貴志祐介「鍵のかかった部屋」4話「密室劇場」のネタバレ解説

短編集最後の話で、今回はギャグ回です。

純子と榎本は、
「Dog knows 犬のみぞ知る」に登場した劇団、
『土性骨(どしょつぼね)』の公演に招待されました。

劇団の名前は『ES&B』に改名されましたが、
役者は同じです。

開演を告げるブザーが鳴り、進行役のジョーク泉が舞台に出てきて、
『彼方の鳥(ヨンダー・バード)』の上演の前に、
前座のパフォーマンスがあることを告げます。

まず、日本一高速の手品師、須賀礼(すが・れい)が出てきて、
高速でレパートリーを一通りやりました。

次に、力業師のマービン羽倉(はぐら)という、
スキンヘッドで筋肉隆々の男が出てきて、
アシスタントのバニーガールたちを宙に投げ上げ始めました。

3人目は、パントマイマーの富増半蔵(とます・はんぞう)が出てきて、
静かなパフォーマンスを見せました。

4人目は、日系パナマ人という触れ込み(要するに嘘)の空手家、
ロベルト十蘭(じゅうらん)が出てきて、空手の型で、
瓦割りやビール瓶の首を手刀で切り落としたりしましたが、
終わりの方はただ力まかせにぶっ叩いているようになりました。
するとマービン羽倉が進み出て、舞台用の作り物のビール瓶で、
ロベルト十蘭の頭を殴りました。

4人が、2人ずつ左右の舞台袖に下がると、
いよいよ休憩なしの90分ほどの劇『彼方の鳥』が始まります。

近未来のモハベ砂漠に飛行機が墜落したという設定で、
舞台の上には飛行機の残骸のセットや大小様々なサボテンがありました。

力八噸(りき・はっとん)や松本さやか、
アントニオ丸刈人(マルガリート)など、
劇団の人気俳優たちがドタバタ劇を繰り広げます。

やがて無線がつながり、飛行機から飛び出してきた力八噸が、
サボテンの切り出しに正面衝突し、顔面を強打して仰向けにひっくり返ると、
客席は爆笑に包まれました。

そのとき、純子の隣に座っていた左栗痴子(ひだり・くりちこ)が、
ロベルト十蘭が劇にも出演するはずなのにちっとも出てこない、と言います。
栗痴子は、本番中の舞台にいる力八噸に向かって、
十蘭を見てきてと大声で言いました。

力八噸は、いったん上手に退場してから戻り、下手の舞台袖に下がりました。

突然、力八噸が舞台に飛び出してくると、「しんしんしん!」とか、
「ころころころ……!」と、鶏の真似のように必死で両手を上下させたり、
頭をぱしぱしと叩いたりして、顔を真っ赤にして叫び続けます。

笑いの神が降りてきて、純子も榎本も大笑いしました。

芝居はグズグズのまま幕となり、観客たちは引き上げていきました。

榎本はロビーの前の売店で立ち止まり、緑色のモヒカンの劇団員から、
ビールを買いました。
榎本は売店の奥のドアを不正解錠し、控え室に進みます。

そこで、ロベルト十蘭が何者かに頭をビール瓶で殴られて殺されていました。
力八噸はさっきのお芝居の間にこの死体を発見し、取り乱したのでした。

純子は警察に通報しようとしますが、榎本は猶予が欲しいと言い、
劇団員たちから話を聞きます。

舞台上手からは楽屋口を通して直に建物の外に出られますが、
ロベルト十蘭が殺された下手の楽屋から出ようと思ったら、
ロビーの売店横の出口を通るか、舞台を横切るかの、
二択になってしまうのでした。

舞台で手品やパントマイムをした後、4人が2人ずつに分かれて、
上手と下手に引っ込んだとき、ロベルト十蘭と一緒に下手に行った人間が、
犯人の可能性が高いということになりました。

しかし、容疑者の須賀礼、マービン羽倉、富増半蔵の3人は、
全員が上手に行ったと主張しており、
自分と一緒に上手に行ったのが誰なのかは覚えていませんでした。

(ところで、マービン羽倉のアシスタントのバニーガールたちは、
どうなったんでしょうね?
誰がどのように舞台袖に下がったかが重要な話なのに、
全く説明がないです。)


モヒカンは、ロベルト十蘭と誰かが言い争うような声を聞いた、
と証言しました。

榎本はその証言を聞いて、ロベルト十蘭は他の誰かと、
漫才をやろうとしたのではないか、と推理しました。
なぜ漫才なのかというと、ロベルト十蘭の遺品に、
漫才のネタ帳が見つかったからです。

また、3人のうち、マービン羽倉は「マーベラス!」と叫びながら、
差し入れの寿司をぱくついていたところを目撃されており、
アリバイがありました。

榎本は、「インチキ関西弁を喋る富増半蔵に向かって、
あなたが、誤って、ロベルト十蘭さんを死に至らしめたんですね?
と訊きました。

ロベルト十蘭が控え室で『本気でM1目指してみいひんか?』と、
とっくに終わったM1の話をしたため、
富増半蔵はビール瓶で突っ込みをしようとしました。
ところが、そのビール瓶は、飴で作った偽者ではなく、
本物のビール瓶だったため、ロベルト十蘭は死んでしまったのでした。

控え室から脱出したのは、サボテンの切り出しを持ち、
その背後に隠れて、舞台を横切ったのでした。

舞台上を移動しなければならない距離は10メートルほどで、
犯人が使えた時間は80分ほどはあったので、時速7・5メートル、
秒速にして0・2センチほどで移動したことになります。
動きがあまりにもゆっくりすぎて、
観客はサボテンが移動していることに気づかなかったのでした。

