米澤穂信「いまさら翼といわれても」6話「いまさら翼といわれても」のネタバレ解説

この短編集の最終話です。

梅雨が終わったある日の夜、千反田さんは父親に、仏間に来なさいと言われました。

場面が変わり、夏休み前、摩耶花は喫茶店でコーヒーを飲んだ時の話をします。
一口飲んで甘くなかったから、角砂糖を入れたら、
1個しか入れてないのにすっごく甘かった、という話をしていました。

それを聞いた奉太郎は、店員に「ミルクと砂糖はお入れしますか」
って訊かれたんじゃないか、と言いました。

摩耶花が飲んだコーヒーには最初から砂糖が入っていたのですが、
底に沈んでいたから、甘みは感じなかったのでした。
そこに角砂糖を入れてかき混ぜたら、いきなり、角砂糖2つ分の甘さになったのでした。

しかし、千反田さんはその話をしていても気にならないようで、上の空でした。

また、明後日その喫茶店に行こうという話になると、
千反田さんは、明後日は市が主催する合唱祭に出ると言いました。
神山市出身の作曲家、江嶋椙堂(えじまさんどう)を記念した江嶋合唱祭です。

地学講義室から出る途中、千反田さんが読んでいた本が目に入ります。
それはどうやら、進路案内の本のようでした。

場面が変わり、夏休みの初日の午後2時半を回ったころ、
摩耶花から電話がかかってきて、
ちーちゃんの行きそうなところ、知らない? と訊かれました。

千反田さんの出番は6時からだから時間はあるのですが、
千反田さんがいないのだそうです。
遅刻したのではなく、千反田さんの家がある陣出から文化会館まで、
いっしょにバスに乗ってきたというおばあさんがいるのだそうです。

奉太郎は神山市民文化会館に行き、案内カウンターで、
6時から歌う合唱団の控室を教えてもらいます。
神山混声合唱団の控室の、2階のA7控室を教えてもらい、そのドアを開けます。
すると、ドアの脇にあった傘立てに足が引っかかり、
立ててあった濡れた傘がカーペット敷きの床に飛び出しました。

摩耶花は奉太郎に、千反田さんは本当は2時の開演の時に、
合唱団の代表何人かがステージに上がって挨拶するため、
1時半に来るはずだったと言いました。今はもうちょっとで3時半です。

千反田さんはソロパートがあるので、それが行方不明では洒落になりません。

段林(だんばやし)という40歳ぐらいの女性が控室にやってきて、
まさか当日にいなくなるなんて、まったく、信じられない、と言いました。

パイプ椅子に座っていた老婦人の横手(よこて)が、段林を宥め、
もう1時間くらい待ってあげてもバチは当たらないと思いますよ、と言いました。

横手はここまで千反田さんといっしょにバスに乗ってきたというおばあさんでした。
奉太郎は横手に千反田さんの服装と、何時のバスに乗ったのかを訊ねました。
千反田さんの服装は白いシャツに黒いスカートで、
1時ちょうどのバスに乗り、ここに着いたのはだいたい1時半だと言いました。

文化会館前のバス停で、千反田さんも降り、この控室までいっしょに来たが、
気がつくといなくなっていたのだそうです。

奉太郎は、摩耶花と電話で話していた里志に、
神山駅に行って路線図と陣出を出るバスの時刻表をもらってきてほしいと頼みました。

奉太郎は神山混声合唱団が歌う予定の「放生(ほうじょう)の月」という歌の歌詞を確認し、
案内カウンターで、イベントに出る合唱団の人たちは、
風除室の傘立ではなく控室内の傘立を使用すると聞きました。

