西尾維新「人類最強のときめき」2話「人類最強のよろめき」のネタバレ解説

ER3システムのニューヨーク支局支局長の因原(いんぱら)ガゼルと、
四神一鏡の一角である檻神家のエリート職員の長瀞とろみが、
哀川に仕事の依頼をしに来ました。

活字を滅ぼしてください、とふたりは言いました。

ER3システムの女性若手研究員、ドクター・コーヒーテーブルが、
人類を滅ぼしうる、たった1冊の本をプログラムに書かせました。

その本は、面白過ぎて、寝食を忘れて読みふけってしまうような傑作でした。

比喩ではなく、寝食を忘れて読みふけってしまうので、
衰弱して死んでしまいます。

既に数百人単位で死者が出ていました。

その小説は、一人一人の好みに合わせて、自動生成される小説です。

アプリの形で配布される電子書籍にイメージが近いです。

スマートフォンのカメラで定点撮影することによって、
生成プログラムは画面に表示された文章を読む読者の、
リアルタイムな反応を観察し、
次のページを即座に『執筆』することができます。

小説家プログラムの正式名称は『ライト・ライター』で、
生成される該当の小説は『パブリック・ブック』という名前です。

『ライト・ライター』は、古今東西の、
あらゆる『小説』を電子化し、所蔵していて、
統計学に基づいて小説を書くシステムです。

ドクター・コーヒーテーブルは、
『ライト・ライター』を一般社会へ無料配布しようとしていました。

そんなことになったら人類は本当に滅亡してしまいます。

ガゼルの権限で、一般社会へのぱっひょうをストップをかけようとしましたが、
それを察したドクター・コーヒーテーブルは、籠城してしまいました。

ER3システムでは個々の研究者の領分を侵すことはタブ.ーなので、
非公式ながら、哀川に頼るしかなくなったのでした。

そのプログラムは、文章の解析よりも、表情の解析のほうが、
ずっと手がかかります。

ドクター・コーヒーテーブルは、哀川潤の妹とも言うべきロボット、
由比ヶ浜(ゆいがはま)ぷに子のOSとして採用されていたプログラムを、
『ライト・ライター』の読心術に転用していました。
だから哀川に仕事の依頼がきたのでした。

哀川はアメリカのテキサス州の砂漠へ飛び、
そこに隠されているはずのドクター・コーヒーテーブルのラボラトリーを捜します。

しかし、砂漠に大穴が開いていたため、ラボラトリーはすぐに見つかりました。

地下におりていくと、
国会図書館レベルの蔵書量の紙の書籍が詰まった本棚がありました。

最下層では、髪が半分以上、白髪化し、
衰弱したドクター・コーヒーテーブルが待っていました。

ドクター・コーヒーテーブルは、仲間の研究者から、
哀川が来訪することを知らされ、
バッテリー残量がぎりぎりのデジタルデバイスで、
わざと『パブリック・ブック』を読み、衰弱していたのでした。

わざと衰弱することで、哀川が暴力的に解決するのを防いだのです。

ドクター・コーヒーテーブルは哀川に1冊の紙の書籍を渡します。

実はそれも『パブリック・ブック』で、白紙に文字が浮かび上がりました。

ページをめくる指から、バイたるチェックをおこない、
真っ黒な微生物によって文字が書かれました。

このままだと哀川も死ぬまで本を読み続けることになってしまいましたが、
そこで哀川は、「熱中のあまり、読んでる途中に力尽きて死んじゃうんじゃ、
誰もこの本を読了できないとしか言えないんじゃね?
と言いました。

完結していなければ、小説じゃありません。
『パブリック・ブック』は永遠に終わらない未完の大作なのでした。

すると、そんなことは全く考えていなかったドクター・コーヒーテーブルは、
無言で籠城をやめ、ラボラトリーを出ていきました。

哀川は心ばかりの供養だと思い、製本版『パブリック・ブック』を、
図書室の書棚へと差し込みました。


というあらすじなのですが、しまうましたは、
最初の長瀞とろみと因原ガゼルの概要説明があった時点で、
読んでいる途中で死ぬのなら誰も最後まで読めないんじゃね?
と気付いていました……。

というか、別に読んだ人を殺すのが目的じゃないんなら、
読み始めてから丸1日くらいが経過した頃に完結するように、
調整すればいいだけだと思うのですが。

最初は究極の小説を求めて研究を始めたのに、
途中で目的が読者を殺すことに変わってしまったのかもしれませんね。

西尾維新「人類最強のときめき」1話「人類最強のときめき」

人類最強のときめき (講談社ノベルス)


人類最強の請負人・哀川潤シリーズ第3弾です。

第二版以降はどうなるか不明ですが、初版本には、
哀川潤の真っ赤な名刺がオマケとして挟まれています。

それにしても、わざとやってるんでしょうけど、
「初恋」「純愛」「ときめき」と来ているので、
何も知らない人が本屋で哀川潤シリーズの表紙を見かけたら、
恋愛小説だと思ってしまうかもしれませんね。

さて、コンプレックスの強いエリートである、
四神一鏡(ししんいっきょう)の哀川潤係、
長瀞(ながとろ)とろみが哀川さんに仕事を依頼しにきました。

海底火山が噴火し、大海原に新しい島が生まれました。

しかし、その島は絶妙な海域に誕生してしまい、
四神一鏡やER3システムを含む12の大組織が、
所有権を主張していました。

潤さん、しばらくの間、その島に滞在してもらえませんか?
と長瀞とろみは頼みました。
世界的にアンタッチャブルな哀川がその島に住んでくれれば、
どんな組織もどんな権力も、その島には手が出せなくなるから、
という理由で。

そんなわけで哀川は、何もない、
生まれたての火山島へと移住することになりました。

今回は同伴者はいなくて、哀川1人です。

上空800メートルからその島に落下しましたが、何もない島なので、
到着5分で、暇で暇でしょうがなくなり、
哀川は火口に近づきました。

当面の食料やテントやらが入ったザックを背負い、
エベレストの半分くらい(4400メートルくらいです……。
富士山より高いです)の高さを登り、登頂しました。

そこで寝転がる時、その場所に小さな双葉があるのを見つけ、
面はゆい気持ちになり、ときめいてしまいました。
哀川はその双葉を潰さないように、数メートルずれて寝ました。

そして翌朝、哀川は蔦(つた)もしくは蔓(つる)に、
全身を締め付けられた状態で目を覚ましました。

哀川が寝ている8時間くらいの間に、あふれんばかりの緑に覆われ、
立錐の余地もないような樹木島になっていたのでした。

この島では、植物が異常な速度で成長し、しかも意思を持って、
哀川を襲っているのでした。

ザックはどこにも見当たりませんでした。

歩こうとすると、草同士が絡んで、もつれている場所に足を取られました。
さらに、落下してきた木の実が脳天を直撃しました。

そのごの移動経路も散々で、茂みが隠していた崖から落ちそうになったり、
巨大な食虫植物に食われそうになりました。

哀川は木登りをして、島全体が緑に覆われていることを知りました。

もうこの任務は『達成不可能』とジャッジして、
引き上げることにしましたが、
酸素濃度が異様に濃厚になっているせいで、
下山した頃には酸素中毒で体力を消耗していました。

哀川は花粉のせいで花粉症になり、
植物の枝に襲われ、死にそうになりました。

しかしその時、「ガス状生命体『ふれあい』のことを思い出し、
枝をそこらの木の幹へとこすりつけ、ねじ込むように回転させるという、
原始的な方法で火を点けました。

酸素供給過多で、花粉が蔓延していたこともあり、
粉塵爆発のようになり、島中が消し炭になってしまいました。

普通の人間なら死んでしまいますが、
哀川は人類最強の請負人なので、普通に生きていましたw

昨日の晩、哀川が発見した双葉は、
四神一鏡のヘリコプターが哀川と一緒に落としてしまった
外来種だったようでした。

しかし、植物は全滅してしまったわけではなく、
真っ黒な大地に、小さな双葉がまた生えていたのでした。


というあらすじなのですが、今回の敵はまさかの植物でしたね。

植物が敵というと、あまりピンチに感じられませんが、
毒のある植物は多く、毎年多くの人が植物のせいで亡くなっていますし、
日本は花粉症のせいで経済的な損失も多いですし、
侮ってはいけませんね。

というか、日本中の山で放置されているスギを、
いい加減何とかしてほしいです……。

花粉症のメカニズムが判明してから数十年が経つのに、
どうしてまだ根本的な解決ができないのでしょうか……。

西尾維新「ネコソギラジカル(中) 赤き征裁 vs. 橙なる種」のネタバレ解説

ネコソギラジカル(中) 赤き征裁vs.橙なる種 戯言 (講談社文庫)