クイズ番組などで流れるアハムービーという動画でも分かるように、
人間はゆっくりすぎる変化を見逃してしまうのです。

そして、このトリックが可能だったのは、
パントマイマーの富増半蔵だけでした。

富増半蔵が、ロベルト十蘭の最後の言葉は、ひょっとしたら、
マジやったんかなあ、と遠い目をして言ったところで、
この話は終わります。


というあらすじなのですが、ギャグ回であっても、
トリック自体はとても意外なものでしたね。

視線による密室からの脱出トリックとして考えると、
物凄い新機軸なんじゃないでしょうか。

貴志祐介「鍵のかかった部屋」3話「歪んだ箱」のネタバレ解説

土曜日の午前9時に、野球部の顧問の杉崎俊二は、野球部の部員たちに、
河原のいつものコースを三周して、帰ってこいと命令しました。
普通に走れば2時間以上かかります。

生徒たちが校門から出ていくと、婚約者であり、
同僚でもある飯倉加奈に話しかけられました。

加奈が自転車で走り去ると、杉崎は初めて建てたマイホームに行きました。

しかし、その家は、とんでもない欠陥住宅で、
少し前の地震で大きく地盤沈下して床が傾斜したり、
ドアや窓が開かなくなったり、雨漏りをしたりするようになっていました。

杉崎の伯母の夫である、竹本袈裟男(けさお)が社長の、
新愛工務店が建てた家だったのですが、
竹本は責任逃れを続けていました。

工務店の経営が苦しいからと土下座して頼まれたから、
杉崎は新愛工務店に頼んだのに、恩を仇で返されてしまいました。

この日、杉崎は「歪んだ箱」である家の中で、竹本と待ち合わせます。

杉崎は、この家は人が住めるような状態ではないことを説明しますが、
相変わらず竹本はのらりくらりと責任逃れをし、さらに、
杉崎が教師になる前に、
喧嘩で同級生を死なせてしまった過去をほじくり返されました。

事故という判定になったとはいえ、
それを知られたら加奈は婚約解消するでしょう。

杉崎は決意を固め、竹本に柔道の朽木倒しという技をかけ、
竹本の顔面を押さえて、剥き出しになったコンクリート部分へと、
力いっぱい、後頭部をぶつけて殺害しました。

その後、杉崎はその家を密室状態にしましたが、
警察は杉崎に疑いを向けていました。

事件から一週間後、杉崎は、青砥純子に、警察から守って欲しいと依頼し、
現場の家を見に行くことにしました。

しかしその家には、
密室だったか判定してほしいと警察に依頼された榎本がいました。

今回は、榎本と純子が別陣営に分かれて対決することになってしまいました。

玄関のドアは内開きなのですが、ドア枠が歪んでいるせいで、
ドアをきちんと収めることができません。

ドアの内側からドアを叩く以外に、ドアを閉める方法はありませんでした。

しかし、出入り口になりそうなのは、
1~2センチほど開いた状態で、家の重みで動かなくなった、
キッチンの窓くらいしかありませんでした。

竹本の遺体が発見されたのはリビングでしたが、
この部屋も玄関同様、内側から叩くことでしか締めることができませんでした。

しかも、キッチンとリビングを繋ぐドアは通行不可能なので、
エアコンのダクト用の穴くらいしか、開口部はありませんでした。

1人でこの家の様子を見に来た竹本が、玄関とリビングのドアを自分で締め、
雨漏りしていた水で足を滑らせて転んで亡くなった、
というのが杉崎が用意したストーリーでした。

しかし、榎本は、
ドアを叩くためのソフトハンマーを竹本が持っていなかったことから、
そのストーリーに疑問を抱いていました。

また、第一発見者の杉崎が、できるだけ密室をこじ開けるのを躊躇したため、
不自然な行動をとってしまっていました。

榎本は、密室トリックを順番に説明します。

まず、玄関のドアは、「内側からドアを叩いて締めた後、
キッチンの窓から脱出しました。
窓の隙間に、ジャッキを噛ませて持ち上げることで、
窓を開け閉めできるようになるのでした。

リビングの密室は、ダクト用の穴から、
ピッチング・マシンでテニスボールを飛ばし、ドアを叩いて締めました。
部屋に散乱したボールは、床が傾斜しているため、
自然とダクトの方へ集まってきます。
また、角度をつけてビニールシートをテープで張っておいたので、
一ヶ所に集めることができました。

後は、それを掃除機や鳥もちのようなもので、
ダクトの穴から吸い出し、ビニールシートを回収すれば、密室の完成です。

テニスボールには黄色いフェルトの毛が生えており、
その毛が部屋中に飛び散り、一部はドアの木の繊維にまで入り込んでおり、
トリックが使われたことを証明できました。

また、事件当日、野球部員たちが、杉崎の車が出ていくのを見て、
学校に戻ってバッティング練習をしようとしたら、
ピッチング・マシンが見あたらなかった、という証言もありました。

純子が杉崎の弁護をしてくれることになりましたが、
杉崎は加奈を失い、人生そのものを棒に振ってしまいました。
この歪んだ箱――いびつな復讐心に囚われて、
と杉崎が考えたところで、この話は終わります。


というあらすじなのですが、このシリーズの短編は、
容疑者が限られている場合が多いので、
最初から犯人が分かっている倒叙ものと相性がいいですね。

犯人は分かっていても、トリックが意外で、凄く面白かったです。

貴志祐介「鍵のかかった部屋」2話「鍵のかかった部屋」のネタバレ解説

会田愛一郎は、代々続く裕福な開業医の家に生まれましたが、
猛勉強と、口うるさい両親に我慢ができなくなり、
高校3年生の時に家を飛び出しました。

空き巣狙いの見張り役をするうちに、
会田は、音のしないハンドドリルでドアに穴を開け、
『アイアイの中指』というサムターン回しの器具を入れ、
サムターンを素早く回して鍵を開ける、という手口を創案しました。

