西尾維新「D坂の美少年」のネタバレ解説

D坂の美少年 (講談社タイガ)


美少年探偵団シリーズ第6弾です。

卒業式を目前にしているにもかかわらず、
咲口長広が今もなお生徒会長をやっている異常に、
ようやく指輪学園中等部の人々が気付き、
慌てて選挙が執りおこなわれる運びになりました。

あとがきによると、作者の西尾維新さん自身は1巻の時点から、
いったいこの子はいつまで生徒会長なんだ?
と疑問に思いながら書いていたそうですが、
しまうましたは全然気付きませんでしたwww

ナガヒロは、咲口生徒会長を献身的に支えてきた
現副会長・2年A組の長縄和菜(ながなわ・わな)を会長候補に擁立したのですが、
その長縄が交通事故で1ヶ月も入院することになってしまいました。

このままでは長縄は立候補を取り下げるしかありません。

長縄以外の人が生徒会長になっても、学園側と対等にやりあえるわけがなく、
生徒会が学園側の言いなりになる将来像が、目に見えてしまいます。

長縄は生徒会長に立候補したから狙われたのかもしれないので、
他の生徒会のメンバーを立候補させることもできませんでした。

指輪学園の周囲には、
人通りが多い順にA坂・B坂・C坂・D坂という4つの坂があり、
そのうちのD坂で長縄はひき逃げされてしまったのだそうです。

入院して意識が回復した長縄も、記憶が混乱していて、
轢かれた時のことは覚えていないのだそうです。

そこでナガヒロは、「轢かれてもいいと思える後輩が、
知っている下級生の中であなたしか思いつかなかった」
という理由で、マユミを生徒会長候補に擁立しようとしました。

マユミは口車に乗せられて、立候補することになりましたが、
『D坂のひき逃げ犯』を突き止めてください、
と他のメンバーに頼みました。

今回のミッションの最大の問題点は、
クズであるマユミを生徒会長にさせるのは難しい、という部分です。

ソーサクがマユミを美少年化させることになりました。

現在の最大のライバルは、マユミのクラスの2年B組の、
沃野禁止郎(よくの・きんしろう)という男子でした。

沃野は特徴がないのが特徴で、存在感がなく、
マユミも『沃野くんなんていたっけな?』と思いました。

沃野は今のところ、選挙活動を何もしていないのだそうです。

しかし、長縄が入院したことでトップ候補者に躍り出たので、
D坂の交通事故が起こって一番得をしたのは沃野だ、
とミチルは考えました。

クラスに戻ったマユミは、沃野が隣の席にいたことを知り、
教科書を忘れた振りをして机をくっつけ、沃野を観察しましたが、
『中学生ってこんな感じだよね』の寄せ集めみたいな、
『こんな奴、クラスにいたっけな?』の生き見本みたいな、
没個性な男子だと感じました。

ただし、なんとなく嫌な感じがしました。

放課後、マユミはヒョータにボディガードをしてもらいながら下校する途中、
探偵としてひき逃げ事件を調べているミチルと団長に会いに、D坂に行きました。

ひき逃げ捜査のほうは大した進捗もないまま、翌日より選挙期間に突入しました。

ミチルが不良グループにそれとなくマユミの指示を促したり、
ヒョータが陸上部で、さりげなく広報を担当したりしましたが、
それでもマユミの支持率は3位でした。

1位の沃野はアンケートで過半数以上から支持されていました。

マユミは選挙戦3日目の放課後、
美術室でソーサクからマッサージを受けていました。

マユミがひき逃げ事件について一方的にソーサクに話していると、
ソーサクは、自動車が凶器に選ばれたことを謎だと思うなら、
探偵はその謎を解かねばならない、と言いました。

マユミはその言葉をミチルに伝えますが、
ミチルは、ひき逃げ事件は長縄の狂言なのではないかと疑い始めていました。

マユミは廊下で長縄から冷たい目で見られたことがある、
という理由で、長縄のことを「雪女」と呼んで嫌っていましたが、
事件について調べるために翌日ミチルと長縄のお見舞いに行くことにしました。

