小林泰三「クララ殺し」のネタバレ解説

クララ殺し (創元クライム・クラブ)


この本は、「アリス殺し」の続編です。
「アリス殺し」のネタバレが多いので、「アリス殺し」を先に読んだ方がいいでしょう。

今作の「クララ殺し」は、19世紀初頭に活躍したドイツの作家、
エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマンの小説がモチーフとなっています。

ホフマンの小説は、「不思議の国のアリス」と比較すると、
日本での知名度は低いですが、
バレエ「くるみ割り人形」の原作を書いた人だといえば、
何となく想像がつくと思います。

蜥蜴のビルは、道に迷ってしまい、沼に入り込んでしまいます。
ずっと泳いでいるうちに、疲れて眠ってしまい、
目を覚ますと不思議の国とは別の世界に来てしまっていました。

そこでビルは、車椅子に乗った人間の少女、クララと出会います。
クララは穏やかな性格の持ち主で、
間抜けなビルにも優しくしてくれます。

しかし、右目のない老人のドロッセルマイアーは、
自己中心的な性格の持ち主で、
ビルのことを馬鹿にしたり、ビルの頭部を胴体から取り外したり、
脳を分解したりします。
……そんなことをしたら死ぬだろう、と思いますが、
この世界は地球ではないので、ドロッセルマイアーが脳と頭部を戻すと、
ビルは意識を取り戻しました。

ドロッセルマイアーによると、ビルは世界の境界を破ってしまい、
「ホフマン宇宙」と呼ばれる世界に来てしまったのでした。

ドロッセルマイアーは、地球で、
ビル「のアーヴァタールの井森健」と会う約束をしました。

ビルはクララの家に行き、
クララの父親の医学顧問官シュタールバウムを紹介してもらいます。

クララとビルと一緒に、異世界についての実験をしたい、
とドロッセルマイアーはシュタールバウムに言います。

シュタールバウムは反対しますが、
ドロッセルマイアーはシュタールバウムの脳を操作し、
無理やり賛成させました。

突然、ビルはクララの兄のフリッツに首を絞められます。
ドロッセルマイアーがフリッツを脅してビルを解放させますが、
ビルは落下して床に激突し、意識をなくしました。

地球で目を覚ました大学院生の井森健(=ビル)は、大学へ行き、
金髪で瞳の青い、車椅子に乗った少女と出会います。
少女は、「露天(ろてん)くらら」と名乗りました。

くららは、自分は誰かに命を狙われており、
車椅子に乗ることになったのも車に轢かれそうになったからだと言いました。

井森とくららは、大学のドロッセルマイアー教授の部屋へ行きます。
ドロッセルマイアー教授は、くららのおじで、
あの世界のドロッセルマイアーと容姿が全く同じでした。

(紛らわしいので、地球のドロッセルマイアー教授には、
「教授」という敬称をつけることにします。)

ドロッセルマイアー教授によると、ホフマン宇宙では、
不思議の国と違って、ホフマン宇宙の住民とそのアーヴァタールは、
容姿が似ているのだそうです。

ドロッセルマイアー教授は、くらら宛に届いた脅迫状を井森に見せます。
ホフマン宇宙で誰かが死ぬと、地球のアーヴァタールも死んでしまうので、
地球のくららだけではなく、ホフマン宇宙のクララも同時に守る必要があります。

そこでドロッセルマイアー教授は、井森(=ビル)に、
殺人未遂事件の捜査を依頼しました。

まず、井森はくららに、ひき逃げ事件について訊きます。
ホフマン宇宙では鼠に襲われ、地球でも鼠が車の導線や機械を齧り、
暴走した車に轢かれそうになったのだ、とくららは説明します。
車の中からは鼠の死骸が見つかりました。

さて、ホフマン宇宙で、ビルは協力者として、
ドロッセルマイアーからコッペリウスという探偵役を教えてもらいます。
コッペリウスの本職は弁護士なのだそうです。

しかし、道に迷ってしまい、ビルはナターナエルという青年に話しかけ、
コッペリウスの家を探していると言いました。

するとナターナエルは態度を急変させ、コッペリウスは砂男であり、
ナターナエルの父親を殺したのだと叫びます。

そこへ、物理学者にして発明家のスパランツァーニ教授と、
オリンピアが現れました。
ナターナエルはオリンピアに恋をしていましたが、
実はオリンピアはオートマータ(ロボット)でした。

しかしナターナエルはドロッセルマイアーに、
オリンピアと恋人同士だという記憶を植え付けられ、
オリンピアのことを人間だと思い込んでいました。
そんなことをされたのは、ナターナエルがクララとオリンピアのどっちをとるか、
とドロッセルマイアーとコッペリウスが賭けをしたからです。

そこへ、コッポラと名乗ることもある、大男のコッペリウスが現れます。

ビルは殺人未遂事件の捜査に協力してほしいとコッペリウスに頼みますが、
コッペリウスは、自分の助力が必要ならドロッセルマイアーが直接頼みに来い、
と言い、ビルの身体と脳を分解して、脳髄に直接書き込みました。

井森は地球でコッペリウスの言葉をドロッセルマイアー教授に伝えますが、
ドロッセルマイアー教授はコッペリウスに頭を下げるのを嫌がりました。

井森とくららは、ひき逃げされた現場に行きます。
そこで、諸星隼人という、くららの知り合いの人と出会いました。

(ちなみに、この諸星隼人というキャラは、
小林泰三作品の「AΩ(アルファオメガ)」の主人公です。)

諸星隼人もホフマン宇宙の住民のアーヴァタールのようで、
ビルが探偵を探していたことを知っていました。

諸星隼人がいなくなった後、ビルは、
ホフマン宇宙にいるクララの友達のことを訊きます。

くららは、マリーとピルリバートとゼルペンティーナという
3人の名前を挙げますが、向こうはクララを友達だと思っていないかもしれない、
と付け加えました。
マリーたち3人が、クララに黙って遊びに行くところを見たのだそうです。

ちなみに、マリーは魔法で動く人形です。
ピルリバートはお姫様で、ドロッセルマイアーの甥のくるみ割り人形の、
元許嫁でした。
ゼルペンティーナは蛇なのですが、魔法の力で女の子に変身しています。