(最初に読んだ時は、会田愛一郎という名前の元ネタは、
泡坂妻夫さんの亜愛一郎シリーズの亜愛一郎かと思いましたが、
「アイアイ」の語呂合わせだったみたいです。)

養親が前立腺ガンで死去した後、
会田は「サムターンの魔術師」として荒稼ぎをしながらも、
姉のみどりの息子と娘である、
大樹(ひろき)と美樹を可愛がっていました。

しかし、ある家に泥棒に入った時、
誰でもいいから人を殺してみたいと考える引きこもりの息子に襲われ、
殺してしまいました。
正当防衛ではありましたが、会田が不法侵入していたことから、
5年の懲役で服役しました。

その2年後には、姉のみどりが亡くなりましたが、
服役中だった会田は葬式にも行けませんでした。

出所した会田は、5年ぶりに、大樹と美樹に会いに行きます。

中学校で理科を教えている高澤芳男が出迎えてくれました。

みどりは大樹と美樹をもうけてから、夫に先立たれており、
再婚した相手が高澤でした。

しばらく応接間で話をしていると、
15歳に成長した美樹が帰ってきました。
美樹は大樹に、会田が来たことを教えに行きましたが、
大樹は部屋から出てきませんでした。

大樹は17歳でしたが、学校には通っていませんでした。

会田が大樹の部屋のドアを開けようとしても、開きません。

高澤によると、今日、美樹が外出してから、
大樹がドアに補助錠をつけていたのだそうです。

高澤がドリルでドアに穴を開けました。

会田はその穴に、
折り畳み傘の軸に隠していた『アイアイの中指』を入れ、
サムターンを回そうとしました。
しかし、何かで滑って、なかなか開かず、しばらく苦労してから、
ようやく開けることができました。

部屋の中にはバーベキューコンロがあり、
灰になった練炭がありました。

ドアと窓にはビニールテープで目張りがしてあり、
壁には赤と緑の紙テープで『サヨナラ』という文字が見えました。

大樹は練炭自殺した、と警察は考えていましたが、
会田はその見解に納得できず、「古い友人」の榎本に相談しました。

榎本は、青砥純子に相談し、協力してもらうことにします。

会田は、大樹は高澤に殺されたのではないか、と疑っていました。

みどりは両親から4億円もの遺産をすべて相続しており、
みどりの死後は大樹と美樹がその遺産を受け継いでいたため、
高澤には動機があったことになります。

純子が美樹を説得し、榎本と会田も、
家に招き入れてもらうことができました。

榎本は鍵を調べ、受け金の奥に脱脂綿があり、
開錠のときは音がするのに、
施錠のときには音がしないようになっていることに気付きました。

また、会田は、幅が2センチ足らずで、長さが7~8センチくらいの、
白い紙テープを見せました。
遺体発見時にドアを開けた瞬間、
部屋から飛んできたものを拾っていたのでした。

榎本は、ドアの目張りと窓の目張りに使われていたのが、
ポリ塩化ビニールの配管用テープであることを説明します。
そのテープは、「マイナスに停電しやすい性質を持っているため、
犯人はドアの外周に沿って半分が外にはみ出るようにテープを貼り、
ドアを閉めた後、ナイロンやウールなどでこすって帯電させ、
静電気で床に貼り付けさせたのでした。

そこへ、高澤が帰ってきて、榎本は高澤と対決します。

高澤が睡眠薬入りのコーヒーを大樹に飲ませて眠らせ、
コンロで一酸化炭素を発生させて大樹を中毒死させた、
と榎本は言いました。

高澤はその後、「普通に、ドアを開けて外へ出ました。

そして、エアコンを設定して、中の温度を2~3度上げて、
気圧差でドアが開かないようにしたのでした。

普通なら、温度が上がって空気が膨張したら、
ドアの隙間から空気が逃げるのでそんなことにはならないのですが、
この部屋はテープで密閉されていたため、そんな状態になったのでした。

高澤は、会田と美樹の目の前で、ドリルでドアに穴を開け、
空気を出すことでドアが開くようにしました。

さらに、予めサムターンに紙テープを分厚く巻いてあったため、
ドリルの回転で紙テープを引っ張り、サムターンを回して施錠したのでした。

会田がサムターンを回そうとしたとき、なかなかドアが開かなかったのは、
その紙テープの一部がサムターンの上に残ってしまっていたからでした。

会田が拾っていた紙テープの切れ端を調べれば、
ドリルで切断されたことは分かるでしょうから、
高澤が犯人だということが証明できました。


というあらすじなのですが、またしても、
一つの短編で複数の密室トリックが使われており、贅沢です。

貴志祐介「鍵のかかった部屋」1話「佇む男」のネタバレ解説

鍵のかかった部屋 (角川文庫)


防犯探偵・榎本径シリーズ3作目です。

この短編集のタイトルでドラマ化もされていますが、
しまうましたはドラマは観ていません。
榎本役の人が、原作のイメージと全然違っていたので……。
(原作だと、榎本は小柄で色白で目が大きいという設定です。
体型はイメージ通りですが、ドラマの俳優は色黒なんですよね……)

