恩田陸「八月は冷たい城」のネタバレ解説

八月は冷たい城 (ミステリーランド)


この本は、「七月に流れる花」の続編です。
「七月に流れる花」のネタバレ満載なので、
そちらを先に読んだ方がいいでしょう。

主人公の中学生、嘉納光彦(かのう・みつひこ)は、
放課後の帰り道、「みどりおとこ」に話しかけられ、
緑色の封筒を渡されました。

「みどりおとこ」は長身で彫りの深い顔立ちで、
髪も肌も緑色でした。
「みどりおとこ」と呼ばれていますが、性別は不詳です。

光彦の母親は緑色感冒(りょくしょくかんぼう)を発症しており、
もうずっと会っていませんでした。
母親を見送るためには、招待状を受け取り、
夏のお城に行かなければなりません。

市立図書館で、光彦は佐藤蘇芳(さとう・すおう)と待ち合わせ、
「みどりおとこ」の話をします。
光彦と蘇芳は、医療関係者である2人の親が、
どちらの緑色感冒で隔離されている、という共通点があり、
仲良くしていました。

蘇芳は、「七月に流れる花」の主人公が、
小さい頃に離婚した父親が緑色感冒で隔離されていることも、
緑色感冒そのものも、何も知らされていなくて頭が痛い、
と愚痴をこぼします。

世間的には緑色感冒のパンデミックは過去のことで、
患者が激減し、封じ込めが成功したとみなされ、
徐々に忘れられているのでした。

「みどりおとこ」のように、緑色感冒から生き残った人は、
日本には1人しかいないことになっていますが、
世界中だったら、もっとたくさんいるのだそうです。

何でこんな面倒くさいことをしなきゃいけないんだ、と言う光彦に、
親の死を受け入れる儀式が必要なんじゃないのかな、
と蘇芳は言いました。

やがて、夏のお城に行く日がやってきて、光彦は列車に乗りました。
蘇芳によると、男子は午前中に、
女子は午後に夏のお城に行くことになっているのだそうです。

列車は、駅も何もないところで停まり、光彦は列車から降りました。

他にも3人、列車から飛び降りた少年がいました。
そのうちの1人が、小学校高学年のときに転校してしまった幼馴染、
大橋卓也でした。

旗を持っている「みどりおとこ」に案内され、ボートで川を渡ります。

その途中、小柄な少年が、以前にも親を緑色感冒で亡くしており、
ここに来るのは2度目だと言いました。

お城の門の中に入ると、外側から鍵をかけられ、
閉じこめられてしまいました。

建物の中に入り、階段を上ると、
首を折られた大きなひまわりの花がありました。

小柄な少年は丹羽幸正(にわ・ゆきまさ)という名前で、
最後の1人の大柄でおっとりとした少年は
唯野耕介(ただの・こうすけ)という名前でした。

光彦と卓也、幸正と耕介という組み合わせで、
不審な人物がお城の中に潜んでいないか調べて回りますが、
誰もいませんでした。

集合し、それぞれの部屋を決め、鐘が1回鳴ったら食堂に集合、
鐘が3回鳴ったらお地蔵さんのところに集まる、というルールを確認します。
何かあって全員を食堂に集めたい時も鐘を1回鳴らします。

経験者の幸正によると、4人全員の親が亡くなるまでは迎えは来なくて、
ここに閉じこめられるのだそうです。

部屋に着くと、卓也が光彦の部屋に来ます。
しばらくして、着いたばっかりだというのに鐘が3回鳴りました。

お地蔵さんのところへ行く途中、光彦は視界の隅に、
誰かが鎌を持って立っているのを目撃しました。
しかし、もう一度目をこらすと、影は消えていました。

お地蔵さんのところに全員が集合し、
幸正が地蔵の後ろにある電光掲示板を確認します。
その番号は「503」でしたが、光彦も卓也も幸正も耕介も、
全員が自分の親の患者番号ではないと言いました。

何かの間違いではないか、という話になりましたが、
卓也は、この夏のお城に来ていないやつがいて、
そいつの親が亡くなったのではないか、と言いました。

その後、光彦は、女子の場所との境界にある土塀のところに行きました。
何日かに一度、蘇芳とそこで待ち合わせて話をすることになっていましたが、
約束はありませんでした。

しかし、土塀の向こう側で「だれ?」という低い少女の声が聞こえました。
「七月に流れる花」で、ミチルが土塀の向こうの男の子と話した時の会話を、
光彦の視点で描写します。
やがて、女子の側から鐘が1回鳴り、光彦は戻りました。

母屋の方に戻ると、悲鳴が聞こえ、真っ青な顔をした幸正と、
彼をかばうようにしている耕介の姿がありました。
戸を開いたら、麻紐が結わえつけられている鎌が、
天井から落ちてきたのだそうです。

その数日後には、ベンチの下に縄が張ってあり、
ベンチに腰をかけると足が引っかかって縄が引っ張られ、
背後にある彫像が崩れ落ちてくる、という仕掛けがあるのが見つかりました。
幸正がその仕掛けに引っかかりそうになりましたが、
耕介が「ユキ、左に倒れろ!」と叫んだおかげで、幸正は助かりました。