その3人が、クララに黙って、カーニバルに向かうのを見たのだそうです。
カーニバルはホフマン宇宙最大の祭りで、
夕方から始まって、次の日の夕方まで続くのだそうです。

その話をした後、くららは、車に轢かれそうになったときに、
空き地に不審者がいたのを思い出し、その場所に移動します。

しかし、そこに落とし穴があり、くららは落とし穴の中に落下してしまいます。
くららを助けようとして、井森も落とし穴に落ちました。

くららは、穴の底に立っていた木の棒で喉を貫かれて死に、
井森も木の棒で左目を貫かれ、死にました。

が、ビル(=井森)はホフマン宇宙で目を覚まし、
カーニバルを見学していた年老いた男のパンタローンや、
若い娘のトゥルーテに、クララが殺されたことを伝えます。

ビルが騒いでいると、群衆の中から、
マドモワゼル・ド・スキュデリという老婦人が出てきて、
ビルの話を聞いてくれました。

やがてドロッセルマイアーがやってきて、
ビルのことを役立たずだと言い、ステッキで殴ったり踏みつけたりしました。

ビルは地球での出来事を説明し、
マリーとピルリパートとゼルペンティーナが山車に乗るのを見た、
というくららの証言を伝えました。

カーニバルが終わり、山車からマリーたち3人が降りてきました。

スキュデリが、マリーたち3人に、山車に乗ってから一度も降りなかったのか、
と確認すると、3人は降りなかったと答えました。

出入り口監視員のカルデヤックもそのことを裏付けます。

山車の中でクララが殺害されていない限り、
マリーたち3人にはアリバイが成立することになります。
山車の中を調べましたが、ここで殺人があったとしても、
誰も気付かないことはあり得ないとその場の全員が同意しました。

ドロッセルマイアーは捜査を打ち切りにしようとしましたが、
スキュデリは、自分とビルが捜査をすると提案しました。

地球に戻った井森(=ビル)は、ドロッセルマイアー教授の教授室を訪れた後、
落とし穴を見に行きました。
ちなみに、「アリス殺し」のラストの方で明かされましたが、「ビルの方が本体なので、
ビルが生きている限り、井森は何度でも生き返ることができます。


落とし穴には、くららの死体は残っていませんでした。

ドロッセルマイアー教授の知り合いだという、30代前半くらいの女性の、
新藤礼都(しんどう・れつ)が井森に話しかけました。

新藤礼都は、「密室・殺人」など、
複数の小林泰三作品に登場しているキャラクターです。

礼都は、警察に通報したら井森が疑われてしまうので、
くららの遺体を持ち去った犯人を、警察抜きで井森が捜すべきだ、
と言います。
ちなみに、礼都は井森の相談に乗るだけです。

一方、ホフマン宇宙で、スキュデリがドロッセルマイアーに質問していると、
ビルがやってきて、ナターナエルが殺されたと言いました。

ナターナエルは突然、市役所の塔に登り始め、変なことを叫んだあと、
そのまま飛び降り、ナターナエルの頭は砕けました。
それを見て、コッペリウスは満足そうに頷くと、その場を去ったのだそうです。

スキュデリとビルは、コッペリウスの家に行き、
ナターナエルに何をしたのかと訊きました。

コッペリウスは、ナターナエルに、
コッペリウスがナターナエルの父親を殺したという妄想を与え、
心を壊してしまったのでした。

一方、地球では、井森がくららの知り合いとして諸星隼人の名前を出しました。

礼都は、隼人が乗った旅客機の一〇二四便が墜落し、
生存者が1人もいないという新聞記事を見せました。

しかし、井森は、隼人が立っているのを目撃します。
1万メートル上空から落下したのですが、確かに生きていました。

井森が、夢の中であなたは誰だったのかと訊いたら、
ナターナエルだと隼人は答えました。

ナターナエルの死後は、ナターナエルの夢を見なくなったのだそうです。

礼都はそれを「リンクが切れた」と表現しました。

今はナターナエルの夢の代わりに、
自分が怪物というか超人に変身する夢を見ているのだそうです。

(この飛行機事故のエピソードは、小林泰三作品「AΩ」で詳しく書かれています。
簡単にネタバレ解説すると、隼人は飛行機事故で間違いなく死亡したのですが、
地球にやってきた宇宙生命体に身体を乗っ取られ、
宇宙生命体に寄生されて、生命維持される形で蘇生されてしまったのでした。)

礼都は、隼人の問題と、井森の問題は、質が違うから、
隼人のことは忘れるようにと言いました。

井森は礼都と別れた後、もう一度落とし穴を確認しに行きます。

井森は穴の底に白いものが落ちているのを見つけました。
しかし、誰かに足首を掴まれ、穴の中に落とされ、死んでしまいました。

ホフマン宇宙で目覚めたビルは、そのことで騒ぎました。

その話を聞いたマリーは、この世界のクララはもう死んでるんじゃないか、
と言いました。
スキュデリは、犯人の動機を気にしていましたが、
マリーは、犯行が可能だった人物、不可能だった人物をリストアップした方がいい、
と言いました。
しかし、スキュデリは言うことを聞かず、マリーがリストを作ることになりました。

一方、地球では、くららの死体が、近くの川の橋脚に引っかかっているのが見つかり、
ドロッセルマイアー教授のところに連絡がきました。

検視によると、死因は窒息死で、数日前の大雨の時に川に落ちて溺れたのではないか、
と警察は考えているようでした。

ホフマン宇宙で、スキュデリとビルは、
クララの関係者から、話を聞くことにしました。

まず、ピルリパートは、あまりクララとは親しくない様子でした。
「胡桃割り人形」のエピソードを語ります。

ゼルペンティーナは、自分はクララとの間に確執はなかったと言います。
ホフマン作品の「黄金の壺」のエピソードを語ります。

オートマータのオリンピアは、ナターナエルを愛してもいないし、
クララを憎んでもいない、と言いました。
ビルは、マリーが怪しいと言いましたが、
オリンピアは、マリーは被害者だから犯人ではない、と言いました。