4時14分に里志が文化会館にやってきて、奉太郎に時刻表を渡しました。
陣出を通るバスの本数は1時間に1本走っているきりでした。

里志は、「放生の月」の歌詞は、ちょっと説教くさい、と言いました。

奉太郎は控室に戻り、騒いでいる段林に、千反田さんの居場所がわかりました、
緊張して腹が痛くなったので、休んでいたそうです、と嘘をつきました。

段林に、千反田さんがソロで歌うパートを訊くと、
「ああ 願わくは 我もまた
自由の空に 生きんとて」
だと教えてくれました。

段林がいなくなると、横手篤子と名乗った老婦人に、
この文化会館までバスに乗って、
千反田さんといっしょにこの部屋まで来たとおっしゃったのは、
嘘ですよね、と言いました。

理由は、傘でした。
傘立には横手の濡れた傘がありますが、千反田さんの傘はありませんでした。
傘が濡れていたから陣出では雨が降っていたのでしょうが、
ふたりでここに到着したと言った1時半にはもう晴れていましたから、
千反田さんがいったんこの控室に来てから、
傘を持ってどこかに出て行ったというのは考えにくいのでした。

横手が1時間待てと言っていたのは、バスが1時間に1本だったからです。


横手は確かに千反田さんとバスに乗っていましたが、
顔色の悪い千反田さんは途中で降車ボタンを押して、
バスを降りてしまったと横手は証言しました。

捜しに行きますと言った奉太郎に、
横手は、千反田さんのことを、あの子は千反田家の跡取り、
自らの責任はわきまえています、いちどバスを降りたのは気の迷いで、
間に合うように来るに違いありません、信じて待っていればいいのです、
と言いました。

しかし奉太郎は、横手を説得し、
陣出南のバス停で降りたことを聞き出しました。
横手は千反田さんの伯母で、千反田さんは横手の家の蔵にいると教えてもらいました。

奉太郎はバスに乗り、陣出南のバス停で降り、横手の蔵に行きます。

千反田さんは蔵で発声練習をしていました。
奉太郎は扉を叩き、千反田さんが歌えない理由について、
お前、跡を継がなくてもいいって言われたんじゃないか、と言いました。

この前、摩耶花がコーヒーが甘かったっていう話をしていた時、
千反田さんがぼんやりとして、進路案内の本を読んでいたので、そう考えたのでした。

千反田さんが歌うパートは自由への憧れをこれ以上なくストレートに歌っていて、
いまの千反田さんはその歌詞は歌えなかったのでした。

ゆくゆくは千反田家の跡取りだと言われ続け、それを受け入れてきた千反田さんは、
家の跡なんて継がなくてもいいから、好きなように生きろと言われ、
どうしたらいいか、わからなくなったのでした。

奉太郎の話を聞いた千反田さんは、いまさら翼といわれても、困るんです、
と言いました。

腕時計を見ると、5時6分で、あと4分で文化会館行きのバスが来る、
という状況で、千反田さんはまだ蔵から出てきませんでした。


そしてそのまま、話は終わってしまいます。

というあらすじなのですが、スッキリしない終わり方ですね。

千反田さんが6時までに文化会館に行ったのか、行かなかったのかは、
明かされないまま終わってしまいましたが、
しまうましたは、やっぱり千反田さんはこの後、
6時に間に合うように出発したのではないかと思います。

