貴志祐介「ミステリー・クロック」4話「コロッサスの鉤爪」のネタバレ解説

布袋悠一(ほてい・ゆういち)は、日本潜水工業のダイバーでしたが、
唐突に辞め、日本潜水工業の親会社、
大八洲(おおやしま)海洋開発の社長令嬢、
近江有里(おうみ・ゆり)と婚約を果たし、
ネオ・シートピア計画の責任者として凱旋しました。

実務はすべてかつての上司だった安田康夫(やすだ・やすお)に押しつけ、
夕食後にイカ釣りをしていました。

かつての同僚だった蓬莱弘明(ほうらい・ひろあき)から、
蓬莱の恋人の渚(なぎさ)を妊.娠させていました。

午後9時13分、蓬莱弘明は実験船『うなばら』より北に35メートル、
深度300メートルの海底で飽和潜水をしていました。

深度が40メートルを超えたあたりから窒素酔いで酩酊状態になるうえに、
酸素中毒で死に至る危険があるため、
スクーバで潜れる限界は、せいぜい100メートルでした。

そのため、飽和潜水という技術が生まれ、
ヘリウムを混ぜた混合ガスを吸って、
身体をゆっくりと高い気圧に鳴らしていくことによって、
水深300メートルでも作業できるようになるのでした。

9時16分には、海底の泥が大きく巻き上がって、視界が不良になり、
9時20分には、蓬莱の心電図が数秒間途切れました。

9時43分、盛大に泡が発生し、布袋悠一のボートが転覆し、亡くなりました。

誰も、現場に近づけなかった密室状態で、
警察は事件性はないとして捜査を終わらせるつもりでしたが、
布袋悠一の婚約者の近江有里は納得できず、
鴻野光男警部補の紹介で青砥純子の法律事務所を訪れました。

密室状態というのは、現場の海域にいたのは『うなばら』だけで、
犯行現場に近づけたのは『ネオ・シートピア計画』の関係者に限られ、
大口保成(おおぐち・やすなり)という研究者が、
パッシブ・ソナーという水中聴音機のテストをしていて、
外部から来たスクリュー音は聞こえなかったと証言していました。

海底には、蓬莱悠一を含めて3人のダイバーがいましたが、
いきなり気圧を上げたり下げたりしたら、人間の身体はとても持たず、
減圧には12日間が必要で、犯行は不可能でした。

場面が変わり、純子、榎本、近江有里の3人は安田康夫から話を聞きました。

遺体にはサメの噛んだ跡が残っていたことを安田康夫は言いました。

また、コロッサス・スクイッドという、
ダイオウホオズキイカの鉤爪で付けられたような傷が、
両腕に付いていたということを、安田康夫は話しました。

次は大口保成に話を聞き、事故の瞬間の音声を聞かせてもらいました。
泡の弾ける音と、「待ってくれ!」と布袋悠一が叫んでいるのが聞こえました。

事件当時、海底には『デメニギスくん』というROV(遠隔操作無人探査機)がいて、
その操作をしていた樽目大輔(たるめ・だいすけ)からも話を聞きます。

デメニギスは頭が透明な深海魚で、目が出ているから「出目ニギス」なのだそうです。

『デメニギス』くんが録画した映像には、
大量の泡のほかに巨大イカのような形の真っ黒な影が映っていました。

その後、昼食の時に安田康夫から、1年前に沖縄で、
白井(しらい)渚という女性が亡くなったという話を聞きました。

ナイト・ダイビングをしていて、うっかり投光器のスイッチを入れてしまい、
ダツというクチバシが鋭く尖っている魚に襲われて亡くなったという事故で、
沖縄には恋人の布袋悠一と2人で行っていたという話を、安田康夫はしました。

白井渚の元彼は蓬莱だったと聞き、榎本は蓬莱を疑います。

純子は、いつものように頓珍漢な仮説をいくつも立て、
榎本に粉砕されていましたが、ゴムボートのまわりに、
たくさんのサメが集まってきた理由は、風船に、
空気の他に動物の血か何かが封入してあった、という仮説を立てました。