翌朝、ナガヒロがマユミを家まで迎えに来て、
オドルさんに会いに行きますよ、と言いました。

双頭院踊はマナブの兄で、美少年探偵団の創設者の『美談のオドル』でした。
さらに、ナガヒロの前に生徒会長を務めていた、
伝説の生徒会長でもありました。

しかし、高校生になった現在のオドルは、普通に賢そうな人で、
美少年探偵団の活動を「子供の遊び」と言いました。

オドルはもう子供の遊びを卒業していたのでした。

伝説の生徒会長のオドルから指示してもらうことで、
ナガヒロはマユミの支持率を上げようとしましたが、
それでもマユミの支持率はまだ2位でした。

放課後、マユミはミチルとお見舞いに行きましたが、
長縄はフレンドリーにマユミに接し、
自分の代わりに立候補してくれたマユミに感謝していて、
選挙のための分厚いファイルを何冊もマユミに貸してくれました。

また、事故の当時の記憶はショックで飛んでいましたが、
太ももの打撲痕は生々しく、事故が長縄の自演という可能性はなくなりました。

その病院からの帰り道、マユミは自動車に轢かれそうになりました。
マユミはその視力で犯人の姿を目撃します。
スモークガラスの向こう側でハンドルを握っていたのは、「沃野禁止郎でした。

しかも、沃野はハンドルを片手で持って、
もう片方の手でスマートフォンをいじり、よそ見をしていました。


マユミが本当に狙われてしまったことで、マナブは弱気になり、
マユミの志や頑張りは美しいものだったが、
何も命をかけてまでやることはない、こんなのは子供の遊びなんだから、
と言いました。

他のメンバーも同意見でしたが、マユミは、
『美学のマナブ』が、負けから学んじゃだめだろう、と思い、
絶対やめない、こんなのは子供の遊びなんだから、と反対しました。

それ以降、マユミは自動車に狙われないように、
選挙当日まで美術室で寝泊まりして登下校しないことになりました。

そのために、ソーサクが新たにお風呂まで作ってくれることになりました。

投票日前日のアンケートでは、マユミの支持率は1位になり、
53%の生徒から支持されていました。
一方、沃野は2位で、42%でした。

当日、立会演説会でマユミの番が回ってくる直前に、
沃野は突然、「自分が犯人だとマユミに耳元で囁きました。

他の候補者を狙わなかったのは、
ナガヒロがバックについていない候補者は放っておいても
勝手に落選すると思っていたからなのだと自白しました。

また、沃野が長縄を轢いた現場は、D坂じゃなくてC坂でした。
沃野はC坂で景気よくはね飛ばした長縄を、トランクに積み込んで、
D坂に運んだのだそうです。

最終演説まで数分というタイミングで自白したのは、
マユミを動揺させることで勝率を上げようとしているからでした。

また、一週間前、マユミが『こんな奴、クラスにいたっけな?』
と感じた第一印象は正しく、2年B組には、
沃野禁止郎なんて生徒はいなかった!
とマユミは気付きました。

沃野はそもそも、指輪学園中等部の生徒ではなかったのです。
没個性なのは男子中学生っぽさを寄せ集めただけだったからでした。

また、政治とか思想とか、そういうのが面倒でだるくてたまらない、
という奴らが沃野の支持層で、他の候補者が壇上で、
高みから上から目線で、理想を語れば語るほど『ついていけねえよ』
と沃野が有権者に思わせることで、高い支持率を得ていたのでした。