根拠は何もありませんが、奉太郎が迎えに来てくれたから、
歌えるようになったと信じたいです。

米澤穂信「いまさら翼といわれても」5話「長い休日」のネタバレ解説

日曜日の午前7時に目が覚めた奉太郎は、朝から調子がよく、
姉の分も朝食を作ってあげました。

掃除と洗濯をし、昼はうどんを食べると、午後1時でした。

ポケットに文庫本と千円だけ入れ、散歩に行きます。

荒楠(あれくす)神社に行くと、
十文字(じゅうもんじ)かほと会い、
千反田えるが来ているという意味のことを言われました。

社務所に行くと、千反田さんは「遠回りする雛」の、
生き雛まつりの写真を見ていました。

十文字かほが買い物に行き、奉太郎は、
千反田さんがお稲荷様の祠の掃除をするのを手伝うことにしました。

奉太郎は掃除をしながら、今日はいつもの調子が出なくて、
ちょっと体を動かしたい気分だったんだ、と言いました。

千反田さんは奉太郎に、どうして『やらなくてもいいことなら、やらない。
やらなければならないことなら手短に』と言うようになったんですか、
と訊ねました。

奉太郎は小学6年生の時の話をします。

クラス全員に男女ペアで何かの係が当たるようになっていて、
奉太郎は校内環境係になりました。

主な役目は花壇の水やりです。

クラスは3つあって、1週間ごとに担当が替わっていたので、
2週間おきに1週間、毎日花壇の様子を見て、
必要なら水をやっていました。

奉太郎とペアの女子の名前は、仮に田中にしておこう、
と奉太郎は言いました。

最初の何週間かは支障がありませんでしたが、
田中が家の建て替えで、しばらく遠い家に住むことになり、
駅から市バスで1時間かかり、
本数が少なくて乗り遅れるとたいへんだから、
放課後は早く帰りたいと言われました。

熱血肌の若い男の担任にも説得され、
奉太郎は1人で水やりをすることになります。

その頃の奉太郎は担任に何か用事をさせられることが多くありました。

夏休みの前のある日の昼休みに、奉太郎と田中は担任に、
花壇の隅の方に種を蒔き、
花の名前を書いたプレートを花壇に挿すように言われました。

奉太郎は種をポケットに入れましたが、
田中はポケットがないと言って、そうしませんでした。

放課後、教室に奉太郎がいると、
田中がやってきてランドセルがなくなったと言いました。

奉太郎と田中と担任でランドセルを捜します。

田中は多目的スペースにランドセルを置いて遊んでいましたが、
通りがかった1年生か2年生が忘れ物として職員室に届けてしまい、
それを受け取った学年主任が用事で席を外していたのでした。

戻ってきた学年主任は説教をします。
担任は説教の切れ間を見つけて、とにかく、中を確認してみなさい、
と田中に言いました。

田中はランドセルの中に
何かのキャラクターがついたシャーペンがあるのを見つけ、
これがあれば、いまはいい、後は家で見る、と言いました。

学年主任がそれに目をつけ、
学校にキャラクター付きの文具を持ってくることを禁止する、
と通達が出されました。

この件で、奉太郎はショックを受け、やらなくてもいいことなら、
やらない、と言い始めたのでした。

話を聞いていた千反田さんは、何か最後、ちょっと変じゃなかったですか、
と言い、詳しい説明を求めます。

田中は家の建て替えのため、
一時的に駅から市バスで1時間かかる遠い家に住んでいたはずで、
バスに乗るためのお金か、定期か、回数券か、
何かそういうものが必要です。
ポケットがないのなら、ランドセルの中にあったはずなのに、
戻ってきたランドセルで田中が唯一気にしたのはシャーペンだけでした。

家の建て替えが終わっていて、バスに乗る必要がなかったのに、
係を奉太郎に押しつけて、さぼっていたのでした。

それに気づいた奉太郎は担任を見ました。
担任は『しまった!』という内心が、そのまま出たような慌て顔をしていて、
担任はもう建て替えが終わっていることを知っていたのでした。

それを奉太郎に言わなかったのは、
奉太郎が何一つ文句を言わずに全部の頼み事を聞く子だから、便利だから、
仕事を押しつけられているのを見ても手を貸そうとはしなかったのでした。

奉太郎は姉に、感謝して欲しかった訳じゃない、ただ、
ばかにされるとは思ってなかった、
本当は他の人がやらなきゃいけないことで、
ぼくがやらなきゃいけないことじゃなかったら、
もうやらない、絶対に、と話しました。