ドロッセルマイアーや砂男から、クララの兄という記憶を植え付けられた、
ロータルという男に会います。
ロータルの額の皺は左右の真ん中あたりでずれていました。

ナターナエルは自殺する直前にクララを殺そうとした、
とロータルは証言しますが、その時には既にクララは失踪していたので、
辻褄が合わず、記憶が混乱してロータルは気を失ってしまいました。

一方、地球では井森が、スキュデリのアーヴァタールを探そう、
と主張しましたが、ドロッセルマイアー教授にも礼都にも反対されました。

井森は1人でスキュデリのアーヴァタールを探すことにし、
くららの遺体が見つかった橋脚に行きました。。

そこで、岡崎徳三郎(おかざき・とくざぶろう)という老人と出会います。
この「徳さん」も、「密室・殺人」や「記憶破断者」など、
小林泰三作品に登場するキャラクターです。

事件の話を聞いた徳さんは、警察の知らない現場を調べるべきだ、
と言いました。

井森は再び、落とし穴に行き、落とし穴の底にあった紙切れを持ち出しました。

その紙切れには、「もしわたしが本当に死んでしまったら、
クララを探してください。マリーのことは気にする必要はありません」
と書かれていました。
その後、誰かに紐で首を絞められ、井森は死にました。

ホフマン宇宙でそのことをスキュデリに伝えると、
マリーのアリバイは都合が良すぎる、とスキュデリは言いました。
そこへ、ドロッセルマイアーの甥の胡桃割り人形がやってきて、
マリーが側溝の中で死んでいるのが見つかった、と言いました。

マリーの遺体を調べたシュタールバウムは、マリーは窒息死したと言いました。
マリーはオートマータではなく、魔法の力で動く人形なので、
人間と同じく呼吸をするのでした。
改造されたような跡もあり、元人間だったのかもしれない、
とシュタールバウムは言いました。

スキュデリはドロッセルマイアーの前で、
ビルに、井森への伝言を頼みます。

地球で目覚めたビルは、二十四時間以内に解決しなければ、
ビルは死刑だ、とドロッセルマイアー教授に言われました。
ビルがホフマン宇宙にやってきてから、立て続けに事件が起こったから、
ビルが怪しい、というのがドロッセルマイアー教授の主張でした。

井森は落とし穴の杭の血液検査をドロッセルマイアー教授に頼みます。

礼都がかわりに血液検査を業者に依頼に行っている間に、
井森はドロッセルマイアー教授に、
『スキュデリがドロッセルマイアーに直接問い合わせていた、
くららが車椅子に乗っている間に行った場所を全てピックアップして、
一覧表にしてもらう件』の回答を頼みましたが、
ドロッセルマイアー教授は、まだ完成していないと答えました。

ホフマン宇宙で、スキュデリは、
スキュデリの養女の長男であるオリヴィエ・ブリュッソンと、
オリヴィエの許嫁であるマドロン・カルデヤックと、
マドロンの父であるルネ・カルデヤックを、
ドロッセルマイアーに紹介します。

ドロッセルマイアーは、
地球で落とし穴の血液の分析をちゃんとやっておいた、と言いました。

しかし、井森がドロッセルマイアー教授に頼んだのはそれ1つだけか、
とスキュデリが訊くと、ドロッセルマイアーは黙り、話を逸らした後、
大きな依頼はそれだけだと答えました。

くららが車椅子に乗っている間に行った場所をリストアップして、
一覧表にしておくように頼んだ、とスキュデリはビルに嘘をつき、
ドロッセルマイアーの他に誰もいない時に、それを確認しておいて、
とビル経由でスキュデリは井森に頼んでいました。

しかし、実際にはそんな頼まれごとはしていないのに、
地球のドロッセルマイアー教授は井森に話を合わせていました。

つまり、地球のドロッセルマイアー教授は、
ホフマン宇宙のドロッセルマイアーのアーヴァタールではなく、
そのことをスキュデリは証明したのでした。

オリヴィエ、マドロン、ルネがその証人になってくれました。


地球で、井森が礼都に、そのことを伝えると、
礼都はドロッセルマイアー教授にそのことをばらしてしまいました。
礼都は井森ではなくドロッセルマイアー教授の味方をしていました。

礼都は、スキュデリが事情聴取した人物の証言を突き合わせたら、
何か分かるかもしれない、と言いましたが、
ドロッセルマイアーやコッペリウスは他人の記憶を改変できるので、
どこまで信用できるかわかりません。

記憶改変の痕跡である、額の皺がずれている人物は、
シュタールバウム、マリー、フリッツ、トゥルーテ、
パンタローン、ピルリパート、ナターナエル、ロータル、
スパランツァーニ、若いドロッセルマイアー(胡桃割り人形)でした。

井森は再び落とし穴のところへ行き、杭の血の付き方が、
上から振り掛けたようだと気付いた後、またしても殺されました。

ホフマン宇宙では、スキュデリが関係者を広場に集め、
推理を説明することになりました。

スキュデリが、井森は身長2メートル以上の大男だと嘘をついたところ、
ドロッセルマイアーは、「井森の身長はせいぜい1メートル70センチ代だろう、
と見てきたように言いました。
というか、見てきたのです。

ホフマン宇宙のドロッセルマイアーのアーヴァタールも、
地球にいるのです。

替え玉を使ったのは、別の世界からやってきたビルに、
『不思議の国』とは違い、ホフマン宇宙の人々のアーヴァタールは、
本体と似ている、と思い込ませるためでした。

ドロッセルマイアーはマリーの協力者として、ビル(=井森)を騙し、
マリーのアリバイを作ったのでした。

実は、クララのアーヴァタールはくららではありませんでした。
マリーのアーヴァタールがくららだったのです。

くららが落とし穴に落ちて自殺することで、
クララが死んだからくららも死んだ、と井森(=ビル)に思い込ませ、
クララの死亡日時をずらし、マリーはアリバイを作ったのでした。