戯言遣いシリーズ8冊目です。
この記事は「ネコソギラジカル」の中巻の解説で、上巻の解説はこちらです。

想影真心は、まずは萌太を殴り、
萌太は両腕を胸の前で組んで防御動作をとりました。

しかし、両腕の骨が折れ、萌太は吹っ飛ばされ、
背後にいた哀川潤に衝突し、哀川も後ろに転がりました。

いーちゃんの後ろにいた匂宮出夢と、
いーちゃんの隣にいた闇口崩子が、
真心に近づき、時間差で殴りかかります。

しかし、まずは崩子の腕がいなされ、
崩子は額から、体育館の床に突っ込みました。

出夢は脚で攻撃しようとしましたが、その腕がいなされ、
出夢は床に叩きつけられました。

どんな手を使ったんだ、あいつは、死んだはずだ、
といーちゃんは西東天に言います。

真心が紅蓮の炎に焼かれて死んだのを、
いーちゃんはこの目で見たのですが、
死んだというならば俺も死んでいる、俺の娘も死んでいる、
と西東は言いました。

いきなりいーちゃんの仲間4人が倒されてしまいましたが、
そのうち哀川だけは萌太を庇ってわざと転がったので、
無傷でした。

哀川は、てめえは――なんだ? と真心に訊きましたが、
真心は立ったまま眠っていて反応しませんでした。

そんなに眠てーならよ―― 一生眠ってろ!
と哀川は叫び、真心に飛びかかろうとします。

その声で真心は目を開き、オレンジ色の瞳で哀川を見ました。

哀川は真心に倒され、起き上がりませんでした。
その哀川を、真心は踏みつけます。

西東は、哀川のことを「旧式」と呼び、
正面からぶつかれば、こんなもんか、と言いました。

いーちゃんは舞台を降りようとしますが、西東に止められます。

出夢が立ち上がり、哀川を踏んでいる足をどけろ、と言いますが、
真心は反応しません。
出夢は激昂して左右両腕で≪一喰い(イーティング・ワン)≫を
繰り出そうとしましたが、人類最終、橙なる種は、
出夢の攻撃の先を取る形で、右脇腹に力任せの一撃を打ち込み、
根こそぎ破壊し、血と肉と内臓を撒き散らせました。

たった一人立っている真心は、
「げらげらげらげら(中略)げらげらげらげら!」と哄笑しました。

もうやめろ、真心! といーちゃんが叫ぶと、
真心はいーちゃんを見て、「いーちゃん」と言い、
電池が切れたように倒れました。

西東は、真心を制御するために、
時宮時刻と奇野頼知と右下るれろを選んだ、と言いました。

哀川と萌太と真心が入ってきた鉄の扉の向こうに、
身体中に包帯を巻いた女、人形士の右下るれろが立っていました。
包帯だらけなのは、真心を調.教する際に手を焼いたせいなのだそうです。

西東は、携帯電話に十一桁の番号を押して、絵本園樹に電話し、
第二体育館には怪我人がいっぱいだぞ、と伝えました。

いーちゃんはここでようやく、西東から「もういいぞ」と言われ、
舞台から飛び降り、一番怪我を負った出夢のところに駆けつけます。

どてっぱらをぶち抜かれた出夢は、息も絶え絶えに、
零崎人識は生きてるぜ、といーちゃんに伝え、
いーちゃんの頬にキスをし、そこにいてくれたんだ――理澄、
と言い、死にました。

これで今回のパーティはお開きだ、と西東は言いました。
右下るれろは真心を抱え、
西東は、俺の娘は連れてくぜ、と言って哀川を支え、
第二体育館から姿を消しました。

絵本園樹は、萌太と崩子の手当てをし、
木の実ちゃんが処理すると思うから、出夢くんはこのままにしておいてね、
と言って、西東が待っているところに戻っていきました。

萌太は両腕に添え木をし、崩子は額にガーゼを貼られていました。
精神にも傷を負った2人は無口になっていました。

3人は歩いて人里に出て、駅のホームで電車を待っていました。

いーちゃんは萌太と崩子に、2人はここで退くべきだと言いましたが、
いーちゃんの周囲にいる以上西東は2人もちょっかいを出すので、
どちらにしても同じことだ、と萌太は言いました。

それよりも萌太は、どうして闇口濡衣は萌太達の前に姿を現さなかったのか、
ということの方が気になっているようでした。

しばらくして始発電車がやってきます。

いーちゃんが初めて気を抜いたそのとき、背中を、押されました。

電車がホームに入ってきます。
線路に落ちそうになったいーちゃんの腕を崩子が引っ張り、
今度は崩子が前に出て線路に落ちそうになります。

しかし、萌太が崩子の前に割り込み、崩子と衝突して、
萌太だけが線路の上に落ちました。

両腕を骨折して起き上がれない萌太はいーちゃんと崩子を見て、
納得したような表情になり、満足そうに微笑み、
さようなら、と言って死にました。

ここで回想があり、実験体として使われていた真心に、
ぼくと一緒に逃げよう、手を取り合ってどこまでも、
といーちゃんが言い、真心が嬉しそうな顔をした、
というシーンが描写されます。

回想が終わると、萌太が死んでから一週間が経過し、
10月8日、土曜日になっていました。
目を覚ますと浅野みいこがいました。

萌太が死んだのは知っているというみいこに、
いーちゃんは崩子のことを話します。

崩子は、目の前で萌太が死んだので、精神の方に強いショックを受け、
過剰な自傷の傾向があるため、
鎮静剤を打たれて個室のベッドに縛り付けられていました。
それは形梨らぶみからの伝聞で、崩子は面会謝絶のため、
いーちゃんもまだ崩子には会っていませんでしたが。

みいこはいーちゃんを慰めるために病室に来たのですが、
いーちゃんは、それは、まだ、大丈夫です、と言いました。

みいこが病室を出て行った後、いーちゃんは石丸小唄に電話し、
哀川が西東に連れ去られたことを伝え、
哀川を探すついでに、零崎人識も探して欲しい、と頼みました。
小唄の声が低くなり、これ以上の話はいーちゃんが月曜日に退院してから、
ということになりました。

その翌日、らぶみは非公式で崩子と会ってもいい、と言いました。

崩子の病室に行こうとすると、喫煙スペースに設置されていた、
公衆電話が鳴りました。

その電話に出ると、一言でもあなたが喋れば私は即座にこの通話を切断します、
と前置きがあり、私の名前は闇口濡衣です、と電話の相手は名乗りました。

先日あなたの背中を押したのは私です、と闇口濡衣は言いました。

濡衣の目的は、闇口の家系の恥晒しである崩子でした。
崩子が闇口の≪力≫を発揮するのが許せず、
濡衣はいーちゃんを突き落としました。

濡衣は、いーちゃんを庇って崩子が死ぬのを予想していて、
萌太が崩子を庇うのは思いもしなかったのだそうです。

しかし、目の前で兄が死んだとなれば、崩子は再起不能だろうから、
濡衣の目的は果たされたのだそうです。

戯言遣いの戯言を恐れる濡衣は、あなたに私を恨んで欲しくない、と言い、
≪十三階段≫から抜けることを伝えました。
元々、萌太と崩子を≪停止≫させたら抜ける契約になっていたのだそうです。

ちなみに、姫菜真姫を殺したのも、濡衣でした。

また、澪標姉妹がいーちゃんを狙っている、と内部告発してくれました。

澪標深空と澪標高海は、西東の前で恥をかかされた、と思っており、
西東の指示を離れ、独自に動こうとしているのだそうです。

もしも≪十三階段≫を崩したいなら、
宴九段か絵本園樹辺りからが適当だと思いますよ、
と濡衣は助言し、通話を切ろうとしました。

あなたにとって世界の終わりとは何ですか、といーちゃんが聞くと、
我があるじの死、と濡衣は言って通話を切りました。

崩子の病室に行くと、崩子はいーちゃんに抱きつき、泣きました。

線路に落ちた萌太は、いーちゃんの背後に闇口濡衣の姿を見て、
自分がここで死ねば崩子は殺されずに済むことを理解して、
足掻かなかったのだろう、といーちゃんは考えました。

いーちゃんは崩子を抱きしめ、ぼくはずっと、崩子ちゃんのそばにいる、
崩子ちゃんを愛している、と言いました。

退院の日、千賀ひかりが迎えに来てくれました。
哀川によれば、ひかりではなくてる子なのだそうですが、
いーちゃんは彼女のことをひかりとして扱い続けることにしました。

ひかりの運転で、小唄と待ち合わせをしている新京極のホテルに向かう途中、
ひかりは哀川のことを「哀川さん」と苗字で呼びました。

哀川さん、苗字で呼ばれるの、嫌がるでしょう?
といーちゃんが言うと、ひかりはきょとんとしました。

いーちゃんはずっと、あたしを苗字で呼ぶのは敵だけだ、
と哀川に言われ続けてきたのに、
ひかりはそんなこと言われたことないのだそうです。

2ヶ月前、木賀峰約とも会ったホテルの喫茶店に行くと、
小唄はもう来ていました。

零崎人識は哀川とも西東天とも関わりがある、といーちゃんは言いました。

そもそも、いーちゃんは零崎人識の代理品(オルタナティブ)として
西東の敵になったので、西東と人識の間には、何らかの繋がりがあるはずでした。

いーちゃんはその繋がりを使い、揺さぶりをかけようとしていました。

小唄と分かれて車に戻ると、ひかりは寝ていました。
ひかりを寝かせるために2時間ほど時間を潰していーちゃんは再び車に戻り、
玖渚友のマンションに行ってもらいました。