姉は奉太郎に、
あんたはこれから、長い休日に入るのね、そうするといい、休みなさい、
あんたが、休んでいるうちに心の底から変わってしまわなければ……、
と言っていましたが、最後の部分を思い出せませんでした。

奉太郎の話を聞いた千反田さんは、お話の中の折木さんと、
いまの折木さん、実は、そんなに変わっていないんじゃないか、
と言いました。

話してくれて、ありがとうございました! わたし、嬉しいです!
と千反田さんが言うのを聞いて、奉太郎は、姉が最後に言ったのが、
きっと誰かが、あんたの休日を終わらせるはずだから、
だったのを思い出しました。

というあらすじなのですが、
千反田さんが奉太郎の「長い休日」を終わらせたのでしょうね。

米澤穂信「いまさら翼といわれても」4話「わたしたちの伝説の一冊」のネタバレ解説

今回は2話同様、摩耶花の視点で話が進みます。

小学3年生の時に、叔母が、
本って不思議ね、誰が書いてもいいなんて、
と言ったのをきっかけに、摩耶花は漫画を描き始めました。

2月19日、月曜日に「ラ・シーン」という月刊漫画雑誌を購入した摩耶花は、
「井原花鶴」というペンネームで応募していた「塔のある島」が、
努力賞に入賞していたのを知りました。

5月14日の月曜日、古典部の部室の地学講義室に行った摩耶花は、
千反田さんが持ってきた4年前の読書感想文コンクールまとめを
見せられました。

奉太郎が「『走れメロス』を読んで」というタイトルで、
銅賞をとっていました。

奉太郎は、メロスが走らなければならなかった理由は、
前日の豪雨で橋が流されていたことと、
山賊に教われたことだと書いていました。

山賊はメロスのいのちを欲しがっていて、山賊というよりは刺客でした。

ディオニス王はメロスが帰ってくるとはまったく思っていないので、
王がメロスが帰るのを邪魔するはずがありません。

あなたは遅かった、走るのは、やめて下さい、
と言ったフィロストラトスも王の敵だと奉太郎は主張します。

メロスを狙った人物はこれからも、王の疑心をあおり人心を離れさせるため、
あらゆる手を使ってくるだろうから、王の改心は長続きしないかもしれない、
という内容を奉太郎は書いていました。

それを読んだ後、摩耶花は漫研の部室に行きます。

漫研では読むだけ派と描いてみたい派が対立していました。

年度が変わった後、
本人は素敵な漫画を描くのにまわりにそれを言わず、
読むだけ派の事実上のリーダーになっていた河内亜也子先輩が、
他の3年生よりもひと足早く退部しました。

河内亜也子はブレーキ役だったため、対立は激化していました。

摩耶花が漫研の部室で漫画のアイディアを出していると、
摩耶花と同じ2年生の浅沼に話しかけられました。

浅沼は、ほかの子たちには黙って同人誌を1冊作り、
神高漫研の名前で、夏休み中のイベントに出すのだと言いました。

ほかには浅沼、田井(たい)、西山、針ヶ谷(はりがや)、
など描いてみたい派の部員に声をかけるのだそうです。

お題は「漫研」で、浅沼は総務委員会にかけあって、
部費から同人誌の予算を出させたいのだそうです。

枚数を決めるのは金曜日まで待ってほしいと摩耶花は言いました。

火曜日の放課後、教室で漫画のネームを描いていると、
読むだけ派の羽仁真紀(はに・まき)という漫研部員が
教室に残ってほかの子と話をしていました。
羽仁真紀は河内亜也子と個人的に仲のよかった女子でした。

翌日、水曜日も真紀は教室に残っていて、
浅沼の計画、ばれたよ、浅沼が吊し上げられてるみたい、
と摩耶花に話しかけました。

なにかあったら連絡すると真紀に言われ、
携帯のメールアドレスを交換しました。

部室に行くと、湯浅部長が引退し、
真紀が新しい部長になるのだと、
現在の読むだけ派リーダーの篠原に言われました。

摩耶花がいない間に、同人誌は部費から出すが、
失敗したら部費を無駄に使った責任を取って、
全員出て行け、ということを言われます。
ちゃんとしたものができたら、
読むだけ派は新しい部を作るのだそうです。