また、ドロッセルマイアーとコッペリウスは、
マリーとクララを入れ替えるという悪戯をしていたことを白状しました。

本当は、シュタールバウム家の長女はマリーであって、
その人形がクララだったのですが、
ドロッセルマイアーとコッペリウスは、マリーを人形に改造し、
クララを人間に改造したのです。
さらに、シュタールバウム家や近隣に人間の記憶も書き替えました。

そんなことをしたのは、ゲームのためでした。

当事者の2人にはゲームだということもゲームのルールも教えず、
最終的にクララとマリーのどちらが勝つかを競っていたのです。

自分は人形ではなく、クララに胡桃割り人形の物語を奪われた、
とマリーはドロッセルマイアーに相談しました。

マリーは、地球にいる自分のアーヴァタールの預金で、
誰かを雇ってドロッセルマイアーのアーヴァタールに成りすませる、
という作戦を、ドロッセルマイアーに告げます。

地球で募集広告を出し、
偽者のドロッセルマイアーのアーヴァタールは大学教授に決まりました。

別の世界からビルがやってきたので、ビルを騙すことにし、
くらら(=マリー)は、井森の前で落とし穴に落ち、自殺しました。
しかし、ホフマン宇宙に本体がいる限り、マリーは生き返るので、
自殺と言っても狂言のようなものでした。

ドロッセルマイアーはマリーに協力したことは認めましたが、
マリーがクララを殺すつもりだったことは知らなかったと言い、
罪を逃れようとしました。


スキュデリは、「偽ドロッセルマイアー教授の本体に相当する人物は、
クララだったと言いました。

クララ(=ドロッセルマイアー教授)は、
マリー(=くらら)の計画を途中まで実行させ、
自分は死んだことにした後で、マリーを殺しました。

クララが失踪した後もロータルがクララを目撃していたのは、
そういう事情だったのです。

ドロッセルマイアーは、クララとも共犯関係にあり、
死んだはずのクララをオリンピアと入れ替わらせた、
スキュデリは言いました。

スキュデリは、オリンピアに事情聴取した際、
単に『遺体発見』としか言っていなかったのに、
オリンピアはそれをマリーの遺体だと知っていました。

一方、ピルリパートやゼルペンティーナは、
あの時点で行方不明になっていたのはクララであり、
マリーではなかったので、クララの遺体が見つかったと思っていました。


つまり、「オリンピアはその時点で知っているはずのない、
マリーの死を知っていたことになり、
オリンピアが犯人だということが証明されました。

クララはマリーに、毒針で怪我をしたと思い込ませ、
解毒剤だと偽って強力な睡眠導入剤を飲ませ、溺死させました。

溺死なら、地球のくららの遺体は海や川で見つかる公算が高く、
死体は相当傷んでいるはずなので、
刺し傷が見つからなくても問題ないと思ったのです。

ドロッセルマイアーは、マリーの計画のことは知っていたが、
クララの計画のことは知らなかった、と主張し、罪を逃れようとします。
クララは死んでいないので、クララ殺しの計画の共犯者として、
ドロッセルマイアーに殺人罪を適用することはできませんでした。

しかし、法的には無罪でも、広場で推理を聞いた人達は、
ドロッセルマイアーを無実だとは思わないので、
これからドロッセルマイアーは鼻つまみ者として過ごすことになりました。

本当のオリンピアの身体は、クララがばらして地下室に放り込んでおきました。
しかし、オリンピアに偽装したくららのぜんまいが切れている間に、
スパランツァーニがオリンピアの中身を入れ替えてしまっていました。

もはや、今のオリンピアがクララなのかオリンピアなのか、
分からなくなってしまいました。

コッペリウスがオリンピアもしくはクララを分解し、
ドロッセルマイアーとコッペリウスとスパランツァーニが、
3人でオリンピアもしくはクララの身体をぐちゃぐちゃにしてしまいました。
今度こそ、クララは殺されてしまったのでした。


地球に戻った井森は、「ドロッセルマイアー教授(=クララ)が、
脳梗塞で突然倒れたことを知りました。

井森は礼都に、あなたはドロッセルマイアーですね?
と訊き、礼都はそれを認めました。

見せかけのアーヴァタールは、クララ(=露天くらら)、
ドロッセルマイアー(=ドロッセルマイアー教授)でしたが、
実際にはクララ(=ドロッセルマイアー教授)、
マリー(=露天くらら)、
ドロッセルマイアー(=新藤礼都)だったわけです。

礼都は、くららが落とし穴に落ちた後、井森を殺す予定でした。
しかし、井森がくららと一緒に落ちて死んだので、未遂に終わりましたが。

井森を落とし穴に着き落として殺したのはくらら(=マリー)で、
首を絞めて殺したのはクララ(=偽ドロッセルマイアー)でした。

突然、徳さん(岡崎徳三郎)が現れ、礼都が過去に人殺しで逮捕されたが、
裁判で自分で弁護人をしてひっくり返した、という話をしました。
(このエピソードは、「密室・殺人」の後日談ですね)

礼都は、スキュデリのアーヴァタールが徳さんであることに気付くと、
震え出しました。

井森は、大学の食堂へ行き、そこで話しかけてきた女性(おそらく
『アリス殺し』の主人公の栗栖川亜里でしょう)に、
『スナークは?』という合言葉を言い、女性は『ブージャムだった』と答えました。

この合言葉で、世界はがらりと変わりました。


というあらすじなのですが、今回は「アリス殺し」以上に、
ややこしい話でしたね。

「アリス」のキャラクターに比べると知名度の低いキャラが多く、
覚えにくい名前がたくさん出てきたのも厄介でした。

でも、その分トリックがたくさんあって面白かったです。

小林泰三「アリス殺し」のネタバレ解説

アリス殺し (創元クライム・クラブ)


この本は、「不思議の国のアリス」や「鏡の国のアリス」の
登場人物になった夢を見ている人達が、
次々と殺されていくというストーリーのミステリーです。
「不思議の国」が舞台のエピソードと「地球」が舞台のエピソードが
交互に描写されています。