玖渚は、機関に無能がいて、
玖渚のロストテクノロジーをいじくって機能低下させていた、
といーちゃんに愚痴を言いました。

いーちゃんは玖渚に、機関の力をフル活用して、これまでこの国で、
ぼくとかかわりをもった全ての人を、守って欲しい、と頼みました。

さらに、ぼくが、今巻き込まれているくだらないいざこざから、
無事に生還することができたらさ、結婚しようぜ、とプロポーズしました。

玖渚は吹き出して笑った後、2人とも、20になってからにしようよ、
と言いました。

(……っていうか、ほんの1週間くらい前に崩子に向かって、
ぼくはずっと、崩子ちゃんのそばにいる、崩子ちゃんを愛している、
と言ってたのに……。

いーちゃんは天然の女たらしですね……)

アパートに戻ると、いーちゃんの部屋に想影真心がいました。

場面が変わり、いーちゃんは絵本園樹に電話して、
京都御苑で待ち合わせをしました。
電話番号は、西東が絵本に電話した時の手の動きを何とか思い出し、
11桁の数字の並びの組み合わせを数十回数百回チャレンジして、
絵本の携帯電話に繋がりました。

待ち合わせ場所のベンチに行くと、
待ち合わせの時間の1時間前から待っていたと言い、
絵本はいきなり泣いていました。
しかし、ミスタードーナツでセール中だったフレンチクルーラー10個を渡すと、
絵本は機嫌を直しました。

(ところで、ミスタードーナツが好きなキャラって、
物語シリーズの忍野忍の焼き直しみたいですが、
実際には絵本の方が先です)

狐さんを裏切って、ぼくに協力してください、
といーちゃんは絵本に頼みました。

いーちゃんは≪十三階段≫の全員に裏切ってもらうつもりだと説明しました。

絵本は、狐さんみたいに強制してよ、と言いましたが、
いーちゃんはあなたが決めてください、ぼくと友達になってください、
と言いました。
フレンチクルーラー100個で、絵本は西東を裏切って、
いーちゃんと友達になってくれることになりました。

だって、あたし、本当は――世界に、終わって欲しくなんかない、
と絵本は初めて本音を言いました。

真心がいーちゃんの部屋にいることを教えると、
西東は真心が出した被害の整理をするだけで精一杯だ、
と絵本は言いました。

西東は10月の半ばをキリに、
またいーちゃんにちょっかいをかけるつもりだったらしいのですが、
真心の出した被害のせいでそれどころではなくなってしまったのだそうです。

また、哀川は絵本が治療したので生きていますが、
今どこにいるのかはわからないのだそうです。

時宮時刻が席を外したときを狙って、真心は動きました。
奇野を殺されて、右下るれろは大怪我を負ったのだそうです。

それまでは、奇野は真心の体力を、右下るれろは真心の肉体を、
時宮は真心の意識を、それぞれに支配していたのだそうです。

絵本の次は右下るれろに会うことにして、
翌日また絵本と待ち合わせの約束をしました。

アパートに帰ると、ひかりと真心が2人ともメイド服姿になっていました。

真心は、いーちゃん、好きっ、と言っていーちゃんを抱きしめました。

ちなみに時宮達に支配されていないときの真心は、
一人称が「俺様」で、野性児っぽい感じの喋り方をします。

ER3システムは真心を≪橙なる種≫として「完成」したのか、
といーちゃんは聞きましたが、真心は、わからん、知らん、と答えました。

真心はおそらく一里塚木の実の空間製作で、
いつの間にか西東に誘拐されていたようでした。

話の途中で、真心は急に寝てしまいました。

ひかりによると、眠り病のような症状が近いのだそうです。
おそらく、時宮の≪操想術≫のせいでした。

真心を紫木一姫が使っていた部屋に連れて行って寝かせ、
隣の部屋の七々見奈波(ななななみ・ななみ)に、隣、よろしく、
とドア越しに頼みました。

右下るれろは面会謝絶状態だったため、
主治医の絵本の許可が出て右下るれろと会えることになったのは、
10月15日、土曜日でした。
右下るれろは現在、「ヒトクイマジカル」に登場し、木賀峰約が使っていた、
西東診療所と呼ばれていたところで治療中でした。

それまでの3日間に、いーちゃんはひかりと真心の衣類を買いに行き、
西東の話をしました。
世界が終わるか自分が死ぬかしなければ、西東天は止まりませんが、
ひかりはいーちゃんに、あなたに人は殺せない、と思います、と言いました。

昔ならいざ知らず、今のいーちゃんは守りたいものを認識してしまったので、
人を殺せないだろう、と自覚しました。

真心との馴れ初めを聞かれ、いーちゃんがER3に渡った経緯から説明します。

いーちゃんは中学の時に、玖渚機関とトラブルを起こし、
国外逃亡を余儀なくされ、玖渚友の兄の玖渚直の手引きで、
ER3システムの、ERプログラムという留学制度に参加しました。

その寮で、いーちゃんと同室だったのが想影真心でした。
しかし真心は橙なる種としての実験体であり、
そのことは公然の秘密のようなものでした。

当時のいーちゃんは知りませんでしたが、MS-2は、
木賀峰約のように西東の続きをやろうとして、
人為的に哀川潤を作ろうとしていたのでした。

いーちゃんは無自覚に、真心の監視役――及び世話係として、
MS-2の研究には一役買っていたみたいだったようです。

いーちゃんは真心と仲良くなりましたが、
≪友人≫としてのいーちゃんが必要なくなり、邪魔になったから、
別離させるために、ER3システム、MS-2が、
いーちゃんに対しては真心は炎の中で焼け死んだと偽装工作をしたようでした。

「クビツリハイスクール」に登場した萩原子荻によれば、
いーちゃんは周囲の場を狂わせてしまい、
不幸と災厄を引き寄せる自己頻発性体質なので、
ぼくのせいなのかなあ、といーちゃんは思っていました。

しかし、たとえそうだったとしても、それはあなたの責任ではありません、
とひかりに励まされ、ですね、といーちゃんは言いました。

どうも先程から、誰かに尾行されているようです、とひかりに言われ、
尾行を意識しながら横断歩道を渡り、地下鉄の電車に乗ります。
ドアーが閉まりかけたところでいーちゃんとひかりが飛び降りると、
尾行の相手も飛び降りました。

その相手は、今風の茶髪で制服を着て、赤い緑の眼鏡をかけた女子高生でした。

女子高生は、≪十三階段≫の5段目、古槍頭巾と名乗りましたが、
いーちゃんは、月並みだな、と思いました。

逃げようとした頭巾を捕まえると、離しなさい! 殺さば殺せ!
と言われたので、いーちゃんは頭巾を線路に突き落としました。
そのまま地上に出ると、次の電車が来るまで十分な時間があったので、
殺す気かーっ! と言って頭巾が追ってきました。

(このシーン、完全にギャグなのですが、
ほんの2週間くらい前に萌太が線路に落ちて電車に轢かれて死んだのを考えると、
ギャグにしていいのかなあ……と思わないでもありません。
不謹慎だけど、面白いからいいのですが)

古槍頭巾は老人だって聞いたんだけど、といーちゃんが言うと、
女子高生は、わたし、12代目だから、と言いました。

いーちゃんが聞いていたのは11代目で、
11代目は老人だったのですが、老衰で亡くなってしまい、
その孫の女子高生が12代目の古槍頭巾になったのだそうです。

11代目古槍頭巾は、いーちゃんが哀川からもらった刀子(とうす)、
≪無銘≫を手に入れるために≪十三階段≫に入ったのだそうです。

そして12代目の古槍頭巾は、亡き祖父に代わって、
≪無銘≫をいーちゃんからもらおうとしました。

そこへ、石丸小唄から電話があり、零崎一賊、どうやら全滅しています、
と言われました。

切り札を失ったいーちゃんは、ひとまず、
10月中に12代目古槍頭巾が何もしなかったら、≪無銘≫をあげる、
それと引き換えに古槍頭巾は西東を裏切って≪十三階段≫を抜ける、
と約束しました。

10月15日、土曜日になりました。
絵本が裏切ったことを右下るれろに教えるわけにはいかないので、
絵本がいないときにいーちゃんが診療所に忍び込んだ、
という設定で、右下るれろに会いに行きました。

包帯とギプス、コルセット、点滴などの治療機器で
ベッドに縛り付けられているような状態の右下るれろは、
西東のことを最悪だと言いながらも、西東を裏切れないと言いました。

しばらくして、駐車場に西東の乗った真っ白いポルシェが停まりました。
西東は、診療所の中に這入ってきます。

いーちゃんはジェリコ(拳銃)を右下るれろに見せ、
ぼくのことを、決して話さないでください、と言って、
ベッドの下に隠れました。

やってきた西東は、澄百合学園で真心がいーちゃんを認識したのは予定外であり、
それは右下るれろが時間にルーズで予定より遅れて来たからだ、
という意味のことを言いました。