すばらしい、と榎本は拍手しました。

密室の謎は解けませんでしたが、サメを呼べた理由については、
榎本よりも純子の方が先に正解の推理に辿り着けたのでした。

いつものお約束の、純子の頓珍漢な推理だと思って読んでいたら正解だったので、
意表を突かれました。

船上減圧室の中にいる蓬莱と話をすると、動機があることは認めました。

純子と榎本は沖縄本島の中部にある浜比嘉島(はまひがじま)で、
比売知(ひめじ)という漁師から白井渚の死について聞きました。

渚のボートの投光器が点いたところを見ていましたが、
ボートには渚以外に誰も乗っていなくて、他の船もなかった、
ということを証言しました。

大八洲海洋開発の応接室で、1年前の布袋悠一の役職を、
榎本は近江有里に聞きました。

1年前、布袋悠一は資材課の課長代理で、
その頃、サラマンダー・スーツ(大気圧潜水服)が
なくなっていたことを近江有里は話しました。

サラマンダー・スーツは、中を1気圧に保ったままで、
深海に潜れるスーツでしたが、重量が270キロもあるのと、
マニピュレータでは細かい作業ができないことや、
価格が3000万円はするというデメリットもありました。

サラマンダー・スーツはアルミ合金製で、
ダツの群に襲われても、平気でした。

布袋悠一はダツのクチバシの形状そっくりな凶器を自作して、渚を刺し、
大気圧潜水服を着用して渚を海中に引き込んで、
投光器のスイッチを入れて逃げたのでした。

場面が変わり、海底に隠していたサラマンダー・スーツを
蓬莱が引き揚げようとしているシーンで、
純子と榎本と鴻野がボートで近づき、白状させました。

1年前、渚が飼っていたコロという犬が、
餌を食べなくなり衰弱死していました。

コロというのはコロッサスという昔のイギリスの戦艦の名前で、
4本の肢に、大きな狼爪が生えているという特徴がありました。

布袋悠一がコロの死体をサメの餌にしていたことから、
渚を殺したのは布袋だと蓬莱は確信していたのでした。

蓬莱は浜比嘉島の海底でサラマンダー・スーツと凶器を見つけていました。

サラマンダー・スーツは中を1気圧に保ったまま潜水するためのものですが、
逆の使い方も可能で、中を31気圧に保ったまま、
300メートル浮上することもできました。

蓬莱はそのスーツを着て、パラシュート型のシーアンカーにぶら下がり、
300メートル浮上して布袋悠一を海に引き込んで殺したのでした。


というあらすじなのですが、今回は殺人描写が生々しくて、
気分が悪くなりました……。

しまうましたは、「飽和潜水も大気圧潜水服の存在も、この話で初めて知りました。

『大気圧潜水服』で画像検索したらいっぱいヒットしましたが、
宇宙服にそっくりでした。

犯人がこんな服を着た連続殺人を扱った話は、
前代未聞なのではないでしょうか。


この短編集に収録されている話は、これで終わりです。

貴志祐介「ミステリークロック」3話「ミステリークロック」のネタバレ解説

50代のミステリー作家、森怜子(もり・れいこ)が、
岩手の人里離れた山荘で作家生活30周年の晩餐会を開きました。

晩餐会のメンバーは、青砥純子と榎本径、
森怜子の現在の夫の時実玄輝(ときざね・げんき)、
森怜子の秘書の佐々木夏美、
お手伝いさんの山中綾香、
森怜子の初代の担当編集者の本島浩一、
森怜子の甥で俳優の川井匡彦(まさひこ)、
森怜子の前夫の熊倉省吾、
先輩ミステリー作家のヒキジイこと、引地(ひきじ)三郎です。