「戦う司法書士」を標榜する日下部雅友は、新日本葬礼社の社長、
大石満寿男(ますお)と3日前から連絡がとれなくなり、
心配になって会社を訪れました。

日下部は社長秘書と総務課長を兼任している田代芙美子に声をかけ、
社長を話がしたいと言いました。

田代芙美子から、大石社長の遠縁である池端誠一専務の許可が欲しい、
と言われ、日下部は専務室に行き、池端専務と直談判します。

池端は、大石社長は奥多摩にある山荘に行っていると言い、
電話をかけましたが、大石は出ませんでした。

日下部、池端、君塚という若い男性社員の3人は、
大石のいる山荘へ行きます。

山荘の正面玄関の前には大石の車がありましたが、
インターホンを押しても応答はありませんでした。

池端に誘導され、建物の裏から書斎の中を覗くと、
大石が倒れているのが見えました。
窓を開けると、恐ろしい腐敗臭が漂ってきました。

大石は、ドアの前に白幕を張り、ドアを背にして床に座り、
ガラステーブルの下に足を入れた状態で死んでいました。

玄関も勝手口も窓もすべて施錠されており、密室状態でした。

遺書があったことから、警察は、大石は自殺したと考えました。

しかし、その遺書は池端に有利な内容で、
しかも以前に作った遺書と殆ど同じ内容だったため、
日下部は警察の見解に納得できませんでした。

日下部は、密室事件ばかり数多く扱っている美人弁護士の、
青砥純子に依頼しました。

純子、榎本径、日下部、芙美子の4人は、
事件のあった山荘に現場検証に行きました。

まず、山荘の玄関が施錠されていた密室の謎については、
榎本はすぐに、「廊下の突き当たりにある換気用小窓から、
8~9メートル以上の長さの釣り竿を伸ばし、
サムターンを内側から回して施錠した」と看破しました。

難関は、大石の死体が見つかった書斎の密室です。

ガラスに小さな穴を開けておき、
密室を破る時にその穴を割ったのではないか、
と純子は推理しましたが、
警察は割れた窓ガラスの破片を一枚残らず回収して、
繋ぎ合わせており、穴の開いたガラス片がないのは一目瞭然でした。

密室の謎を考えているうちに、窓の外に、
この近くの別荘に遊びに来ている男の子が顔を覗かせました。

純子が外に出て、その男の子、松田大輝に、事件の時のことを訊くと、
ドアの前に髪の毛が真っ白な人が立って自分を睨んでいるのを見た、
と松田大輝は答えました。

書斎に戻ると、日下部は死体を発見した時に、
死体の口のあたりに蛆がいたのを見た、という話をしていました。

そこへ、最有力容疑者の池端専務がやってきます。

純子は松田大輝を呼び、大輝が見たのは池端専務ではないかと訊きましたが、
大輝が見たのは人物の特徴は、大石社長のものでした。
しかも、大石が佇んでいるのを大輝が見たのは、
遺体が発見される前日の、29日の朝でした。
しかし、検視によれば、
大石が亡くなったのは28日の昼から夕方にかけてでした。

ますます謎が深まりましたが、純子が何気なく口にした、
「次元の違う発想が必要」という言葉を聞いて、
榎本は謎を解き明かしました。

榎本は、蛆が育つのには通常は丸一日から半日程度必要だと言いました。
しかし、検視の結果によると、
発見される2日前には大石は亡くなっていたので、
大石が亡くなった後、この書斎は一度開けられていたことになります。

犯人は、「大石を殺した後、死体を横たえ、
殺害から半日以上経過してから戻ってきました。
その時には死後硬直で大石の身体は硬くなっているので、
遺体を仰向けにして、白幕を張ったドアに立てかけ、
ガラステーブルに爪先を差し込んで固定し、
ドアの隙間から脱出したのでした。

その後、大石の死後硬直はゆっくりと解けていくため、
自然と発見時のような姿勢になりました。

白幕には大石のDNAなどの痕跡が発見されるはずなので、
警察が調べ直せば、このトリックが使われたことは証明できます。

また、遺書には池端しか知らないことが書かれていたため、
池端が犯人であることも証明されました。


というあらすじなのですが、犯人はバレバレでも、
トリックが意外だったので面白く読むことができました。

トリックが分かってから読むと、
タイトルの「佇む男」の意味がよく分かります。

(鍵のかかった部屋 1話 2話 3話 4話

貴志祐介「天使の囀り」のネタバレ解説

天使の囀り (角川ホラー文庫)


主人公の北島早苗は、ホスピスに勤める29歳の精神科医です。

早苗の恋人の高梨光宏は、かつては人気作家でしたが、
現在は落ち目の小説家です。
しかし、株の取引で儲けていたため、お金には困っていませんでした。

早苗は、高梨が死恐怖症(タナトフォビア)に蝕まれ始めていることに気づき、
心配していました。

高梨は新聞社の主催するアマゾン調査プロジェクトに加わることになり、
1997年の1月からアマゾンへ行きました。

高梨たち探検隊は、カミナワ族の集落の西にテントを張って生活しています。
集落の北のはずれには、3年ほど前から1年間、
オマキザルを研究していたアメリカ人の夫妻が住んでいた、
焼け焦げた小屋の残骸がありました。
しかし、カミナワ族の人たちは、
そのアメリカ人夫妻について詳しい事情を語りませんでした。

高梨は早苗に、メールでアマゾン探検隊のメンバーを紹介します。

救世主(メサイア)コンプレックスの持ち主である、
55歳の文化人類学の蜷川(にながわ)武史教授。

新世界ザルの専門家で、自分自身もオマキザルの一種に似ている、36歳の森豊。

苔と地衣類の研究をしている、大兵肥満の45歳の私立大学助教授の赤松靖。

32歳のカメラマン、白井真紀。
この4人が、高梨が主に行動を共にしているメンバーです。

3月の初めに、高梨は蜷川、森、赤松、真紀の4人と一緒に、
カミナワ族の集落を離れてフィールドワークに出かけました。
ゴムボートに乗って川を遡っていきましたが、
川の流れが前回の調査と変わっており、道を間違えて遭難してしまいました。