西東は、闇口濡衣が≪十三階段≫を抜けたこと、
奇野頼知や11代目古槍頭巾が死んだことを話し、
いーちゃんが月並みと判断していた女子高生の12代目については、
「とてもいいぜ」「あの娘は――最高だ」と褒めました。

ノイズもリタイアしており、架城明楽を除けば、
残る≪十三階段≫は8人です。

真心がいーちゃんの手に渡ったことで、西東の予定していた今後の展開は、
すべておじゃんになってしまっていました。

奴は≪十三階段≫全員を一人ずつ順番に――裏切らせるつもりだろう、
と西東はまさに今いーちゃんがやっていることを予想していました。

その成功率は8割強だと西東は言います。

澪標姉妹と右下るれろは西東に忠誠を誓っているから絶対に裏切ったりしない、
と右下ろれろは言いましたが、その忠誠こそが枷なのさ、と西東は言いました。

西東は右下るれろに、近い将来、いーちゃんが右下るれろの前に現れたら、
西東の意思で裏切れ、と命令しました。

一里塚木の実以外の全員に同じ指示を出し、
西東を裏切ってもらうつもりだと西東は言いました。

西東は、いーちゃんから手を引くことにしたのでした。

奴の無為識を甘く見ていた、と西東は言いました。
「無為識」というのは、「クビツリハイスクール」で萩原子荻が言っていた、
いーちゃんの能力みたいなものです。

いーちゃんの周りでは、何もかもが、うまくいかない――誰の望みも叶いません。
本人は何もしないのに、周囲が勝手に狂い出します。

いーちゃんは物語を掻き乱す存在であり、だからこそ、
いーちゃんには西東が望んでいる「物語を加速させる」資格がありました。

しかし、これ以上の被害は出せないので、
西東は負けを認め、投了することにしたのでした。

西東はいーちゃんとの因果は切り、別のアプローチで物語を加速させ、
世界の終わりを見るつもりなのだそうです。

駐車場に絵本園樹がやってきて、「俺の敵に、よろしくな」と西東は言って、
絵本に話をしに行きました。

いーちゃんがベッドの下から這い出ると、いーちゃんはお礼を言い、謝りました。

しかし、右下るれろは、最初から、
いーちゃんの拳銃に弾丸が入っていないことを見抜いていました。

真心の鎖を解いてください、といーちゃんは右下るれろに頼みます。

しかし、右下るれろの≪人形≫も時宮時刻の≪操想術≫も奇野頼知の≪病毒≫も、
何もしなくても、11月になる頃には、全部綺麗さっぱり、
夢から覚めたように消えてなくなるのだそうです。

いーちゃんは、この勝負――ぼくの勝ちです、
と勝利宣言をしてアパートに帰りました。
西東は宣言通り、その日以来、
いーちゃんに対して本当に何の手出しもしてきませんでした。

真心の睡眠時間は少しずつ短くなり、長時間の活動が、可能になっていきました。

10月20日には、浅野みいこと闇口崩子が退院してきました。

崩子が真心と対面した時にはひと悶着ありましたが、
最終的には、打ち解けました。

10月25日には、千賀ひかり、
あるいは千賀てる子が鴉の濡れ羽島に帰っていきました。

そして――10月31日夜9時に、いーちゃんは約束通り、
12代目古槍頭巾に≪無銘≫を渡すため、京都御苑で待ち合わせをしました。

ところが、そこに現れたのは、古槍頭巾の上半身だけを左右でぶら下げている、
澪標深空と澪標高海の姉妹でした。

澪標姉妹は、裏切者である古槍頭巾を殺したのだそうです。

狐さんはもう、ぼくに手出しはしないはずだ、といーちゃんは言いましたが、
澪標姉妹は、そんなことは関係ない、あんたを殺さない限り、
狐さんに合わせる顔がない、と言いました。

西東は澪標姉妹の説得に失敗したのでした。

前巻では匂宮出夢にあっさりとやられていた澪標姉妹でしたが、
いーちゃんにとっては強敵で、いーちゃんは逃げ惑います。

いーちゃんは逃げながら、御所の壁に近付いて警報を鳴らそうとしますが、
警報など鳴らしても無駄だ、誰も来ない、と澪標姉妹は言いました。
一里塚木の実が空間製作をしているせいでした。

いーちゃんは澪標姉妹に殺されそうになりましたが、
そこに「零崎人識が登場し、助けてくれました。

零崎人識はあっさりと澪標姉妹を倒し、澪標姉妹は逃げて行きました。

いーちゃんがここにいると人識に教えてくれたのは、
コートを着た女、宴九段でした。

宴九段は玖渚の≪軍団(レギオン)≫の1人、
≪屍(トリガーハッピーエンド)≫の滋賀井統乃(しがいとうの)として
この場にいました。

宴九段は、玖渚友はもう駄目だ、と言いました。
きみが悪いんだよ、戯言遣い、と宴九段はいーちゃんを責めました。

いーちゃんがいつからか、停止することをやめ、
一人で変わり始めてしまったから、
玖渚友もまた、停止し続けることができなくなり、
成長せざるをえなくなってしまった、と宴九段は言いました。

玖渚友の10年も止まっていた肉体が今更成長に耐えうるわけがなく、
機関の人間も元≪軍団≫のメンバーも、
最早いーちゃん以外は全員が知っていることなのだと前置きしたうえで、
宴九段はこう言いました。

今や玖渚友は――いつ死んだって、おかしくない、と。


というあらすじなのですが、衝撃の展開で、この巻は終わります。

しかし、「この巻でいーちゃんと玖渚は婚約しましたが、
この戦争が終わったら結婚しよう、
というのは、完全に死亡フラグでしたよね……。


それにしても、タイトルが「赤き征裁 vs. 橙なる種」なのに、
哀川と真心が戦闘しているシーンがほとんどありませんでしたね。

この話は、戯言遣いシリーズ最終巻の
「ネコソギラジカル(下) 戯言遣いと青色サヴァン」に続きます。

西尾維新・中村光「どうしても叶えたいたったひとつの願いと割とそうでもない99の願い」のネタバレ解説

大斬─オオギリ─ (ジャンプコミックスSQ.)


この話、「どうしても叶えたいたったひとつの願いと
割とそうでもない99の願い」は、
短編漫画集「大斬(オオギリ)」に収録されています。
「大斬」は、「大喜利(おおぎり)」にかけた、言葉遊びですね。

この話は「十二大戦」の後日談なのですが、
実際に書かれたのは「十二大戦」よりも前です。

「十二大戦」のネタバレが大量にあるので、
先にそっちを読んだ方がいいでしょう。

「ヤングジャンプに読切を一本」と依頼され、
最初にネームを作ったのがこの話でした。
お題は「願いごと」でした。

その後、編集者がお題を考え、
色んな人気漫画家に読切を書いてもらい、
集英社系列の色んな漫画誌に掲載する、という企画になり、
「大斬」として一冊にまとめられました。

前置きはこれくらいにして、いつものようにあらすじです。

12年に1度開催される十二大戦。
干支の名を宿す12人の猛き戦士が
互いの命と魂を賭けて殺し合う儀式。

この願いに勝ち残った者はどんな願いでも
たったひとつだけ叶えることができます。

で、その十二大戦の様子は長編小説「十二大戦」で描かれ、
寝住(ねずみ)という男子高校生もやっている戦士が生き残り、
翌朝高校に登校したところから話は始まります。

寝住が教室に入ると、
クラスメートの男子が「おはよー」と挨拶をしました。
しかし、相手が寝住だと気づくと「なーんだ寝住か」と言い、
別のクラスメートとの雑談に戻ってしまいます。

それを見た寝住は、「①全員死ね」と言い、その様子を妄想した後、
「なーんてね。
せっかく手に入れた権利をそんなくだらねーことに使えるかよ。
別にほっといてもこいつら百年後には死んでるし。
どんな願いを叶えてもらうかはしっかり考えねーと……」
と思い、机に伏して寝ます。

そこへ、優しくて真面目そうな女子のクラスメートが、
「学校に寝に来てるのかな?
きみには夢も希望もないのかい?」
と話しかけてきました。

寝住は「②スカートめくれろ」と考え、その様子を妄想した後、
「アホか」と心の中で否定します。

「もしもひとつだけ願いが叶うとしたら何を願う?」
と、寝住がその女子に訊いてみると、
「③みんなが幸せになる!
これなら色んな人の願いが一斉に叶いそうだしね!」
と女子は答えました。

なるほどそりゃあいいアイデア――と寝住は言いかけますが、
「それだと俺の嫌いな奴まで幸せになっちまう。
例をあげれば十二大戦においてもっとも手強かった敵、憂城(うさぎ)。
あんな男の願いが叶ったら最悪だ。宇宙から生命が消え失せる」
と心の中で否定しました。