これだけ聞くと非常にファンタジー的な内容なのですが、
案に相違してガチの本格ミステリーで、とても面白いです。

小林泰三さんの作品は当たり外れが大きいですが、これは当たりですね。

ただ、「アリス」の登場人物のキャラクターたちは頭のおかしい奴が多く、
そのせいで最初はちょっと読みにくいのですが、
途中から一気に面白くなるので、是非諦めずに最後まで読んでみてください。

さて、いつものようにあらすじです。

ある日、アリスは白兎が走っていくのを見た後、
トカゲのビルから、合言葉を決めておこうと言われます。

トカゲと聞くと凄く小さく感じますが、読んだ印象だとそれなりに大きくて、
犬や猫くらいのサイズはあるのではないかと思います。

ビルはアリスだけに合言葉を教えたいらしいのですが、
アリスのポケットの中には眠り鼠がいます。

眠り鼠も味方だと考えることにして、
ビルが「スナークは」と言ったら、アリスが「ブージャムだった」と答える、
という合言葉を決めました。

(ちなみに、スナークとブージャムが何なのかは、本文中には説明がなかったように思います。
不親切です。
しまうましたも、「アリス」は昔読んだ記憶はあるのですが、
非常に読みにくい文体だったのと、昔の話すぎて全然憶えていませんでした。

一応ググってみたところ、スナークというのは「アリス」に登場する架空の生き物で、
あるスナークは羽毛を持っていて噛みつき、あるスナークはあごひげを生やしていて引っ掻く、
というふうに様々な異なった品種が存在していて、食べることができます。

そのうち、ブージャムという種類のスナークは非常に危険な品種であり、
ブージャムに出くわした者は突然静かに消え失せて2度と現れないのだそうです。

「スナークはブージャムだった」というフレーズは、
「アリス」の作者のルイス・キャロルが書いた「スナーク狩り」という詩の、
最後の行のフレーズです。
ちなみにルイス・キャロルは「スナーク狩り」を書く際、
この最後の行の「スナークはブージャムだった」から書き始めたのだそうです。)


そこへ、誰かが塀から落ちたと王様の家来と馬たちが慌てる声が聞こえてきました。
ハンプティ・ダンプティが塀の上から落ちてしまったのだそうです。

ハンプティ・ダンプティが何なのかという説明もないのですが、
ハンプティ・ダンプティというのはマザー・グースの詩に登場する擬人化された卵のことで、
「鏡の国のアリス」の中でも塀の上から落ちて割れてしまっていました。

アリスとビルが、割れてしまったハンプティ・ダンプティのところへ行くと、
いつもお茶会を開いている「頭のおかしい帽子屋」と「三月兎」がいました。

帽子屋は「ハンプティ・ダンプティは殺されたんだ。これは殺人事件だ」と言います。

帽子屋はハンプティ・ダンプティの背中の部分に手形があるのを見せ、
ハンプティ・ダンプティは誰かに突き落とされたのだと言います。
ところが、その直後に三月兎がその手形を消してしまいました。
これだけなら証拠隠滅をした三月兎が怪しいということになるのですが、
何しろ「アリス」の登場人物はみんな頭がおかしいため
犯人じゃなくてもそういうことを無意識のうちにやってしまうのです。

と、そこへチェシャ猫が登場します。
侯爵夫人の命令により、塀のある庭の巡視を白兎がおこなっていたらしいのですが、
白兎はハンプティ・ダンプティが無事なのを確認した後、入り口を監視していたのだそうです。

アリスには、冒頭でアリスが白兎が走っていくのを目撃してから、
ずっとビルと一緒にいたというアリバイがあったのですが、
ビルは物凄い間抜けなのでそれを断言できず、
また断言できたとしてもビルが間抜けだということは皆知っているので、
アリバイの証言能力がありませんでした。

チェシャ猫によると、
「ハンプティ・ダンプティの落下音の後、アリスが庭から逃げ出した」
と白兎は証言したのだそうです。
こうして、アリスはハンプティ・ダンプティ殺害事件の最有力容疑者となってしまったのでした。

一方、5月25日。
「地球」で目を醒ました女子大生の栗栖川亜里(くりすがわ・あり)は、
不思議の国の夢を見ていたことを思い出し、夢日記をつけることにしました。

亜里はペットのハムスターに餌をやり、大学へ行きます。
大学へ行くと、構内が慌ただしい様子でした。

亜里は1学年上の大学院生、田中李緒に何かあったのかと尋ねます。
すると、中之島研究室の王子玉男(おうじ・たまお)が屋上から落ち、
亡くなったのだと教えてくれました。

そのせいで、亜里が行うはずだった実験ができなくなり、
誰かに実験室の予約を譲ってもらえないかと交渉して回ることにしました。

名前は知っているという程度の井森建(いもり・けん)に声をかけると、
結局実験室の予約を譲ってもらうことはできませんでしたが、
実験室を使わなくてもいい別の方法で実験してはどうか、というアイデアをもらい、解決しました。

ずっと何かを思い出せそうなんだけど思い出せない、という状態だった井森は、
王子の死に亜里が関わっているような気がする、と言い出します。

そして井森は「スナークは」という合言葉を口にし、
亜里は「ブージャムだった」という合言葉を返したのでした。

つまり、井森と亜里は同じ世界の夢を見ていたのです。
それだけではなく井森は少なくとも半年以上、不思議の国の夢を見ていました。
というか、井森も亜里も不思議の国以外の夢は見たことがありませんでした。

井森は、王子が偶然誰かと変な夢を見ていると話しているのを聞いたことがあり、
それがきっかけで王子と不思議の国の話をするようになったのだそうです。

井森と王子は、この現象をアーヴァタール現象と呼んでいました。
不思議の国は一種の仮想現実であり、不思議の国の人格――アーヴァタールは、
ネット上の仮想人格のようなものである、というのが井森と王子の仮説でした。

そして王子の不思議の国でのアーヴァタールはハンプティ・ダンプティだったのです。
つまり、2つの世界はリンクしており、
不思議の国で死んでしまうと地球でも死んでしまうようでした。

そしてアリスはハンプティ・ダンプティ殺害事件の容疑者とされており、
赤の女王は首をちょん切るのが大好きという困った性格をしています。
「アリスの死刑は現実世界の君の死を意味する」
と井森は静かに言いました。