その後、卓也は光彦と2人きりになったときに、
女子の誰かが土塀を乗り越えて嫌がらせをしているのではないか、
とほのめかしました。

その日は蘇芳と土塀の前で待ち合わせしていたので、
蘇芳にこれまで数日間に起きた出来事を洗いざらい話しました。

光彦は「みどりおとこ」に悪意を感じており、
「みどりおとこ」が嫌がらせをしているのではないか、と蘇芳に言います。

すると蘇芳は、「夏の人」が物騒なことをやっている犯人なら、
「夏の人」が何かを仕掛けているあいだは、
外部に通じる扉は開いているはずだ、と言います。

光彦は2日後に蘇芳と待ち合わせをする約束をし、
お城の門の扉の前に行きました。
扉の前に水を撒いて足跡が残るようにし、隙間に松葉を差し込み、
扉の下に葉っぱを置き、誰かが侵入したらわかるようにしました。

部屋に戻る途中、卓也が池の上に張り出した部屋の窓と平行になる格好で
窓枠に座っているのが見えました。
卓也の部屋に中にもう1人誰かがいて、
緑色の手が卓也を窓から突き落とすのが見えました。

門の扉のところに戻ると、泥の中に足跡が残り、
扉に挟んでおいた松葉は落ち、地面に置いた葉っぱは乱れて飛んでいました。

その数日後の日曜日の朝、鐘が3回鳴りました。
お地蔵さんのところに行くと、「415」という番号が表示されていました。
それは光彦の母の患者番号でした。

番号が表示されなくなると、光彦は他の3人を先に帰し、
自分だけお地蔵さんの前に残りました。
すると、水路から「みどりおとこ」が出てきて、
「光彦はいい子ねえ」と、光彦の母親の口癖を言いました。

光彦はすぐに逃げたものの、
卓也にも耕介にも幸正にもそのことを話しませんでした。

その日の深夜に鐘が3回鳴り、耕介の家族が亡くなりました。

翌日の昼食後に再び鐘が3回鳴り、今度は卓也の親が亡くなりました。

その後、土塀の前で、光彦は蘇芳にこの2日間の出来事を話しました。

蘇芳は、「みどりおとこ」が光彦の母親の口癖を言った、
という部分に反応しました。

蘇芳は、これまで疑問に思っていたことや、
生前蘇芳の親が話していたこととも辻褄が合うと言い、
ある「個人的な意見」について、光彦に説明しました。
が、読者にはまだその「個人的な意見」の内容は明かされません。

その日の晩、夕食後に卓也が光彦に話しかけ、
卓也の親が死んだあたりから耕介が挙動不審だと打ち明けました。

卓也と光彦で耕介を見張ることにします。
すると、耕介が自分の部屋から抜け出し、幸正の部屋に近づき、
幸正を見張り始めました。

夜中になり、幸正が食堂へ行きました。

耕介も、鎌を持って食堂へ入ろうとします。
そこへ、光彦と卓也が近づき、耕介を止めようとしました。

しかし、耕介は、「自分ではなく幸正を止めろ、と叫びます。

耕介と光彦と卓也が食堂に入ると、
幸正が首吊り自殺をしようとしているところでした。
しかし、耕介が縄を鎌で切り、幸正は助かりました。

耕介は、明日になったら『みどりおとこ』が迎えに来てしまうから、
やるとしたら今夜だと思った、と言いました。

実は、初日の該当者がいなかったはずの番号は、
幸正の親の番号だったのでした。
幸正は親の死を受け入れることができず、自殺願望がありました。

前の林間学校に行った時も、帰ってから死のうとしたのです。
だから、今回も気をつけていてくれと、
耕介は先生から頼まれていたのでした。
自分に鎌を仕掛けたのも、彫像を倒したのも、
それで死んでもいいと思っていたからでした。

最初の死者の時には、これは親の番号ではないと否定しましたが、
『みどりおとこ』が迎えに来たら、親の死を受け入れなければならなくなるので、
今夜が危ない、と耕介は気づき、幸正を見張っていたのでした。

幸正は死にたいと思う一方で、卓也を池に突き落としたり、
いろいろ仕掛けたりして、生きたいというサインも出していました。

光彦が仕掛けた門の葉っぱが乱れていたり、門の前に足跡があったりしたのは、
光彦がこそこそしているのに気づいた幸正が、
門の様子を見に行っていたせいでした。

おまえらも、僕も――ほんとに、大馬.鹿だ、
と幸正は言い、声を押し殺して泣きました。


帰りのボートの中で、光彦は蘇芳から聞いた
「個人的な意見」を思い出していました。

蘇芳によると、緑色感冒のパンデミックで生き残った、
世界各地のサバイバーには、ある共通点があったのだそうです。

それは、「食糧がなくなってしまったために、
死体の肉を長期に亘って食べたことでした。
緑色感冒で死んだ人の肉を食べると、みんな同じ、
独特のああいう姿になるのだそうです。
そして、それはいつしか緑色感冒の患者どうしで引き継がれるようになりました。
コロニーに常に1人はいる『夏の人』と死に際の患者が退治した時、
受け継ぐほうが、弱い方を食べるのです。
食べたほうが次の代の『夏の人』になるのでした。

引き継いだほうは、それまでの患者の記憶も引き継ぐため、
光彦の母親が死んだばかりの時に水路から現れた『みどりおとこ』は、
光彦の母親の口癖を言ったのでした。

死ぬところを遺族に見せられず、緑色感冒がタブーになったのはそのせいでした。
いずれ、『夏の人』は統合され、1人になると思われました。

ボートから降りると、『夏の人』は、もうここのことはすっぱり忘れ、
振り返るんじゃないと言いました。
『いい子ねえ、光彦は』と『夏の人』が言ったような気がしましたが、
光彦は振り返りませんでした。