放課後、寝住は電車に揺られながら、
「でもまあ、あれだ。
確かに、あーゆーいい奴そうな願いを叶えるってのはいい感じだ。
そう――そして、いい奴と言えばあいつだぜ。
十二大戦で落命した女戦士、砂粒(しゃりゅう)。
④誰よりも優しかったあいつが生き返る。
っていうのはどうだ?」
と考えますが、
「待てよ? いい奴だったら生き返れるのか?
百年後にはみんな死ぬのに優しい奴だけ生き返れてもいいもんなのか?
あいつはそれを受け入れるのか?」
と否定します。

「⑤死んだみんなが生き返る」
と考えますが、
「でも、それだと生き返って欲しくない奴まで生き返るよな。
妬良(とら)。
庭取(にわとり)。
迂々馬(ううま)。
怒突(どっく)。
あの辺の連中に生き返られたら大戦の蒸し返しだぜ。
じゃあ何? 俺、命の選別とかしなきゃなの?
だいたい生き返った奴って死ぬ前の奴と同一人物なのか?
クローンみたいなもんじゃねーのか、それって。
単なる俺の自己満足なんじゃねーの?」
と否定します。

寝住は電車を降り、十二大戦中に、他の戦士たちに優勝したら何を願うか、
と聞いてみた時のことを思い出します。
実際には「十二大戦」にはそんなシーンは描かれませんでしたが、
これは寝住の技能が関係しています。

断罪(たつみ)兄弟が、
「⑥金(かね)だよ金! 金に決まってんだろ!
金さえあれば何でもできるんだからよ!」
と言っていたのを思い出し、
「いや、金じゃ何でもはできないからさ。
お金でできない不可能ごとこそ願いたいじゃん」
と否定します。

必爺(ひつじい)という老人の戦士が、
「⑦不老不死ですなやはり!
この歳になると若狭こそが宝だと思い知りますわい」
と言っていたのを思い出し、
「でも死ねないって結構ツラくねぇ?
いつまでも若いのも辛そうだし…」
と否定します。

異能肉(いのうしし)という女戦士が、
「⑧もちろんハーレムですわ! ハーレムハーレムハーレム!
私は歴史ある名家の淑女として!
三十五億人のイケメンと愛し愛され暮らすのですわ!」
と言っていたのを思い出し、
「俺が思春期だからかなぁ…。
人に聞かれて恥ずかしいことは願いたくないぜぇ」
と否定します。

失井(うしい)から、
「人に聞くなら先に言いたまえよ。
貴様の願いは何なのかね? 貴様は何のために闘っている?
生きている?」
と訊かれたことを思い出しますが、
寝住は戦いたくて戦っているわけではなかったため、
答えることができませんでした。

「きみには夢も希望もないのかい?」
とクラスメートの女子に訊かれたのを思い出し、
「いやいやいやふざけんな! 願いなんか99個くらいあるっての!」
と考え、見開きで9個目から98個目までの願いを考え、
次の行で否定し続けました。

その90個分の願いの中から特に面白いものをいくつか抜粋すると、
「⑨世界征服
 →征服したあとが大変そう」
「⑩彼女が欲しい
 →それは本当の恋なのかい?」
「⑭念動力
 →この手は何のためにある?」
「⑯あらゆる言語を喋りたい
 →喋るの、そんなに好きじゃない」
「⑰戦争よ、世界からなくなれ
 →支配はなくならない」
「22毎日が日曜日になればいいのに
 →働け」
「24鳥になりたい
 →絶対人間のほうがいい」
「26人の心を読みたい
 →人間不信になるよ?
「30苦痛を感じなくなりたい
 →かなり危険だ」
「33親友が欲しい
 →願いで親友になったと知ったらあいつはどう思うんだろう…」
「34偉くなりたい!
 →その偉さをきっと維持できない」
「36世界一周
 →いざするとなったら大変だよ?」
「37豪邸に住みたい
 →ひとりで?」
「44時間を止める能力を!
 →悪事を働く能力が欲しいって言ってるようなもんじゃん!」
「50人生をやり直したい
 →この人生もう一回はキツいわー」
「52漫画家になりたい!
 →ヤングジャンプ『シンマン賞募集のお知らせ』」
「57世界平和
 →平和な世界に俺は存在しているか?」
「58温かい家庭が欲しい
 →作り物の?」
「66泳げるようになりたい
 →願えば泳げないことがバレる」
「68人気者のあいつと入れ替わりたい
 →今と大体同じ感じになるだけだと思う」
「72美術品のコレクション
 →そんな興味ねーだろ。高尚な奴の振り禁止」
「77背が高くなりたい
 →高くなったら低くなりたいって思うもんだよ」
「80名誉が欲しい
 →もらいものの名誉が、そんなに欲しいの?」
「82この世で一番強くなりたい
 →そして弱い者いじめでもするのかね?」
「83大発明をする
 →どんな発明も、最終的には殺し合いの道具になる」
「91嫌いな奴の不幸
 →人の不幸を願うなんて、俺はなんて最低な奴なんだろう…!」
「97誰かに願う自分じゃなくて誰かの願いを叶える自分でありたい
 →嘘をつけ!」
「98あなたの願いごとを書き込んで
 →直後に否定してください」
という感じです。

特に、98個目の読者によるセルフサービスの願いが面白かったですwww

悩み続ける寝住の前に、十二大戦審判員のドゥデキャプルという老人が現れ、
「願いごとは決まりましたかな? 戦士寝住。
99叶うというたったひとつの願いを百個に増やして欲しい。
でも、もちろん構いませんよ? うふふ。
人の欲望が百で収まるとは、私は思いませんがね。うふふ」
と言いました。

そして寝住は、
…ああ、決めたぜ。俺の願いごとは
①たったひとつの願い――を! どうか忘れさせてくれ!!
どうしても叶えたい願いなんて俺にはないです!

と叫びました。

ドゥデキャプルは、
「OK♪ 心のこもった心からの素晴らしい願いです」
と言いました。

翌日、登校した寝住はまた机に伏して寝ました。

それを見た男子が、
「ったくあいつ、やりたいこととか欲しいものないのかねぇ?」
と言いましたが、例の優しい女子のクラスメートは、
「でも、見て。今日はとても満ち足りた顔してるよ。
まるで願ってもないみたいに」
と言ったのでした。

というあらすじなのですが、物凄くもったいない願いの使い方ですね……。

このオチとなる「願いごとを忘れたい」という願いごとそのものは、
星新一さんの「合理主義者」と同じなのですが、
その途中経過が全然違うので、オリジナリティがあって面白かったです。

しまうましただったら、
「自動でネタバレ解説の記事を書いてブログに投稿してくれる機械が欲しい」
と願いますが、きっと寝住には、
「→人生の楽しみが1つ減るよ?」
と否定されてしまうのでしょうね。

西尾維新「十二大戦」のネタバレ解説

十二大戦


第一戦 猪も七代目には豚になる  異能肉(いのうしし)『愛が欲しい。』

頻繁に戦争が起こり、戦士たちが戦場で異能バトルを繰り広げている、
という世界観の話です。

12年に1度、十二支の、
子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の代表の戦士が戦い、
勝ち残った1人はどんな願いでも叶えてもらえる、
「十二大戦」というものがありました。

第12回の十二大戦を開催するためだけに、大戦主催者は、
人口50万人規模の大都市群を一夜にして滅ぼし、
ゴーストタウンにしました。

イノシシの『亥(い)』の異能肉、本名・伊能淑子(いのう・としこ)は、
高層ビルの150階まで階段を上がり、会場に行きました。

異能肉の武器は、両手に持つ機関銃『愛終(あいしゅう)』と
『命恋(いのちごい)』です。
彼女は日常生活を送る時も、常にその武器を両手に持っていました。

300年以上の歴史を持つ名家の跡取り娘である異能肉は、
傲慢で高飛車で、嫌で性悪な人物像の女性で、12大戦に参加するために、
本来の参加資格者であった妹を12年かけて暗殺していました。

異能肉はわざと遅れて会場入りしたため、他の11人の戦士たちは揃っていました。

しかし、蛇である『巳(み)』の戦士は、首を斬り落とされ、
既に絶命していました。

ウサギの『卯(う)』の戦士の男が持つ二丁刃物は血塗れで、
明らかに犯人でしたが、本人は否定しました。

シルクハットを被った審判の老人、ドゥデキャプルは、
テーブルの上に置かれた12個の黒い宝石を、
ひとつずつ噛まずに呑み込んでください、と言いました。

『巳』の双子の兄である竜の『辰(たつ』の戦士は、
どさくさに紛れて弟の分の宝石も手に取りました。

異能肉たちが黒い宝石を呑み込むと、ドゥデキャプルは、
その宝石、猛毒結晶『獣石(じゅうせき)』は、
人間の胃酸と化学反応を起こして12時間で人間を死に至らしめる劇薬でございます、
と言いました。