有毒物質が溶け出した「黒い川」だったため、釣りもできず、
わずかな量のレトルト食品を食べて寝ました。

翌日、川を下って、元来た地点に戻ろうとしましたが、またしても道に迷い、
ボートが転覆しかかったせいで弾丸を川の中に落としてしまいました。

日が暮れ、お腹を空かせていると、頭だけ1本も毛が生えていない、
50センチくらいのサルがやってきました。
ウアカリという種類に似ていましたが、これまでに発見された種類と違い、
頭が白くなっていました。

お腹を空かせていたため、高梨たちはそのサルを殺し、焚き火で炙って食べました。

その後、高梨たちはカミナワ族の集落に戻ることができましたが、
高梨たちが道に迷ったときに行った場所が「呪われて」おり、
高梨たちが「穢れて」いるからと、集落から追放されてしまいました。

ここで場面が変わり、早苗がホスピスで働いている場面になります。
早苗は、両親が薬害エイズで亡くなり、
自身もHIVに感染してしまった上原康之少年に対して心を痛めていました。

ある日、アマゾンに行っていたはずの高梨が、今は成田にいるという電話が入ります。

ホスピスへやってきた高梨は、以前は吸わなかった煙草を吸うようになっており、
表情が以前と比べてみちがえるほど明るくなっていました。
高梨は、死ぬことが、けっして恐ろしいことじゃないと気がついた、
と、以前なら絶対に言わなかったことを口にします。

さらに、高梨は「天使の囀り(さえずり)」と呼んでいる、幻聴を聞いていました。
早苗には聞こえませんでしたが、高梨には、最初は羽ばたきの音が聞こえ、
天使が囀っているような音が聞こえるのだそうです。

寝室のベッドに移動すると、高梨は自分の首にベルトを締め、
引っ張ってほしいと早苗に頼みました。

後日、早苗はアマゾンでの高梨の様子を知ろうと、
アマゾン調査プロジェクトを主催した新聞社に電話しました。
社会部の福家という男が出ますが、収穫はありませんでした。

早苗が職場でコーヒーを飲んでいると、高梨がアポなしでやってきて、
早苗を抱こうとしました。
しかし、早苗は当然怒り、高梨を追い返しました。

後日、早苗は高梨の紀行文が連載されている『バーズ・アイ』という雑誌を購入し、
読みました。
『バーズ・アイ』には蜷川が採集してきたというカミナワ族の民話も載っていました。

その中の『憑依』という作品は、兄弟が夜の森の中で大勢の人と出会い、
「これを食べろ」と言われ、猿の肉をもらう話でした。
弟は食べませんでしたが、兄は肉を食べてしまいます。
翌朝、帰り道には『悪魔の猿』の死骸がありました。
兄は人が違ったように貧食になり、村人のために持って帰るはずの獲物を食べてしまいます。
家に帰ると、兄は夜中に外へ出て、『悪魔の猿』から何かを受け取り、
それを明日村人たちと分ける肉に振りかけていました。
弟が村人たちにその話をすると、村人たちは兄弟の家に火をつけ、
家から出てきた兄を殺してしまいました。

以上が『憑依』の内容です。

後日、ホスピスで高梨と再会した早苗は、
高梨が120キロくらいに太っていることに驚きました。

高梨は眠れないから睡眠薬が欲しいと言います。
早苗は薬局へ向かい、処方箋を書いて薬を受け取って部屋に帰りました。
しかし、高梨はすでにかえってしまっていました。

数時間後、早苗は机の引き出しの奥に入っていた睡眠薬の瓶が、
3つとも消え失せていることに気づき、高梨に電話しました。

高梨は、様子がおかしく、天使の囀りがうるさいと言い、
お酒といっしょに睡眠薬を飲んでいました。
早苗は死なないでと叫びますが、高梨はおやすみと言い、自殺してしまいました。

ここで視点が変わり、28歳のフリーター、荻野信一の視点になります。
信一は子供の頃から重度の蜘蛛恐怖症でした。
人付き合いが苦手で、コンビニでのアルバイトもうまくいっていませんでした。

一人暮らしをしているアパートに帰ると、姉から電話がかかってきて、
お見合いの話をされました。
信一はお見合いを断り、自分はライターだと言いますが、
姉は信一のことをプー太郎だと言いました。

信一は一方的に電話を切り、
『天使が丘ハイスクール』というパソコン用のエ.○ゲーをプレイします。
今は、そのヒロインの川村紗緒里を攻略しようとしているところでした。
ゲームの中には、実は天使という設定の美歌&絵留というキャラクターも登場しました。

疲れてゲームを終えた信一は、インターネットに『美歌&絵留』と入力して検索し、
『地球(ガイア)の子供たち』というサイトを発見しました。
どうやら宗教か自己啓発セミナーのサイトのようでしたが、
美歌&絵留の画像があったため、そのまま読み進めました。

信一の章が終わり、また早苗の章になります。

高梨の死後、ずっと落ち込んでいた早苗は、新聞記者の福家からの電話で、
高梨の短編が純文学専門の月刊誌に載っていると教えてもらいました。
早速、その月刊誌を買うと、高梨の小説のタイトルは
『Sine Die(サイニー・ダイイー)』でした。
内容は、純粋な喜びを感じて『死』を志向しているようなものでした。
タイトルも、「死ね。Die(ダイ)」という命令文のように見えました。