不思議の国に戻ったアリスは、助けて欲しいとトカゲのビルに頼みます。
が、頭が良さそうだった井森と違い、ビルは間抜けで、
あまり役に立ちそうにありませんでした。

しかし、一応ビルは、アリスのときのような合言葉を使って、
白兎の地球での正体を確かめるというアイデアを思いつきます。

そして白兎の家へ行くと、
白兎の世話をしているメアリーアンという中年の女性と入れ違いになりました。

白兎は目が悪く、ビルが誰なのか分かっていない様子でしたが、
空気を嗅いだら分かりました。
ビルが、地球では井森建だと告白し、白兎はそこでは誰なのかと尋ねます。

すると白兎は、自分は田中李緒だと答えました。
地球と不思議の国では性別や年齢が大きく変わることもあるのです。
ビルはアリスのことを「この子は地球では亜里なんだよ」と紹介しました。

アリスとビルがハンプティ・ダンプティ殺しの事件について白兎に訊ねていると、
そこへ帽子屋と三月兎がやってきました。
グリフォンが殺されたのだそうです。
グリフォンというのは、体の上部は鷲で、下部はライオンになっている伝説上の生き物です。

今回もアリスにはビルとずっと一緒にいたというアリバイがあったのですが、
ビルは記憶力が非常に悪いため、アリバイの証言能力がなく、
またしてもアリスが帽子屋と三月兎から犯人ではないかと疑われてしまいます。

地球へ戻った栗栖川亜里は、
昨夜はペットのハムスターのハム美と2、3時間話をしていたため寝不足でした。

大学へ行くと、牡蠣の食べ過ぎにより篠崎教授が死んだのだと田中李緒から教えられました。
亜里と李緒と井森の3人は、情報を集めに篠崎研へ行きました。

するとそこでは、広山衡子(としこ)准教授と、
田端順二助教が篠崎の葬儀について話し合っていました。

井森が自分はトカゲのビルだと名乗ると、田端は自分はドードーであり、
広山衡子は自分は侯爵夫人になった夢を見ていたと言いました。

不思議の国に戻ったアリスは、グリフォン殺しの犯人について調べようとします。
実は正式な捜査員ではなかった帽子屋と三月兎なのですが、
女王から正式な捜査員として任命されてしまった、という情報をチェシャ猫が持ってきます。

グリフォンは生きた牡蠣を大量に咽喉に詰まらせて亡くなったのですが、
その牡蠣がまだ生きていました。
牡蠣は犯人の名前も知っているのだそうですが、それを教える前に、
ビルに食べられてしまいました。

ビルは別に証拠隠滅をするつもりだったのではなく、ただ単に間抜けなだけだったのですが、
これでますますアリスは窮地に追いやられてしまいました。

アリスはビルが牡蠣を殺してしまったため、死刑になるかもしれないと思いましたが、
「食べれば罪にならないんだよ」
とチェシャ猫は言いました。
この世界では動物も植物も喋るのが当たり前なので、
食糧として食べる分には罪にならないのだそうです。
……ということは、アリスもハンプティ・ダンプティやグリフォンを食べ――いや、
やっぱり気持ち悪いので考えないようにします。

ちなみに、「食べれば罪にならない」というフレーズは、
小林泰三さんの「家に棲むもの」に収録されている「食性」に出てきた台詞であり、
セルフ・パロディなのではないかと思います。

地球に戻った亜里は、牡蠣を食べてしまったことで井森を責めますが、
井森は、ビルは本当に間抜けなんだから仕方がないと開き直ります。

そこへ、谷丸警部と西中島刑事がやってきました。
谷丸警部と西中島刑事は、「密室・殺人」や「大きな森の小さな密室」などなど、
小林泰三作品にちょくちょく登場しているキャラクターです。

谷丸警部たちは王子玉男や篠崎教授が亡くなった事件について、
個人的に捜査しているのだそうです。
谷丸と西中島も、不思議の国にアーヴァタールがいるらしいのですが、
谷丸たちと井森は、お互いのアーヴァタールを隠し合ってしまいました。

谷丸たちにしてみれば、不思議の国について話していたら正気を疑われますし、
ビルにしてみれば不思議の国では弱者である自分の正体を晒すことに抵抗があったのです。

その後、李緒は、
「びっくりパーティーの件、井森君には絶対秘密にしておいてね。
当日までは二人だけの秘密よ」
と言い残して走り去ってしまいました。

亜里には全く心当たりがなかったのですが、李緒(=白兎)は、
誰かにした話を亜里にしたのだと勘違いしているのだろう、と亜里は解釈しました。

一度不思議の国に戻ったアリスは、
一週間以内に真犯人が見つからなかったら女王陛下に報告する、
と帽子屋に宣言されてしまいます。

地球に戻った亜里は、李緒に、白兎の証言について詳しく訊こうとしましたが、
李緒は突然現れた武者砂久という男に包丁で殺されてしまいました。
武者砂久自身も、包丁で自分の咽喉を突いて自殺してしまいました。

不思議の国に戻ったアリスは、
李緒のアーヴァタールである白兎が死んだことを帽子屋から教えられました。
ビルとメアリーアンがその目撃者でした。

白兎の家の前に「くさかりき」と書かれた箱が置いてあったのですが、
白兎が1人で寝室に入って箱を開けたところ、
「なんてことだ! これは草刈り機なんかじゃない! スナークだ!!」
という叫び声が聞こえてきたのだそうです。

ビルがどんなスナークなのかと尋ねたところ「ブー……」という声を最後に、
白兎は消えてしまったのです。
「スナークはブージャムだった」わけです。
この「ブー……」で終わるセリフは「スナーク狩り」のパロディになっています。

地球に戻った亜里は、谷丸と西中島から話を聞きました。
不思議の国の存在を一部認めた谷丸は、武者砂久がスナークだったのだろうと言いました。

亜里と井森は谷丸と西中島を連れて篠崎研を訪れます。
そこで広山衡子准教授から、田端順二助教は篠崎教授からパワハラを受けていた、
つまり田端(=ドードー)には篠崎教授(=グリフォン)を殺す動機があった、
という話を聞きました。