その12個の宝石を、すべて集めることができた戦士の優勝です。
優勝者となった戦士は、どんな願いでもたったひとつだけ、叶えることができます。

また、優勝した戦士には、副賞として解毒剤が提供されます。

宝石はが反応するのは人間の新鮮な胃酸のみで、
それ以外は、どんな物理的な破壊力をもってしても、
傷つけることは叶いません、とドゥテキャプルは言いました。

牛の『丑(うし)』の戦士の男は、人間が呑み込んでしまった宝石を、
どうやって集めろというのかね? と訊きましたが、
ドゥテキャプルは、方法はお任せしますが、
相手の腹をかっさばくのがもっともてっとりばやい、と答えました。

つまり、普通に考えれば、優勝して生き残るのはたった1人で、
12時間を過ぎても決着がつかなければ、全滅もあり得ます。

ドゥテキャプルがいなくなると、平和主義者の猿の『申(さる)』の戦士の女性が、
このルールなら、みんなで協力すれば、誰も死なずに済むかもしれないわ、
と言い、賛同者を募集しました。

ずっと眠っていたネズミの『子(ね)』の戦士の少年が、
『申』に賛同します
(このとき、異能肉は『子』の声に聞き覚えがあるような気がしました)。

『丑』と、鳥の『酉(とり)』の戦士の女性や、
馬の『午(うま)』の戦士の大男も賛同しました。

しかし、『卯』の戦士が手を挙げると、『丑』と『酉』と『午』は抜けました。

『申』が、『子』と『卯』に、こっちに来て――と言ったとき、
出し抜けに、部屋の床が大きく崩れました。

大量の瓦礫と共に、異能肉が階下のフロアに着地したときには、
着地のどさくさに異能肉と『卯』以外は姿を隠していました。

「『亥』の戦士――『豊かに殺す』異能肉」
「『卯』の戦士――『異常に殺す』憂城(うさぎ)』
と、2人は名乗りをあげ、戦闘開始です。

異能肉は憂城に両手の機関銃を向け、トリガーを引こうとしましたが、
その腕を背後から、彼女は羽交い締めにされてしまい、
憂城の刃物で食道を貫かれてしまいました。致命傷です。

異能肉が最後の力を振り絞って首だけで振り向くと、
首のない、胴体だけの死体がありました。
『巳』の戦士の死体でした。

憂城は『死体作り(ネクロマンチスト)』であり、
殺した相手と「お友達」になり、
お友達を自由に操ることができる特殊技能の持ち主だったのでした。


第二戦 鶏鳴狗盗(けいめいくとう)  怒突(どっく)『勝ちが欲しい。』

犬の『戌(いぬ)』の戦士である本名・津久井道雄(つくい・みちお)は、
武器は持たない主義で、牙で噛みつく『狂犬鋲(きょうけんびょう)』で
攻撃する戦闘スタイルです。

普段は保育園に勤めていますが、『資質』のある子供を適切な組織に流すのが、
怒突の本業です。

『毒殺師』の怒突は、周囲には隠していますが、『毒』を使う戦士であり、
体内に呑み込んだ黒い宝石の毒を無効化していました。

つまり、怒突だけは12時間という制限時間から解放されており、
他の戦士が3人以下になるまで、
集合場所のビルの地下駐車場に隠れているつもりでした。

しかし、『酉』の戦士である庭取(にわとり)という女性に見つかってしまいました。

庭取は、仲間になろうと思って、怒突に声をかけたのだと言います。

庭取の特殊技能は、あらゆる鳥類との意思疎通が可能な『鵜の目鷹の目』であり、
その特殊技能を使って怒突のことも見つけたのだそうです。

庭取は、憂城が『死体作り』であり、
異能肉と『巳』と3人チームのラビット同盟を作ってしまったことを、
怒突に伝えました。
十二大戦の終盤までここに隠れていたら、どんどん仲間を増やされてしまいます。

「『酉』の戦士――『啄(ついば)んで殺す』庭取っ!」
「『戌』の戦士――『噛んで含めるように殺す』怒突」
と名乗りをあげ、同盟を組むことになりました。
ただし、怒突はいずれ庭取を裏切る予定でしたが。

庭取は、ラビット同盟の隊から異能肉が離脱したのを怒突に教えました。

怒突は、庭取にラビット同盟の相手をさせようと、庭取の腕を噛み、
対象者の潜在能力を限界まで引き出す秘薬『ワンマンアーミー』を注入しました。

そして、パワーアップした庭取は、引き出されたパワーで、
怒突の頭部をぐしゃりと握り潰して殺しました。

『鵜の目鷹の目』で、怒突が毒殺師であることを知っていた庭取は、
最初からドーピングしてもらうために、怒突に近づいていたのでした。


第三戦 牛刀をもって鶏を裂く  庭取『自分が欲しい。』

『酉』の戦士、庭取の本名は丹羽遼香(にわ・りょうか)です。
幼少期より凄惨な虐待を受けて育った庭取は、15歳以前の記憶がありません。
人を騙したり人を殺したり庭取は、丹羽家に引き取られた後、
戦場においてスパイ的な役割を担うことが多いです。

武器は、『鶏冠刺(とさかざし)』と呼んでいる鋤(すき)です。

庭取は、『鵜の目鷹の目』で鳥たちに協力してもらう代わりに、
殺した死体を餌として鳥葬する、という契約を鳥たちと結んでいました。

ゴーストタウンを歩いていた庭取は、
『歩く死体(ウォーキングデッド)』となった異能肉を発見し、
数百羽の鳥に異能肉を襲わせ、殺させて食べさせました。
死んだ後も、機関銃をいつまでも乱射し続けることができる、
という異能肉の特殊技能は使うことができたので、
数十羽の鳥が撃ち落とされて殺されてしまっていました。

庭取自身も食事をしようと、コンビニエンスストアに行きました。

すると、そこで同じく食料を調達しにきていた
『子』の戦士である少年と出会いました。

「『子』の戦士――『うじゃうじゃ殺す』寝住(ねずみ)」
と名乗った寝住に連れられ、『申』が隠れている下水道に案内してもらいました。

「『申』の戦士――『平和裏に殺す』砂粒(しゃりゅう)』
と名乗った砂粒は、停戦勧告の賛同者を募集したときに庭取も手を挙げていたので、
庭取のことを仲間扱いしていました。

ドーピングで、ステータスだけではなくメンタルまで引き上げられていた庭取は、
平和主義者の女性の砂粒と話をしているうちに、
強(したた)かだった自分らしさを失ってしまい、
砂粒に、仲間にはなれないと言って、下水道から出ました。

そこで、十二戦士の中で、もっとも高名な戦士である、
『皆殺しの天才』の『丑』と出会いました。

『丑』の持っているサーベルや、衣装は血で赤く染まっていました。

『丑』は、砂粒が近くにいることを看破しました。
庭取は、砂粒を守るために戦うという、庭取らしくない「いい奴」っぽい理由で、
『丑』と戦うことになりました。

「『丑』の戦士――『ただ殺す』失井」
と失井は名乗り、サーベルで庭取の両目を正確に差し貫きました。

最後の意識で、庭取は、わたしの死体を食べていいよ、鳥さん達、
と思ってから死にました。


第四戦 敵もさる者ひっかく者  砂粒『平和が欲しい。』

『申』の戦士、本名・柚木美咲(ゆうき・みさき)は、
とある霊山において生を受け、
水猿(みざる)、岩猿(いわざる)、気化猿(きかざる)という3人の仙人から、
戦士としての手ほどきを受けました。
液体・固体・気体を自在に操る砂粒の戦闘能力は、本来、極めて高いのです。

平和主義者の砂粒は、これまで314の戦争と、229の内乱を、
和解に導いてきました。
武器は停戦交渉と和平案です。

庭取が下水道から去った後、砂粒は、考えている必勝法、
十二大戦を停める作戦はひとつではない、と寝住に言いました。

最初の集合場所のビルの床を砕いたのは、他ならぬ砂粒でした。
先制攻撃に出ようとした誰かの気配を察し、
あの場にいた全員を護るために、砂粒は床を砕いたのでした。

寝住は、砂粒ほど、人を救ってきた人間はいないと言いましたが、
砂粒は、私ほど、人を救えなかった人間もいないよ、と言いました。

いわれのない虐殺や、正義の蛮行などの現実を見てきた上で、
砂粒は戦いを停めることを選びました。
綺麗事なめんなよ、ボク、と砂粒は言いましたが、
寝住は寝てしまっていました。

しかし、大量の鳥の羽ばたきが聞こえてきて、砂粒は寝住を起こしました。

異能肉の機関銃で殺された数十羽の鳥が、憂城に操られ、
下水道の奥から近づいていたのでした。

砂粒は寝住と一緒にマンホールの蓋を押し上げて地上へと出ますが、
憂城に巨大な刃物で襲われました。

寝住に『巳』の戦士の首なし死体を任せ、砂粒は憂城と戦います。

追いついた大量の鳥の死骸が砂粒を襲いますが、
砂粒は鳥の羽骨をへし折り、はたき落としました。

憂城が振るった刃物を、砂粒は高くジャンプして飛び越し、
憂城の背後から憂城を取り押さえにかかりました。

ところが、憂城は振り向きもしないままに手首を返して、
砂粒の胴体に刃物を刺し、殺しました。

砂粒と憂城が戦っていた場所から、少し離れた位置に植えられた街路樹に、
『巳』の生首がぶら下がっていました。
憂城は、その生首の目を監視カメラのように使い、
己の背後を見守っていたのでした。