森怜子は時計のコレクターであり、
山荘にはグランドファーザー・クロックや、
電源プラグがコンセントに指し込まれたパタパタ時計などがありました。

心臓にペースメーカーを組み込んでいるヒキジイは、
携帯電話やスマホが大嫌いで、全員に電源を切らせました。

食事が終わり、午後8時に広間に入りました。

この山荘には電話線も来てないし携帯も圏外だけど、
屋根の上に、衛星インターネットのパラボラアンテナがあるという話や、
庭に出れば衛星携帯電話がつながる、という話をします。

広間にある円形の電波掛け時計の時間で午後8時41分に、
明朝締め切りの原稿が、残っていると言って、森怜子は席を外しました。

8時50分に、時実が森怜子のコレクションの、
8つの置き時計を見せました。

どれも高額なアンティーク時計で、
特に『ミステリークロック』の『モデルA』と『キメラ』と『パンテール』は、
貴重品でした。

時実は、ここにある8つの時計の価格の順位を当てた正解者に、
美術展の目玉になるレベルの美しい置き時計をプレゼントする、
という意味のことを言いました。

時実は指輪やカフスボタン、腕時計を外させ、手袋を渡して、
実際に時計に触らせました。

純子達が価格当てゲームに夢中になっていると、
時実が庭に出て衛星携帯電話で話をし、
本島浩一が勤務している飛鳥書店の清水社長だと言い、
本島浩一に電話を渡しました。

本島浩一は時実に電話を返し、ゲームに復帰しました。

佐々木夏美が証明を切り替え、ハロゲンライトのフットライトで、
8つの置き時計を見させてもらいます。

時実が戻ってきて、灯りを元通りにし、電波掛け時計の時間で9時39分に、
答え合わせだからと言って、佐々木夏美に森怜子の様子を見させに行きました。

佐々木夏美の悲鳴が聞こえ、全員が森怜子の書斎に行き、
アコニチンという毒で亡くなった森怜子の死体を発見しました。

森怜子が毒殺を使った小説を執筆するときに、
アコニチンという毒薬が入った小瓶を見ていた、
という話を時実はしました。

「ミステリークロック」から始まる、遺書のような走り書きもありました。

時実は猟銃で全員を脅し、この中に殺人者がいるということになります、
犯人が誰か確信した時点で、刑を執行します、と言いました。

書斎には電源の切れたパソコンやラジオのFMチューナーがありましたが、
時実はその電源を入れさせず、
全員をグランドファーザー・クロックのあるダイニングに移動させ、
犯人を特定するための議論を開始しました。

犯人は、アコニチンをコーヒーフレッシュに溶かしてから、
コーヒーに入れたのではないか、という話になりました。

森怜子はアコニチンがコーヒーフレッシュにうまく溶けるか、
実験をしていて、パソコンがフリーズして強制終了させ、
気分を落ち着けようと、うっかり毒入りのコーヒーを飲んでしまった、
という仮説を川井が言いました。

森怜子のパソコンを確認するため、10時49分に書斎に戻り、
パソコンの電源を入れました。

書きかけの原稿の更新日時は、『毒鳥』が9:36、
『ミステリークロック』が9:34でした。

広間に戻り、時実は外部犯がブレイカーを落として警備システムを無効にし、
侵入した可能性を消すために、庭のブレイカーを落としましたが、
フットライトが消え、ブレイカーが落とされたら、
誰も気づかないはずはないということになりました。

森怜子は、自分が実験をしていたのも忘れて、
毒を呑んでしまうほど不注意ではなかったと時実は言い、
川井の説を否定しました。

時実は、全員に1番犯人らしいと思う人物を1、2の3で指差させ、
最も多くの票を集めた人物を撃つということを言いましたが、
全員、棄権しました。

時実は全員に黒いゴミ袋を被せ、考える時間を3分間差し上げます、
とムスカ大佐のようなことを言い、ドラムロールのBGMを流し、
1、2の3で指差させましたが、今回も全員が棄権しました。