早苗は、高梨の妹で27歳の鍋島圭子と一緒に、
高梨のマンションへ行き、形見分けをしてもらいます。
するとそこで、『死』をテーマにした大量の書籍を発見しました。

高梨の貸倉庫に行くと、一冊のルースリーフを見つけました。
そのルースリーフには、沢のような場所に、
いびつなキノコに似た物体が点在している写真が挟まっていました。

自宅に帰ってそれを読むと、高梨が冒頭のメールに書いていた、
アメリカ人夫妻の遺品のようでした。

ルースリーフには新聞も挟まれており、その記事によると、
霊長類学者、ロバート・カプランとジョーン・カプランの夫妻は、
アマゾンでオマキザルの生態調査をしていましたが、
ロバートが突発的に精神に異状をきたし、
妻のジョーンを殺害し、焼身自殺したのだそうです。

ルースリーフの研究日誌によると、
ジョーンは、群れから放逐されたアカウアカリというサルを、
飼育していたそうです。
その日誌には、守護天使(ガーディアン・エンジェル)の羽ばたきが聞こえる、
という、高梨が聞いていた天使の囀りと酷似したものが書かれていました。

ロバートによる「エウメニデス」という走り書きも残されていました。

早苗は、世界各国の神話の比較研究を大学で教えている、
同級生の黒木晶子に電話し、エウメニデスとは何かと訊きます。
すると、ギリシャ神話に出てくる、
髪の毛が蛇の、復讐の女神たちのことなのだと言われました。

さらに、ロバートの手記には、エウメニデスの正体を、
「Pseudopacificus cacajaoi」と命名する、と書かれていました。
これは生物の学名なのではないかと思い、調べてみると、
「偽りの平和を与えるもの」という意味らしい、と分かりました。

ここで再び信一に視点が変わります。

信一は『サオリスト』というハンドルネームを使い、
『地球の子供たち』のオフ会というかセミナーに参加しました。

オフ会参加者の『トライスター』というハンドルネームの少女が、
エ.ロゲーの『天使が丘ハイスクール』に登場する、
若杉美登里というキャラクターに似ていることから、
心の中で勝手に美登里ちゃんと呼んでいました。

東京から1時間40分ほどバスに揺られ、セミナーハウスに到着します。

『庭永先生』や『めめんと』氏の進行で、セミナーが始まります。

夕食後、グループを作ることになり、
信一は『美登里ちゃん』と、先端恐怖症の中年女性の『憂鬱な薔薇』、
醜形恐怖症の青年の『ファントム』と同じ班になりました。

研修の最初のプログラムは、自分の悩みについて打ち明ける、
というものでした。
信一は、幼少時から、異常なレベルの「教育ママ」である母親に、
虐待と言っていいような英才教育をされていました。

しかし、小学4年生になったある日、
心因性の腹痛に襲われて大量の習い事に行けなくなったことをきっかけに、
母親に見放されました。

担任教師にも嫌われ、学校へ行かなくなり、それ以来、28歳の今日に至るまで、
信一は再び人生に参加する機会を見つけられないでいました。

『憂鬱な薔薇』は、高校時代にクラスの中で吊し上げのような非難を受け、
全員からいっせいに指を突きつけられたことで、先端恐怖症になりました。
家族との折り合いや近所づきあいがうまくいかず、
新興宗教をはしごするのが趣味になってしまいました。

『ファントム』は、20年前、彼が4、5歳の時に、
実家のメッキ工場で事故に遭い、
顔に痣が残ってしまったことで苦しんでいました。

しかし、信一は『憂鬱な薔薇』と『ファントム』の悩み事を聞き流し、
そのことで『美登里ちゃん』から睨まれます。
いたたまれなくなった信一がトイレに行っている間に、
『美登里ちゃん』は『憂鬱な薔薇』と『ファントム』に悩み事を打ち明けてしまい、
信一は『美登里ちゃん』と不仲になってしまいました。

研修最終日に、大広間に集められた信一は、
『庭永先生』が守護天使について話すのを聞きました。
研修の締めくくりの儀式である『聖餐』と称し、
得体の知れない生焼けの肉を食べるようにと強要されます。

苦労して食べると、守護天使はみなさんの中に迎え入れられました、
と『庭永先生』が宣言し、拍手が起こりました。

再び早苗の視点に戻ります。

早苗は、アマゾン探検隊のメンバーの赤松靖が、
那須高原サファリパークで、禁止地域で車から降り、
トラに咬まれたというニュースを見ました。

新聞記者の福家に誘われ、早苗は赤松が入院している病院へ行き、
赤松が危険な状態だと聞きました。

警察へ行くと、赤松が所持していた紙切れを見せてもらえました。

その紙をタクシーの運転手に見せ、
天使の荊冠(けいかん)美術館に案内してもらいます。
そこで、天使の羽は猛禽類の羽をモチーフにしている、
と意外な話を知りました。

帰りの新幹線の中で、福家は、アマゾン探検隊のメンバーである、
白井真紀というカメラマンも死亡していたことを教えてくれました。

白井真紀は、中央線の水道橋駅のプラットフォームで、
6歳の娘を線路に投げ落としました。
その後、自分も線路に飛び降り、母子ともども死亡していました。

白井真紀には、乳幼児突然死症候群で長男を亡くした過去があり、
何よりも子供を失うことを恐れていたはずでした。

赤松も、肉食獣に襲われることを恐れており、
高梨も、自分が死ぬことを何よりも恐れていました。

亡くなった3人には、本人が一番恐れていたことを実現してしまった、
という共通点がありました。

アマゾン探検隊の残りのメンバー、蜷川教授と森豊は、
現在行方不明になっているのだそうです。

再び信一の視点になります。
セミナーから帰った後、信一はコンビニのバイトも上手くいくようになり、
『美登里ちゃん』とも仲直りし、順調でした。
ライター兼評論家になるという夢を叶えるため、評論を書き始めます。