篠原は、計画段階に過ぎなかった同人誌作りの部費を申請させることで、
分裂の前に読むだけ派にわざわざ恥をかかせようとしていました。

しかし、摩耶花がそれに気付いた時には、
浅沼は申請用紙に記入してしまっていました。

木曜日の放課後、古典部の部室で漫画を描いていると、
すぐに来て、と真紀からメールがありました。

部室にいた里志に、漫画のネームを描いていたノートを見張っていて、と頼み、
漫研の部室に行きましたが、真紀はいませんでした。

真紀を捜しても見つからず、古典部の部室に戻ると、
ノートがなくなっていました。

真紀がメールで摩耶花を呼び出した後、古典部の部室に来て、
摩耶花に頼まれたのだと里志に言ってノートを持っていったのだそうです。

ひととおりのことを里志に話すと、里志は、
このあいだの奉太郎が書いた読書感想文に似ている、
という意味のことを言いました。

真紀はディオニス王と同じで、同人誌が完成しても完成しなくても、
部を分裂させるという真紀の目的は達せられるので、
真紀には摩耶花のノートを盗む理由がなにもなかったということになります。

5月18日金曜日の昼休み、摩耶花は浅沼に、ノートが盗まれたことは言わずに、
来週の火曜日まで枚数を決めるのを待ってほしいと頼みました。

その後、真紀に、
放課後『バイロン』というお店に5時半に来てほしいと言われました。

『バイロン』に行くと、河内亜也子が待っていました。

摩耶花のノートを真紀に盗ませたのは、河内亜也子だったのでした。

河内亜也子はノートを返した後、伊原、あんた、漫研やめな、と言いました。

漫研は摩耶花の足を引っ張るだけだと言われます。

漫研にとって摩耶花は、進学校の弱小野球部に入部した、
強豪校でもトップになれるような10年に1度の天才のようなものであり、
摩耶花も漫研のためにならないのだそうです。

河内亜也子は、プロになりたいと言い、
3年の高校生活のうち2年も、あんなところで使ってしまったことを、
後悔していると言いました。

河内亜也子は、『夕べには躯に』を伝説だと言い、
今度は河内亜也子と摩耶花が伝説を作る番だという意味のことを言いました。

浅沼に義理立てしたいのなら、去年、
文化祭曜日4ページ描いた神高漫研を紹介する4コマ漫画を渡せばいい、
と河内亜也子は言いました。

ノートが盗まれたのは、真紀に詳しい事情を話さず、
真紀になんとかして金曜の夜まで、
摩耶花が浅沼に返事するのを邪魔しろと頼んだせいでした。

金曜の夜まで待たせたのは、その日が『ラ・シーン』の発売日だからでした。

河内も『ラ・シーン』に応募しましたが、
もし摩耶花が上の方の賞をもらっていたりしたら、
それこそ河内と組んでいる場合ではないと思い、
結果が出るまで待っていたのだそうです。

結果は、はっきりとは書かれていませんが、
どうやら河内は努力賞に入選して、摩耶花は入選していなかったみたいです。

摩耶花は河内と神山高校に残る伝説の1冊を作ることにして、
漫研を退部しました。


というあらすじなのですが、しまうましただったら、
プロを目指そうが目指すまいが、
こんな雰囲気の悪い部活、さっさと辞めてますね。

米澤穂信「いまさら翼といわれても」3話「連峰は晴れているか」のネタバレ解説

放課後、古典部部室の地学講義室にいると、ヘリコプターの音が聞こえました。

奉太郎は、中学の英語の小木が、ヘリが好きだったな、と言いましたが、
里志はそんなことは知りませんでした。

摩耶花もあまり憶えていませんでしたが、
奉太郎が詳しく話すと思い出しました。

入学したばかりの頃、鏑矢中学の上をヘリが飛んだとき、
小木は突然授業を止めて窓に駆け寄って、空を見上げたことがありました。
ヘリが遠ざかっていくまでずっと見ていて、
「ヘリが好きなんだ」と言って授業に戻りました。