時実は猟銃に弾丸が入っていないのを全員に見せ、
衛星携帯電話で警察を呼び、11時6分に全員の腕時計と指輪を返しました。

それから2週間後、全員が一堂に会しての推理劇を、
飛鳥書店が書籍化・DVD化することになり、全員が集められました。

榎本が解決編と言い、書斎で発見された「ミステリークロック」から始まる、
遺書のような走り書きは、FMラジオの放送の内容のメモだったということを
言いました。

犯人は、その走り書きを見て、自殺ではなく事故に偽装することにしたのでした。

衛星携帯電話会社と、清水社長の自宅の通話記録を調べ、
通話時間は、9時7分から9時38分までの間だったと言いました。

『毒鳥』の更新は9:36、『ミステリークロック』が9:34で、
犯人が書いたのだとすれば、時実のアリバイは成立しています。

榎本は、「時実を犯人と名指しし、時実が時間をねじ曲げていたことを説明します。

時実がトリックを弄したのは、森怜子のパソコンの内部時計のリアルタイムクロックと、
広間の電波掛け時計、書斎の電気時計と、ダイニングのグランドファーザー・クロック、
パタパタ時計の5種類でした。

パソコンのリアルタイムクロックは、書斎に新しい時計のプレゼントを置いて、
森怜子を時計に夢中にさせ、パソコンの起動時間を遅らせていました。
警察が来る前に、時実はUSBメモリでパソコンを起動し、
リアルタイムクロックを正常な時間に戻し、
問題のないハードディスクを挿していました。

時実が衛星携帯電話の通話を終えたのは9時39分だと思われていましたが、
実際の時刻は、9時51分で、時実さんは、すでに森怜子を殺害していました。

時実の書斎にあった電波時計の電池を抜くことで、実際の時刻より12分進ませ、
2枚の紙の文字盤を挟み込んで、壁紙用の粘着剤で72度左向きに回転させることで、
正しい時間に見えるけど、時計が認識している時刻は間違っているという状態を
作りだしました。

その後、電波掛け時計の時間で9時18分に時実が電磁波シールドカーテンを開けると、
電波時計が標準電波を受信し、正しい時刻になりましたが、2枚の紙の文字盤の重りで、
9時8分のまま12分間針が止まっているように見える状態になりました。

その後、12分遅らせてあったいくつもの時計を、
警察がやってくる前に、正しい時刻に追いつかせました。

電波掛け時計は、時実が私設法廷を開廷していた時に、
猟銃の銃口で、72度左に傾いていた時計を元に戻しました。
重りのついた2枚の紙の文字盤により、完全に正しい時刻になりました。


……電波掛け時計のトリックは、何を言ってるのか全然わからないと思いますが、
今回はあらすじで解説できるレベルのトリックじゃないですからね。

しまうましたも、この部分は2回読まないと完全に理解することはできなかったので、
小説の終盤に挿入された【時系列】を見ながら、
理解できるまで小説を読み直した方がいいでしょう。
(すごくどうでもいいのですが、この【時系列】の中には、
「私設法廷」が「施設法廷」になっている誤字があります)

要するに、「2枚の紙の文字盤を挟んだり、左に72度傾けたりしていたのは、
銃口の先で粘着剤を外すだけで正しい時刻に戻せるようにするためでした。
これさえ理解できればいいと思います。

時実は、全員に黒い袋を被せていた3分間に証拠の品々を回収し、
暖炉で燃やしていました。

グランドファーザー・クロックは、振り子についている重りを上下させ、
1・2倍に加速することで正しい時刻に戻しました。

パタパタ時計は電気時計で、交流電流の周波数をカウントして、
それを基に時を刻んでいます。
東日本の電力は50ヘルツ、西日本は60ヘルツです。
自家発電の周波数を切り替えることで、1・2倍に加速しました。

森怜子がFMラジオ放送を聞いて『ミステリークロック』から始まるメモを書いたのは、
9時37分でした。
絶命するまでに数分はかかりますが、佐々木夏美が森怜子の遺体を発見したのは、
9時40分頃で、時間が合わず、何らかの欺罔工作が行われたということが、
これで証明されたわけです。