また、蜘蛛恐怖症を克服しようと、外に出かけて蜘蛛を捕まえてきます。
アパートに帰った信一は、守護天使の声を聞きました。

再び早苗の視点になります。
赤松は亡くなってしまい、その赤松を解剖した渡邊教授に話を聞きます。
赤松の脳からは、微細な線虫が百匹以上も発見されたのだそうです。

渡邊教授の紹介で、線虫の分野の第一人者である、
40代前半の依田健二に話を聞きに行きます。

線虫を顕微鏡で見せてもらうとき、
早苗は液体窒素の入った容器を倒してしまいそうになりました。
液体窒素は、線虫を冷凍保存するときに使うものでした。

線虫について詳しい話を聞いた後、
赤松の脳から見つかった線虫を実験のために育てている、と教えてもらいました。

場面が変わり、早苗は同窓会で黒木晶子と再会します。
そこで、宗教には蛇のモチーフが繰り返し登場すると教えられました。
また、ロバートの手記にあった「Typhon(テュポン)」という言葉も、
ギリシャ神話に登場する怪物神の1人だと教えてもらいます。
その身体は、無数の蠢く毒蛇が寄り集まってできていたのだそうです。

ホスピスへ行った早苗は、先輩医師の土肥美智子から、
不審な自殺について話をするため警察に呼ばれていた、という話を聞きます。

メッキ工場で、4、5歳くらいころに事故に遭った醜形恐怖症の青年が、
深夜、工場に忍び込んで、劇薬の溶液に顔を着けて自殺したのだそうです。
さらに、競泳用のゴーグルをつけていた形跡があり、
そばには鏡もあったのだそうです。
自分の顔が無残に溶けるのを見たかったとしか考えられない状況でした。

再び信一の視点に変わります。
信一は天使の囀りを聞きながら、アパートの部屋で大量の蜘蛛を飼い、
その蜘蛛を食べるようになっていました。

早苗の視点に戻ります。
早苗は、依田に呼び出されます。
依田は、赤松の脳に寄生していた線虫にブラジル脳線虫という名前を付け、
動物実験をしていました。

ブラジル脳線虫は、動物や人間の脳に快感を与えることで、
動物や人間を操る力がありました。

『天使の羽音』という、鳥の羽ばたきを思わせるような音は、
虫が内耳の迷宮に入って起こすものであり、
『天使の囀り』は、聴覚情報を伝える中脳の蝸牛神経核を刺激し、
聞こえるものだろう、と早苗は仮説を立てました。

ブラジル脳線虫に感染したサルの、頭長から、
放射状に、蛇行する白いミミズ腫れのような跡ができており、
それが髪の毛が蛇のメドゥーサのように見えました。

また、ブラジル脳線虫がたくさん寄り集まり、
『テュポン』のように球体を作っているところも見せてもらいました。

後日、早苗は福家から、吉原逸子という43歳の主婦が、
果物ナイフで自分の右目を突いて自殺したことを知らされます。
その部屋には無数の薔薇が飾ってあり、ナイフやフォークが百個以上、
椅子の背やドアにくくりつけられていたのだそうです。

また、歯が溶けた美少女が、千葉県の手賀沼(てがぬま)という、
汚い沼で入水自殺し、その身元が分かっていないことを教えられました。

早苗はその少女の遺体を見て、拒食症の慢性的な嘔吐によって、
胃酸で歯が溶けていたのではないか、と言いました。
また、右手の人差し指だけ爪が薄くなっていることや、
少女の頭に蛇行する白いミミズ腫れのような跡があるのに気づきました。

右手の人差し指だけ薄くなっていたのは、中指と人差し指で、
何かを挟んでいたからではないか、と早苗は思い、
自殺した少女は囲碁をやっていたのだと気づきました。

日本棋院に問い合わせ、
自殺した少女の名前が滝沢優子であることが判明します。
滝沢優子の友人の浜口麻美によると、滝沢優子は天使の囀りを聞いており、
極度の潔癖症だったことが判明しました。
また、名前にガイアがつくセミナーに参加していたのだそうです。

早苗は「地球の子供たち」についてインターネットで調べ、
都内で開かれたオフ会に参加しました。
そこで講演していた『庭永先生』の正体が、
行方不明になっていた蜷川教授であることに気づき、
早苗はブラジル脳線虫について問い質しました。

蜷川教授によると、
ブラジル脳線虫がやっていることは、「宿主の脳が強い不安やストレス、
恐怖などを感じたときに、自動的に快感へと変えるだけでした。

ブラジル脳線虫は本来、アマゾンでサルに寄生していますが、
サルは天敵である巨大な猛禽に恐怖を感じています。
その恐怖を快感に変えることで、捕食者に身を任せ、
寄生を拡大させていました。

しかし、人間はサルよりも複雑で、特定の対象に強い恐怖症を持っていた場合、
その対象に強く引き寄せられてしまうことになります。

動物恐怖症の赤松はトラに近づき、
我が子を失うことを恐れる白井真紀は自らその子を殺害し、
醜形恐怖症の『ファントム』は自らの顔貌を薬品でどろどろに溶かし、
不潔恐怖症の滝沢優子はアオコの腐敗臭漂う沼で水浴し、
死恐怖症の高梨は自殺したのでした。