マユミも、現生徒会長のナガヒロから応援演説をされたとき、
レベルの違う『あっち側』に認定され、ジ・エンドだと沃野は言いました。

ところが、予定と違って、応援演説をしたのは、
女装をして一般生徒のふりをした美少女姿のマナブでした。

マナブはマユミのことを誇らしげに褒めまくり、
それが有権者の心に刺さりました。

沃野はマナブの演説の時点で、負けを認め、ふっと姿を消していました。

沃野は学園側が送り込んだ『刺客』だった、
としか考えようがありませんでしたが、
『そこまでするか?』みたいな疑義も残りました。

生徒会長に就任した祝勝会の後、マユミは退院した長縄を副会長に指名し、
彼女のアドバイスに基づいて役員も指名しました。

しばらくして、髪飾中学校生徒会会長の、札槻嘘(ふだつき・らい)から、
マユミに携帯電話が送られてきて、沃野禁止郎の正体を、
知りたくはありませんか? と言われました。

沃野のクライアントは学園側ではないと札槻は言い、
マユミをデートに誘いました。


というあらすじなのですが、学園側がクライアントじゃないなら、
髪飾中学校の奴らだろう、と予想しながら読んでいたので、
意外な終わり方でした。

それにしても、生徒会関係の話は
「めだかボックス」シリーズでやりつくしたと思っていたのに、
まだ新機軸が残されていたのが凄いと思いました。

面白かったです。

ただ、最後の方で発覚した、「D坂のひき逃げ犯」の正体については、
そりゃあないだろう、と思いますが。

クラスメートの人数がある日突然増えていたら、
絶対に誰か気付くでしょう。

「はーい、今から2人組を作ってー」と教師が悪魔の呪文を囁いたときに、
誰かが余ってしまったり、
逆にそれまで余ってしまっていた子が余らなくなったりして、
誰かが異変に気付くでしょう。

隣の席の子(この場合はマユミでしたが……)も、
急に空席だったはずの隣が埋まったり、
別の子が座っていたりしたら、絶対に気付くでしょう。

何らかの異能で、クラスメート達を錯乱させたとしか思えないのですが、
この美少年探偵団シリーズも異能バトル路線へとシフトしてしまうのでしょうか……。

西尾維新「人類最強のときめき」5話「哀川潤の失敗 Miss/ion5.不敗のギャンブラーと失敗の請負人」のネタバレ解説

ギャンブルという場において、
流れを読むことができる『彼』こと『コントローラー』について、
佐々沙咲は哀川に言いました。

日本人である『コントローラー』は、
海外のカジノで悪名高い人物で、勝って勝って勝ち続けて、
あっちこっちのカジノに壊滅的なダメージを与え、
出入り禁止になってしまい、日本に帰国しました。

日本にも競馬とか競輪とか競艇とか、宝くじとかがあります。
国は『コントローラー』が、その国家公認の賭.場を荒らしに来るんじゃないか、
と恐れていました。

『コントローラー』はあくまでも一般人であり個人なので、
違法.賭.博には、一切手を出しません。

ギャンブルに流れってあると思いますか?
と佐々は質問しましたが、「ない」と哀川は答え、
その日の夕方には哀川は『コントローラー』と勝負することになりました。

『コントローラー』が哀川に勝てば、『コントローラー』は晴れて自由の身となり、
監視もつかず、自由に賭けることができます。
ただし、哀川が勝ったら、『コントローラー』は生涯ギャンブルはしません。

種目はシンプルに、コインを投げて、表か裏かを賭けます。
それをひたすら繰り返します。

結果、「哀川は負けました。
しかし、『コントローラー』は今後一生、
日本国内においてはギャンブルはしないという、
法的拘束力を持った書類にサインをしました。

回数を重ねれば重ねるほど、正答率が上がった『コントローラー』に対し、
哀川はごく常識的な勝率でしかコインの裏表を当てなかったので、
互いの勝率は広がる一方でしたが、
哀川は一週間ずっと、『コントローラー』の体力が尽きて、
ぶっ倒れてしまうまで、コインを投げ続けたのでした。