というあらすじなのですが、
トリックは榎本に説明されるまで全然わかりませんでしたけど、
犯人は序盤からバレバレでしたね。

今回の短編集では毎回言えることですが、
犯人はこいつしかいないだろうと思いながら読んでいた人物が犯人でした。

しかし、そこらへんは割り切っていて、トリックに重きを置いているのでしょう。

この作品は、犯人の視点はないけど、犯人が誰かは最初からわかっている、
準倒叙ミステリーとして読むこともできます。

ハウダニットの話として読めば、傑作だと思います。

この短編集に収録されている話はそれぞれのページ数がバラバラで、
1話「ゆるやかな自殺」は40ページちょっとですが、
この話は200ページ以上もあります。

短めの長編くらいのページ数で、凄く贅沢に思えました。

貴志祐介「ミステリークロック」2話「鏡の国の殺人」のネタバレ解説

新世紀アート・ミュージアムという美術館の館長、
平松啓治(ひらまつ・けいじ)に頼まれ、
榎本径が深夜に天窓を有機溶剤で溶かし、美術館に侵入したら、
平松啓治が殺されているのを発見しました。

はめられた、と確信した榎本は現場から逃亡しました。

翌日、鴻野光男警部補が青砥純子を訪ね、
新世紀アート・ミュージアムに侵入した犯人を、
監視カメラが捉えた写真を見せました。

顔がわかりませんが、榎本だと純子は思いました。

現場が密室で、このままだと榎本が殺人犯にされると鴻野は思い、
純子に情報を流したのでした。

その後、榎本から電話があり、榎本の指示で、
純子が新世紀アート・ミュージアムを訪れ、
捜査することになりました。

平松館長の秘書だった鈴木繁子(しげこ)に話を聞きます。

稲葉透というアーティストの『鏡の国の迷宮』という、
遊園地のミラーハウス迷路を模した企画展がありました。

企画展の展示室を抜ければ、
館長室がある2階に上がることができますが、
途中3基の監視カメラがありました。

床を這えば監視カメラには映りませんが、
迷路の入り口から入ってすぐの場所に、
『ハンプティ・ダンプティの顔』のパネルがあり、
パネルを左右どちらかに動かさないと通り抜けることができません。

監視カメラには『ハンプティ・ダンプティの顔』が
動いたところは映っていませんでした。

しかし、稲葉透と、そのアシスタントの石黒美鈴(みれい)、
山本健太が作業をしているところが映っていました。

20分間、稲葉透が監視カメラに捉えられていない時間がありました。

榎本が捉えられた2階の監視カメラは、
絵画の額縁に仕掛けられたピンホールカメラでしたが、
ピンホールカメラの視野は狭いのだそうです。

額縁の真下を這ったら、おそらく映らないでしょう、
と榎本は携帯電話で言いました。

稲葉透は、以前も那須の『天使の荊冠(けいかん)美術館』で、
同じテーマで迷路を作っていたことがあり、
明日、榎本はそこへ行くことになりました。

純子は、ルイス・キャロルの研究家で、
変人の萵苣根功(ちしゃね・こう)を美術館に招き、話を聞きました。

萵苣根功は相貌失認という障碍がありましたが、
ルイス・キャロルやハンプティ・ダンプティも相貌失認だという説が
有力なのだそうです。

萵苣根功は『ハンプティ・ダンプティの顔』も顔と認識できず、
無理に引っ張ってパネルを割ってしまいました。

萵苣根功は『天使の荊冠美術館』の稲葉透の迷路を見たことがありましたが、
そのときは床が市松模様だったのに、今は真っ黒でした。

また、そのときと比較して鏡の数が大幅に減っているのだそうです。

萵苣根功に監視カメラの映像を見せると、
3基の監視カメラのうち2つまでのトリックを、
萵苣根功は解いてしまいました。

翌日、純子は榎本と一緒に、最後の監視カメラの謎を解こうとします。

純子は、鏡に映った榎本のG-SHOCKというデジタル腕時計の文字盤が、
変だと気づき、榎本は犯人が迷路から脱出したトリックに気づきました。

回想があり、「平松館長が稲葉から安値で買い上げた作品を使って、
オークションの値段を裏から吊り上げ、
裏金作りに脱税、違法な政治献金に利用しようとしている、
ということを稲葉は咎めました。