というあらすじなのですが、意外な展開の連続で面白かったです。

ただ、1つだけ、時系列的な矛盾があるのに気づいてしまいました。

「七月に流れる花」では、主人公のミチルが、
土塀の向こうの男の子から話しかけられたのは、
夏の城に来てから1週間目のことでした。

ところが、「八月は冷たい城」の中では、光彦が、
土塀の向こうにいるのが蘇芳ではなくミチルだと気づかずに話しかけるのは、
夏の城に来たばかりの、初日の出来事なのです。

(「七月」では、ミチルが滞在一週間目に水路を流れてくる花を追い、
土塀を見つけ、その向こうに人の気配を感じる、という流れです。
「八月」では、城に来た初日に鐘が3回鳴り、誰かの親が死んだ後、
蘇芳と約束はないけど光彦が土塀に行ってみたらミチルがいた、
という流れです。)

男子と女子が違う日に来たのならおかしくありませんが、
「八月は冷たい城」の中で、男子と女子は、
同じ日の午前と午後に分かれて夏の城にやってくる、と書かれていたので、
どう考えても矛盾しています。

恩田陸「七月に流れる花」のネタバレ解説

七月に流れる花 (ミステリーランド)


主人公の大木ミチルは、中学1年生の女の子です。
ミチルは、6月初めというはんぱな季節に転校してきました。

ある日、美術の授業で先生から「夏の人」を描きましょう、と言われます。
夏の人の意味が分からないミチルは、
ひまわり畑の中に麦わら帽子を被った子供がいる絵を描きました。
ところが、他のクラスメートたちは全員、
手足も含めて全身が緑色の人間を描いていました。

先生がミチルの絵を見て立ち止まると、
学級委員の佐藤蘇芳(すおう)という、
何もしなくてもみんなの目を惹きつけてしまうタイプの女の子が、
ミチルは先週転校してきたばかりなのだと助け船を出してくれました。

美術の時間の後、隣の席の子に、みんなが描いていた絵は何なのかと訊くと、
隣の席の子は「みどりお――」と言いかけた後、
この辺りの「夏の人」なの、みんな知ってる、と答えにならないことを言い、
美術室から出て行ってしまいました。

一学期の終業式が終わっても、ミチルは友達を作ることができず、
1人で帰っていました。
和菓子屋の中の鏡を覗くと、そこに全身が緑色の人間が映っていました。

ミチルは、隣の席の子が言いかけていたのは「みどりおとこ」だったのだと、
直感的に悟りました。

和菓子屋の戸を引こうとしますが、和菓子屋は留守でした。

ミチルは、ぴょんぴょん飛び跳ねるように追いかけてくる
「みどりおとこ」から逃げながら、「みどりおとこ」の容姿を観察します。
髪も緑色で、顔立ちは西洋人かと思うほど額と頬骨が高いです。
背は高くがっちりとしていて、
ヨーロッパの童話に出てくる王子様みたいな奇妙な服を着ています。
しかし、性別は男なのか女なのか分かりませんでした。

しばらく走ると、佐藤蘇芳を見つけ、蘇芳に助けを求めました。
しかし、振り返ると「みどりおとこ」はいなくなっていました。

蘇芳と2人で歩くと、「冬のお城」の城跡を発見します。
そのお城は元々あった窓を全部潰しちゃった、という話を蘇芳はしました。

蘇芳は、ミチルが持っていた美術の時間に描いた、丸めた絵の中に、
緑色の封筒が入っていることに気づきました。

蘇芳はそれを見て、ミチルは「夏の城」に呼ばれたのだと呟きました。
夏のお城はもっと離れた場所にあり、そこに呼ばれたら、
必ず行かないといけないのだそうです。

封筒の中には、ミチルが「夏流城(かなしろ)」
での林間学校に参加しなければなりません、と書かれていました。

ミチルの母はその封筒を見ると、あちこちに電話をかけた後、
「仕方ないわね」と言いました。

封筒を受け取って3日後に、ミチルは夏の城に向かう列車に乗りました。
しばらくして、列車は駅のない田圃のど真ん中で停まり、扉を開けます。

外を見ると、小さな旗を持った「みどりおとこ」がいました。

蘇芳を含む5人の女の子たちが列車から飛び降り、ミチルも列車から降りました。
すると、列車は再び走り出しました。

「みどりおとこ」に案内されて田圃を歩き、
雑木林の向こうの川で、ボートに乗ります。

やがて、緑色のツタに覆われた、石造りの古い建物に到着しました。
蘇芳によると、それが夏のお城なのだそうです。
山の斜面にへばりつくように、箱の形をした建物が連なっており、
小さな中庭や池、細い噴水がそこここにあります。

「みどりおとこ」は大きな扉の鍵を5回も開け、夏のお城の中に入りました。

そこで、ミチルと蘇芳の他に4人の少女たちとの共同生活が始まります。
鐘が1回鳴ったら食堂に集合する、とか、
鐘が3回鳴ったらお地蔵様にお祈りしないといけない、とか、奇妙なルールがあります。
そのお地蔵様はお城の隅っこにあり、後ろに大きな鏡がありました。