しかし、別の時に自衛隊のヘリがスコードロンを組んで飛んできたときには、
小木先生は反応しなかった、と里志は言いました。

それよりも、小木がこれまでの生涯で3回、雷を食らっている、
ということの方がメジャーインパクトな伝説だ、と里志は言いました。

奉太郎が気になって、当時の新聞を調べようとすると、
里志も摩耶花も千反田さんも、奉太郎が自発的に行動したことに驚き、
失礼なことを言いました。

奉太郎は千反田さんと図書館に行きます。
自転車通学をしている千反田さんの方が先に図書館に着き、
「小木正清」という名前で新聞を調べておいてくれました。

去年の記事に、神山山岳会会長の小木正清が、
神垣内連峰(かみかきうちれんぽう)で登山道美化活動のボランティアをしている、
と書かれていたのを探してくれました。

奉太郎は、小木が3度も落雷にあったという話を聞き、
小木が山登りをしていたことを、すでに推理していました。

奉太郎が中学校に入学した年の、4月から5月までの記事のうち、
『遭難』で検索してもらうと、5月9日に、
神山山岳会員の男性2名が神垣内連峰で遭難したことが報道されていました。
天候悪化のため捜索は難航していましたが、
県警は天候の回復を待って、救難ヘリで捜索を行う予定だと書かれていました。

あの日だけ、小木がヘリを見ようとしたのは、
その日ヘリが飛ぶかどうか、どうしても気がかりだったからなのでした。

連邦が晴れていればヘリは飛びます。
ヘリが飛ぶなら、遭難者が助かる可能性も、高くなります。

新聞を何日分か後まで読むと、遭難した2人は遺体で発見されていました。
発見したのはヘリコプターでした。

帰り道で、どうして今日だけは自分の疑問を調べたのか、
と千反田さんが訊くと、実際はああいうことがあったのに、
小木はヘリ好きだったなあなんて、気楽には言えない、
それは無神経ってことだ、と奉太郎は答えました。


それを聞き、千反田さんは、「折木さん、それって、とっても……」
と何か言いかけましたが、うまく言えません、と続けました。

というあらすじなのですが、奉太郎の優しさが伝わってきて、
「うまく言えない」気持ちになった話でした。

米澤穂信「いまさら翼といわれても」2話「鏡には映らない」のネタバレ解説

今回は伊原摩耶花の視点で話が進みます。

日曜日、Gペンを買いに出かけた摩耶花は、
絵を描くためのパソコンの下見に電器屋にも行き、
そこで中学校時代のクラスメートの池平という女子と再会しました。

池平に奉太郎と同じ部活に入っていると言うと、
池平はサイアクと言い、追い出しちゃいなよ、と言いました。

池平の反応は過剰なものではなく、あの年、
鏑矢中学3年5組にいた人間は奉太郎を軽蔑していました。

ここで回想です。
中学3年生の11月に、学年全体で卒業制作をすることになりました。

縦が2メートル近い大きな鏡に、木製の飾り枠をつけることになり、
クラスごとに分担して、その木枠に彫刻を施すのでした。

市の絵画コンクールで銀賞を取った2組の鷹栖亜美がデザインを作り、
それを何十かのパーツに分割して、5クラスに均等に割り当て、
各クラス内でそれぞれ再度割り振って彫り、
最後にそれを組み合わせて完成でした。