オークションに稲葉も関与していたということにして、
稲葉の名誉を泥にまみれさせる、ということを平松館長が言い、
稲葉は平松館長を殺すことにしたのでした。
館長室に仕掛けてあった盗聴器で榎本が侵入する計画を知り、
稲葉は榎本に罪を着せることにしました。


回想終わりです。
榎本から電話があり、
稲葉は夜12時に展示室の迷路の前で待ち合わせましたが、
稲葉は「クロスボウで榎本を殺すつもりでした。

榎本は、監視カメラに映っていた『ハンプティ・ダンプティの顔』が裏返しになっていて、
左右に引っ張らなくても通り抜けられたことを指摘しました。
凹んでいるものが、出っ張っているように見える、
ホロウマスク錯視と呼ばれる現象なのだそうです。

迷路の途中にある素通しに見えたガラス壁は、
瞬間調光グラスを使ったスマートスクリーンで、
プロジェクターで投射したものだったと、榎本は第2のトリックを暴きました。

最後のトリックは、偏光フィルターを使って、監視カメラの映像を欺いていました。
横方向の偏光だけを通す偏光フィルターに、
縦方向の偏光フィルターを重ね合わせると、真っ暗に見えます。

G-SHOCKの液晶にも偏光フィルターが使われていて、
角度によっては真っ黒に見えてしまうのでした。

監視カメラにも偏光レンズをつけてあり、回転させることで、
透明なガラスの仕切りの向こうを通る姿が、
監視カメラの映像に残らないようになっていたのでした。

稲葉はクロスボウで榎本を撃ちましたが、
凹面鏡を使って虚像を浮かび上がらせることができる、
昔稲葉が作った『不在の証明(アリバイ)』という作品を榎本は盗んでいました。
矢は鏡に当たり、榎本は無事でした。

駆けつけてきた鴻野が、稲葉を逮捕すると、
不公平だろう? この泥棒も捕まえてくれ!
と稲葉は大声で喚いたのでした。


というあらすじなのですが、稲葉が最後に喚いたのは当然ですよね。

密室殺人そのものは1つだけでしたが、
トリックが3つも使われていて、凄く贅沢な話でした。

ちなみに、この話に登場した『天使の荊冠美術館』は、
貴志祐介さんの著作「天使の囀り」にも登場しています。

「天使の囀り」はホラーですが、
防犯探偵シリーズと同じ世界の出来事であってもおかしくはないですね。

貴志祐介「ミステリークロック」1話「ゆるやかな自殺」のネタバレ解説

ミステリークロック


防犯探偵・榎本径シリーズ第4弾です。

ヤ○ザの野々垣二郎は、
組に禁じられているシノギに手を出したことを、
若頭の岡崎に咎められ、岡崎の眉間を拳銃で撃ち、
拳銃を岡崎の手に握らせて自殺に見せかけて殺しました。