というあらすじなのですが、相変わらず力技の解決ですね。

でも、この方法は思いつかなかったです。

西尾維新「人類最強のときめき」4話「哀川潤の失敗 Miss/ion4. デジタル探偵との知恵比べ」のネタバレ解説

佐々沙咲は上司に頼まれ、
不本意ながら親友の哀川潤のところに仕事の依頼を持ってきました。

探偵ソフトがインストールされた、専門職の強いスーパーコンピューター、
デジタル探偵の「探偵名人」というソフトが開発されたのだそうです。

開発所としては「探偵能力において、本マシンは哀川潤を凌駕しました」
という箔が欲しいらしく、哀川にデジタル探偵と勝負して欲しい、
と佐々は自己嫌悪に陥りながら頼みました。

断ってくれて構いませんよ、と佐々は言いましたが、哀川は乗り気になり、
探偵ではなく犯人としてデジタル探偵に挑むことになりました。

場面が変わり、デジタル探偵を開発した缶堂開発所、
第一開発部主任、缶堂妙香(かんどう・たえか)は慇懃無礼に、
哀川とその付き添いの佐々に頭を下げました。

まずは勝負の条件です。

赤神財閥の関係者に貸してもらった屋敷で、
24時間以内に哀川が殺人事件を起こします。
そしてその後の24時間以内にデジタル探偵が事件を解決できたら、
デジタル探偵側の勝ち、できなければ哀川の勝ちです。

この屋敷には実際には誰も住んでいませんが、
京都府警の人間が何人か、住人役として、
「設定上」住んでいるふりをしていました
屋敷の主人、その夫人、長男、次男、長女、メイド、執事、
料理人、屋敷の主人の父、以上の9人が屋敷の中に「住んで」いて、
哀川は屋敷を訪ねてきた『主人の友人』という設定です。

もちろん実験なので、哀川は本当に殺人事件を起こすわけではなく、
屋敷内の誰かを設定上「殺す」だけです。

大掛かりなお芝居というかロールプレイング・ゲームみたいなものですね。

午前9時ちょうどからゲーム開始です。

デジタル探偵がインストールされているのは
開発所にあるスーパーコンピューターですが、
缶堂はデジタル探偵と通信しているノートパソコンを持っていました。
そのためにわざわざ、中継車まで用意していました。

9時ちょうどに、屋敷の裏手で爆発が起こり、
電気ケーブルと予備電源用の地下の自家発電機が爆破されました。
しかも同時刻、山道も爆破して土砂崩れを起こしておいたので、
ふもとまでバッテリーを取りに行くこともできず、
缶堂のノートパソコンは今あるバッテリーに頼るしかなくなりました。

バッテリーは48時間くらいは持ちますし、
爆破も延焼しない仕掛けがあったので、これは宣戦布告のようなものでしたが、
意外な行為でした。

その後、哀川は23時間何もせずに部屋で眠り続け、
デジタル探偵ではなく、データを入力する缶堂を焦らしてミスを誘いました。

哀川は最初に会った『長女』を殺し、その『血液』で、
リビングいっぱいに血文字を書きました。

スタッフと総がかりでデータを集めている缶堂に、
1時間後には『長男』を殺すと宣言しました。
その1時間後には『主人』を殺して、
8時間後には、この屋敷の人間を皆殺しにしてしまっているという、
犯罪予告でした。

『殺人事件を解決したデジタル探偵』と、
『第二の事件を未然に防げなかったものの、殺人事件を解決したデジタル探偵』では、
実験結果をレポートにしたときに、与える印象は違いますよねw

缶堂は感情的になってしまい、デジタル探偵が
『この事件の犯人は哀川潤だ』と看破するまでには、18時間を要しました。
屋敷の住人は全滅したのでした。

哀川はわざと、派手な殺人事件を起こし、
デジタル探偵に入力するデータ量をあえて増量することで、
時間を稼いだのでした。

そして缶堂は、第一の事件現場に残されていた血文字の意味を解説しようとしましたが、
哀川は「ノートパソコンを蹴り上げ、天井のシャンデリアにぶつけて破壊しました。

犯罪捜査に臨むのならば、『強い』ことが絶対条件だ、と哀川は言いました。

こうして完全犯罪は成立しました。

もし哀川がこの事件の探偵だったら、ゲームが始まった時点で、
ゲームのルール上『犯人』だと分かっている『犯人』をぶっ飛ばしていました。
反則をしてでも人死にを出さない、というのが哀川の考える名探偵の資格でした。