他にも、水路に花が流れてきたら、
その色と数を掲示板にあるノートに書かないといけない、というルールもあります。
蘇芳によると、流れてくる花の色は白と赤なのだそうです。

ミチルや蘇芳は、迎えが来るのを待つだけで、
それまではここから出られないのだそうです。

ミチルと蘇芳以外の女の子の名前は、斉木加奈、稲垣孝子、塚田憲子(のりこ)、
辰巳亜季代(たつみ・あきよ)です。
斉木加奈と稲垣孝子は、ミチルとは別の中学で1歳上の中学2年生です。
塚田憲子も中学2年生ですが、加奈や孝子とはまた別の中学校でした。

辰巳亜季代は、ひとりだけ市立のミッション系の中学校から来た、
おっとりとしたいいところお嬢さんという感じの子でした。
亜季代が1番年上で中学3年生で、お姉さんという雰囲気なのに、
みんなが世話を焼きたくなるようなところがありました。
亜季代はいつもニコニコと笑って、セーターを編んでいました。

ミチルは加奈や蘇芳に、どうして自分たちは夏流城に呼ばれたのかと訊きますが、
答えをはぐらかされてしまいました。

ある日、ミチルたちは亜季代が持ってきた線香花火をしました。

林間学校が始まって1週間目、ミチルは水路を花が流れていくのを目撃しました。
ミチルは食堂のノートにそのことを書いた後、
あの花がどこから流れてくるのか気になり、水路を遡りました。
土塀の下の小さなトンネルから花が流れてくるのを見ます。

土塀の向こうに人の気配を感じ、ミチルは「だれ?」と訊きました。

すると、「――なあんだ、蘇芳か」という男の子の声が聞こえました。
男の子はミチルのことを蘇芳と勘違いしたまま、
「計画はちゃんと進んでる?」とか、「あいつ絶対に何か企んでる」と話しかけます。
ミチルが困っていると、鐘が1回鳴りました。

鐘が1回鳴ったら食堂に集合というルールは男の子も知っているらしく、
男の子は去っていきました。

ミチルが食堂に戻ると、蘇芳、加奈、孝子、憲子が同時にミチルを見ました。

しかし、亜季代はいませんでした。

何で鐘を鳴らしたのかと訊くと、蘇芳は、ちょっとおかしなことがあったのだと言い、
加奈の部屋の前にあったひまわりが残らずなぎ倒され、
折られて積み重なっているのを見せました。

他にも、池が空っぽになり、周囲はびしょびしょの水浸しになっていました。
まるで誰かが飛び込んだみたいでした。
しかも、飛び込んだ誰かが出て行った足跡はありませんでした。

ミチルは、夏の人はここには入らないのかと訊きますが、
憲子は、あの人は、ここの中には入らないのよ、ときっぱりと言いました。
食料が補充されているのは、2日にいっぺん、
外からの差し入れ口に入れておいてくれるのだそうです。

ミチルたちは亜季代を探しますが、見つからず、その日以来、
亜季代は本当にぷつりと姿を消してしまいました。

その後、みんなはそれまで通りの生活を続けていましたが、
図書室で孝子から「あたしだって怖いの」と打ち明けられます。

しかし、鳩の声が聞こえ、孝子は怯えた目で窓の外を見ると、
食堂へ行ってしまいました。

ミチルも遅れて食堂の前へ行くと、孝子と蘇芳が、何かが危険だと話していました。
しかし、ミチルが食堂に入ると、2人は話すのをやめてしまいました。

夜になり、外で懐中電灯の光が見えるのに気づいて外に出ると、
蘇芳と孝子が何かを毒で処分すると話していました。

数日後、憲子や加奈と、天気が悪くなりそうだという話をしていると、
鐘が3回鳴りました。

ミチル、蘇芳、孝子、憲子、加奈はお地蔵様のところへ行き、
手を合わせました。
大粒の雨が降り、雷鳴があっても、蘇芳は手を合わせ続けていました。

夕食後、ミチルはトランプをしようと言い出し、
トランプの入っていた古い戸棚を開けました。

しかし、そこから、ビニールに包まれた鳩の死骸が落ちてきました。

そのタイミングで、再び鐘が3回鳴りました。
ミチルは自分が亜季代や鳩のように、みんなから処分されるのではないか、
殺されるのではないか、とパニックになりました。

しかし、みんなに引きずられてお地蔵様のところまで連れて行かれます。
ミチルが「あたし帰る」と駄々をこねていると、蘇芳に平手打ちを食らいました。
憲子がミチルに、お地蔵様に手を合わせるようにと言います。

加奈は、ミチルをお地蔵様の正面に立たせ、「大木ミチルちゃんです、
とミチルを紹介しました。
さらに、ミチルに、鏡の向こうのお父さんに、
ちゃんと顔を見せてあげてと言いました。

お地蔵様の後ろに『556』という電光掲示板の数字があり、
それがミチルの父親の番号なのだと加奈は言いました。

ミチルの父親は、ミチルが小さい頃に離婚し、長いこと海外生活をしているうちに、
緑色感冒(りょくしょくかんぼう)という病気になりました。

緑色感冒は、今世紀の初めに世界で猛威を振るった恐ろしい病気でした。
高熱を発して全身が緑色になり、次第に重い肺炎を起こし、
呼吸困難で死んでしまう病気です。
感染率も致死率も高く、世界中をパニックに陥れました。