そこから逃走する場面を、
子分の八田三夫(はった・みつお)に見られてしまい、
口封じのために殺すことにしました。

八田三夫はボクシングの選手でしたが、
パンチドランカーと酒浸りのせいで
ホームレスのような生活を送っていたところを、
野々垣に拾われていました。

いいものを見せてやるよ、
と野々垣は組のマンションの部屋で三夫に言いました。

数分後、野々垣は1階でエレベーターを下りました。

子分の犬山直人と話をしていると、銃声が聞こえ、
マンションの中へと取って返しました。

しかしドアは鍵がかかっていて開かず、
組長の娘の塗師(とし)美沙子と、幹部の坂口が呼ばれ、
ドアの開錠のために榎本径が呼ばれました。

苦労して開錠すると、
三夫が自分の口を拳銃で撃ったように見える死体がありました。

部屋の床には数ミリ四方の黒いボール紙がありました。

三夫はアル中で無類の酒好きでしたが、
ゆるやかに自殺してるのと同じだぞ、と組長に言われて、
すっぱりと禁酒した、という話を坂口はしました。

これは自殺ではありません、と榎本径は言い、
防犯カメラの映像から、三夫が死ぬ直前、
野々垣が事務所の固定電話に電話していたことを指摘しました。

入院中の組長がやってきて、榎本から事情を聞き、
空き室のドアを開錠させました。
ドアポストから「黒い自動拳銃を発見されましたが、
それは本物を改造して作った水鉄砲で、
引き金を引くとウイスキーが発射されました。

野々垣は、水鉄砲にウイスキーを入れ、
口に向けて発射するところを何度も三夫に見せ、
本物の拳銃とすりかえていたのでした。

酒好きの三夫は水鉄砲だと思って自分の口に発射し、
自殺してしまったのでした。

野々垣が事務所に電話していたのは、
部屋を出てすぐに自殺されないようにするためでした。

坂口や犬山達が野々垣に拳銃を向け、榎本は退散しました。

ぱんぱんと乾いた音が聞こえましたが、
誰かが爆竹でも鳴らしたのだろう、と榎本は考えたのでした。


というあらすじなのですが、
ヤ○ザと本格ミステリーって相性が悪そうですよね。

その相性が悪い組み合わせで、
見事な密室殺人の話を作れたのは凄いと感心しました。

また、正義の味方とは言いにくい榎本だからこそ、
こんな解決の仕方になったのだと思うと、
防犯探偵シリーズにふさわしい内容だったと思います。

(ミステリー・クロック 1話 2話 3話 4話

貴志祐介「鍵のかかった部屋」4話「密室劇場」のネタバレ解説

短編集最後の話で、今回はギャグ回です。

純子と榎本は、
「Dog knows 犬のみぞ知る」に登場した劇団、
『土性骨(どしょつぼね)』の公演に招待されました。

劇団の名前は『ES&B』に改名されましたが、
役者は同じです。

開演を告げるブザーが鳴り、進行役のジョーク泉が舞台に出てきて、
『彼方の鳥(ヨンダー・バード)』の上演の前に、
前座のパフォーマンスがあることを告げます。

まず、日本一高速の手品師、須賀礼(すが・れい)が出てきて、
高速でレパートリーを一通りやりました。

次に、力業師のマービン羽倉(はぐら)という、
スキンヘッドで筋肉隆々の男が出てきて、
アシスタントのバニーガールたちを宙に投げ上げ始めました。

3人目は、パントマイマーの富増半蔵(とます・はんぞう)が出てきて、
静かなパフォーマンスを見せました。

4人目は、日系パナマ人という触れ込み(要するに嘘)の空手家、
ロベルト十蘭(じゅうらん)が出てきて、空手の型で、
瓦割りやビール瓶の首を手刀で切り落としたりしましたが、
終わりの方はただ力まかせにぶっ叩いているようになりました。
するとマービン羽倉が進み出て、舞台用の作り物のビール瓶で、
ロベルト十蘭の頭を殴りました。

4人が、2人ずつ左右の舞台袖に下がると、
いよいよ休憩なしの90分ほどの劇『彼方の鳥』が始まります。

近未来のモハベ砂漠に飛行機が墜落したという設定で、
舞台の上には飛行機の残骸のセットや大小様々なサボテンがありました。

力八噸(りき・はっとん)や松本さやか、
アントニオ丸刈人(マルガリート)など、
劇団の人気俳優たちがドタバタ劇を繰り広げます。

やがて無線がつながり、飛行機から飛び出してきた力八噸が、
サボテンの切り出しに正面衝突し、顔面を強打して仰向けにひっくり返ると、
客席は爆笑に包まれました。

そのとき、純子の隣に座っていた左栗痴子(ひだり・くりちこ)が、
ロベルト十蘭が劇にも出演するはずなのにちっとも出てこない、と言います。
栗痴子は、本番中の舞台にいる力八噸に向かって、
十蘭を見てきてと大声で言いました。