というあらすじなのですが、哀川潤らしく滅茶苦茶で面白かったです。

残念ながら今回、デジタル探偵にはいいところがありませんでしたが、
警察の補助ツールとして使うのなら、
デジタル探偵は現実で導入されてもいいんじゃないか、としまうましたは思います。

迷宮入りしてしまった事件の再捜査なんかにはもってこいでしょう。

西尾維新「人類最強のときめき」3話「哀川潤の失敗 Miss/ion3. 死ぬほど幸せ」のネタバレ解説

今回は地の文がなく、会話だけで話が進んでいく形式です。

刑事の佐々沙咲が、先日、とある総合商社で起こった飛び降り自殺について、
親友の哀川潤に相談に来ました。

自殺者の名前は繰島箏子(くるしま・そうこ)という28歳の女性でしたが、
飛び下りたのが4階だったので生存はしていたものの意識不明の重体でした。

繰島箏子は昼休みに会社の自分の席で持参のお弁当を食べ終わり、
包み直して、立ち上がり、不意に窓のほうに歩いていって、
閉まっていた窓を全開にして、ひょいっと飛び降りたのだそうです。

フロアには50人くらいの人間がいて、
そのうち15人くらいがそう証言していました。

哀川は佐々に頼み、繰島箏子の同僚を照会してもらい、話をしました。

同僚によると、繰島箏子が長く根回しをしていた仕事がようやく実を結び、
会社が期待していた以上の大成功を収めていたのだそうです。
さらに、5年間付き合った、同期の社員と、
この6月に結婚披露宴を執り行う予定になっていました。

飛び降りるその瞬間でさえ、繰島箏子は幸せそうに微笑んでいたのだそうです。

飛び降りる直前、昼ごはんを食べている最中には、
隣の席の子と昨日の夜放映されたドラマの内容について、談笑していました。

場面が変わり、哀川は佐々に、繰島箏子の死因は「幸せだと言いました。

(……死因って言っても、未遂なので死んでないのですが、
原文に死因と書いてあるのだから仕方ありません。)

繰島箏子は窓から飛び降りたとき、幸せの絶頂にいました。

実行には移さなくても、幸せの絶頂に入るとき、
ここで死ねば、自分の人生はパーフェクトだ、
と思う人は結構いるでしょう。

繰島箏子は『人生の辞め時はいまだ。最高に幸せな今だ』と突然思い、
『その瞬間』をやり過ごせず、自殺未遂をしてしまったのでした。

佐々は哀川に、あなたは自殺を考えたことがはあるんですか?
と訊きましたが、哀川は『ねえな』と答えました。


というあらすじなのですが、正直に言って、繰島箏子の自殺未遂の真相は、
何じゃそりゃ、という感じですね。

この話は哀川潤シリーズでやる必要なかったよな、と思いました。

忘却探偵シリーズでやった方がいいです。

でも、実はこの話は、2010年に「メフィスト」で発表されたもので、
当時はまだ忘却探偵シリーズは始まっていなかったのです。

西尾維新「人類最強のときめき」2話「人類最強のよろめき」のネタバレ解説

ER3システムのニューヨーク支局支局長の因原(いんぱら)ガゼルと、
四神一鏡の一角である檻神家のエリート職員の長瀞とろみが、
哀川に仕事の依頼をしに来ました。

活字を滅ぼしてください、とふたりは言いました。

ER3システムの女性若手研究員、ドクター・コーヒーテーブルが、
人類を滅ぼしうる、たった1冊の本をプログラムに書かせました。

その本は、面白過ぎて、寝食を忘れて読みふけってしまうような傑作でした。

比喩ではなく、寝食を忘れて読みふけってしまうので、
衰弱して死んでしまいます。

既に数百人単位で死者が出ていました。

その小説は、一人一人の好みに合わせて、自動生成される小説です。

アプリの形で配布される電子書籍にイメージが近いです。

スマートフォンのカメラで定点撮影することによって、
生成プログラムは画面に表示された文章を読む読者の、
リアルタイムな反応を観察し、
次のページを即座に『執筆』することができます。