しかし、身体が緑色にならないうちは他人への感染率はそんなに高くなく、
身体が緑色になる前に適切な治療を施せば感知する死、
身体が緑色になった時点で隔離すれば感染が防げると分かりました。

ただ、身体が緑色になるほどに症状が進むとまず助からないし、
この時期の他人への感染力は非常に高く、しかも感染した相手も必ず重篤化します。


ここ夏流(かなし)は、
最大の『シェルター』と呼ばれる専門施設を併設した病院があるため、
あちこちから患者とその家族が移り住んでくるようになりました。

町の中にある冬のお城は、まだ流行が続いていた時に、
感染を避けるためにみんなが立てこもったのだそうです。

ミチルの父親は、緑色感冒の症状が進み、この『シェルター』に入ることになり、
ミチルの母親に、ミチルに合わせてほしいと頼んだのそうです。

『シェルター』と病院はこのお城の地下にあり、地下の隔離された施設で、
みんな治療を受けているのだそうです。
林間学校にやってくるのは、夏休み中、いつ亡くなっても不思議ではないほど、
重い病状の親がいる子供だけで、お地蔵様の後ろにあるマジックミラー越しに、
面会していたのだそうです。

蘇芳は一昨年に父親が亡くなった時にもここに来たことがありました。
今年は母親で、両親は2人とも緑色感冒の治療方法を研究していたのだそうです。
さっきの1回目の鐘は、蘇芳の母親が亡くなったときのものでした。

ミチルの母親は、父親のことをミチルに内緒にしてほしい、
と蘇芳たちに頼んでいたため、ミチルだけ何も教えられていなかったのでした。

小動物や鳥を媒介にした感染を避けるため、壁から音波を出して、
小動物が入ってこないようにしていました。
ところが、穴が開いていて、そこから鳩が入ってきたため、
毒の入った餌を食べさせ、次に『夏の人』が来るまで、
食堂の戸棚に隠していたのだそうです。

亜季代の母親も鏡の向こう側にいましたが、
亜季代本人も脳腫瘍で手遅れになっており、
いなくなった日に脳の中で大出血し、加奈の部屋の前のひまわりをなぎ倒し、
行けに飛び込んで頭を打ちつけ気絶してしまいました。
加奈は鐘を鳴らしてみんなを集め、亜季代を毛布に包んで運び出しました。


しかし、そのときミチルだけ遅れて食堂にやってきたため、
口裏を合わせて不思議な事件ということにしたのでした。

亜季代はすぐに集中治療室に入りましたが、死んでしまいました。

蘇芳の母とミチルの父が亡くなってから2日後に加奈の父が、
その翌日に憲子の母が亡くなりました。

『夏の人』は唯一、緑色感冒の完璧な免疫を持っているため、
『シェルター』と外を行き来することができるのだそうです。
『夏の人』がお城にやってきて、月曜日の朝10時に迎えが来る、と言いました。

帰り際、ミチルは水路を花が流れていくのを目撃します。
国内で緑色感冒で亡くなった人がいたら、
男なら白、女なら赤の花を流しているのだ、と憲子が教えてくれました。


というあらすじなのですが、主人公だけが、
何が起こっているのか分からず、怖がっていましたが、
ちゃんとその理由が明かされるのがよかったですね。

土塀の向こうの男の子の話は、続編の「八月は冷たい城」で語られます。

恩田陸「夢違」のネタバレ解説

夢違


この小説はドラマ「悪夢ちゃん」の原案小説ということになっていますけど、
ドラマとは全然違う内容です(と言ってもドラマは観てないんですけどねw)。
この記事はあくまでも小説「夢違」のネタバレ解説です。

さて。
野田浩章が図書館で古藤結衣子の幽霊を見る、という場面から物語は始まります。

恩田陸さんの小説は回想シーンが多いので、普通にあらすじを書くと、
時系列が混乱して訳が分からなくなってしまいます。
そこで、ある程度時系列順にまとめて書いてみます。

古藤結衣子は、左のこめかみの髪の毛がひと房だけ白い、
という外見的特徴のある女性です。
結衣子は子どもの頃から予知能力があるのではないかと噂されていました。

やがてそれは、夢札という技術が確立されたことで証明されます。

夢札というのは、ヘッドフォンのような特殊な機械をつけて眠ることで、
寝ているときに見た夢を保存したものです。
夢を保存することを「夢札を引く」と言います。

夢札は、獏(ばく)という大きな機械で、動画のように読み取ることができます。

結衣子の見た夢札には予知夢が多いということで、彼女は一躍話題の人となりました。

しかも、結衣子が見ている夢には、
大きな事故や災害といった悲惨な未来を予知したものが多く、
最初は大勢の人たちが結衣子に期待を寄せていました。
しかし、日時や場所を特定できず、事故や災害が発生してから、
あの予知夢がこの事件だったのか、と分かることが続くと、
誰よりも結衣子自身が悲惨な未来を変えたくて夢札を引き続けているのに、
結衣子のことを「頼まれてもいないのに不吉な夢を見続ける女」と揶揄する人も
現れるようになってしまいました。