蜷川教授はそれを分かっていながら、セミナーに参加した人たちに、
ブラジル脳線虫に感染した肉を与え、被害を拡大させ、実験していました。

病的な救世主(メサイア)コンプレックスの持ち主である蜷川教授は、
人類を救うために、ブラジル脳線虫で実験していたのです。

(あるいは、誰かを救えないということに対する恐怖が快感に変わり、
救われない人々を増やそうとしていたのかもしれません。)

蜷川教授と、その手下の森豊はオフ会の会場から出ていき、
再び行方不明となりました。


後日、早苗は依田から、
ブラジル脳線虫に感染したサルが捕食されずに生き延びた場合、
最終的にどうなるのか、映像を見せられて知りました。

オマキザルの研究をしていたロバートは、
妻がブラジル脳線虫に感染していることに気づき、
感染者が最終的にどうなるか知ったからこそ、
妻とともに焼身自殺していたのでした。

2ヶ月後、早苗は浜口麻美から、
滝沢優子がセミナーに行った後にもらったお土産のジャムの産地が、
那須であると教えられました。

赤松が自殺したのも那須高原サファリパークだったことから、
早苗は那須に何かあると考えます。
滝沢優子の母親に電話し、滝沢優子の手帳に028で始まる
栃木県の電話番号がないか調べてもらいました。

その番号に電話しますが、繋がりませんでした。

早苗は依田と一緒に、その電話番号のセミナーハウスへ向かいます。

その途中、依田の妻が妊娠8ヶ月のときに交通事故で死んだ、
という話を聞きました。
依田が車を運転していた際、対向車が反対車線を逆走してきて、
左に急ハンドルを切った結果、電柱にぶつかってしまったのでした。

セミナーハウスに行く途中、『天使の荊冠美術館』の看板も発見しました。

セミナーハウスに到着すると、一、二週間前まで誰かが生活していて、
急にいなくなったような感じがしました。

大浴場へ行った早苗と依田は、そこで「ブラジル脳線虫の感染者たちの、
変わり果てた姿を発見しました。

ブラジル脳線虫は、感染者の遺伝子を書き換えていました。

頭部や胴体が提灯のように膨れ上がり、
四肢は脂肪や筋肉や骨が消失し、萎びた紐と化していました。
その袋のようになった身体の中には、大量のブラジル脳線虫が詰まっています。

変貌した無数の死体を確認するうち、蜷川教授と森豊の死体も発見しました。

また、浴槽の水の中には大量のブラジル脳線虫が泳ぎ回っていました。
早苗と依田は、浴槽の中に、持ってきた大量の殺虫剤を振りまきました。

そのとき、変貌した感染者の中に7人の生存者がいて、
そのうち3人には意識があることに気づきました。

生存者の中の一人、荻野信一が、紙のように薄くなった声帯を震動させ、
『コロシテ』と頼みました。

早苗と依田は、ガレージにあった車のエンジンをかけ、
排気ガスをホースで大浴場に引き込み、安楽死させることにしました。

そのとき、信一は『天使が丘ハイスクール』のテーマソングを歌っていました。

最後の仕上げとして、遺体にガソリンをかけていきます。
しかし、ある遺体の触手のような蕾に接触した瞬間、
すべての蕾がいっせいに弾け、
早苗と依田はブラジル脳線虫が詰まった粘液を浴びました。

急いで粘液を洗い流した後、ガソリンに火を点け、
セミナーハウスごと遺体を燃やしました。


それから1ヶ月後、早苗は依田と結ばれました。
ある日、依田が、どろりとした緑色の薬草茶を飲むように、早苗に勧めました。
しかし、早苗は飲む気になれず、断りました。

早苗は依田と行為をした後、シャワーを浴びます。
洗面所で身体を拭くとき、偶然、
ゴミ箱に多量の抗精神剤のパッケージが捨てられているのを発見しました。

依田がシャワーを浴びている間に、早苗はキッチンの冷蔵庫の中を見て、
そこに「凍結されたブラジル脳線虫が入った試験管があるのを発見しました。

依田は、ブラジル脳線虫に感染してしまっていたのでした。

早苗は、浴室から出てきた依田から逃げ惑い、書斎に閉じこもります。
ドア越しに、依田がブラジル脳線虫に感染しており、
早苗にも感染させようとしていたことを聞きました。

依田の部屋は地上11階にあり、逃げ場はない状態でした。
依田はドアをこじ開けようとします。

早苗は、書斎の中に液体窒素の入った容器があることに気づきます。
その中のブラジル脳線虫が入った試験管をハンドバッグに入れます。

液体窒素を爆発させるために、
ティッシュペーパーを花瓶で濡らして、液体窒素の容器に入れました。

ドアを開け、依田と話して時間稼ぎをしていると、
依田は早苗の掌が赤いことに気づき、冷蔵庫に歩み寄りました。
その途端、液体窒素の容器が爆発し、冷蔵庫の扉が弾け飛び、
依田に直撃しました。

その間に、早苗は1階に降りました。
窓から依田が顔を出し、早苗を見下ろします。
バランスを崩した依田は恐怖を感じましたが、
その恐怖がブラジル脳線虫によって快感に変換され、
依田は飛び降り自殺してしまいました。

クリスマスが近づいたころ、ホスピスに福家がやってきて、
セミナーハウスで起こった大量殺人について、
警察が早苗に会いに来るかもしれないと教えられました。

早苗は、依田のマンションから持ち出したブラジル脳線虫を、
死ぬ寸前の患者である上原康之少年に投与し、
死への恐怖を感じさせないようにしました。

上原少年の死後、早苗は警察に出頭し、
今後、1人たりともブラジル脳線虫の犠牲者を出さないために、
何もかも話すことにしました。


というあらすじなのですが、怖いけど悲しくて、
どうしようもない絶望に襲われる話でした。
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