第五戦 羊の皮をかぶった狼  必爺(ひつじい)『時間が欲しい。』

『未(ひつじ)』の戦士である必爺、本名・辻家純彦(つじいえすみひこ)は、
十二大戦参加者の中で最年長です。

36年前に開催された第9回大戦では、必爺は優勝しており、
『孫の顔が見たい』という願いを叶えました。

その孫が十二大戦の出場者として選ばれそうになったのを受けて、
自ら名乗りをあげました。

必爺は十二大戦のルールを破り、毒の宝石『獣石』を呑み込まず、
懐に隠し持っていました。

必爺は、頭の中で12人の戦士たちを順位付けするなら、
自分は10位以下だろう、と考えていました。

必爺は大会開始から3時間隠れた後、呑み込まなかった『獣石』を利用して、
他の戦士を騙そうと考え、動き出します。

しかし、見つかったのは、
ランキング最下位の『寅(とら)』の戦士の女性でした。

『寅』は、ゴーストタウン内の公演のベンチで、
酒をたらふくかっくらって酔っぱらっていました。

必爺が、自作の投擲手榴弾(とうてきしゅりゅうだん)
『醜怪送り(しゅうかいおくり)』を取り出したのと同時に、
『寅』は、必爺が隠れていたのを見破り、声をかけてきました。

必爺は『寅』の前に姿を現しますが、『寅』はやはり、
アルコールが回っていて、完全に酔っぱらいでした。

それでも、
「『未』の戦士――『騙して殺す』必爺」
「『寅』の戦士――『酔った勢いで殺す』妬良」
と名乗り、戦います。

見え見えだったはずの、『寅』の『爪』による攻撃が、
十爪とも、必爺の矮躯にヒットし、皮を引き裂かれました。

実は、妬良は、「酔えば酔うほど強くなる」でお馴染みの、
酔拳の使い手だったのでした。
もっとも、妬良は酒よりもなお、人の血に酔うのですが。


第六戦 千里の馬も蹴躓(けつまづ)く  迂々馬(ううま)『才能が欲しい。』

ここで、大会主催者が、戦争のための戦争として十二大戦を開催し、
代理戦争として誰が優勝するのか賭けをしていた、
ということが読者に明かされます。

国をチップにしたベットがおこなわれるのは、
戦士が半分に減った、このときでした。
オッズ順は、
1『丑』 2『卯』 3『寅』 4『午』 5『辰』 6『子』
です。

身長230センチ、体重150キロの『午(うま)』の迂々馬、
本名・早間好実(そうま・よしみ)は、
およそ人体では考えられない強度を誇る防御術『鐙(あぶみ)』と称する
タフネスの持ち主でした。

しかし、『丑』の戦士の失井は、歩く死体となった異能肉を見て、
『死体作り』がいると知り、他の戦士を早めに殺そうとして、
迂々馬と戦いました。

失井は、迂々馬の防御術『鐙』を徹透して、傷をつけていました。

信仰の域に達していた筋肉を傷つけられたことで、
迂々馬は心に傷を受け、失井から逃げた後、
銀行の金庫にバリケードを作って閉じこもっていました。

迂々馬の自慢の『鐙』は、体外からの攻撃だけではなく、
体内からの攻撃にも、毒に対してさえ有効かもしれませんが、
消極的な行動でした。

しかし、いつの間にか、金庫の中に寝住がいて、
スマートフォンを見ていました。

鼠(ねずみ)ってのは、ちょっとでも隙間があれば、
どっかからは這入ってくる、と寝住は言いました。
銀行の金庫と言っても、中に入る際、迂々馬が鍵を壊し、
力任せにバリケードを組み上げただけなので、
隙間はあるかもしれませんが、
こんな短時間で見つけられるような隙間ではないはずでした。

寝住が名乗ったので、
「『午』の戦士――『無言で殺す』迂々馬」
と迂々馬も名乗りましたが、寝住は迂々馬と戦うつもりはないようでした。

『巳』の首なし死体から逃げる際に、パニックルームとして、
この金庫を使っているだけだったのでした。

『未』の爺さんが、今どこにいるか、知ってる?
と寝住に訊かれましたが、迂々馬は知りませんでした。

寝住は、俺を追って、『巳』の奴がここに来るかもしれねーから、
あんた、ここから逃げた方がいいぜ、と言い、消えました。

しかし、迂々馬はそのまま引きこもり続け、いつの間にか、
金庫の中が煙に満ちているのに気づきました。

寝住を追った『巳』が、背負っていた火炎放射器『人影(ひとかげ)』で、
金庫へ火炎放射したのでした。

酸素を奪われ、迂々馬は死にました。


第七戦 竜頭蛇尾(先攻)  断罪(たつみ)兄弟・弟『金が欲しい』

「『辰』の戦士――『遊ぶ金欲しさに殺す』断罪兄弟・兄!」
「『巳』の戦士――『遊ぶ金欲しさに殺す』断罪兄弟・弟!」
と名乗りをあげていた兄弟の弟の方、『巳』の戦士、
本名・積田剛保(つみた・たけやす)は、
『歩く死体』として寝住を追っていました。

高機能レーダーにも似た独自の技能、『地の善導(ぜんどう)』があるので、
首が無くても、地面からの振動を足の裏から敏感に感じ取り、
周囲の状況を把握し、反応することができました。

『寅』の妬良が、断罪弟を見つけて前に出ますが、
断罪弟は妬良に火炎放射器で攻撃します。

妬良は断罪弟の右腕を吹っ飛ばし、火炎放射器を奪いました。
そのタンクの中に入っていた液体を飲みますが、
ここでようやく、断罪弟がただの死体だと気づき、
一方的に立ち去ろうとしました。

断罪弟は妬良をロックオフし、再び寝住を追跡しようとしますが、
そこへ『丑』の失井が現れ、断罪弟の左腕を吹っ飛ばしました。

そこへ、妬良が戻ってきて、失井を睨みつけ、戦闘モードに入りました。

妬良と失井は名乗りをあげようとしましたが、
断罪弟の、引き千切られた右腕と、切断された左腕が、
それぞれ妬良の首と、失井の喉元に飛びついて、
がっちりと五指を喰い込ませ、喉を握り潰そうとしました。

その様子を、断罪兄弟の兄、『辰』の戦士が上空から見下ろしていました。


第八戦 竜頭蛇尾(後攻)  断罪兄弟・兄『何も欲しくない。』

断罪兄、本名・積田長幸(ながゆき)は、
弟の火炎放射器『人影』と対になる氷冷放射器『逝女(ゆきおんな)』を
背負っています。
タンクの中身は液体窒素です。

それとは別に、竜として空を飛ぶことができ、
十二大戦が始まってからずっと空の上に隠れていました。

その頃地上では、妬良と失井が、『巳』の切断された両腕で、
喉を潰されそうになっていました。

失井は、妬良に、この状況を打破するための、一時的な共闘を申し込みます。
この状況さえクリアできれば、私がきみに、決闘を申し込む、と言いました。

妬良は何をすればいいのかと聞きましたが、
失井は、何もしなくていい――きみはそのまま、泡を吹いていれば、
と言い、妬良の足元のアスファルトに、サーベルをぶつけました。

火花が散り、アルコールや火炎放射器のタンクを呑んでいた妬良は、
燃え上がりました。

妬良はアウターを乱暴に脱ぎ捨て、失井はその燃えさかるアウターで、
自分の首を絞める断罪弟の左腕をくるみました。
左腕の死体は、ただの死体になり、力を失いました。

荼毘に付して、成仏させたのでした。

庭取が、鳥に食べさせて異能肉の死体を鳥葬したり、
迂々馬の焼死体が動き出さなかったりした例から、
失井は『死体を殺す方法』に独力で辿り着いたのでした。

妬良も何とか消火作業を終え、失井に対して激高しました。

しかし、立ち上がった断罪弟の残る首なし腕なし死体を倒すまでは、
共闘は続きます。

その様子を上空から見ていた断罪兄の腕の中に、
弟の生首が落ちてきて、断罪兄はそれを受け止めました。

憂城は断罪弟の生首を高く打ち上げることで、空撮を試みたのでした。

断罪弟の首は断罪兄の腕に噛みつき、さらに、
憂城が跳ねてきて、断罪兄の胴体を横薙ぎに、まっぷたつにしました。


第九戦 二兎追う者は一兎も得ず  憂城『お友達が欲しい。』

断罪弟の生首や、憂城を高く打ち上げたのは、砂粒の死体でした。

憂城は空から地上を見下ろし、自分以外の生存者は、
妬良と失井と寝住の、たった3人であることを知りました。

妬良と失井のところに、断罪兄の上半身と下半身が落ちてきて、
2人は一気にピンチになりました。

しかし、失井は策を弄し、宙に浮かぶ断罪兄が背負っているものは、
液体窒素の放射器だと妬良に伝えました。

そこへ、断罪兄が弟の生首を投げてきて、失井は真上に蹴り上げました。
くるくると回転する生首は、広角カメラの役割を果たします。

戦っている途中、妬良はピンときて、氷冷放射器『逝女』のタンクを奪い取り、
爆弾のように投げ落としました。

断罪兄弟の死体は冷却処理され、落下して粉々になり、
ない交ぜになって、動かなくなりました。

そこへ、憂城が現れました。砂粒の死体は寝住を追っていて、別行動です。

『死体作り』としての憂城の特殊技能は恐ろしくても、
使役する死体を失った憂城は弱く、
失井のサーベルと妬良の爪で、憂城は八つ裂きにされてしまいました。


第十戦 虎は死んで皮を残す  妬良『正しさが欲しい。』

憂城は十二大戦が終わった後、妬良と失井の死体を使うことを考え、
やり過ぎないように、自分で妬良と失井を殺そうとしました。
丑寅タッグが断罪兄弟に、ああも損傷少なく勝つことは、
想像できなかったのです。