結衣子の周りには科学者や学者、結衣子を教祖のように崇める者、
インチキだと非難する者たちばかりが残り、
普通の人は結衣子を遠ざけるようになってしまいました。

結衣子は普通の生活を送ることもままならなくなり、臨床医の仕事を諦め、
検査や実験などの技師として働くようになりました。

当時まだ大学生だった浩章が結衣子と出会ったのは、そんなときでした。
浩章は、兄の婚約者として結衣子を紹介してもらいました。

しかし、やがて兄も、結衣子の婚約者として世界中の注目を集めることに耐えられなくなり、
結衣子を遠ざけるようになってしまいました。

兄と入れ替わるようにして、浩章は結衣子と親しくなっていきます。
しかし、浩章も兄と同じように疲弊し始めた頃、結衣子は妙な夢を見ました。

「あっ」「あれ――」「あなた」「どうしてここに」「そう――そうなの」
「どのはるに?」「わかった――待ってる――上で」

結衣子は寝言でそんなことを言っていて目覚めた後、
「あなたなの?」
と浩章に訊ねましたが、浩章には意味が分かりませんでした。

それからしばらくして、結衣子は大規模な火災の予知夢を見ました。
日時や場所を特定するために、その夢札の映像はマスコミに公開されましたが、
結局特定できないまま時間が過ぎていきました。

そして、運命の日がやってきました。
結衣子の直属の上司が急死し、結衣子は上司の葬儀に出席するために、
上司の実家がある北関東を目指して1人で車を運転していました。

途中、結衣子は高速道路のサービスエリアに立ち寄ります。
そのとき、突風が吹き、工事のクレーンが倒れてしまいます。
クレーンが吊っていた鉄球は、
ガソリンスタンドに停めてあった巨大なタンクローリーの上に落下し、爆発しました。

その火災の映像は、結衣子が見た予知夢のものと一致していました。
結衣子は自分が死ぬ場面を予知していたのです。

遺体も見つからないまま葬儀に出席した浩章は、
結衣子の幼馴染だと名乗る妙な男に話しかけられます。

男は結衣子の遺影が飾ってある祭壇を見上げ、
「彼女は、そこにはいないよ」
と意味深なことを言いました。

その男は、結衣子が自分の婚約者の話ではなく、
婚約者の弟である浩章の話を何度もしていた、と言いました。

それから12年もの月日が流れます。

浩章は結衣子の影響もあり、夢札の分析専門の精神科医のような、
夢判断という職業に就いていました。

さらに、浩章は美里という女性と結婚していました。

物語の冒頭で浩章が結衣子の幽霊を見たのは、そんなときだったのでした。

その後、浩章が仕事仲間と飲んでいると、
なぜか結衣子が好きだった「亜麻色の髪の乙女」が流れてきました。

浩章は、夢判断の先輩である鎌田泰久とバーへ行き、
そこでG県の小学校で起きた事件の関係者である子どもたち30人分の夢札を見る、
という次の仕事について話をしました。

その時点から数えて3週間ほど前、11月21日の話です。
G県の山あいにある小学校で、
あるクラスの生徒たちがパニックになりながら教室を飛び出してくる、
という事件が発生しました。

ある女子生徒は「何かが教室に入ってきた」と言ったものの、
結局事件の全貌を掴むことはできませんでした。

しかし、事件が起きて数日経ってから、夜、子どもたちが夢にうなされるようになった、
と親たちが訴え始めました。

しかも、G県だけではなく似たような事件が全国で起こっているのだそうです。

それから数日後。
浩章は小学校にいる夢を見ました。
夢の中には結衣子も登場し、黒板の日付は3月14日になっていました。

目を覚ました浩章は、点けっ放しだったテレビに、結衣子の葬儀で出会った青年が映り、
日本舞踊をしているのに気付きました。

年が明け、浩章はいよいよ、鎌田と一緒にG県の子どもたちの夢札を見ることになります。
1人につき2週間分の夢札を引いたので、全部見るにはかなりの日数が必要となります。

最初の夢札は男の子のもので、野球の映像が何度も繰り返されていました。
執拗なまでに同じ野球の場面が出てきますが、教室が出てこないのは不自然でした。

2番目の男の子と3番目の女の子は、延々とサッカーをしている夢を見ていました。

翌日は4人の夢札を見ましたが、そのうち2人がサッカーの夢を見ていました。
何かサッカーを連想させることが教室で起こったのではないかと推測されました。

それからさらに夢札を見続け、4日目に見た女の子の夢は抽象画のようでした。

そして最後の日に見た山科早夜香(やましな・さやか)の夢札は、珍しく鮮明な夢でした。
事件当日の教室にやってきたのは、巨大な八咫烏でした。
八咫烏は3本足のカラスなのですが、
日本サッカー協会のシンボルマークとしても使われていることから、
悪夢を見ている子どもたちは無意識のうちに八咫烏からサッカーを連想していたのでした。

ちなみに恩田さんは八咫烏が好きらしく、他の作品にも何度か登場しています。

浩章はその夢札を何度も見ているうちに、
カラスの咽喉に結衣子に似た女の顔があることに気付きました。

1月の下旬になり、浩章は山科早夜香に会いにG県へ出張することになりました。
鎌田と、小児精神衛生センターに勤める大堂玉紀、
そして警視庁の岩清水慧(いわしみず・さとし)が一緒です。