不思議の国に戻ったアリスはお茶会へ行き、そこでドードーと話をします。
しかし、自分がグリフォン殺しの犯人として疑われていることを知ったドードーは、
捜査に協力してくれなくなりました。

がっかりしたアリスは、ビルから、井森が亜里に好意を寄せていることを教えられます。
と、そこへメアリーアンが現れ、
『親愛なるビルへ。例の件で知らせたいことがあるので、至急、
侯爵邸の裏庭の物置小屋の中に一人で来られたし。侯爵夫人より』
というメッセージをビルに渡しました。
それを読んだビルは、一人で物置小屋へ向かいました。

現実世界に戻った亜里は、
広山が不良っぽい感じの2人の中学生にお金を渡しているところを目撃しました。
亜里が声をかけると中学生は去っていきました。
広山は2人の中学生にカツアゲされていたのだと言いました。

そこへ、谷丸と西中島が現れ、井森は酒に酔い、
眠ったまま吐瀉して、そのせいで窒息死したと話しました。
亜里は、野良犬に噛まれて原型を留めていない井森の写真を見せられショックを受けます。

広山は、井森(=ビル)と李緒(=白兎)が殺されたのは、
アリスが犯人だとしたら自分に不利な証拠を掴んだ2人を
口封じのために殺したのだということになり、
アリスが犯人でなかったとしたら、真犯人がアリスを犯人に見せかけるために
2人を殺したということになる、と考えました。

つまり、アリスと関わっているだけで犯人に殺される可能性があるということになり、
広山は逃げていきました。

亜里は谷丸と西中島に、広山のアーヴァタールは侯爵夫人だと話しましたが、
2人はもう少し様子を見る、などと悠長なことを言っていました。

その後の章で、ビルの視点からバンダースナッチという怪物に殺される描写があります。

ビルが『公爵夫人が犯人だということはあり得ない』というダイイング・メッセージを
遺したのを知った亜里は、広山の部屋を訪れました。

公爵夫人には赤の女王と一緒にいたというアリバイがあったため、
公爵夫人が犯人でないということは分かりきったことです。

分かりきったことをわざわざビルが書き残したのは、『公爵夫人に話を聞け』
という意味だと解釈して広山に話を聞きに来たのですが、
広山は何のアイデアもないと言います。

その後、白兎は目が悪く、アリスのことを臭いで認識していた、
ということに思い当たった亜里は、犯人が誰なのか分かりました。

犯人は、「広山衡子(=メアリーアン)でした。

実はアリスとメアリーアンの体臭は似ており、白兎は2人を混同していたのです。
それどころか、李緒(=白兎)は、亜里がメアリーアンだと思い込んでいたのでした。

白兎は不思議の国で『びっくりパーティー』のことをメアリーアンに話していたのですが、
亜里のことをメアリーアンだと思い込んでいたため、
『びっくりパーティーの件、井森君には絶対秘密にしておいてね。
当日までは二人だけの秘密よ』
と言っていたのでした。

ビルが『公爵夫人が犯人だということはありえない』と
ダイイング・メッセージを遺したのは、
『メアリーアンが犯人』とか『広山先生が犯人』とか書き残したら、
メアリーアン(=広山)に消されてしまうからだったのです。

白兎はメアリーアンとアリスの区別がつかないため、
実際にハンプティ・ダンプティ殺しで目撃(と言うよりも鼻撃?)されていたのは
メアリーアンでした。
そして広山はメアリーアンしか知らないはずの秘密を知っていた――
つまり、広山=メアリーアン=犯人だったというわけです。

広山はもう10年以上も前から不思議の国と地球がリンクしていることに気付いており、
自分が白兎に雇われているメアリーアンだという自覚もあり、
不思議の国で死んだ者は地球でも死ぬということにも気付いていました。

田端に新しい研究室を任せようとしていた篠崎を殺せば、
自分が教授になれると思った広山は、篠崎のアーヴァタールを殺すことにしました。

が、篠崎の体型と似ていたハンプティ・ダンプティを間違えて殺してしまったのでした。
そのハンプティ・ダンプティから、篠崎に、
『あなたは不思議の国では誰なんですか?』
と訊けば篠崎のアーヴァタールが分かるとアドバイスを貰い、実行に移しました。

そして、グリフォン(=篠崎)を殺し、
アリスに罪を着せるために、白兎とビルを殺したのでした。

自分が犯人だということを告白した広山は、鋲打ち銃を取り出しました。
広山は銃で亜里を殺そうとしますが、亜里は悲鳴を上げて人を呼びました。
すると、広山は自分の眉間に銃口を当て、自殺してしまいました。

広山(=メアリーアン)は、アリスの無実を証明する唯一の人物だったので、
これは嫌がらせだったわけです。

不思議に国に戻り途方に暮れていたアリスのところへ、
フードで顔を隠した謎の女性が現れました。

その女性についていき、白兎の家へ行ったアリスは、首輪と手錠と足枷を嵌められました。
謎の女性がフードを外すと、メアリーアンの顔が現れました。

実は、不思議の国こそが現実世界であり、
地球は赤の王様(レッドキング)が見ている夢の世界だったのです。

だから、夢の世界の広山が死んでも、現実世界のメアリーアンは生きていた、というわけです。

アリスは身体が大きくなる茸をメアリーアンに食べさせられたのですが、
首輪や手錠や足枷は大きくならないため、
アリスの身体が大きくなると手足や首が千切れてしまうことになります。


タイトルが『アリス殺し』なので、
アリスが殺されることは覚悟はしていましたが、
まさかこんなグロい死に方だとは思っていなかったのでショックです。

しかし、アリスは最後の力を振り絞り、
ポケットに入っていたものを格子の隙間から外に出し、絶命したのでした。

再び地球の話です。
田端は、「篠崎ではなく広山からパワハラを受けており、その回想があります。
と、死んだはずの広山が生き返り、田端の前に現れました。

メアリーアンが生きている限り、広山は何度でも生き返るのでした。
勝利を確信した広山の前に現れたのは――栗栖川亜里でした。

実は、アリスのアーヴァタールは、亜里のペットのハムスターのハム美であり、
眠り鼠のアーヴァタールが栗栖川亜里だったのです。

眠り鼠はいつもアリスのポケットの中にいたため、
アリスが見聞きしたことは知っていました。
そして、アリスを助けるためには亜里がアリスだと思わせておいた方が都合がいいので、
そのように振る舞っていただけだったのです。