しかし、憂城は妬良と失井に殺される前に、自ら舌を噛んで死にました。

回想です。

妬良、本名・姶良香奈江(あいら・かなえ)は、
アルコールを摂取する言い訳として、酔拳の使い手となりました。
実際の酔拳は酔った動きを模した拳法であり、酒を飲む必要はないのですが。

かつてはとても思慮深く真面目な女の子だった妬良は、
戦場で人を殺し、称えられるにつれ、妬良の純粋な目には、
世の中が矛盾だらけの、偽善だらけに見えるようになりました。

妬良は道を外れ、アルコールで頭を満たすことで、
余計なことを考えなくなり、迷いを消しました。

アルコールのせいで知能が下がった日々の中、
妬良は戦場で失井と出会いました。

正しいことを正しい方法でしていると確信しているかのごとく、
失井の剣筋には迷いはありませんでした。

失井は妬良のことを、無理矢理酒を呑まされた民間人のお嬢ちゃんだと思い、
助けてくれました。

妬良は、どうしてそんな正しいことができるのか、
どうすればそんな正しいことができるのか、おずおずと訊きました。

すると失井は、「まず、正しいことをしようとするだろう?」
「次に、正しいことをする」と言いました。

①正しいことをしようとする。②する。
と、理論が天才過ぎて、何も伝わってきませんでしたが、失井はさらに、
正しいことは、しようと思わなければ、できない、
きみが正しいことができなくて苦しんでいるのだとすれば、
それはきみが、正しいことをしようと思っていないからだ、と言いました。

妬良は失井のことを、目標にしたい師匠と考えるようになりました。

妬良は没交渉だった実家に土下座して、
参加戦士としてねじ込んでもらいました。

こうして、やっと失井と再会できたのですが、
失井の方は妬良のことをまったく憶えていませんでした。

回想が終わり、殺したはずの憂城の両刀から失井を庇うために、
妬良は失井を突き飛ばしました。

兎の両刀、『白兎』と『三月兎』が、妬良の腹の、柔らかいところに突き刺さりました。

失井は、妬良の腹に刺さった剣を持つ手をバラバラにして、
妬良をおぶって、闇雲に走り出しました。

失井は、死なせはしない! と言いましたが、
妬良は、あんたがあたいを、殺してくれ、と頼みました。

このままだと妬良は憂城に殺されたことになるので、
その前に失井に殺してもらうことにしたのでした。

しかし失井は、決闘はとりおこなう、きみは私に、負けて死ぬのだ、
と言いました。
失井は結局、妬良のことを思い出してくれませんでしたが、
妬良は師匠に、会ったのもこれが初めてだ、と言いました。

天才は死にかけを、正しい手順で、ただ殺しました。


第十一戦 人の牛蒡(ごぼう)で法事する  失井『助けが欲しい。』

失井、本名・樫井栄児(かしい・えいじ)は、
5歳の初陣から皆殺しで、このときより天才の名を欲しいままにしてきました。
武器のサーベルの銘は『牛蒡剣』です。

妬良を殺した失井は、妬良の中に、かつて戦場で会った少女の面影を見ました。

どうしてそんなに正しいことができるのか、
正しいことをすれるにはどうすればいいのか、
そう訊かれた失井がその質問に真剣に答えることで、
失井の天才性は完成されたのでした。

一方、憂城は死してなお、優勝を目指していました。

十二大戦の勝利条件は毒の宝石を12個集めることであり、
勝利条件さえ満たせば、死んでいようとも、
優勝資格があるということなのです。

憂城は妬良と失井に八つ裂きにされる前に、
12個の宝石を集めろという指令を己に出して、
己の意識を終わらせました。

そんな憂城の死体は切り刻まれましたが、死体の部分が再び集結して、
1人の人間のシルエットを作り、失井の前に現れました。
ただし、各パーツの部位は間違っていましたが。

怪物となった憂城を、失井は斬りましたが、
斬り裂いた死体の中から、砂粒の死体が飛び出してきて、
失井に抱きつき、押し倒しました。

信じられないパワーで組み敷かれて、身じろきもできません。

舌を噛んで自殺しようとする前に、砂粒はヘッドショットで、
失井の歯をあらかたへし折りました。

そこへ、寝住が、必爺の武器である投擲手榴弾『醜怪送り』を持って現れました。
妬良が必爺を倒してくれたから、
寝住は手榴弾をここに持ってくることができた、と寝住は失井に伝えます。

私にとっては、これが正しいことだ――きみは、
きみが正しいと信じることをしたまえ、少年、と失井は言いました。

失井は、寝住とどこかで会ったような気が、しないでもないが――
と思いながら、爆発して死にました。

こうして、寝住は12個の宝石を集め、優勝しました。


終戦 大山鳴動鼠一匹  寝住『夢が欲しい。』

寝住、本名・墨野継義(すみの・つぎよし)は、
確率世界への干渉力『ねずみさん(ハンドレッド・クリック)』
という特殊技能の持ち主でした。

同時に100までの選択を実行でき、任意の選択を現実として確定できます。

精神は過大な負担を強いられることになるので、代償として眠くなりますが。

消滅した分岐の記憶は、寝住以外には残りませんが、
たまに残ることもあり、異能肉や失井が、
寝住とどこかで会ったことがあるような気がする、
と感じていたのがその伏線だったのでした。

寝住は十二大戦への出場を避けようとしましたが、
避けられる選択肢は、100通りの分岐の中にはありませんでした。

寝住は優勝後、ドゥテキャプルからインタビューされます。

十二大戦中に試した100のルートのなかで、
寝住が生き残ったのはこれが唯一のルートでした。
99回死んだので、寝住には、
自分が優勝したという感慨はまったくありませんでした。

砂粒の和平案というのは、主催者サイドを交渉相手にしようとしていたのだろう、
とドゥテキャプルは言いました。

優勝商品である『たったひとつの願い』については、
ゆっくり考えさせてもらうことにし、寝住は帰宅しました。


というあらすじなのですが、今回はあらすじ書くのが大変で、
何度も挫折しそうになりました……。
でも、非常に面白い話なので、何とか乗り切ることができました。

子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥の逆の順番で、
個性豊かな12人のキャラクターに焦点を当てつつ、
ことわざにあったストーリーにするという、
信じられないような縛.りプ.レイなのに、この面白さです。

凄すぎます。

この話は、
西尾維新さん原作の短編漫画集「大斬(おおぎり)」に収録されている、
どうしても叶えたいたったひとつの願いと、割とそうでもない99の願い
に続きます。
プロフィール
Author:しまうました
見やすい記事一覧はこちらです。
スポンサードリンク

結物語 (講談社BOX)

さとり世代探偵のゆるやかな日常 (新潮文庫nex)

雪煙チェイス (実業之日本社文庫)

このブログについて
見やすい記事一覧はこちらです。
このブログの記事は管理人「しまうました」の独自の解釈によるものなので、制作者の意図したものや一般に考えられているものとは異なる場合があります。
個人の趣味でやっているブログなので、解説してほしい本のリクエストは受け付けていません。
重要なネタバレ箇所は白字にしてあるので、反転してお読みください。
現在、荒らしをした人物のコメントを拒否しており、巻き添え規制される場合があります。詳細はこちらに書いてあります。
承認したコメントに対しても、管理人は基本的には返信しません。また、後日予告なく削除する場合があります。ご了承ください。
今月の人気ページ
人気ページの集計期間は30日間です。2017年5月10日リセット。
スポンサードリンク
カテゴリ
最新記事
検索フォーム
月別アーカイブ
最新コメント
FC2カウンター
スポンサードリンク

ソードアート・オンライン プログレッシブ (4) (電撃文庫)

業物語 (講談社BOX)

キノの旅XX the Beautiful World (電撃文庫)

悪の教典 上 (文春文庫)

                amazon人気本ランキング
RSSリンクの表示
リンク
最新トラックバック
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
記事一覧
見やすい記事一覧はこちらです。