浩章は、岩清水を見たとき、結衣子の葬儀で出会った男なのではないかと思いましたが、
思い切って岩清水に訊ねてみると彼は否定しました。

浩章は、新幹線の中で早夜香の情報を知ります。
早夜香は父親を亡くした交通事故で片耳の聴力を失っている少女でした。
早夜香は古藤結衣子が亡くなった事件のすぐ後に生まれていることから、
結衣子の生まれ変わりなのではないか、と岩清水は冗談めかして言いました。

浩章たちは、早夜香の担任、稲垣さつきの家が経営する「民宿いながき」に泊まりましたが、
浩章だけが数日前に飾られていた水仙を幻視(?)していた、
という奇妙な出来事がありました。

学校へ行き、事件当日の様子をさつきから聞いていると、
いつの間にか早夜香が教室の中に入ってきていました。

場所を移動し、玉紀が早夜香に催眠術をかけて事件当日へ逆行しようとします。
が、なぜか早夜香の意識は3月14日と黒板に書いてある教室へ飛んでしまいました。
しかも早夜香は、髪が少しだけ白い女の人と会ったことがある、
と結衣子の外見的特徴を口走りました。

玉紀は催眠術を中止し、早夜香は目を覚ましました。

早夜香が父親を亡くした後でカウンセリングのために夢札を引いたことがあると分かると、
全国で同じようなことが起こっている学校でも、夢札を引いた子がいたのではないか、
と鎌田は言いました。
岩清水が問い合わせてみたところ、その推測は当たっていました。

翌朝、早夜香の新しい夢札を見たところ、
結衣子が浩章と一緒に教室に立っている夢を見ていました。

その日の夜、岩清水は浩章に、
12年前の火災で結衣子のものだと特定できた遺体はなかったことから、
警察はまだ結衣子の行方を捜している、という話を聞かされました。
さらに、浩章が結衣子の行方を知っているのではないかと疑われました。

実は、最近になって奈良で何度か捜査員に結衣子が目撃されているのだそうです。

結衣子が巻き込まれた火災の犠牲者の13周忌の日に、
奈良の町はずれの小学校で全校生徒80人と教師と事務職員が全員、
姿を消してしまうという神隠し事件も発生していました。

……どうでもいいですけど、G県(たぶん岐阜県?)はG県と県名を伏せているのに、
奈良は地名を出しているのが中途半端と言えば中途半端ですね。

さて、後日浩章は岩清水と一緒に奈良へ行きます。
結衣子の遠縁だというフリーライターの山際潤子と会い、
結衣子の家族や、結衣子の少女時代について話を聞きます。

結衣子は小学生のとき、教室の中で突然姿を消し、
3週間も経ってからひょっこりと戻ってきたことがあったのだそうです。
結衣子自身には3週間も失踪していたという自覚はなく、
当時は神隠しに遭ったと大騒ぎになったのだそうです。

他にも、高校生のときに高校の裏手にある橋の崩壊を予言したり、
自分の両親が亡くなることすら予知していた節があったりしたのだそうです。

また、潤子は、最近になって防犯カメラの中に結衣子の姿が映っているという
都市伝説も教えてくれました。

潤子と別れた後、浩章と岩清水は病院へ行き、南雲(なぐも)という高齢の医師から、
結衣子が子どもの頃に引いた夢札を見せてもらいます。

その夢札は、山に鳥の足を植えているという不気味な内容の夢でした。

結衣子はときどき、子どもの頃の夢を見るために病院に来ていたのだそうですが、
あの高速道路の火災に巻き込まれる2週間前、
そして最近、結衣子の13周忌の頃にも現れたのだそうです。
ただし、後者の方は後ろ姿しか見ていませんでしたが。

病院を出た後、浩章と岩清水はホテルにチェック・インします。
浩章はそのホテルに1人でいるときに、窓ガラスに映った結衣子の姿を目撃しました。

浩章がホテルを出ると、濃い霧が出ていました。
潤子と小料理屋へ入り、そこで浩章が撮った結衣子の写真を潤子に見せると、潤子は、
「結衣子さん、野田さんのことが好きだったんですね」
と言いました。

その後、潤子は、夢札を引けるお寺があるという噂を教えてくれました。

潤子が席を立った後、隣の部屋から「亜麻色の髪の乙女」が聞こえてきます。
思い切って襖を開けると、そこに早夜香がいるのを浩章は幻視しました。

岩清水から電話がかかってきて、近くで多重事故があったという知らせが入ります。
現場へ行き岩清水と合流すると、信号待ちで止まっていた十数台の車の中から、
運転手だけが消えてしまった――と岩清水は告げました。

翌日。浩章と岩清水は、最近結衣子が泊まったと噂のある民宿へ向かいます。
その途中で、2人が乗った車は霧に巻き込まれてしまいますが、
その中に子どもたちの行列があるのを発見しました。
2週間前に小学校全体が神隠しに遭った事件の子どもたちでした。
そのことはラジオでも話題になっていました。

目的の民宿「ごとう」へ着いた岩清水は、出てきた女に、
この男が来ただろうと言って写真を見せました。

その写真に映っているのは、浩章の先輩の鎌田でした。

ベテランの夢判断はみんなそうなのですが、
鎌田は随分と前から夢札酔いに悩まされていました。
夢札酔いというのは、長時間他人の夢を見ていると現実感がなくなる、
あるいは自分の夢を浸食され、
眠りが浅くなったり吐き気や眩暈を覚えたりする症状のことです。