えええええええええっ、という衝撃の展開です。

でも、読み返すとちゃんと伏線が張ってあり、
地の文ではアリスが亜里だと明言する文はないんですよね。

アリスが死んでしまったため、
アリスのアーヴァタールだったハム美も死んでしまっていました。
しかし、アリスが死の間際に眠り鼠を逃がしてくれたおかげで、
眠り鼠(=亜里)は助かりました。

そして、亜里(=眠り鼠)はアリスの仇を討つために広山に会いに来たのでした。

広山が、自分が犯人だと自白したのを、隠れていた谷丸と西中島も聞いていました。

実は公爵夫人のアーヴァタールが西中島だったため、
自分のアーヴァタールは侯爵夫人だと嘘をついていた広山のことを、
谷丸と西中島は疑っていたのでした。

さらに、赤の女王のアーヴァタールが谷丸だったため、
不思議の国でメアリーアン(=広山)は処刑されることになりました。
斬れない剣で何時間もかけて少しずつ首を斬られる、という残酷極まりない方法で、
メアリーアンは処刑されます。

地球に戻った亜里(=眠り鼠)は、谷丸から、
カツアゲされていたと広山が嘘をついていた2人の中学生が、
帽子屋と三月兎なのだと教えてもらいました。
広山は2人にお小遣いをあげて手なずけていたのでした。

と、そこへ地球なのにチェシャ猫が現れました。
チェシャ猫は、メアリーアンが無茶をやりすぎたせいで赤の王様が目を醒まし、
この地球は消滅するのだと告げました。

次の地球がいい地球でありますように、と亜里が言ったところで物語は終わります。


というあらすじなのですが、終盤の意外な展開の連続が面白かったです。

この話は「クララ殺し」に続きます。

小林泰三「惨劇アルバム」のネタバレ解説

惨劇アルバム (光文社文庫)


辺野古美咲は、
「なぜ私の人生には幸せなことしか起こらないのか」
という疑問を持ち、アルバムを開いてみます。
そのアルバムの中の幼稚園に入ったばかりの写真を見た美咲は、
自分は幼い頃に沼に落ちて死んだ、
という信じ難いことを思い出します。

驚いた美咲が母親に問いただすと、
母親はそれは偽の記憶であると説明します。
何と、美咲の母親は美咲に対し、自由に偽の記憶を植え付けたり、
その記憶を簡単に消すこともできるのでした。

そのことに動揺した美咲が婚約者の三浦智一に電話をすると、
何と「婚約者であるというのは偽の記憶であると言われます。
さらに、卒業したはずの大学の事務に問い合わせても、
辺野古美咲という卒業生はいない、と言われてしまいます。

母親は、美咲には元々大学生活自体もなく、恋人もなく、
可哀想に思って偽の記憶を植え付けたのだ、と説明します。


そして美咲の家族について七奈が話そうとしているところで、
第1章の「幸福の眺望」は終わります。

第2章の「清浄な心象」では、
美咲の母親の七奈の視点で話が進みます。
「完璧な子供を作りたい」と願う七奈は、
夫の迩に次々と無茶な要求をし、少しでも子供が穢された、
と思うと流産してしまう、ということを何度も繰り返します。
しかしやがて、「無抵抗だった迩が妻に反逆し、
無理やり子供を産ませ誕生したのが美咲だったのでした。


第3章の「公平な情景」では、美咲の弟の福が、
頭のおかしい教師から少しずつ悪平等な思想を押し付けられ、
最終的には同級生たちからリンチされて死にそうになってしまいます。
この話のネタは、教師に全責任を負わせず、
狂った論理についてもっと煮詰めれば、
より面白い話になったような気がします。

ところでこの話には西中島という男子が登場するのですが、
彼は「密室・殺人」や「獣の記憶」や「タルトはいかが?」や
「大きな森の小さな密室」や「氷橋」に登場する西中島巡査と
同一人物である可能性があります。

第4章の「正義の場面」では、美咲の祖父が風呂場で溺れ死にそうになる
――というシーンから始まります。
その日から祖父の生活は一変し、誰とも会話ができなくなった代わりに、
念力で物を動かせるようになりました。
祖父は、孫の福の様子を見に小学校へ行き、
福がいじめられているのに気付き、福を殴っている虐めっ子を、
シャベルで殴りました。
その後、霊であることを利用し、万引き犯や珍走団を半殺しにします。
ところが、「実は彼は自分が死んで幽霊になっていると思い込んでいる、
徘徊老人だったのでした。


第5章の「救出の幻影」では、迩が息子である福の日記を発見し、
怪物をお化け病院という廃墟に閉じ込めたという内容を読み、
お化け病院へ行きます。
そしてそこで、「実はその日記は福のものではなく
自分が書いたものだったということを思い出します。
一度は怪物を閉じ込めた迩でしたが、怪物のかけた呪いによって、
こうしてまたお化け病院へ戻ってきてしまったのでした。


そして終章で美咲は、「本物の辺野古美咲はやはり既に死んでおり、
自分は偽物であると主張します。
娘の死を受け入れることのできなかった七奈は、
自分の中に美咲としての人格を作り出してしまっていたのでした。

後味が悪い話のはずなのにラストで不思議な感動があるのは、
第2章では不完全な子供扱いしていた美咲の死を、
七奈が本当に悲しんでいたことが分かるからだと思います。


全体的にバラバラで統一感がないというか、
少し消化不良な感じの話が多いですが、
それこそがある意味小林泰三さんらしく、
これはこれで有りかな、とも思います。
小林泰三さんは作品によって出来の差が激しいですが、
この「惨劇アルバム」は平均点といったところでしょうか。
ファンならば読んでも損はないです。
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