デザインは、横に伸びたツルが一度大きく垂れ下がり、
弧を描いて上っていくように描かれていました。

摩耶花の班の男子は、
割り当てられたパーツの作業量が他の班より多いことに文句を言い、
摩耶花と、美術部の三島という女子の2人だけでパーツを彫りました。

提出日になりましたが、奉太郎が提出したパーツは、
デザイン画を完全に無視して、
板の中央に横一本のツルがあるだけに変更されていました。
学級委員長の男子の細島が、どういうつもりなんだよ、と声を荒げると、
奉太郎は、だって曲がってると面倒だろ、と答えました。

体育館でレリーフを組み立てると、
奉太郎の班が担当したパーツは目立たないように見えました。

ところが、デザインを担当した派手な女子、鷹栖亜美が、
その友達3人とやってきてレリーフを見ると、
奉太郎の班が彫ったパーツを見て悲鳴を上げ、
泣き始めてしまいました。
鷹栖亜美の友達に責められ、5組の代表として摩耶花が名乗り出ると、
先生がフォローするまで3人組に罵られ続けました。

また、5組の生徒は奉太郎に詰め寄り、
奉太郎は教室から消えて図書室で本を読むことが多くなりました。

回想終わりです。

古典部に入ってからの奉太郎を知っていた摩耶花は、
あのとき、奉太郎は何か企んでいたんじゃないか、と考え、
月曜日の部活の時間に奉太郎に訊きました。
しかし、奉太郎は「忘れた」「よく憶えてない」と繰り返しました。

翌日、中学時代に奉太郎と同じ班だった、E組の芝野めぐみを訪ね、
当時のことを訊きました。

班単位で作るはずのものだったのに、奉太郎1人で作ることになったのは、
奉太郎が自分から、手伝ってくれる人がいるからと言い出したからなのだそうです。

奉太郎が頼もうとしていたのは、鳥羽麻美(とば・あさみ)という子で、
奉太郎の彼女だったみたいだ、と芝野めぐみは言い、摩耶花は驚きました。

翌日、鳥羽麻美が所属する写真部に行きますが不在でした。
しかし、部長は、鳥羽麻美は屋上にいることを教えてくれ、
摩耶花は屋上に行きました。

鳥羽麻美は摩耶花に対して拒絶的な態度をとりましたが、
奉太郎が手抜きしたんじゃないのなら、謝る、と言うと、
鳥羽麻美は少し協力的になりました。

鳥羽麻美にとって奉太郎はヒーローであり、摩耶花は最低だと言い、
知りたければ鏡を見てきたら? と言いました。
逆立ちでもしないと、あなたにはわからないと思うけど、
と鳥羽麻美は言いました。

摩耶花は鏑矢中学校に行き、問題の鏡を見て、
下の方ほどデザインが入り組んでいると思いました。

摩耶花は、鳥羽麻美の「『逆立ちでもしないと』という言葉をヒントに、
携帯電話で写真を撮り、上下逆さまにして見ました。

翌日、プリントアウトした15枚の写真を逆さにして、
奉太郎と里志に見せました。
ただ見ているだけでは、曲がりくねったツルだとしか思えませんが、
逆さまにすると、“WE HATE A AMI T”
と読めるようになっていました。

意味は、『私達は亜美が嫌い』です。
しかし、元々のデザインは“WE HATE ASAMI T”で、
『私達は麻美が嫌い』になるはずでした。

それを奉太郎がデザインを変えて一文字落としたことで、
文章が変わってしまったのでした。

鷹栖亜美とその取り巻きは鳥羽麻美をいじめていましたが、
奉太郎は逆さ文字に気づき、卒業制作の進行を担当していた里志に相談し、
メッセージの文章を変えたのでした。


摩耶花が奉太郎に謝ったところで、この話は終わります。

というあらすじなのですが、シリーズ第一作の「氷菓」で、
なぜ摩耶花が奉太郎のことを軽蔑しているような態度を取っていたのかが分かり、
面白かったです。
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