そしてベテランの夢判断は結衣子の幽霊を見ていました。
ここでようやく、物語の冒頭の、
浩章が結衣子の幽霊を見ていた場面の伏線が回収されたわけです。

結衣子はあの高速道路の火災の前に、GPSの入ったチップを体内に埋めていました。
それは結衣子が強く望んで実現したものなのですが、
当局は結衣子の所在地や体調を監視していたのでした。

しかし、火災のときに、チップはこの世から消滅し、
当局には何の情報も送られてきませんでした。

ところが、最近になってモニターを立ち上げてみると、
チップが蘇っていることが明らかになりました。

ここまでの前提を元に、「結衣子は小学校のときのように、
あの高速道路の火災で神隠しに遭い、未来に飛んだのではないか、と岩清水は言いました。

結衣子が戻ってきたときには数週間が過ぎ、合同葬儀も既に終わっていて、
そのまま結衣子は姿を消したのだろう、と岩清水は推理していました。

早夜香や浩章の夢に出てきた黒板の日付、3月14日というのは今年のことであり、
未来の夢を見ていたと岩清水は言いました。
未来の夢というのは、つまり予知夢のことですね。

浩章と岩清水は、結衣子のチップのバイタルサインがあった場所であり、
早夜香や浩章の夢にも出てきた場所である、吉野へ向かいました。

そして蔵王堂へ着くと、そこに、例の神隠しに遭った小学校の生徒80人と、
教職員たちが現れました。
今日が3月12日であることを告げると、小学校の女性事務員は信じられない様子でした。

ホンダリョウマという少年は、神隠しに遭っている間、結衣子の(夢の?)中にいて、
そこで浩章と会った、という話をしていました。

その場所は大騒ぎになってきていたので、警察やマスコミがやってきて道が閉鎖される前に、
浩章と岩清水は脱出し、本当の目的地である木蓮寺へ向かいます。

木蓮寺では女性が出迎えてくれましたが、
その女性は民宿『ごとう』で出会った女の娘でした。

そこには鎌田がいました。
鎌田は、山際潤子のような若い女性の間で話題になっている、
お寺で夢札が引けるという噂を聞き、ここへやってきていたのでした。

木蓮寺の女性の話によると、結衣子は12年前の高速道路の火災から3週間後に発見され、
それ以来ここで匿われていたのだそうです。
結衣子はずっと眠り続けているような――夢を見続けているような状態が続いており、
最近は衰弱してしまっているのだそうです。

浩章は、真っ白な髪をして車椅子に乗っている結衣子と再会しました。
その傍には、岩清水の生き別れの兄もいました。
結衣子の葬儀で話しかけてきた男は、岩清水の兄だったのです。

『――あのはる――に』
眠っているように見えた結衣子はそう呟き、亡くなりました。

そして終章になり、3月14日。
浩章は法隆寺へ来ていました。
結衣子の姿は法隆寺でも見られていたので、それを頼りにやってきたのでした。
そこには夢違観音という、嫌な夢を見たときに祈ると、
よい夢に叶えてくれるという観音像がありました。

そしてそこへ、ひと房だけ髪が白く、後は黒い結衣子が歩いて登場しました。
『ごめんなさい、待った?』
『いいや、ちっとも』
そんな会話を交わし、浩章が結衣子に微笑みかけるところで物語は終わります。


というあらすじなのですが、「オチが意味不明だと思った人も多いのではないでしょうか。

初めて恩田陸さんの作品を読んだ人は混乱するでしょうが、
訓練されたファンなら、ああ、またいつもの投げっぱなしのオチか、と思ったことでしょう。

最後の最後まで盛り上げておいて、最後の最後になっても伏線を回収せずに終わってしまう、
というのは恩田さんのいつものパターンなのです。

まあ、仮にもネタバレ解説ブログを名乗っているので、一応真剣にオチについて考えてみると……。

この小説のオチは、

①死んだはずの結衣子が生き返った
②浩章は夢の中で結衣子と再会した
③浩章も死んでいて、死んだ者同士として結衣子と再会した
④現実と夢が融合してしまい、生と死の境目がなくなってしまったので再会できた
⑤浩章は、結衣子が生きている時代にタイムスリップした
⑥結衣子は生き返ったのではなく死んだ人間として現世に戻ってきた(何言ってんだこいつ……)
⑦夢違観音のおかげで悪い夢(結衣子が過去に見ていた予知夢)が良い夢に変わり、
 そのおかげで過去の事件がなかったことになり(パラレルワールド的な扱いになり)、結衣子は蘇った
⑧終章は全部ただの浩章の夢だった、つまり夢オチ

などなど、様々な可能性が考えられます。
他にもまだまだ色んなオチがあると思いますが、このくらいで勘弁してください。

作者の恩田さんなら、どんなオチなのか読者に示すこともできるのに、
あえてそれをしないまま物語を終わらせてしまった
――これが、投げっぱなしのオチというわけです。

しまうました的には、これまでの話の流れを考えると、②か④か⑤か⑦の可能性が高いと思います。

一番有力なのは、『夢違』というタイトルから考えて、
⑦の『悪い夢(予知夢)が良い夢に変わったおかげで結衣子は死なずに済んだ』
じゃないかと思うのですが……あまり自信はありません(笑)。

それはさておき、何か、どの終わり方でも、浩章の妻の美里が可哀想ですよね。
美里の立場から考えると、自分の夫が昔の女の方を選んでしまった、
という話になっちゃうので……。
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