力八噸は、いったん上手に退場してから戻り、下手の舞台袖に下がりました。

突然、力八噸が舞台に飛び出してくると、「しんしんしん!」とか、
「ころころころ……!」と、鶏の真似のように必死で両手を上下させたり、
頭をぱしぱしと叩いたりして、顔を真っ赤にして叫び続けます。

笑いの神が降りてきて、純子も榎本も大笑いしました。

芝居はグズグズのまま幕となり、観客たちは引き上げていきました。

榎本はロビーの前の売店で立ち止まり、緑色のモヒカンの劇団員から、
ビールを買いました。
榎本は売店の奥のドアを不正解錠し、控え室に進みます。

そこで、ロベルト十蘭が何者かに頭をビール瓶で殴られて殺されていました。
力八噸はさっきのお芝居の間にこの死体を発見し、取り乱したのでした。

純子は警察に通報しようとしますが、榎本は猶予が欲しいと言い、
劇団員たちから話を聞きます。

舞台上手からは楽屋口を通して直に建物の外に出られますが、
ロベルト十蘭が殺された下手の楽屋から出ようと思ったら、
ロビーの売店横の出口を通るか、舞台を横切るかの、
二択になってしまうのでした。

舞台で手品やパントマイムをした後、4人が2人ずつに分かれて、
上手と下手に引っ込んだとき、ロベルト十蘭と一緒に下手に行った人間が、
犯人の可能性が高いということになりました。

しかし、容疑者の須賀礼、マービン羽倉、富増半蔵の3人は、
全員が上手に行ったと主張しており、
自分と一緒に上手に行ったのが誰なのかは覚えていませんでした。

(ところで、マービン羽倉のアシスタントのバニーガールたちは、
どうなったんでしょうね?
誰がどのように舞台袖に下がったかが重要な話なのに、
全く説明がないです。)


モヒカンは、ロベルト十蘭と誰かが言い争うような声を聞いた、
と証言しました。

榎本はその証言を聞いて、ロベルト十蘭は他の誰かと、
漫才をやろうとしたのではないか、と推理しました。
なぜ漫才なのかというと、ロベルト十蘭の遺品に、
漫才のネタ帳が見つかったからです。

また、3人のうち、マービン羽倉は「マーベラス!」と叫びながら、
差し入れの寿司をぱくついていたところを目撃されており、
アリバイがありました。

榎本は、「インチキ関西弁を喋る富増半蔵に向かって、
あなたが、誤って、ロベルト十蘭さんを死に至らしめたんですね?
と訊きました。

ロベルト十蘭が控え室で『本気でM1目指してみいひんか?』と、
とっくに終わったM1の話をしたため、
富増半蔵はビール瓶で突っ込みをしようとしました。
ところが、そのビール瓶は、飴で作った偽者ではなく、
本物のビール瓶だったため、ロベルト十蘭は死んでしまったのでした。

控え室から脱出したのは、サボテンの切り出しを持ち、
その背後に隠れて、舞台を横切ったのでした。

舞台上を移動しなければならない距離は10メートルほどで、
犯人が使えた時間は80分ほどはあったので、時速7・5メートル、
秒速にして0・2センチほどで移動したことになります。
動きがあまりにもゆっくりすぎて、
観客はサボテンが移動していることに気づかなかったのでした。

クイズ番組などで流れるアハムービーという動画でも分かるように、
人間はゆっくりすぎる変化を見逃してしまうのです。

そして、このトリックが可能だったのは、
パントマイマーの富増半蔵だけでした。

富増半蔵が、ロベルト十蘭の最後の言葉は、ひょっとしたら、
マジやったんかなあ、と遠い目をして言ったところで、
この話は終わります。


というあらすじなのですが、ギャグ回であっても、
トリック自体はとても意外なものでしたね。

視線による密室からの脱出トリックとして考えると、
物凄い新機軸なんじゃないでしょうか。
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