えるという幻影魔法を使いました。

変化する姿はプレイヤーの攻撃スキル値によってランダムに決定されます。
実ステータスの変動はないため、
普通なら実戦では全く使えない魔法なのですが、
攻撃スキル値が高いキリトは巨大な悪魔に変身し、
その見た目で敵を圧倒して、1人の男を残して敵を撃破してしまいました。

最後に生き残った1人に、キリトは、質問に答えてくれたら、
今の戦闘でゲットしたアイテムと金(ユルド)を全部あげると言いました。

男は、≪作戦≫の邪魔になるからと、サラマンダーの上の方から命令され、
キリトとリーファを狙ったことを白状しました。
すごい人数の軍隊が北に飛んでいくのも見たのだそうです。

男を解放し、ルグルーという地底都市に着いたリーファは、
レコンこと長田に連絡をとるためログアウトしました。

すぐに長田から電話がかかってきて、
シグルドは相当前からサラマンダーと内通していた、と言われました。
レコンが透明マントを被ってシグルドを尾行すると、
通行証アイテムを与えたサラマンダーと、
シルフ領内の地下水道で会っていたのだそうです。

今日、領主のサクヤはケットシーという種族と正式に同盟を調印するために、
極秘で中立城に出ているのですが、シグルドはサラマンダーの大部隊に、
その調印式を襲わせる気なのだそうです。
レコンはそこまで知ったところでサラマンダーに襲われ、
地下水道で麻痺したまま捕まっているので、
仕方なくログアウトしてリアルで直葉に電話していたのだそうです。

階段の場所を聞いた直葉は、すぐにALOに戻り、
急いで行かなきゃいけない場所がある、とキリトに言いました。

キリトは自分もリーファについていくと言い、詳しい事情を聞きます。
領主を討つのはそれだけですごいボーナスがあり、
討たれた側の領主館に蓄積されている資金の3割を無条件で入手できるし、
10日間、領内の街を占領状態にして税金を自由にかけられます。

それを知ったキリトは、リーファの手を引っ張って
猛烈なスピードで洞窟内を駆け抜けて脱出し、そのままの勢いで飛翔しました。

会談の場所が近づいてきましたが、サラマンダー軍はすでに近くにいて、
全員が逃げ切る余裕はありませんでした。

サラマンダーの1人がシルフとケットシーに攻撃しようとした瞬間、
キリトはその中央に着地し、「双方、剣を引け!」と叫びました。

サラマンダーの指揮官のユージーン将軍に向かって、キリトは、
自分はスプリガン=ウンディーネ同盟の大使だとハッタリをかましました。
会談が襲われたとなれば、
4種族で同盟を結んでサラマンダーに対抗することになる、とキリトは言いました。

ユージーンは、オレの攻撃を30秒耐え切ったら、貴様を大使と信じてやろう、
と言い、勝負を申し出ました。

サクヤによると、魔剣グラムを持つユージーンは全プレイヤー中最強の男らしく、
まずいな、とサクヤは言いました。

魔剣グラムには、≪エセリアルシフト≫という、
剣や盾で受けようとしても非実在化してすり抜けてくるエクストラ効果があり、
キリトは何度も攻撃を受けてしまいます。
30秒が経過しても、やっぱり斬りたくなった、首を取るまでに変更だ、
とユージーンはいい、戦闘を続けます。

キリトはスペルワードを詠唱し、真っ黒な煙で視界を覆うと、
リーファの剣を借り、太陽を背にしてユージーンに斬りかかります。
キリトは二刀流で魔剣グラムを打ち破り、ユージーンを殺しました。

サクヤに蘇生魔法をかけてもらったユージーンは、負けを認めました。
また、昨日リーファを襲ってキリトに返り討ちにされた、
カゲムネというサラマンダーのプレイヤーが、
その時に見逃してもらったお礼のつもりか、
キリトがウンディーネと一緒にいるのを見た、と言いました。

それを聞いたユージーンは、そういうことにしておいてやろう、と言い、
部隊を引き連れて帰って行きました。

リーファは、サクヤや、ケットシー領主の女性のアリシャ・ルー達に、
事情を説明しました。

もうすぐ導入される≪転生システム≫で、シグルドは、
サラマンダー領主のモーティマーに頼み、
サラマンダーに転生させてもらうつもりだったのだろう、
とサクヤは説明しました。

アリシャ・ルーの闇魔法≪月光鏡≫でシグルドと連絡をとったサクヤは、
シグルドをレネゲイド(追放者)としてシルフから追放しました。

キリトは、俺がこの世界に来たのは、世界樹の上に行きたいからなんだ、
と言い、世界樹攻略のため、サクヤとアリシャ・ルーに、
10万ユルドミスリル金貨という超大金を渡しました。

キリトとリーファはサクヤ達と別れ、世界樹を目指して再び飛翔しました。

というあらすじなのですが、SAOを攻略してしまった後も、
引き続き面白いですね。

3巻はここで終わり、4巻に続きます。
プロフィール
Author:しまうました
見やすい記事一覧はこちらです。
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