小説家プログラムの正式名称は『ライト・ライター』で、
生成される該当の小説は『パブリック・ブック』という名前です。

『ライト・ライター』は、古今東西の、
あらゆる『小説』を電子化し、所蔵していて、
統計学に基づいて小説を書くシステムです。

ドクター・コーヒーテーブルは、
『ライト・ライター』を一般社会へ無料配布しようとしていました。

そんなことになったら人類は本当に滅亡してしまいます。

ガゼルの権限で、一般社会へのぱっひょうをストップをかけようとしましたが、
それを察したドクター・コーヒーテーブルは、籠城してしまいました。

ER3システムでは個々の研究者の領分を侵すことはタブ.ーなので、
非公式ながら、哀川に頼るしかなくなったのでした。

そのプログラムは、文章の解析よりも、表情の解析のほうが、
ずっと手がかかります。

ドクター・コーヒーテーブルは、哀川潤の妹とも言うべきロボット、
由比ヶ浜(ゆいがはま)ぷに子のOSとして採用されていたプログラムを、
『ライト・ライター』の読心術に転用していました。
だから哀川に仕事の依頼がきたのでした。

哀川はアメリカのテキサス州の砂漠へ飛び、
そこに隠されているはずのドクター・コーヒーテーブルのラボラトリーを捜します。

しかし、砂漠に大穴が開いていたため、ラボラトリーはすぐに見つかりました。

地下におりていくと、
国会図書館レベルの蔵書量の紙の書籍が詰まった本棚がありました。

最下層では、髪が半分以上、白髪化し、
衰弱したドクター・コーヒーテーブルが待っていました。

ドクター・コーヒーテーブルは、仲間の研究者から、
哀川が来訪することを知らされ、
バッテリー残量がぎりぎりのデジタルデバイスで、
わざと『パブリック・ブック』を読み、衰弱していたのでした。

わざと衰弱することで、哀川が暴力的に解決するのを防いだのです。

ドクター・コーヒーテーブルは哀川に1冊の紙の書籍を渡します。

実はそれも『パブリック・ブック』で、白紙に文字が浮かび上がりました。

ページをめくる指から、バイたるチェックをおこない、
真っ黒な微生物によって文字が書かれました。

このままだと哀川も死ぬまで本を読み続けることになってしまいましたが、
そこで哀川は、「熱中のあまり、読んでる途中に力尽きて死んじゃうんじゃ、
誰もこの本を読了できないとしか言えないんじゃね?
と言いました。

完結していなければ、小説じゃありません。
『パブリック・ブック』は永遠に終わらない未完の大作なのでした。

すると、そんなことは全く考えていなかったドクター・コーヒーテーブルは、
無言で籠城をやめ、ラボラトリーを出ていきました。

哀川は心ばかりの供養だと思い、製本版『パブリック・ブック』を、
図書室の書棚へと差し込みました。


というあらすじなのですが、しまうましたは、
最初の長瀞とろみと因原ガゼルの概要説明があった時点で、
読んでいる途中で死ぬのなら誰も最後まで読めないんじゃね?
と気付いていました……。

というか、別に読んだ人を殺すのが目的じゃないんなら、
読み始めてから丸1日くらいが経過した頃に完結するように、
調整すればいいだけだと思うのですが。

最初は究極の小説を求めて研究を始めたのに、
途中で目的が読者を殺すことに変わってしまったのかもしれませんね。
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